20世紀の名指揮者達





  ヴァント  1912〜2002  WAND  B(ブルックナーファンはS)  ドイツ

1912年に生まれながらも、21世紀まで生きましたので、ごく最近までいた印象が強いヴ  ァントは、指揮者の歴史上、類をみないほどの大器晩成型の指揮者でした。  何しろ、手兵、北ドイツ放送響との演奏が高い評価を受け始め、世界の表舞台に出たのが齢7  0代〜80代の時で、その後ベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が絶賛を浴びたのが9  0歳近くでした。この時点でクラシックの歴史上最高のブルックナー指揮者の名を欲しいまま  にし、一連のベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が発売直後に「伝説化」されました。  同じ頃、ベートーヴェンブラームスなどのドイツものも高評価され、超一流の仲間入りをし  た、と思っていたら、数年のうちに亡くなってしまいました。  実際に世界の超一流の評価をされたのは10年ほどなのですが、その間に録音したCDは、ブ  ルックナーを含め、ほぼすべてが第1級の評価を得ています。ドイツのミュンヘン・フィルや  北ドイツ放送響との最晩年のブルックナーの録音も、RCAレーベル以外から発売されていま  すので、興味のある方はどうぞ。私は、やはりベルリン・フィルというオケのおかげがあるの  か、RCAとの国内盤が最高だと思っています。  90歳近くになって、ようやく自分の打ちこんだものが評価された世界。あえて挙げれば、ヨ  ッフムと同様、ひたすらドイツで、ドイツ音楽の研究に年月を費やしたタイプの指揮者でした。  こういう超晩成の音楽家が育つ土壌がドイツにはあるのかもしれません。  彼は主にブルックナー指揮者ですが、ひたすらスコア(総譜)を読み込んで、緻密な音楽を創  り出します。決してこれといった芝居をうつタイプではありませんが、その適切なテンポ設定、  音の強弱などを、徹底したリハーサルによってステージにもってくるタイプです。これも、長  年のスコアの読み込みの産物なのでしょう。ブルックナーの音楽を聴くにあたっては、聴き手  が、音楽を自然な形で呼吸し、受け容れることがとても重要な要素となります。彼の演奏には  その普遍性があります。  彼曰く、「お手本となるものが無かったために、ひたすらスコアを研究するしかなかった」と  のことです。ドイツの精神主義の音楽を、自らの眼で解釈し、音楽化するには、途方もない労  力が必要となったに違いありません。同じタイプのヨッフムもブルックナーに名演を残しまし  たが、ヴァントはそれ以上に、考えに考えた末の成果のブルックナーの音楽表現と、ベルリン  ・フィルという最高の名器を得て、クラシック史上最高のブルックナーの録音を遺しました。  ベルリン・フィルとのブルックナー録音は、ほぼすべてが各作品の最高の評価を得ています。  とはいえ、誰もが100%絶賛、という訳ではなく、彼の緻密な演奏を息苦しく感じる人も中  にはいるでしょうから、好みに合うかを試す意味でも、ブルックナーを鑑賞する上で、彼の演  奏を聴かずにはいられないでしょう。  また、彼のブルックナーがいかに素晴らしいとは言え、さすがにブルックナーだけでは対象が  ごく一部に限られてしまいます。  ブルックナーだけではなく、ベートーヴェン、ブラームス、モーツァルトシューベルトでも  評価の高い名盤がありますので、円熟の境地に達した演奏を堪能するのもいかがでしょうか?
ブラームス「交響曲第1番」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第9番/ベルリン・フィル(95)(RCA)         B  ・ブラームス  交響曲第3番/北ドイツ放送響(95)(RCA)          A  ・ブルックナー 交響曲第3番/北ドイツ放送響(92)(RCA)         SS  ・ブルックナー 交響曲第4番/ベルリン・フィル(98)(RCA)        SS  ・ブルックナー 交響曲第5番/ベルリン・フィル(96)(RCA)        SS  ・ブルックナー 交響曲第7番/ベルリン・フィル(99)(RCA)        SS  ・ブルックナー 交響曲第8番/ベルリン・フィル(01)(RCA)       ↑SS  ・ブルックナー 交響曲第9番/ベルリン・フィル(98)(RCA)        SS   <緻密><超スペシャリスト>
 クリュイタンス  1905〜1967   B

クラシック音楽の本場はドイツとオーストリアで、それに続くのが、イタリア、フランス、ロ  シアあたりです。フランス出身の作曲家は、ビゼーラヴェルドビュッシー、フォーレあた  りで、あまり一般の方には馴染みがないのですが、「エスプリ」と呼ばれる優雅な音楽は他と  区別されています。 フランス音楽の指揮者の大家といったら、モントゥーデュトワなどの名前が挙がりますが、  実際にラヴェルなどのCDの評価でいえば、断然、このクリュイタンスです。ベルギー出身な  がらフランスで活躍した指揮者です。  フランス出身の指揮者は数多く、フランス音楽の筆頭であるラヴェルを皆得意としていますが、  ラヴェルはもちろん、フランス音楽の演奏において、このクリュイタンスの右に出るものはい  ないでしょう。20世紀に録音が可能になってから、指揮者は数え切れないほどいますが、フ  ランス音楽のスペシャリスト、CDの評価が飛びぬけて高いのはクリュイタンスなのです。  名盤の数こそ少ないですが、これという演奏、特にフランスの作曲家の楽曲の演奏は、誰も及  ばぬSS級の超名盤ばかり。あくまで音楽評論家による評価ではあるとは言え、これは凄いと  しか言いようがありません。彼こそまさにスペシャリスト系指揮者の代表格です。  レパートリーは、実際はむしろ幅広いのですが、ここでご紹介している指揮者の中では、世界  的知名度の点でかなり下位です。カラヤンのように「何でも屋」ではないからなのでしょうか。  なお、彼はベルリン・フィルにも客演指揮者として招かれていますが、ベルリン・フィルとし  て初のベート−ヴェンの交響曲全集の録音を行ったのは、フルトヴェングラーでもカラヤンで  もなく、クリュイタンスでした。
ラヴェル「ダフニスとクロエ」第3部「パンの神とニンフの祭壇の前」
 ☆推薦盤☆  ・ビゼー 「アルルの女」第1&第2組曲/パリ音楽院管弦楽団(64)(EMI)SS  ・フォーレ レクイエム/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI)        SS  ・ラヴェル ボレロ/パリ音楽院管弦楽団(61)(EMI)          SS  ・ラヴェル 「マ・メール・ロア」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI) SS  ・ラヴェル 「ダフニスとクロエ」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(エラート)SS   <超スペシャリスト>
 クーベリック  1914〜1996   B

 クラシック音楽の本場と言えばやはりヨーロッパで、まずはドイツとオーストリア。それに次  ぐのがイタリア、フランス、ロシア、イギリスあたり。その次に来るのが、北欧やスペイン、  そして現在のチェコあたりの民族色が強い国々の音楽(当時とはだいぶ国名が違います)。  チェコ生まれのクーベリックは、民族色が濃い音楽のスペシャリストと言える存在。地味な存  在だが、これらの音楽を振らせたら、彼の右に出るものはいないと言ってもいいほど。  チェコ・フィルハーモニーの首席指揮者であったが、チェコの政治的内紛により、祖国を追わ  れることとなってしまった。アメリカに渡ったものの、多民族国家のアメリカでは音楽観が合  わずにヨーロッパに戻ることとなり、彼ほど運に恵まれなかった指揮者も少ないと言われる。  その後ドイツで18年間、バイエルン放送響を手兵として活躍、ブラームスモーツァルト、  マーラーなどのドイツ、オーストリア系の音楽も好評を博し、ようやく、ヨーロッパでその名  を高め、成功するに至った。CDではモーツァルトの交響曲が秀逸。  1986年に指揮者を引退したが、89年にチェコで民主化革命がおこり、翌年、首都プラハ  で「プラハの春」音楽祭が行われた際に、チェコ出身の指揮者の象徴として再びチェコ・フィ  ルを振ることとなった。この記念碑的行事ではスメタナの「わが祖国」の歴史的名演を行い、  チェコ・フィルの終身名誉指揮者となった。  残念なのは、アメリカに渡ってからは、引退後に「プラハの春」音楽祭で再びチェコ・フィル  を振るまでに、同オケの常任指揮者として録音を残せなかったこと。  バイエルン放送響との録音などを考えても、更に名盤の数が増えていたのは明らかだろう。  
「プラハの春」音楽祭の模様
 ☆推薦盤☆  ・ウェーバー 魔弾の射手/バイエルン放送響(79)(デッカ)           S  ・シューマン 交響曲第3番「ライン」/バイエルン放送響(79)(SONY)    A  ・スメタナ わが祖国/ボストン交響楽団(71)(グラモフォン)         SS  ・ドヴォルザーク 交響曲第9番/ベルリン・フィル(72)(グラモフォン)     B  ・ドヴォルザーク スラヴ舞曲集/バイエルン放送響(73,74)(グラモフォン) SS  ・モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」/バイエルン放送響(80)(SONY) A  ・モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」/バイエルン放送響(80)(SONY)  A ・モーツァルト 交響曲第40番/バイエルン放送響(80)(SONY)       A ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/バイエルン放送響(80)(SONY)A  *モーツァルトの交響曲第40番と第41番「ジュピター」は同じCDです。   <スペシャリスト>
  ジュリーニ  1914〜2005  GIULINI  B  イタリア

 ジュリーニは、世界的な名声に比べて、特定のポストに就いていた期間が短く、晩年はフリー  としてウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウなどに招かれて客  演指揮者として活躍しました。それゆえ、「孤高の大指揮者」「孤高の巨匠」と呼ばれました。  ジュリーニの言葉に、「私はスコアと共に生き、スコアは私の一部になる。その瞬間、私は作  曲家の召使となる。作曲家は天才で、私は何者でもない。」というものがあります。この、作  曲家至上主義というものはトスカニーニモントゥーと同じで、ジュリーニの場合もやはり、  作曲家、楽曲に対して愛情を持ち、演奏させていただく喜びを感じることのできる指揮者でし  た。  なお、推薦盤にあるヴェルディの「椿姫」は、彼の脂ののった時期の録音で、イタリア出身で  ある彼が、イタリアのミラノ・スカラ座管弦楽団を指揮して、イタリアの英雄、ヴェルディの  作品を演奏したもので、彼の最高傑作の1つと言われています。  晩年、テンポが遅くなり、スケールはより大きくなっていきましたが、テンポを遅くすること  で緻密な表現が可能になりました。作曲者が楽譜に書き入れた音符のすべてが聴き手に伝わる  ように、という考えに基づいていると、本人は語っていたということです。  彼の音楽観が行き着いた最後の形なのでしょう。  
ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」
   ☆推薦盤☆  ・ヴェルディ 「椿姫」/ミラノ・スカラ座管弦楽団(55)(EMI)       A  ・ブルックナー 交響曲第8番/ウィーン・フィル(84)(グラモフォン)     A  ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーン・フィル(88)(グラモフォン)     A  ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/フィルハーモニア管弦楽団(59)(EMI) S   <テンポやや遅><かなり柔軟>
  ショルティ 1912〜1997   B

 イギリスという国では、依然社会的階層が根ざしておりまして、クラシック音楽や指揮者の地  位は他の国々に比べると驚くほど高いと言われています。例を挙げますと、バルビローリ、マ  リナー、ラトルらには、「Sir(サー)」の称号が与えられています。  ショルティはハンガリー生まれですが、夫人がイギリス出身であることと、イギリス音楽界へ  の功績を認められて、サーの称号を得ています。  なお、イギリスにはEMIやDECCA(デッカ)というメジャーレーベルがあったにも関わ  らず、未だに世界的な大指揮者と呼べるほどの人物は輩出していません。出世頭は間違いなく  ベルリン・フィルの音楽監督にまでなったラトルでしょう。ラトルが今後、更に存在感を増す  ことができるのでしょうか。  ショルティは、名盤も多く輩出していますが、それよりも、クラシック音楽界への功績という  点で大きく評価されてしかるべき指揮者に入ります。  彼の最大の功績は何と言っても、上演に4日、CDでは12,3枚はかかるという驚異の大作、  ワーグナーの「ニーベルングの指輪」の世界初全曲版録音を果たしたことです。  この録音にデッカとショルティは10年もの時間を費やした(当初はクナッパーツブッシュを  起用しましたが、途中で挫折してしまいました)のです。この録音はありがたいことにステレ  オ録音でもあり、今なお、この作品の断然のベスト演奏との評価を得ている、正真正銘の歴史  的名盤、歴史的録音です。  また、彼はオーケストラのトレーナーとしては「血も涙もない」と表現されるほど厳しく、ア  メリカのシカゴ交響楽団を、世界最高レベルの技術集団へと鍛え上げました。  彼の芸風は、どちらかというと現代風の没個性的なスタイルなのですが、「一糸乱れぬアンサ  ンブル」をモットーとし、小節の始めにはすべての音がピタリと合わないと気が済まない程の  完璧主義者でした。よって、ヨーロッパの伝統的な解釈が必要とされるロマン派の時代の音楽  はあまり得意ではないのですが(ウィーン・フィルとのリハーサルの時、楽員が怒って帰って  しまったというエピソードもあります)、それ以降のマーラーらの現代音楽には、精密さと重  厚さを兼ね備えた見事なまでの手腕を発揮しています。 
バルトーク「管弦楽のための協奏曲」ショルティ&シカゴ交響楽団
 ☆推薦盤☆  ・エルガー 「威風堂々」第1番/ロンドン交響楽団(77)(デッカ)       A  ・バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/シカゴSO(89)(〃) A  ・マーラー 交響曲第4番/シカゴ交響楽団(83)(デッカ)           A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵<管弦楽版>/シカゴ交響楽団 (80)(デッカ)  S  ・モーツァルト 「魔笛」/ウィーン・フィル(69)(デッカ)          S  ・ワーグナー 「ニーベルングの指輪」/〃(58、62、64、65)(デッカ) SS   <現代音楽○><やや鋭い>
 リヒター  1926〜1981   B バッハのファンはSS

カール・リヒターは指揮者兼チェンバロ奏者で、一生をバッハの演奏活動に捧げました。現在  発売されているCDでバッハ以外にはヘンデルくらいしかありません。  そのかわり、彼が演奏するバッハはほぼすべてが超一級品と言ってよく、このサイトの推薦盤  紹介でもほとんどがトップの評価です。以前は、ダントツのトップ評価で、独走状態でしたが、  近年は評価の高いCDのほとんどが古楽器演奏ですので、現代楽器による演奏の彼のCDは、  21世紀になって評価が下がってきています。とは言っても、ベスト盤の常連であることには  変わりなく、現代楽器の演奏においては断然の評価を得ています。  いくらバッハに限ったこととは言え、これは凄いことです。超スペシャリストです。  確かに録音年は大抵50年前のものなのですが、ステレオ録音ということもありまして、音質  は鑑賞に全く差し支えないと私は思っています。  バッハのファンの方は、何がなんでも彼の名前を覚えておきたいです。「リヒター」なってい  るCDは、イコールそれが現代楽器の最高の演奏ということになるのです。  
バッハ「ブランデンブルク協奏曲」第5番第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・バッハ 管弦楽組曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(60、61)(アルヒーフ) SS  ・バッハ ブランデンブルク協奏曲/ 〃     (67)(アルヒーフ)    SS  ・バッハ チェンバロ協奏曲第1番/ 〃  (71,72)(アルヒーフ)     A  ・バッハ 音楽の捧げ物/            (63)(アルヒーフ)     S  ・バッハ オルガン作品集    /    (64〜78)(アルヒーフ)     A  ・バッハ カンタータ集(各種)/ 色々    (各年代)(アルヒーフ)  A〜SS  ・バッハ ミサ曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(61)(アルヒーフ)       S  ・バッハ ヨハネ受難曲/ 〃(64)(アルヒーフ)               S  ・バッハ マタイ受難曲/ 〃(58)(アルヒーフ)              SS   <超スペシャリスト>


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