1912年に生まれながらも、21世紀まで生きたヴァントは、指揮者の歴史上、類をみない ほどの大器晩成型の指揮者でした。 何しろ、手兵、北ドイツ放送響との演奏が高い評価を受け始め、世界の表舞台に出たのが齢7 0代〜80代の時で、その後ベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が絶賛を浴びたのが9 0歳近くでした。この時点でクラシックの歴史上最高のブルックナー指揮者の名を欲しいまま にし、一連のベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が発売直後に「伝説化」されました。 同じ頃、ベートーヴェンやブラームスなどのドイツものも高評価され、超一流の仲間入りをし た、と思っていたら、数年のうちに亡くなってしまいました。 その間に録音したCDは、ブルックナーを含め、ほぼすべてが第1級の評価を得ています。ド イツのミュンヘン・フィルや北ドイツ放送響との最晩年のブルックナーの録音も、RCAレー ベル以外から発売されていますので、ご興味のある方はどうぞ。 90歳近くになって、ようやく自分の打ちこんだものが評価された世界。あえて挙げれば、ヨ ッフムと同様、ひたすらドイツで、ドイツ音楽の研究に年月を費やしたタイプの指揮者でした。 こういう超晩成の音楽家が育つ土壌がドイツにはあるのかもしれません。 ヴァントは主にブルックナー指揮者ですが、ひたすらスコア(総譜)を読み込んで、緻密な音 楽を創り出します。決してこれといった芝居をうつタイプではありませんが、その適切なテン ポ設定、音の強弱などを、徹底したリハーサルによってステージにもってくるタイプです。こ れも、長年のスコアの読み込みの産物なのでしょう。ブルックナーの音楽を聴くにあたっては、 聴き手が、音楽を自然な形で呼吸し、受け容れることがとても重要な要素となります。ヴァン トの演奏にはその普遍性があります。 いわく「お手本となるものが無かったために、ひたすらスコアを研究するしかなかった」との ことです。ドイツの精神主義の音楽を、自らの眼で解釈し、音楽化するには、途方もない労力 が必要となったに違いありません。同じタイプのヨッフムもブルックナーに名演を残しました が、ヴァントはそれ以上に、考えに考えた末の成果のブルックナーの音楽表現と、ベルリン・ フィルという最高の名器を得て、クラシック史上最高のブルックナーの録音を遺しました。 とはいえ、誰もが100%絶賛、という訳ではなく、ヴァントの緻密な演奏を息苦しく感じる 方も中にはいらっしゃるでしょうが、好みに合うかを試す意味でも、ブルックナーを鑑賞する 上で、ヴァントの演奏を聴かずにはいられないでしょう。 また、ヴァントのブルックナーがいかに素晴らしいとは言え、さすがにブルックナーだけでは 対象がごく一部の上級者の方に限られてしまいます。 ブルックナーだけではなく、ベートーヴェン、ブラームス、モーツァルト、シューベルトでも 評価の高い名盤がありますので、円熟の境地に達した演奏を堪能するのもいかがでしょうか。 ブラームス「交響曲第1番」第1楽章 ☆推薦盤☆ ・シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」/ベルリン・フィル(95)(RCA)S ・ブルックナー 交響曲第4番/ベルリン・フィル(98)(RCA) S ・ブルックナー 交響曲第5番/ベルリン・フィル(96)(RCA) S ・ブルックナー 交響曲第7番/ベルリン・フィル(99)(RCA) S ・ブルックナー 交響曲第8番/ベルリン・フィル(01)(RCA) A ・ブルックナー 交響曲第9番/ベルリン・フィル(98)(RCA) S ・ベートーヴェン 交響曲第1番/北ドイツ放送交響楽団(86)(RCA) A ・モーツァルト ポストホルン/北ドイツ放送交響楽団(01)(RCA) A <緻密><ドイツ音楽○><ブルックナー◎>
クラシック音楽の本場はドイツとオーストリアで、それに続くのが、イタリア、フランス、ロ シアあたりです。フランス出身の作曲家は、ビゼー、ラヴェル、ドビュッシー、フォーレあた りで、あまり一般の方には馴染みがないのですが、「エスプリ」と呼ばれる優雅な音楽は他と 区別されています。 フランス音楽の指揮者の大家といったら、モントゥー、デュトワなどの名前が挙がりますが、 実際にラヴェルなどのCDの評価でいえば、断然、このクリュイタンスです。ベルギー出身な がらフランスで活躍した指揮者です。 フランス出身の指揮者は数多く、フランス音楽の筆頭であるラヴェルを皆得意としていますが、 ラヴェルはもちろん、フランス音楽の演奏において、このクリュイタンスの右に出るものはい ないでしょう。20世紀に録音が可能になってから、指揮者は数え切れないほどいますが、フ ランス音楽のスペシャリストはクリュイタンスなのです。 名盤の数こそ少ないですが、これという演奏、特にフランスの作曲家の作品の演奏は、超名盤 ばかりです。あくまで音楽評論家による評価ではあるとは言え、これは凄いとしか言いようが ありません。まさにスペシャリスト系指揮者の代表格です。 レパートリーは、実際はむしろ幅広いのですが、ここでご紹介している指揮者の中では、世界 的知名度の点でかなり下位です。カラヤンのように「何でも屋」ではないからなのでしょうか。 なお、ベルリン・フィルにも客演指揮者として招かれていますが、ベルリン・フィルとして初 のベート−ヴェンの交響曲全集の録音を行ったのは、フルトヴェングラーでもカラヤンでもな く、クリュイタンスでした。 ラヴェル「ダフニスとクロエ」第3部「パンの神とニンフの祭壇の前」 ☆推薦盤☆ ・ビゼー 「アルルの女」第1&第2組曲/パリ音楽院管弦楽団(64)(ワーナー) 伝 ・フォーレ レクイエム/パリ音楽院管弦楽団(62)(ワーナー) S ・ラヴェル ボレロ/パリ音楽院管弦楽団(61)(エラート) SS ・ラヴェル 「マ・メール・ロア」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(エラート) SS <フランス音楽◎>
クラシック音楽の本場はヨーロッパで、まずはドイツとオーストリアです。それに次ぐのがイ タリア、フランス、ロシア、イギリスあたりです。その次に来るのが、北欧やスペイン、そし て現在のチェコあたりの民族色が強い東欧の音楽(当時とはだいぶ国名が違います)です。 チェコ生まれのクーベリックは、民族色が濃い音楽のスペシャリストと言える存在です。地味 な存在ですが、これらの音楽を振らせたら、右に出るものはいないと言ってもいいほどです。 チェコ・フィルハーモニーの首席指揮者でしたが、チェコの政治的内紛により、祖国を追われ ることとなってしまいました。アメリカに渡ったものの、多民族国家のアメリカでは音楽観が 合わずに結局ヨーロッパに戻ることとなり、クーベリックほど運に恵まれなかった指揮者も少 ないと言われています。 その後ドイツで18年間、バイエルン放送響を手兵として活躍、ブラームスやモーツァルト、 マーラーなどのドイツ、オーストリア系の音楽も好評を博し、ようやく、ヨーロッパでその名 を高め、成功するに至りました。CDではモーツァルトの交響曲が秀逸の名演です。 1986年に指揮者を引退しましたが、89年にチェコで民主化革命がおこり、翌年、首都プ ラハで「プラハの春」音楽祭が行われた際に、チェコ出身の指揮者の象徴として再びチェコ・ フィルを振ることとなりました。この記念碑的行事ではスメタナの「わが祖国」の歴史的名演 を行い、チェコ・フィルの終身名誉指揮者となりました。 残念なのは、アメリカに渡ってから引退後に「プラハの春」音楽祭で再びチェコ・フィルを振 るまでに、同オケの常任指揮者として録音を残せなかったことです。 バイエルン放送響などとの録音を考えても、更に名盤の数が増えていたのではないでしょうか。 「プラハの春」音楽祭の模様 ☆推薦盤☆ ・ウェーバー 魔弾の射手/バイエルン放送響(79)(デッカ) A ・シューマン 交響曲第3番「ライン」/バイエルン放送響(79)(SONY) S ・スメタナ わが祖国/ボストン交響楽団(71)(グラモフォン) SS ・ドヴォルザーク 交響曲第8番/ベルリン・フィル(66)(グラモフォン) A ・ドヴォルザーク 交響曲第9番/ベルリン・フィル(72)(グラモフォン) A ・ドヴォルザーク スラヴ舞曲集/バイエルン放送響(73、74)(グラモフォン) SS ・ドヴォルザーク 弦楽セレナーデ/イギリス室内管弦楽団(69)(グラモフォン) S ・マーラー さすらう若人の歌/ディースカウ(68)(グラモフォン) A ・モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」/バイエルン放送響(80)(SONY) A ・モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」/バイエルン放送響(80)(SONY) S <東欧の音楽◎><モーツァルト○>
ジュリーニは、世界的な名声に比べて、特定のポストに就いていた期間が短く、晩年はフリー としてウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウなどに招かれて客 演指揮者として活躍しました。それゆえ、「孤高の大指揮者」「孤高の巨匠」と呼ばれました。 ジュリーニの言葉に、「私はスコアと共に生き、スコアは私の一部になる。その瞬間、私は作 曲家の召使となる。作曲家は天才で、私は何者でもない。」というものがあります。この、作 曲家至上主義というものはトスカニーニやモントゥーと同じで、ジュリーニの場合もやはり、 作曲家、作品に対して愛情を持ち、演奏させて頂く喜びを感じることのできる指揮者でした。 なお、推薦盤にあるヴェルディの「椿姫」は、脂ののった時期の録音で、イタリア出身である ジュリーニが、イタリアのミラノ・スカラ座管弦楽団を指揮して、イタリアの英雄、ヴェルデ ィの作品を演奏したもので、ジュリーニの最高傑作の1つと言われています。 晩年、テンポが遅くなり、スケールはより大きくなっていきましたが、テンポを遅くすること で緻密な表現が可能となりました。作曲者が楽譜に書き入れた音符のすべてが聴き手に伝わる ように、という考えに基づいていると、本人は語っていたということです。 ジュリーニの音楽観が行き着いた最後の形なのでしょう。 ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」 ☆推薦盤☆ ・ヴェルディ 「椿姫」/ミラノ・スカラ座管弦楽団(55)(ワーナー) A ・ブラームス 交響曲第2番/ウィーン・フィル(91)(グラモフォン) A ・ブラームス ドイツ・レクイエム/ウィーン・フィル(87)(グラモフォン) A ・ブルックナー 交響曲第8番/ウィーン・フィル(84)(グラモフォン) A ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーン・フィル(88)(グラモフォン) A ・ムソルグスキー 展覧会の絵/シカゴ交響楽団(76)(グラモフォン) A ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/フィルハーモニア管弦楽団(59)(ワーナー)S <テンポやや遅><かなり柔軟>
イギリスという国では、依然社会的階層が根ざしておりまして、クラシック音楽や指揮者の地 位は他の国々に比べると驚くほど高いと言われています。例を挙げますと、バルビローリ、マ リナー、ラトルらには、「Sir(サー)」の称号が与えられています。 ショルティはハンガリー生まれですが、夫人がイギリス出身であることと、イギリス音楽界へ の功績を認められて、「Sir」の称号を得ています。 イギリスにはEMIやDECCA(デッカ)というメジャーレーベルがあったにも関わらず、 未だに世界的な大指揮者と呼べるほどの人物はラトルくらいでしょう。 ショルティは、名盤も多く輩出していますが、それよりも、クラシック音楽界への功績という 点で大きく評価されてしかるべき指揮者に入ります。 最大の功績は何と言いましても、上演に4日、CDでは13、4枚はかかるという驚異の大作、 ワーグナーの「ニーベルングの指環」の世界初全曲盤録音を果たしたことです。 この録音にデッカとショルティは10年もの時間を費やした(当初はクナッパーツブッシュを 起用しましたが、途中で挫折してしまいました)のです。この録音はありがたいことにステレ オ録音でもあり、今なお、この作品の断然のベスト演奏との評価を得ている、正真正銘の歴史 的名盤、歴史的録音です。 また、ショルティはオーケストラのトレーナーとしては「血も涙もない」と表現されるほど厳 しく、アメリカのシカゴ交響楽団を、世界最高レベルの技術集団へと鍛え上げました。 芸風は、どちらかというと現代風の没個性的なスタイルなのですが、「一糸乱れぬアンサンブ ル」をモットーとし、小節の始めにはすべての音がピタリと合わないと気が済まない程の完璧 主義者でした。よって、ヨーロッパの伝統的な解釈が必要とされるロマン派の時代の音楽はあ まり得意ではないのですが(ウィーン・フィルとのリハーサルの時、楽員が怒って帰ってしま ったというエピソードもあります)、それ以降の現代音楽には、精密さと重厚さを兼ね備えた 見事なまでの手腕を発揮しています。 ムソルグスキー「展覧会の絵」 ☆推薦盤☆ ・エルガー 「威風堂々」第1番/ロンドン交響楽団(77)(デッカ) A ・バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/シカゴSO(89)(〃) A ・マーラー 交響曲第5番/シカゴ交響楽団(70)(デッカ) A ・モーツァルト 「魔笛」/ウィーン・フィル(69)(デッカ) A ・リスト 前奏曲/シカゴ交響楽団(92)(デッカ) A ・ワーグナー 「ニーベルングの指環」/〃(58、62、64、65)(デッカ) SS ・ワーグナー 「パルジファル」/ウィーン・フィル(71、72)(デッカ) A <現代音楽○><やや鋭い>
2016年に亡くなったブーレーズは、作曲家兼指揮者でした。若い頃は歯に衣着せぬ発言で 物議を醸したりということがありましたが、クリーヴランド管弦楽団を手に入れてからは、立 て続けに名盤を輩出した晩成型の指揮者です。 ドビュッシー、シェーンベルク、ストラヴィンスキーなど、比較的新しい作曲家の作品の再興 を目指しまして、特にドビュッシー、ストラヴィンスキーの90年代の録音においては、並ぶ 者がいないと言ってもいいほどの名演を残しました。 演奏スタイルは、どちらかと言いますと音楽性で勝負するタイプですので、あまり深刻さを追 及しない指揮者のように思えます。よって、フランスの指揮者ということもあってか、同じフ ランスのドビュッシーの作品においては、本質的な相性の良さを感じさせ、誠に色彩感豊かな 演奏となっています。 ドビュッシー「交響詩『海』」より ☆推薦盤☆ ・ストラヴィンスキー 春の祭典/クリーヴランド管弦楽団(91)(グラモフォン) S ・ストラヴィンスキー ペトルーシュカ/クリーヴランドO(91)(グラモフォン) S ・ストラヴィンスキー 火の鳥/シカゴ交響楽団(92)(グラモフォン) S ・ドビュッシー 夜想曲/クリーヴランド管弦楽団(93)(グラモフォン) S ・ドビュッシー 交響詩「海」/クリーヴランドO(93)(グラモフォン) S ・ドビュッシー 牧神の午後の前奏曲/クリーヴランドO(91)(グラモフォン) S ・バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/シカゴSO(94)(〃) A ・マーラー 交響曲「大地の歌」/ウィーン・フィル(99)(グラモフォン) A ・ラヴェル ボレロ/ベルリン・フィル(93)(グラモフォン) A ・ラヴェル 「マ・メール・ロア」全曲/ベルリン・フィル(93)(グラモフォン) A <色彩感><ドビュッシー◎><ストラヴィンスキー◎>
21世紀になっても指揮活動を続け、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルなどと共演し、世 界的指揮者と呼ばれていた指揮者界の大御所達は、どうも名盤が少ないです。 例を挙げますと、マゼール、ムーティ、メータ、ヤンソンス、小澤らです。 そんな中で、名盤を数多く残した実力者がプレヴィンです。特に演出性のある曲を振らせたら 天下一品で、デュトワと非常に良く似たタイプの指揮者と言えます。 まさしく「名盤制作者」なのです。 プレヴィンはクラシック指揮者の傍ら、アメリカで映画の音楽監督の仕事もしてきました。 おそらくこの、音楽の演出性に秀でているところが、クラシック演奏にも共通しているのでし ょう。深刻な曲よりは、華やかであったり、ロマンティックな曲に適性があります。 プレヴィンは親日派で、2012年までNHK交響楽団の首席客演指揮者を務めました。この 点もデュトワに似ています。 また、プレヴィンはジャズピアニストとしての一面も持っている多才な音楽家です。 管弦楽曲の鑑賞においては、まさしく欠かせない存在と言えるのがプレヴィンです。 ラフマニノフ「交響曲第2番」第3楽章より ☆推薦盤☆ ・エルガー 「威風堂々」第1番/ロイヤル・フィル(85)(デッカ) SS ・オルフ カルミナブラーナ/ウィーン・フィル(93)(グラモフォン) A ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー/ピッツバーグSO(84)(デッカ) A ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/ピッツバーグ交響楽団(85)(デッカ) A ・チャイコフスキー 白鳥の湖/ロンドン交響楽団(86)(ワーナー) SS ・チャイコフスキー くるみ割り人形/ロイヤル・フィル(86)(EMI) S ・チャイコフスキー 眠りの森の美女/ロンドン交響楽団(74)(EMI) A ・プロコフィエフ 交響曲第1番「古典交響曲」(86)(デッカ) A ・ベートーヴェン ピアノと管楽のための五重奏曲/ウィーンWE(85)(テラーク)A ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢/ウィーン・フィル&合唱団(85)(デッカ) SS ・ラフマニノフ 交響曲第2番/ロンドン交響楽団(73)(ワーナー) SS ・R・シュトラスス アルプス交響曲/ウィーン・フィル(89)(テラーク) A ・R・シュトラウス ツァラトゥストラはかく語りき/VPO(87)(テラーク) A ・R・シュトラウス 英雄の生涯/ウィーン・フィル(88)(テラーク) S <管弦楽曲◎><親日派><演奏>
ムラヴィンスキーはロシア生まれの世界有数の指揮者でした。時代背景もあり、ロシアのレニ ングラード・フィルの首席指揮者を50年も務め、ウィーン・フィルやベルリン・フィルなど を振ることはなく、晩年の海外公演を除けば、終始ロシア(当時のソ連)にとどまりました。 そのため、録音も「メロディア」という国営レーベルがほとんどでして、同時期のカラヤン、 バーンスタイン、ベームらとは環境が全く違いました。 西欧では、「鉄のカーテンの向こう側に凄い指揮者がいるらしい」という噂だけが広まってい た状況でした。 ムラヴィンスキーの演奏スタイルには2つの面があります。1つは音に関してです。 テンポが速く、リズムはきびきびと刻まれ、身を切るような鋭さがあるため、トスカニーニや クライバーと似た外面を持っています。 2つめは音楽解釈に関してです。ムラヴィンスキーは演奏する際、一切の常識や伝統などを無 視します。極端に言いますと、楽譜は「素材」で、自分の眼を通して極めて主観的にスコア (楽譜)を読み、自分なりの音楽に組み直します。そこで当然デフォルメがなされるわけなの ですが、同じデフォルメにしても、フルトヴェングラーのように解りやすいデフォルメではあ りません。極めて抽象的なものですので、何を表現したいのかが非常に解りにくいのです。 この神秘性がカリスマ性を抱かせ、信者を生み出します。 よって、上級者の方向けではあるのですが、上級者の方でさえなかなか理解は難しいと思われ ます。ムラヴィンスキーの音楽は「個」の世界です。 「こんな解釈の仕方があったんだ」と感動できるのなら、ムラヴィンスキーこそが真の天才指 揮者だと思えてくるでしょう。 なお、録音は「お国もの」のロシア音楽が多いですが、実際、レパートリーは幅広いです。 最も一般向けなのは、やはりチャイコフスキーでしょう。珍しくグラモフォンによるステレオ 録音ですので、音質は良好です。 しかし、他のCDは音があまり良くないものがほとんどです。原因は、上記の所属レーベル 「メロディア」が旧ソ連のレーベルで、あまり海外の最先端の技術を導入しなかったことだそ うですが、なぜか70年代の録音でさえモノーラルで、この点は覚悟する必要があります。 良い音質で聴きたい方は、「ALTUS(アルトゥス)」か「ビクター」の録音がお薦めです。 シューベルト「交響曲第8番『未完成』」全楽章 ☆推薦盤☆ ・ショスタコーヴィチ 交響曲第5番/レニングラードO(73)(アルトゥス) S ・チャイコフスキー 交響曲第4番/レニングラードO(60)(グラモフォン) S ・チャイコフスキー 交響曲第5番/レニングラードO(60)(グラモフォン) A ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/レニングラードO(60)(グラモフォン)A ・ベートーヴェン 交響曲第4番/レニングラードO(73)(アルトゥス) B <テンポ速〜高速><超鋭い><主観主義〜デフォルメ>
カール・リヒターは指揮者兼チェンバロ奏者で、一生をバッハの演奏活動に捧げました。 「バッハの化身」と呼ばれ、発売されているCDでバッハ以外にはヘンデルくらいしかありま せん。 昨今は、バッハの演奏と言えば古楽器演奏が主体となっていますので、現代楽器での名盤を探 すのが難しいくらいですが、20世紀中は、バッハと言えば現代楽器でのリヒターの演奏はど れも定盤中の定盤でした。推薦盤にもSS評価がずらりと並んでいました。時代の流れでしょ うが、今なお、現代楽器によるバッハの演奏ではトップの存在です。 決して色あせることのない不朽の名盤揃いですので、ぜひともお聴き頂きたいと思います。 バッハ「ミサ曲『グローリア』」より ☆推薦盤☆ ・バッハ 管弦楽組曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(60、61)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ ブランデンブルク協奏曲/ 〃 (67)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ チェンバロ協奏曲第1番/ 〃 (71、72)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ 音楽の捧げ物/ (63)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ オルガン作品集 / (64〜78)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ カンタータ集/ミュンヘン・バッハO(アルヒーフ) 伝 ・バッハ クリスマス・オラトリオ/ミュンヘン・バッハO(65)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ ミサ曲 ロ短調/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(61)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ ヨハネ受難曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(64)(アルヒーフ) 伝 ・バッハ マタイ受難曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(58)(アルヒーフ) 伝 <バッハ〇>