20世紀の名指揮者達





 ヴァント  1912〜2002   B ブルックナーのファンはS

 
1912年に生まれながらも、21世紀まで生きたので、ごく最近までいた印象が強いヴァン  トは、指揮者の歴史上、類をみないほどの大器晩成型であった。  何しろ、手兵北ドイツ放送響との一連の演奏が高い評価を受け、世界の表舞台に出たのが齢7  0代〜80代の時で、その後ベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が絶賛を浴びたのが9  0歳近くだったのである。この時点で超一流の仲間入りをした。と思っていたら、10年も経  たないうちに亡くなってしまった。  彼は主にブルックナー指揮者であるが、ひたすらスコア(楽譜)を読み込み、緻密な音楽を創り  出す。これといった大芝居をうつタイプではないが、その適切なテンポ設定、音の強弱などを、  徹底したリハーサルによってステージにもってくるタイプである。これも、長年のスコアの読  み込みの産物らしい。  彼とベルリン・フィルとのブルックナー録音は、いずれも各曲の最高の評価を得ている。  とはいえ、誰もが100%絶賛、という訳ではなく、彼の緻密な演奏を息苦しく感じる人も中  にはいるので、好みに合うかを試す意味でも、ブルックナーを鑑賞する上で、彼の演奏を聴か  ずにはいられないだろう。  彼のブルックナーがいかに素晴らしいとは言え、さすがにブルックナーだけでは対象が上級者  に限られてしまう。  初心者向けとしては、モーツァルトの交響曲第40番第41番シューベルトの「未完成」  の録音もあるので、そちらで彼の円熟の境地に達した演奏を堪能するのもいかが?  ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ベルリンフィル(95)(RCA)     B  ・ブラームス 交響曲全集/北ドイツ放送響(95〜97)(RCA)         A  ・ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」/ベルリンフィル(98)(RCA)SS  ・ブルックナー 交響曲第5番/ベルリンフィル(96)(RCA)         SS  ・ブルックナー 交響曲第7番/ベルリンフィル(99)(RCA)         SS  ・ブルックナー 交響曲第8番/ベルリンフィル(01)(RCA)        ↑SS  ・ブルックナー 交響曲第9番/ベルリンフィル(98)(RCA)          S  ・ベートーヴェン 交響曲第1番&第2番/北ドイツ放送交響楽団(97)(RCA)  A  ・モーツァルト 交響曲第39番&第40番&第41番/〃(90,94)(RCA)  B   <緻密><スペシャリスト> 
 クリュイタンス  1905〜1967   B

 
フランス音楽の指揮者の大家といったら、モントゥーなどの名前が挙がるが、実際にラヴェル  などのCDの評判でいえば、断然、このクリュイタンスである。ベルギー出身ながらフランス  で活躍した指揮者である。  フランス出身の指揮者は数多く、フランス音楽の筆頭であるラヴェルを皆得意としているが、  ラヴェルの演奏においてこのクリュイタンスの右に出るものはいない。20世紀に録音が可能  になってから、指揮者は数え切れないほどいるが、フランス音楽のスペシャリストはクリュイ  タンスなのである。  名盤の数こそ少ないが、これという演奏は誰も及ばぬSS級の超名盤ばかりである。  あくまで音楽評論家による評価ではあるとは言え、これは凄いとしか言いようがない。  彼こそまさにスペシャリスト系指揮者の代表格である。  レパートリーは、むしろ幅広いのだが、ここで紹介している指揮者の中では、世界的知名度の  点でかなり下位である。カラヤンのように「何でも屋」ではないからなのだろうか。  なお、彼はベルリン・フィルにも客演指揮者として招かれているが、ベルリン・フィルとして  初のベート−ヴェンの交響曲全集の録音を行ったのは、フルトヴェングラーでもカラヤンでも  なく、彼であった。  ☆推薦盤☆  ・ビゼー 「アルルの女」第一&第二組曲/パリ音楽院管弦楽団(64)(EMI)SS  ・フォーレ レクイエム/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI)        SS  ・ラヴェル ボレロ/パリ音楽院管弦楽団(61)(EMI)          SS  ・ラヴェル 「ダフニスとクロエ」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI) SS  ・ラヴェル 「マ・メール・ロア」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI) SS   <スペシャリスト>
 クーベリック  1914〜1996   B

 
 チェコ生まれのクーベリックはチェコ・フィルハーモニーの首席指揮者であったが、チェコの  政治的内紛により祖国を追われることとなった。  その後ドイツで18年間、バイエルン放送響を手兵として活躍、一躍ヨーロッパでその名を高  めた。  1986年に指揮者を引退するが、89年にチェコで民主化革命がおこり、翌年、首都プラハ  で「プラハの春」音楽祭が行われた際に再びチェコ・フィルを振り、スメタナの「わが祖国」  の歴史的名演を行い、チェコ・フィルの終身名誉指揮者となった。  クーベリックはドイツ・オーストリア系の曲もレパートリーとしているが、何と言ってもお国  物のチェコの曲を振らせたら、右に出るものはいない程の存在である。そういう意味では、お  国物のスペシャリストであり、当面彼の演奏を超えるものは出てきそうにない。  それだけでも充分歴史に名を残すに値する指揮者である。  チェコの音楽と言ったら、ドイツ・オーストリア系、イタリア、フランスなどのクラシック音  楽の本場に次ぐ存在であり、何と言ってもドヴォルザークが有名である。    ☆推薦盤☆  ・ウェーバー 魔弾の射手/バイエルン放送響(79)(デッカ)           S  ・シューマン 交響曲第3番「ライン」/バイエルン放送響(79)(SONY)    A  ・スメタナ わが祖国/ボストン交響楽団(71)(グラモフォン)         SS  ・ドヴォルザーク 交響曲第9番/ベルリンフィル(72)(グラモフォン)      B  ・ドヴォルザーク スラヴ舞曲集/バイエルン放送響(73,74)(グラモフォン) SS  ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/バイエルン放送響(80)(SONY)A   ・モーツァルト 「戴冠ミサ曲」/バイエルン放送交響楽団(73)(グラモフォン) *B
 ジュリーニ  1914〜2005   B

 
 ジュリーニは、世界的な名声に比べて、特定のポストに就いていた期間が短く、晩年はフリー  としてウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウなどに招かれて客  演指揮者として活躍した。  ジュリーニの言葉に、「私はスコアと共に生き、スコアは私の一部になる。その瞬間、私は作  曲家の召使となる。作曲家は天才で、私は何者でもない。」というものがある。この、作曲家  至上主義というものはモントゥーと同じであるが、ジュリーニの場合もやはり、モントゥーと  同じように作曲家、曲に対して愛情を持ち、演奏させていただく喜びを感じることのできる指  揮者であった。  ちなみに、トスカニーニの、スコアこそがすべてという客観主義も、同じく作曲家至上主義か  ら来ていると言われている。  晩年、テンポが遅くなり、スケールはより大きくなっていったが、テンポを遅くすることで緻  密な表現が可能になった。作曲者が楽譜に書き入れた音符のすべてが聴き手に伝わるように、  という考えに基づいていると、本人は語っている。  彼の音楽観が行き着いた最後の形なのだろう。  ☆推薦盤☆  ・ドヴォルザーク 交響曲第8番/ロイヤルコンセルトヘボウ(90)(SONY) B  ・ブラームス ドイツ・レクイエム/ウィーンフィル(87)(グラモフォン)   B  ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーンフィル(88)(グラモフォン)     B  ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/フィルハーモニアO(59)(EMI)   A  ・モーツァルト 「ドン・ジョバンニ」/フィルハーモニアO(59)(EMI)  A     <テンポやや遅><かなり柔軟>
  ショルティ 1912〜1997   B

 
 イギリスという国では、依然社会的階層が根ざしており、クラシック音楽や指揮者の地位は、  他の国々に比べると驚くほど高く、例を挙げると、バルビローリ、マリナー、ラトルらには  「Sir(サー)」の称号が与えられている。ショルティはハンガリー生まれだが、夫人が  イギリス出身であることと、イギリス音楽界への功績を認められて、サーの称号を得ている。  なお、イギリスにはEMIやDECCA(デッカ)というメジャーレーベルがあるにも関わ  らず、未だに大指揮者と呼べるほどの人物は輩出していない。ラトルが今後、そういった存  在になれるかどうか。  ショルティは、名盤も多く輩出しているが、それよりも、クラシック音楽界への功績という  点で大きく評価されてしかるべき指揮者である。  彼の最大の功績は何と言っても、上演に4日、CDでは12,3枚はかかるという驚異の大  作、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」の世界初全曲版録音を果たしたことだろう。この  録音にデッカとショルティは10年もの時間を費やした(当初はクナッパーツブッシュを起  用したが、途中で挫折してしまった)。この録音はありがたいことにステレオ録音でもあり、  今なお、この作品の断然のベスト演奏との評価を得ている、正真正銘の歴史的名盤である。  また、彼はオーケストラのトレーナーとしては「血も涙もない」と表現されるほど厳しく、  アメリカのシカゴ交響楽団を、世界最高レベルのアンサンブル集団へと鍛え上げた。  彼の芸風は、どちらかというと現代風の没個性的なスタイルではあるが、「一糸乱れぬアン  サンブル」をモットーとし、小節の始めにはすべての音がピタリと合わないと気が済まない  程の完璧主義者であった。よって、ヨーロッパの伝統的な解釈が必要とされるロマン派の時  代の音楽はあまり得意ではないが(ウィーン・フィルとのリハーサルの時、楽員が怒って帰  ってしまったというエピソードもある)、それ以降のマーラーらの現代音楽には、精密さと  重厚さを兼ね備えた見事なまでの手腕を発揮している。   ☆推薦盤☆  ・エルガー 「威風堂々」第1番/ロンドン交響楽団(77)(デッカ)      A  ・バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/                シカゴ交響楽団(89)(デッカ)         A  ・マーラー 交響曲第4番/シカゴ交響楽団(83)(デッカ)          A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵<管弦楽版>/シカゴ交響楽団 (80)(デッカ) S  ・モーツァルト 「魔笛」/ウィーン・フィル(69)(デッカ)        SS  ・ワーグナー 「ニーベルングの指輪」/〃(58、62、64、65)(デッカ)SS   <現代音楽○><やや鋭い>
 リヒター  1926〜1981   B バッハのファンはS

 
カール・リヒターは指揮者兼チェンバロ奏者で、一生をバッハの演奏活動に捧げた。現在発売  されているCDでバッハ以外にはヘンデルくらいしかない。  その代わり、彼の演奏するバッハはほぼすべてが超一級品と言ってよく、このサイトの推薦盤  紹介でもほとんどがトップの評価である。トップ評価で、しかも二位以下を大きく突き放して  いるのだから、ほとんど独走状態。近年はガーディナーらの古楽器によるバッハの演奏が増え  て来ているため、バッハのすべての作品でリヒターが一番とまでは言い切れないのだが、現代  楽器による演奏においては、有無を言わさずリヒターの演奏がトップである。いくらバッハに  限ったこととは言え、これは凄いことである。  バッハのファンは、何がなんでも彼の名前を覚えておきたい。「リヒター指揮」と書いてある  CDがあったら、イコールそれが現代楽器の最高の演奏ということになる。  ☆推薦盤☆  ・バッハ 管弦楽組曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(60、61)(アルヒーフ) SS  ・バッハ ブランデンブルク協奏曲/ 〃     (67)(アルヒーフ)     S  ・バッハ 管弦楽組曲&ブランデンブルク協奏曲/ 〃(60〜67)(アルヒーフ)SS  ・バッハ チェンバロ協奏曲第1番/ 〃  (71,72)(アルヒーフ)     A  ・バッハ 音楽の捧げ物/            (63)(アルヒーフ)     S  ・バッハ オルガン作品集(選集)/    (64〜78)(アルヒーフ)     A  ・バッハ カンタータ集(各種)/ 色々    (各年代)(アルヒーフ)  A〜SS  ・バッハ ミサ曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(61)(アルヒーフ)       S  ・バッハ ヨハネ受難曲/ 〃(64)(アルヒーフ)               S  ・バッハ マタイ受難曲/ 〃(58)(アルヒーフ)              SS   <超スペシャリスト>


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