紹介作曲家一覧





1.モンテヴェルディ  1567〜1643  MONTEVERDI  C  イタリア

 クラシック音楽の対象となるのは、主に1600年以降と言えます。江戸時代の始まりが16  03年ですから、ちょうど江戸時代以降と覚えておけば分かりやすいです。  もちろん、それ以前にも西洋には音楽はあり、ルネサンス時代と呼ばれていますが、現在、当  時の音楽が演奏されることはまずありません。作曲者の名前も曲名も一般の人はご存じないで  しょう。  更に遡れば、伝わっているのは「グレゴリオ聖歌」と一括りでまとめられる、楽器を用いない  歌曲です。およそ9世紀以降といいますから、日本では平安時代以降です。有名な作曲家がい  たわけではなく、これらのグレゴリオ聖歌については作曲者が分からないものがほとんどです。  ルネサンス時代以降、つまり江戸時代以降の、楽器を使った曲や、有名な作曲家が出てきた頃  を「バロック時代」または「バロック」「古楽」と呼んでいます。  ここにご紹介するモンテヴェルディはバロック初期の作曲家で、まあ一般的に名前が通ってい  たり、CDが出されている作曲家としては最古の存在の1人です。バロックといえば何といっ  てもバッハが有名ですが、モンテヴェルディが亡くなった時にはバッハは生まれてもいなかっ  たのですから、まさしくクラシック音楽の原点を築いた作曲家の1人です。  主な作品としては、「聖母マリアの夕べの祈り」がありますが、大変古い作品にも関わらず、  かのバッハの「マタイ受難曲」に匹敵する、宗教音楽の最高傑作と評する人もいるくらいです。  クラシック最古の大作曲家ということで、モンテヴェルディの名はできれば覚えておきたいと  ころです。  ☆代表作☆  <声楽曲>   聖母マリアの夕べの祈り  <オペラ曲>  オルフェオ

2.ヴィヴァルディ  1678〜1741  VIVALDI  S  ヴェネツィア(現イタリア)

 「四季」の「春」の冒頭部分といえば、おそらく、あらゆるクラシック音楽の中で最も有名な  旋律の一つでしょう。教科書にも載っていますし、いかにも「春」という感じがしますので、  覚えやすいです。では「四季」の作曲家はといえば、「ヴィヴァルディ」ということを知って  いる方も多いと思われます。  いずれにせよ、「四季」はヴィヴァルディのまさに代名詞ともなっています。  ヴィヴァルディはバッハよりも早く生まれた、バロック後期の作曲家です。あまりに「四季」  が有名過ぎますので、クラシックファンの方でも他の作品を答えるのは一苦労かもしれません  が、実は500もの協奏曲、52のオペラ、73のソナタに代表されるように、大変な数の作  品を作曲しています。  特に協奏曲(「四季」もヴァイオリン協奏曲です)においては、様々な楽器の協奏曲を作曲し  たように多大な功績があり、後のバッハ、モーツァルトらに影響を与えました。  ☆代表作☆  <協奏曲>  ヴァイオリン協奏曲集「四季」  フルート協奏曲集  調和の霊感         2つのトランペットのための協奏曲 チェロ協奏曲集 オーボエ協奏曲集         ファゴット協奏曲集  弦楽のための協奏曲集

3.バッハ  1685〜1750  BACH  S  ドイツ

 バッハは、「音楽の父」と呼ばれ、今日の音楽にでさえ影響を与え続けています。  バッハがいなければ、今日の音楽はないとも言われています。それほど、音楽の形式というも  のを確立させた人物です。それだけでも大人物ですが、クラシック作曲家屈指のメロディーメ  イカーでもあります。音楽という枠を通り越して、歴史上の偉人の一人と言えます。  音楽史的には「バロック」、あるいは「古楽」と呼ばれる時代の大作曲家です。  バロックという時代は、モーツァルトらのいた時代と明確に区別されていますので、CDショ  ップでも陳列が別になっていることが多く、バッハのCDはそちらにあることも多いです。  バッハは主に宗教的色合いの濃い名作を残しました。当時は教会で音楽を奏でることが多かっ  たのが一因ですが、「トッカータとフーガ」は誰もが一度は音楽の教科書で見たことがある、  あるいは授業で聴いたことがあるはずの代表作です。  バロック時代の有名な作品には、他にヴィヴァルディの「四季」パッヘルベルの「カノン」  などがありますが、バッハほど有名曲の多い作曲家はいません。  バッハと言いますと、どうしてもオルガン曲のイメージがありまして(音楽の教科書が原因で  しょうか)、オルガン曲、例えば「トッカータとフーガ」などを聴きますと、いかにも形式的  な音楽ばかりのようなイメージをお持ちになるかもしれませんが、実は大変多様なジャンルに  おいて魅力的な作品を数多く残しています。また、一番の大作であるマタイ受難曲は、イエス  ・キリストを描いた長大な声楽曲で、あらゆるクラシック作品の中でも最高傑作の一つとされ  ています。   バッハに馴染みの薄い初心者の方は、是非とも下にご紹介している管弦楽曲、室内楽曲、鍵盤  楽曲の小品から触れて頂ければと思います。  ☆代表作☆  <協奏曲>   ヴァイオリン協奏曲集 チェンバロ協奏曲集   <管弦楽曲>  管弦楽組曲(「G線上のアリアなど」)  ブランデンブルク協奏曲    <室内楽曲>  無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ  無伴奏チェロ組曲          フルート・ソナタ集  <鍵盤楽曲>  オルガン作品集(「トッカータとフーガ」など)  イギリス組曲           フランス組曲  パルティータ全曲  平均律クラヴィーア曲集           ゴルトベルク変奏曲  音楽の捧げ物  <声楽曲>   カンタータ集  ミサ曲  マタイ受難曲  ヨハネ受難曲            クリスマス・オラトリオ 

4.ヘンデル  1685〜1759  HANDEL  B  ドイツ⇒イギリス

 ヘンデルはバッハに次ぐバロック時代最大の作曲家とされ、バッハが「音楽の父」と呼ばれる  のに対しまして、「音楽の母」と呼ばれることもあります(女性ではありません)。  バッハは主として教会音楽で活躍しましたが、ヘンデルはオペラやオラトリオなど、劇場用の  音楽の分野で活躍しました。オラトリオとは、簡単にご説明しますと、オペラから演劇を除い  たものです。宗教音楽で、聖書から台詞などを引用し、合唱団とオーケストラで演奏するバロ  ック時代の音楽形式のことです。ヘンデルの作品では、オラトリオ「メサイア」の中の「ハレ  ルヤ・コーラス」が今日でも歌われている超有名曲です。他には、オラトリオ「ユーダス=マ  カベウス」の中の合唱曲「見よ、勇者は帰る」が、スポーツなどで優勝者を称える時に頻繁に  用いられている超有名曲です。  このように、誰でも聴いたことのある曲を作曲したヘンデルなのですが、その他には、これと  いって一般に知られている曲はほとんどないと言ってもいいくらいです。「ヘンデル」という  作曲家の名前は学校で習うように大変有名なのですが、いざ作曲した曲はと言われれば、答え  られない方がほとんどでしょう。クラシックファンにとっても同様で、ヘンデルの作品はクラ  シック音楽の中ではマイナーな部類に属します。かなりのマニアでもヘンデルの曲をほとんど  聴いたことのない方は多いのではないでしょうか。  クラシック音楽の世界では、管弦楽曲の「水上の音楽」と「王宮の花火の音楽」が二大作品と  して採り上げられますが、いずれも一般的でなく、やはり、クラシックファンでないのに聴い  たことのある人はほとんどいないのが現実と言ったところです。
「ユーダス=マカベウス」より「見よ、勇者は帰る」
 ☆代表作☆  <管弦楽曲>   水上の音楽  王宮の花火の音楽  <オペラ曲>   セルセ  <オラトリオ>  メサイア  ユーダス=マカベウス       

5.ハイドン  1732〜1809  HAYDN  A  オーストリア

 音楽史では、ハイドンが活躍した頃を、それ以前の「バロック時代」と完全に区別します。そ  の頃からベートーヴェンらが活躍する頃までの18世紀の音楽を「古典派」と呼びます。「古  典派」の最も有名な作曲家は何と言ってもモーツァルトです。 バロック時代には、現在「交響曲」と呼ばれるようなフルオーケストラによる音楽形式があっ  たかどうかはほとんど知られていません。ハイドンは、その「交響曲」を何と104作も作曲  し、「交響曲の父」と呼ばれました。主に交響曲に名作を残したベートーヴェン、ブルックナ  は9作、マーラーは10作です。  ハイドンの次に多いモーツァルトでさえ41作なのですから、驚くべき数です。また、83作  もの弦楽四重奏曲も作曲し、こちらも最高数です。その他、ミサ曲やカノンなども作曲してい  ます。  ハイドンといえば交響曲から聴くのが一般的です。とはいっても、104作の中で、頻繁にC  D化されている作品は、標題がついた作品を中心にほんのわずかでして、それぞれ1つの楽章  が短く、聴きやすいです。その点では初心者の方でも接しやすいでしょう。  しかし、気軽に聴ける反面、派手さや演出性がなく、モーツァルトのようにこれといって惹か  れる名旋律もないため、交響曲の中では地味な印象の作品ばかりである点は否めません。  近年、コンサートのプログラムに組まれることも減ってきているようで、残念なことです。  ☆代表作☆   <交響曲>    第94番「驚愕」 第100番「軍隊」 第101番「時計」  <室内楽曲>   弦楽四重奏曲第77番「皇帝」

6.モーツァルト  1756〜1791  MOZART  S  オーストリア

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは紛れもなく歴史上における天才音楽家でありま  す。作曲を始めたのは5歳の時。交響曲、協奏曲、管弦楽曲、室内楽曲、器楽曲、声楽曲、オ  ペラ曲と、ほぼすべてのジャンルに名曲を残しました。通常、作曲家は鍵盤楽器などで曲を構  成していくのですが、モーツァルトは鍵盤を用いず、すべて頭の中の音符を書き記していきま  した。そして、30代半ばで神に召されました。  現在でも死に関しては謎が多いです(詳しくは、「レクイエム」の紹介をお読み下さい)。  モーツァルトの音楽の特徴は、旋律が天国的な明るさと美しさを持っている点にあります。そ  れゆえ、常にあらゆる作曲家の中でも人気NO.1の最有力候補に挙げられる作曲家です。  ですが、現実のモーツァルトは、最晩年などは病気と貧困にあえいでいました。そんな境遇に  ありながらも天国的な美しさをもつ旋律を作り出す、そこにモーツァルトの芸術の最大の秘密  があります。  「音楽は、いつでも楽しくなければいけない」  それが、モーツァルトの音楽観でした。  ただ音楽の表面が明るいだけが、モーツァルトの芸術の本質ではありません。人間は誰しも悲  しく、人生はつらいものです。それを十分承知しながらも、せめて音楽は楽しく聴きましょう、  表面は明るく振舞っていましょうというのがモーツァルトの芸術の本質なのです。  とは言え、病気と貧困の状態であった頃の作品には、時々暗い心境が垣間見える部分もあって  興味深いのです。  なお、モーツァルトの音楽が胎教に良いことはよく知られていまして、それを題したCDも発  売されていますが、21世紀になって、何と「医学的」に、病気治癒の効果があることまで研  究されています。みな特有の音階で作られているというのが主な理由らしいのですが…まさに  天才作曲家にしか成し得ない神業なのでしょう。  また、モーツァルトの作品には、旋律を覚えやすい小品がたくさんありますので、クラシック  初心者の方にも向いていますし、安らぎを求めて聴く、いわゆる「ヒーリング音楽」としても  適しています。  天才の音楽は永遠に不滅なのであります。  ☆代表作☆  <交響曲>   第25番 第38番「プラハ」 第40番 第41番「ジュピター」  <協奏曲>   ピアノ協奏曲第20番  ピアノ協奏曲第27番  <管弦楽曲>  アイネ・クライネ・ナハトムジーク  3つのディヴェルティメント  <ピアノ曲>  ピアノ・ソナタ第11番「トルコ行進曲つき」  <声楽曲>   レクイエム  戴冠ミサ曲    <オペラ曲>  フィガロの結婚  魔笛  ドン・ジョバンニ <

 

7.ベートーヴェン  1770〜1827  BEETHOVEN  S  ドイツ
 
「天才」モーツァルトに対して、ベートーヴェンには「楽聖」という称号がよく使われます。  クラシックを代表する2大作曲家ですが、音楽に哲学性、思想性を盛り込み、芸術性を高めた  という意味では、ベートーヴェンは世界史史上、最も偉大な音楽家の1人です。  ベートーヴェン以降、概ね20世紀までの音楽を「ロマン主義」と呼びます。  耳が不自由だった、というのは学校でも習うことなのですが、有名な「第九」を作曲した頃に  は、もう筆談でしか会話ができない状態でした。「第九」の初演の指揮をしたのは作曲者であ  るベートーヴェン自身なのですが、耳が不自由で、演奏が終わったのに気付かなかったという  エピソードは有名です。そんなハンデを背負いつつも、おびただしいほどの名曲を作曲したの  ですから、ベートーヴェンはむしろ、作曲家という枠を超えた、世界の偉人の1人とも言える  のではないでしょうか。「耳」ではなく、「想像」の中の楽譜で音楽を作り上げていきました。  ベートーヴェンの作風は、9つの交響曲によく表されています。様々なジャンルの名曲を作っ  たのは確かですが、交響曲の中でもとりわけ有名な第3番「英雄」、第5番「運命」、第9番  「合唱」は、いずれもあらゆる交響曲の中でも一際光る大傑作でして、ベートーヴェンの作風  を知るには、まずこれらの交響曲から聴くのがいい方法なのではないでしょうか。  あるいは、ピアノ・ソナタの中でも代表的作品で、「3大ピアノ・ソナタ」と呼ばれる「悲愴」  月光」「熱情」の3つのピアノ曲から触れるのも良いのではないでしょうか。  モーツァルトの音楽が女性的な優しさを持っているのとは対照的に、ベートーヴェンの音楽は  男性的な力強さなどを持っていると言えば解りやすいかもしれません。
エリーゼのために
 ☆代表作☆  <交響曲>   第3番「英雄」 第5番「運命」 第6番「田園」 第9番「合唱」  <協奏曲>   ヴァイオリン協奏曲  ピアノ協奏曲第5番「皇帝」  <ピアノ曲>  エリーゼのために   ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」          ピアノ・ソナタ第14番「月光」  ピアノ・ソナタ第23番「熱情」           ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」            ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」          ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」  <管弦楽曲>  ヴァイオリン・ソナタ第5番「春」  弦楽四重奏曲第14番          ピアノ三重奏曲第7番「大公」  チェロ・ソナタ  <声楽曲>   ミサ・ソレムニス   <オペラ曲>  フィデリオ

8.パガニーニ  1782〜1840  PAGANINI  C  イタリア

クラシックの作曲家の中には、作曲よりもむしろ演奏活動が本業であった作曲家も多数います。  ごく一部のご紹介になりますが、指揮者ではマーラーリヒャルト・シュトラウス、ヴァイオ  リニストではクライスラー、ピアニストではリストラフマニノフらがいます。  クラシック音楽史上、最高のヴァイオリニストといえばパガニーニです。パガニーニは「鬼神」  と呼ばれたほどヴァイオリンが上手すぎたそうです。5歳で始め、13歳で、もう学ぶことは  なくなったと言われています。  超絶技巧を身につけたパガニーニは、もう弾く曲がなくなったので、自分で演奏するための超  絶技巧の曲を作曲しました。これらが、今日残されているパガニーニの作品です。  当時、ヨーロッパ中にその名を轟かせたパガニーニの生演奏を聴くには相当な金額が必要だっ  たようで、シューベルトは自らの家財を売ってまで聴きに行ったというエピソードもあります。  もちろん、シューベルトは相当感動したらしいです。  パガニーニは超絶技巧も極めたため、演出にも力を注いだと言われています。例えば、ヴァイ  オリンの代わりに靴に弦をつけて演奏したですとか、演奏中にあえて自分の指でヴァイオリン  の弦を切って、弾くのを難しくしたという話があります。ここまでいくと異常な世界であるた  め、当時の聴衆は、パガニーニを悪魔扱いしたと言われています。  そのためか、死後に埋葬を受け付けてくれる教会がなく、遺族も大変だったそうです。  パガニーニは自分の超絶技巧が絶対に他人に漏れないように、作曲した楽譜の管理には終生余  念がなかったそうです。もちろん、後世に残されることを拒み、すべて焼却されたということ  になっていますので、現在楽譜が残っているはずはないのですが、それでも、数は少なくとも  作品は発見されていますので、実際は相当数の作品が作曲されたのでしょう。  それらを知るすべはありませんが、現存の作品だけでも超絶技巧を垣間見ることは出来ます。  パガニーニの作品と言えば、ヴァイオリンの超難曲の代名詞ともなっている独特な作曲家です。  ☆代表作☆  <協奏曲>   ヴァイオリン協奏曲第1番  第2番  <室内楽曲>  カプリース(奇想曲)

9.ロッシーニ  1792〜1868  ROSSINI  A  イタリア
 
 肖像画を御覧になって、「この作曲家見たことがある」と思われた方も多いのではないでしょ  うか。主にオペラの作曲家ですので、クラシック作曲家としてはそれほど超有名という人物で  はないのですが、学校の音楽室に肖像画が飾ってあることが多く、ちょっと太目のおじさんと  いったらロッシーニしかいませんので、インパクトが強いのでしょう。  大半の方はロッシーニという名前までは中々出てこないようです。  風貌にも個性がありますが、作曲家としての人生にも非常に個性がありまして、ユニークな人  物でした。  1816年、24歳の時に発表した代表作「セビリアの理髪師」で、ロッシーニの名前はヨー  ロッパ中に轟きました。  ロッシーニはヴェルディプッチーニ以前のイタリア最大のオペラ作曲家で、大衆にも人気が  あり、同時期の作曲家、ショパンベートーヴェンもロッシーニを絶賛しています。  また、ワーグナーもロッシーニのようになりたいという動機でオペラ作曲家を志したと言われ  ています。  しかし、37歳の時、「ウィリアム・テル」を発表し、突然引退してしまいました。その後の  作曲活動はサロン風の曲や、ピアノ曲、宗教曲などで、オペラ曲は一切作曲をしませんでした。  その傍ら、元来からの美食家が高じて、何と料理の道を志すこととなったのです。  フランス料理によくある「○○のロッシーニ風」(ヒレステーキにフォワグラとトリュフのソ  テーを添えた「トゥールヌド・ロッシーニ」など)とは、ロッシーニの名前から取られた料理  の名前です。あまりにも料理が好きだったのか、料理の名前を付けたピアノ曲も作っています。  また、著名人を集めたサロンや高級レストランも経営しました。  何ともユニークな作曲家です。
「ウィリアム・テル」序曲より抜粋
 ☆代表作☆  <管弦楽曲>  弦楽のためのソナタ集  <オペラ曲>  セビリアの理髪師   泥棒かささぎ   ウィリアム・テル
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10.シューベルト  1797〜1828  SCHUBERT  A  オーストリア
  
音楽室に肖像画が飾ってあった、眼鏡をかけた作曲家、といえば、誰もがシューベルトと答え  るでしょう。それくらい有名なのですが、「シューベルト作曲の曲は?」と問われると、ほと  んどの方は答えに苦しむのではないでしょうか。それは、シューベルトの主な作品といったら  歌曲で、テレビなどで耳にする機会がほとんどないからだと思われます。歌曲には珠玉の作品  が多く残されています。  クラシックに馴染みのない方でも、交響曲「未完成」をご存知の方は多いかもしれません。  というのは、レコードの時代には、「未完成」は交響曲の中でもかなりポピュラーだったそう  です。ですが、この交響曲がシューベルトの作品ということまでご存知かとなると、かなり厳  しいかもしれません。  もちろん、今なおシューベルトの代表作品であることは事実なのですが、有名な割には、特に  第1楽章が暗く、あまり初心者の方のクラシック入門に向いているとは言えない面があります。  どちらかと言いますと、大曲というよりは小曲向けの作曲家なのでしょう。  シューベルトの作風はモーツァルトに近く、旋律の美しさが魅力です。モーツァルトほどの天  国的な明るさ、美しさはありませんが、ウィーン情緒にあふれた、ムードのある作品が多く残  されています。
野薔薇
 ☆代表作☆  <交響曲>   第8番「未完成」 第9番「ザ・グレイト」  <管弦楽曲>  軍隊行進曲  <室内楽曲>  ピアノ五重奏曲「ます」   <ピアノ曲>  即興曲集 ピアノ・ソナタ第21番  <声楽曲>   歌曲集「美しき水車小屋の娘」 歌曲集「冬の旅」 歌曲集「白鳥の歌」          野薔薇

11.ヨハン・シュトラウスT世 1804〜1849 JOHANN STRAUSST S オーストリア
  
   ワルツやポルカで有名な「シュトラウス・ファミリー」をここで整理しておきます。  「ヨハン・シュトラウス」という作曲家の名前をご存知の方は多いのではないでしょうか。で  すが、少しクラシックに詳しくなって、「リヒャルト・シュトラウス」という作曲家がいるこ  とや、「ヨハン・シュトラウス」にもT世とU世がいることまで知るようになるとさすがに混  乱してしまいます。「ヨーゼフ・シュトラウス」まで知ってしまうとなおさらです。  まず、「リヒャルト・シュトラウス」は「シュトラウス・ファミリー」とは親戚でも何でもな  く、全く関係がないことをお知り下さい。リヒャルト・シュトラウスは、「ツァラトゥストラ  はかく語りき」などの作曲家で、ワルツやポルカで有名な作曲家ではありません。  残り3人が、「シュトラウス・ファミリー」です。その系譜をご説明しますと、ここにご紹介  している「ヨハン・シュトラウスT世」が父で、「ヨハン・シュトラウスU世」が子供、その  弟が「ヨーゼフ・シュトラウス」です。ところが、有名な作品(ワルツやポルカといったらほ  とんどです)はU世作曲の作品でして、U世を単に「ヨハン・シュトラウス」と表記すること  もあります。これが非常にややこしいのです。ですが、ここでご紹介している「ヨハン・シュ  トラウスT世」の代表的な作品と言ったら、かの有名な「ラデツキー行進曲」くらいですので、  「ラデツキー行進曲はT世」とだけ知っておけば間違えにくいです。弟の「ヨーゼフ」も相当  数のワルツ・ポルカを作曲しましたが、特に「CLASSIC MUSEUM」でご紹介するほど有名な曲は  作曲していませんので、割愛したいと思います。  ラデツキー行進曲といったら、よく運動会で使われる曲で、おそらく大多数の方が一度は聴い  たことがあるでしょう。  毎年元旦恒例のウィーン・フィルハーモニーの「ニューイヤー・コンサート」でも、必ず最後  の「とり」を務める、軽快で、祝祭的なムード満点の曲です。  ☆代表作☆ <管弦楽曲>  ラデツキー行進曲

12.メンデルスゾーン  1809〜1847  MENDELSSOHN  A  ドイツ

メンデルスゾーンは38歳で亡くなったのですが、モーツァルトと似た天才肌の作曲家でした。  モーツァルトのような絶対音感や、一度見た楽譜、一度聴いた曲の記憶力に天才的な力を宿し  ていたと伝えられていまして、常人では考えられない才能の持ち主だったようです。  ある逸話があります。「真夏の夜の夢」の序曲の楽譜を引越しの際に紛失してしまい、記憶を  頼りに書き直しました。後に紛失したはずの楽譜が見つかったのですが、意図的に書き直した  部分以外は全く同じだったそうです。また、「真夏の世の夢」の中の曲で、有名な「結婚行進  曲」を作曲したのは17歳のときだといいますから、相当な才能があったと言われているのも  うなずけます。  メンデルスゾーンの作風は、「結婚行進曲」に見られるように、メルヘンチックな旋律が主体  でした。現在、頻繁に聴かれる曲の数はそれほど多くはありませんが、クラシック鑑賞には必  聴の「真夏の夜の夢」や、4大ヴァイオリン協奏曲の中で最もポピュラーともいえる、いわゆ  る「メンコン」という逸品があります。  ですが、実はメンデルスゾーンが音楽界に遺した功績と言いますと、むしろ指揮業の方が大き  いのかもしれません。  まずは、指揮棒を使って指揮をするという、「指揮者」という役割を独立させたこと、これは  今日にまで影響を与えています。実はメンデルスゾーンが指揮者の「元祖」なのです。  (バロック時代は杖で指揮をしていたそうです)  次に、特にバッハベートーヴェン、とりわけバッハというバロック時代の古い音楽を発掘し、  自ら演奏を行い、バッハやベートーヴェンの諸作品を広めたという功績もあります。  バッハに至っては、クラシック作品の最高傑作の一つとも言われているマタイ受難曲という偉  大なキリスト教作品の価値を広めたこと、また、友人であるシューマンが発見したと言われて  いる、シューベルト交響曲第9番「ザ・グレイト」の初演も行いました。  このように、作曲家としてだけでなく指揮者としてもクラシック音楽界に多大な功績を遺した  38年間でした。    ☆代表作☆  <交響曲>    第3番「スコットランド」 第4番「イタリア」  <協奏曲>    ヴァイオリン協奏曲  <管弦楽曲>   真夏の夜の夢(「結婚行進曲」など)

13.ショパン  1810〜1849  CHOPIN  S  ポーランド

「ショパン」といえばピアノ曲です。他のジャンルの作品もありますが、まあ100%ピアノ  曲と思って頂いてもいいです。女性でピアノを習ったことのある方はきっと多いと思われます  が、おそらくほぼ全員の方がショパンの作品を一度は弾いているのではないでしょうか。その  意味では、ヴァイオリンなどの弦楽器や、フルートなどの管楽器を習ったことがある人よりは、  ピアノを習ったことがある女性の方が圧倒的に多いと思われますので、日本の国民に最も演奏  されている作曲家ということにもなります。  ショパンは「ピアノの詩人」と呼ばれました。ピアノという一つの楽器に絞り、鍵盤だけであ  らゆることを表現しえた天才的な作曲家です。とにかく他の作曲家に比べて旋律が美しく、覚  えやすい小品もたくさんあるため、非常に親しみやすいです。よって最も人気のある作曲家の  1人であると共に、クラシック作曲家屈指のメロディーメイカーでもあります。  ピアノ曲は短いですし、ピアノの音だけを聴いていればよいわけですから、初心者の方はまず  ショパンの有名なピアノ曲からクラシック音楽に親しむというのも良い方法なのではないでし  ょうか。その場合は、「ショパン ピアノ名曲集」のようなCDから聴き始めるのが良いので  はないかと思われます。  ☆代表作☆  <協奏曲>  ピアノ協奏曲第1番  第2番  <ピアノ曲> 練習曲集(「別れの曲」など) ワルツ集(「子犬のワルツ」など)         ポロネーズ集(「英雄ポロネーズ」など) 夜想曲集(「第2番」など)         即興曲集(「幻想即興曲」など) 前奏曲集(「雨だれのプレリュード」など)         バラード  スケルツォ 
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14.シューマン  1810〜1856  SCHUMANN  B  ドイツ

 シューマンはドイツのロマン派音楽を代表する作曲家です。青春時代はピアニストを目指して  いましたが、練習のしすぎで手を痛め、ピアニストの夢は断念せざるをえなかったと言われて  います。それが契機ともなり、作曲家への道を歩んだのですが、シューマンの作品にはピアノ  曲が多く、作曲当時は作品23までがピアノ曲だったと言われています。これも、ピアノに対  する気持ちの表れなのでしょう。  シューマンはドビュッシーリストなどと違って交響曲も作曲していますが、やはり本業はピ  アノ曲の作曲家といったところでしょう。特に、ピアノを習うことからクラシックに親しんだ  方にとっては、馴染みのある作曲家であると思われます。曲は、「子供の情景」の中の「トロ  イメライ」が一番有名です。また、「アラベスク」も、オムニバスのCDに単品で入っている  ことが多い曲です。  「ピアノ協奏曲」も、このジャンルを代表する名作です。  妻は当時の名ピアニスト、クララ・シューマンでした。  晩年、ある若者がシューマンを訪れ、自作のソナタを弾いたところ、シューマンと妻のクララ  は感動したため、シューマンは若者の輝ける未来を予言し、評論で絶賛しました。この若者と  は、かのブラームスです。  クラシック音楽界で一つの謎となっている、ブラームスとクララの不倫疑惑については、未だ  研究中とのことです。シューマンはそれを危惧しながら病没しました。
アラベスク
 ☆代表作☆  <交響曲>   第1番  第3番「ライン」  第4番  <協奏曲>   ピアノ協奏曲  <ピアノ曲>  アラベスク  子供の情景(「トロイメライ」など) クライスレリアーナ  <声楽曲>   詩人の恋  リーダークライス  女の愛と生涯

15.リスト  1811〜1886  LISZT  B  ハンガリー

リストは作曲家であるとともに、音楽史上最大のピアニストです。「ピアノの魔術師」と呼ば  れるほどの技巧を持ち、リストを超えるピアニストはまだ現れていないとも言われています。  指が6本あった、というのも、本当に信じられていたそうです。  リストは「鬼神」と呼ばれたヴァイオリニスト、パガニーニの演奏を見て、あまりの超絶技巧  に言葉を失い、自分は「ピアノの魔術師」になろうと決意したと言われています。  また、リストは初見(楽譜を初めて見てその場で弾くことです)の達人でしたが、ショパンの  練習曲の作品10(詳しくは「名曲案内」にて)だけは弾けなかったというエピソードも残さ  れています。  作曲家としてのリストは「交響詩」というジャンルの創設者でもあります。「交響詩」は「交  響曲」とは関係なく、標題音楽を発展させたものです。リストが作曲した交響詩では「前奏曲」  だけが世間に知られていまして、他の作品が演奏されることはまれです。  曲は、「ピアノ作品集」などによく入っている、単品の「愛の夢」が一番有名です。  リストは、ピアニスト兼作曲家の代表として、特に女性にファンが多いようです。  更に、リストは指揮者としても活躍しました。
愛の夢(キーシン演奏)
 ☆代表作☆  <協奏曲>   ピアノ協奏曲第1番  <管弦楽曲>  交響詩「前奏曲」  <ピアノ曲>  ピアノ・ソナタ  ラ・カンパネッラ  愛の夢

16.ヴェルディ  1813〜1901  VERDI  A  イタリア

 ヴェルディはイタリアを代表する作曲家で、ワーグナーに次ぐ程のオペラの代表的な作曲家で  す。生前、ヴェルディの作品は予想以上に好評を博し、今でも親しまれています。特にイタリ  アの国民にとっては音楽家という枠を超えて、偉人として愛されています。  ヴェルディは政治活動なども行った作曲家で、福祉活動に着手したこともよく知られています。  1840年代、イタリアの統一運動とともに、ヴェルディの人気は上がっていきました。作品  が、期せずしてイタリア国民の愛国心を煽ったからです。ヴェルディが作曲した「行け、我が  想いよ、金色の翼にのって」という歌曲は、何と今でもイタリア国歌の候補として挙げられて  いると言われているほどで、音楽家を超えたイタリアの英雄です。  また、ヴェルディの「レクイエム」は、モーツァルト、フォーレと並ぶ3大レクイエムの1つ  でもあります。  レクイエム(鎮魂歌)の割にはかなり激しい音楽である点が人気の名曲ですので、是非聴いて  頂きたいです。  ☆代表作☆  <声楽曲>  レクイエム   <オペラ曲> 椿姫  アイーダ  オテロ  トロヴァトーレ  リゴレット  
お薦め!2枚組で1500円 ヴェルディ:オペラ作品集(グラモフォン) 6作品収録

17.ワーグナー  1813〜1883  WAGNER  B  ドイツ

ワーグナーはオペラ専門の作曲家です。深い意味で、オペラに関してワーグナーの右に出るも  のはいないといってもいい存在です。西洋では、クラシックといったらまずオペラがあり、そ  の次に交響曲、協奏曲などがきます。ですが、日本では専門のオペラハウスというものがほと  んどなく、オペラの位置づけが低いです。これは残念なことです。ワーグナーは自分の作品を  上演させるために、何とオペラハウスまで作ってしまった、一大音楽家なのです。クラシック  上級者くらいの方ならば、主にワーグナーの作品が録音されている「バイロイト祝祭歌劇場」  (詳しくはこちらからどうぞ)をご存知の方も多いと思われます。  ワーグナーのオペラ曲は、いずれも難しいです。オペラ上級者が鑑賞するとなると結局はワー  グナーということになるのですが、中には、ストーリーを理解するのでさえ困難な作品もあり  ます。とてもこれからオペラに親しもうという方々の対象ではない点にご注意下さい。  「ニーベルングの指環」など、何と、上演に4日かかる超大作で、全曲盤のCDは10枚を超  えます。よって、オペラ初心者の方は、他の作曲家のもっと分かりやすい作品から鑑賞を始め  て、かなり慣れたらワーグナーに移るのが賢明だと思われます。  また、ワーグナーの場合はいくつかのオペラ作品から序曲などを抜き出した、「管弦楽曲集」  というCDが出ています。オペラの全曲盤のCDは長いですので、まず小曲をたくさん聴いて  から全曲盤に入るという方法がお薦めです。管弦楽曲編でご紹介しています。  ワーグナーのオペラ、というよりも音楽自体、かなり好みが分かれるとよく言われていますの  で、管弦楽曲集で音楽に魅了されたら、早いうちからオペラ作品を鑑賞してみるといった、思  い切った方法も一理あると思われます。そうすれば、かなりの他の作曲家のオペラも抵抗なく  鑑賞できるでしょう。
「ローエングリン」より「婚礼の合唱」
 ☆代表作☆  <オペラ曲> タンホイザー  ローエングリン  さまよえるオランダ人         ニーベルングの指環  トリスタンとイゾルデ  パルジファル
お薦め!2枚組で1500円 ワーグナー:オペラ作品集(グラモフォン) 6作品収録

18.ブルックナー  1824〜1896  BRUCKNER  C  オーストリア

 「ブルックナー?そんな作曲家聞いたこともない」という方がほとんどでしょう。事実、絵が  飾ってある音楽室がどれだけあるのか、記述のある教科書がどれだけあるのか、といったレベ  ルの作曲家でして、クラシックに馴染みのない方にとっては相当マイナーな作曲家であること  は間違いありません。そんなブルックナーがなぜこの厳選された名作曲家列伝の中に入るのか  と言いますと、交響曲第8番、第9番(未完です)は、あらゆる交響曲はなおのこと、あらゆ  るクラシック音楽の中でも最も優れた作品の1つに挙げる人が多いからです。それほどの実力  者なのです。  ブルックナーの音楽は、間違っても初心者向けとは言えません。むしろ初心者の方がブルック  ナーの音楽を聴けば、かえってクラシック音楽自体を嫌いになってしまう恐れがあります。こ  れといった旋律もなく、やたらと長いですので、退屈にしか感じられないでしょう。  ブルックナーの音楽の本質は、悠久な大自然の崇高さと、限りある生命の明滅、時には人間業  を超える自然の怖ろしさ、そして大自然、大宇宙、生命を創造した神に対する真摯な祈りと畏  敬の念などです。これらが音楽から感じ取れればブルックナーが解るようになるでしょう。一  貫して、人間世界とはかけ離れているのがブルックナーの音楽です。敬虔なカトリック信者で  したので、宗教味を帯びた作品があります。  また、いわゆる「ブルックナー指揮者」と呼ばれる指揮者による演奏でないと、途端に音楽が  台無しになってしまうので注意が必要なのです。相性の悪い指揮者の演奏では、苦痛すら感じ  てしまうでしょう。「ブルックナー指揮者」とは、フルトヴェングラーワルターなど、歴史  的に有名であるということとは関係がなく、カラヤンヴァント朝比奈隆シューリヒト、  アーノンクールチェリビダッケジュリーニクナッパーツブッシュ、ヨッフム、ハイティ   ンク、マタチッチらが有名です。  ブルックナー指揮者以外による演奏は、表面が美しいだけで、肝心な寂寥感や自然の素朴さに  乏しかったり、人間味を出してしまって、ブルックナーの一番大切なものを壊してしまったり  しています。それではブルックナーの音楽は理解できないでしょう。  ブルックナーの音楽は難しいです。何を表現したいのかが非常に分かりにくいからです。交響  曲第8番、第9番はあくまで上級者用です。従いまして、あらゆる交響曲の中で、最後に聴く  のがブルックナーだと思って頂いてもいいくらいです。  目安としましては、ブラームスの交響曲全曲や、チャイコフスキーの交響曲第4番〜第6番ま  で、ベートーヴェンの交響曲すべてを抵抗なく聴けるレベルが目安ではないでしょうか。  また、ブルックナーは楽譜を修正する「改定癖」の持ち主で、CDジャケットには「〜版」と  記されていますが、これは楽譜の編集者のことです。同じ作品でも部分的に異なります。  誠に奥が深い作曲家ですので、聴く側にも根気が求められます。  全くもって大衆性のない作曲家ですが、一度その魅力が解れば一生の宝となるでしょう。    ☆代表作☆  <交響曲> 第4番「ロマンティック」 第5番  第7番  第8番  第9番  <声楽曲> テ・デウム

19.ヨハン・シュトラウスU世 1825〜1899 JOHANN STRAUSSU S オーストリア

 この「ヨハン・シュトラウスU世」こそが、巷でよく呼ばれるワルツ・ポルカの「ヨハン・シ  ュトラウス」のことです。父に「ヨハン・シュトラウスT世」をもち、「ワルツ王」と呼ばれ  ます。単に「ヨハン・シュトラウス」と呼ばれることもあります。  ヨハン・シュトラウスU世は、ブラームスと厚い親交があったことが有名です。他にはリスト  やワーグナーとも親交がありました。  「美しき青きドナウ」は「オーストリアの第二の国家」との評価も受けていた曲で、ブラーム  スをして、「残念ながら、ブラームスの曲にあらず」と言わしめたと言われています。  また、ワーグナーは当時指揮者でもありましたが、ヨハン・シュトラウスU世の曲を指揮して、  「自分にこのような軽い音楽が書けないのが残念」と語ったと言いますし、チャイコフスキー  もヨハン・シュトラウスU世の曲を愛した1人で、バレエ「くるみ割り人形」の中の一曲「花  のワルツ」はヨハン・シュトラウスU世の曲の様式に基づいていると言われています。  このように、ヨハン・シュトラウスU世の曲は当時の第一級の作曲家達にも愛され、評価され  ていました。  元旦恒例のウィーン・フィルハーモニーの「ニューイヤー・コンサート」で演奏されるワルツ  ・ポルカはヨハン・シュトラウスU世の作品が多いです。祝祭的な、優雅な雰囲気をもつ曲ば  かりで、ウィーン情緒たっぷりです。
春の声
 ☆代表作☆  <管弦楽曲> 美しき青きドナウ  春の声  ウィーンの森の物語  ピチカート・ポルカ         トリッチ・トラッチ・ポルカ  アンネン・ポルカ  <オペラ曲> こうもり

20.ブラームス  1833〜1897  BRAHMS  A  ドイツ
 
ドイツの「3大B」という言葉がありまして、バッハベートーヴェン、そしてこのブラーム  スのことを指します。同じロマン派の作曲家の大先輩として、ブラームス自身もベートーヴェ  ンを敬愛していましたし、またベートーヴェンの後継者とも呼ばれていました。  ブラームスの交響曲第1番はベートーヴェンの第10番交響曲とも称されているのは有名な話  です(第4楽章に「第九」をモチーフにした部分がありましてよく分かります)。  ブラームスの作風の特徴は「渋さ」でしょうか。自身の言葉に「私の音楽を聴く時はハンカチ  を用意してほしい」というものがありますが、モーツァルトとは大変な違いです。  ブラームスの性格自体、クラシック作曲家でも屈指のネクラに入るのですが、その何とも言え  ない哀愁とロマンティシズムに満ちた旋律の魅力には抗し難いものがあります。また、オーケ  ストラが非常にぶ厚く、重厚感があります。  憂鬱な気分の時にブラームスの音楽を聴けば尚更憂鬱になってしまいかねませんが、芸術的に  は非常に価値が高く、共感する方も非常に多いのは確かです。  その反面、若い方向けではないかもしれません。ブラームスの芸術が少しでも解る頃になれば、  クラシック鑑賞もいよいよ本格的になると言ったところでしょうか。  また、ブラームスは自分が相当納得しないと、その作品は破棄する癖があったのですが、近年  の研究によりますと、実は声楽曲の作曲家としてはクラシック作曲家の中でも筆頭格なのでは  ないかという意見もあるようです。現在では「ドイツ・レクイエム」が有名なくらいなのです  が、いずれ、百を超える声楽曲の作品が公になる可能性もあるそうです。  ☆代表作☆  <交響曲>   第1番  第2番  第3番  第4番  <協奏曲>   ヴァイオリン協奏曲   <管弦楽曲>  ハンガリー舞曲集  <室内楽曲>  ヴァイオリンソナタ第1番〜第3番  弦楽六重奏曲  <声楽曲>   ドイツ・レクイエム

21.バダジェフスカ  1834〜1861  BADARZEWSKA  S  ポーランド
 
 クラシックに興味がない方でも、ピアノを弾いたことがない方でも、おそらくほとんどの方が  聴いたことがあるであろう曲、「乙女の祈り」。一度聴いたら忘れられないくらいの美しい、  まさに乙女チックな旋律が魅力の超有名曲なのですが、この曲の作曲者は?となると、クラシ  ックの上級者でも中々答えられないでしょう。バダジェフスカという、日本語ではちょっと覚  えづらい発音なのもその一因かもしれません。それに、作曲した曲が「乙女の祈り」しか知ら  れていないのも大きな要因でしょう。バダジェフスカ=乙女の祈り です。  バダジェフスカは、ポーランド出身の女性ピアニスト兼作曲家で、生年(1838年説もあり  ます)と没年と、「乙女の祈り」の作曲者であること以外、詳しいことはほとんど判っていま  せん。  この曲は18歳の時に作曲され、パリの音楽雑誌で紹介されたのをきっかけに、世界中で演奏  されるようになった、19世紀最大のヒット曲と言われています。いかにも女性が作曲したよ  うな魅力的な旋律と、現在でも知名度が高いことを考えると、それもうなずけます。  バダジェフスカは何と27歳で夭折してしまいました。乙女の「祈り」とは、結婚願望のこと  で、乙女という名の通り、お嬢さんが演奏するための曲だったようです。   27歳にしてこの世を去ったバダジェフスカ。5人の子供をもうけたとされていますが、「祈  り」は本当に叶えられたのか、それを知る術はありません。
乙女の祈り
 ☆代表作☆  <ピアノ曲>  乙女の祈り

22.サン=サーンス  1835〜1921  SAINT−SAENS  B  フランス
 
 2歳でピアノを弾き、3歳で作曲。10歳でバッハモーツァルトベートーヴェンの演奏会  を開いたという、モーツァルトにも匹敵するほどの神童であったのがサン=サーンスです。  その後はピアニストよりもオルガニストの道を選び、第一級のオルガニストとして活躍しまし  た。作曲家、オルガニストとして活躍する傍ら、才能は多岐に及び、何と詩人、天文学者、数  学者としても一流と評されていました。恐ろしいほどの才人です。  その博識ゆえの嫌みな性格も有名でして、かの大ピアニスト、コルトーに向かって、「へぇ、  君程度でもピアニストになれるの?」と言った話は有名です。同時に、超一流にしか関心がな  かったとも言われていますので、コルトーを超一流と認めていたがゆえの嫌みでしょうか。  サン=サーンスはドビュッシーを代表する同時期の作曲家に対しても、批判がきつかったよう  です。このように書くと、どれほど性格の悪い人間だったのかと思われそうですが、同時期の  作曲家との確執は、音楽観の違いによるものだとされています。ドビュッシーらが、印象主義  という新しい形式の音楽を目指す中で、サン=サーンスは従来からのロマン主義に固執しまし  た。それゆえの対立で、ある意味、従来からの音楽形式から20世紀の新しい音楽形式への転  換という、音楽史の過渡期に生まれた犠牲者であったとも解釈できます。  また、サン=サーンスは古いロマン主義に固執しつつも、作品の中には新しい音楽を目指そう  という意図が表れていまして、ロマン主義という枠の中で、先進的な音楽を目指していたこと  も分かります。  よって、近年になってかなりサン=サーンスの音楽の評価が高まっています。現在では、まだ  それほどポピュラーな作曲家ではありませんが、いずれ「できれば覚えたい作曲家」というカ  テゴリーを脱する日も来るかもしれません。  ☆代表作☆  <交響曲>   第3番「オルガンつき」  <協奏曲>   ヴァイオリン協奏曲第3番  チェロ協奏曲第1番  <管弦楽曲>  動物の謝肉祭  <室内楽曲>  序奏とロンド・カプリチオーソ

23.ビゼー  1838〜1875  BIZET  A  フランス
 
 ビゼーの肖像画も学校の音楽室に飾ってあることが多いです。シューベルトと同じく眼鏡をか   けているので混同する方が多いかもしれませんが、シューベルトという名前は知っているけれ  ども、ビゼーという名前を知っているという方はそれほど多くはないでしょう。  ですが、ビゼーには超有名な「カルメン」というオペラ作品、そして誰もが聴いたことがある  であろう「第1幕への前奏曲」という曲があります。シューベルトの交響曲第8番「未完成」  がいかに名作だとしても、クラシックファンでない限り旋律を思い浮かべるのは厳しいと思わ  れますが、ビゼーには、曲名までは知らなくとも(曲名がカルメンだと思っている方も多いの  ではないでしょうか)、ちょっと聴いただけで誰もがすぐに思い出せる曲があります。  実際、ビゼーの劇音楽は約30種類ありますが、名前が通っているのはオペラの「カルメン」  と劇音楽の「アルルの女」くらいです。交響曲なども作曲してはいるのですが、演奏される機  会はまずありません。  いわゆる「一発屋」の類の作曲家なのですが、誰もが知っている超有名曲を残したということ  で、ビゼー=カルメンはぜひ覚えておきたいです。また、オペラのカルメン自体、非常に分か  りやすいですので、オペラ初心者の入門用には最適なオペラの一つでもあります。  ☆代表作☆  <管弦楽曲>   アルルの女  <オペラ曲>   カルメン

24.チャイコフスキー  1840〜1893  TCHAIKOVSKY  A  ロシア
 
チャイコフスキーはロシアが生んだ最大の作曲家です。クラシック音楽と言いますと、一般に  西洋と旧ソ連を含む地域を指しまして、、アジアなどの音楽は「民族音楽」と称されます。  ロシア生まれのクラシック音楽家は非常に多いです。ロシア人は名前に特徴があるので覚えや  すいのですが、同じ作曲家ではラフマニノフショスタコーヴィチストラヴィンスキーなど  がいまして、演奏家としては、代表として指揮者のムラヴィンスキー、ヴァイオリニストの  イフェッツオイストラフ、ピアニストのリヒテルという、颯爽たる面々です。  チャイコフスキーの作品は、ショスタコーヴィチなどと比べれば世界中に広まり、西洋で人気  を博しました。作風がロシア風というよりも西洋風なのでしょう。  また、「バレエ曲」という、他の作曲家にはあまりないジャンルを確立したという意味でも偉  大な作曲家です。「白鳥の湖」という題名ならば誰もが聴いたことはあるでしょう。  「くるみ割り人形」は、ヨーロッパ各地では年末に演奏される定番曲ともなっています。  チャイコフスキーの作品は何と言っても甘美な旋律が魅力です。どことなくメランコリックで、  哀愁を帯びた甘美な旋律に魅かれるファンは多いです。曲数も多いですので、クラシック作曲  家屈指のメロディーメイカーです。  なお、チャイコフスキーといえば、どうしても「病的な作曲家」というイメージが払拭できま  せん。現在でも、研究が進むほど病的な内面があらわにされています。  代表作である交響曲第6番「悲愴」は、チャイコフスキー自身が最高傑作と自負していますが、  暗く、絶望のうちに幕を閉じます。  初演の数日後に亡くなったため、一時期は自殺説もありましたが、現在では病死説が定説とな  っています。  ☆代表作☆  <交響曲>    第4番  第5番  第6番「悲愴」  <協奏曲>    ヴァイオリン協奏曲  ピアノ協奏曲第1番  <管弦楽曲>   弦楽セレナーデ    <バレエ曲>   白鳥の湖  くるみ割り人形  眠りの森の美女

25.ドヴォルザーク  1841〜1904  DVORAK  A  チェコ
  
ドヴォルザークはあらゆる作曲家の中でも有数の人気を誇り、今で言うチェコ(当時はボヘミ  ア)出身の作曲家です。よって、どちらかというと、西欧よりは民族的、土俗的な曲を作曲す  るのが作風です。  ドヴォルザークは後期ロマン派の作曲家で、当時のチャイコフスキー(ロシア)、グリーグ  (ノルウェー)らのように、スメタナと共にチェコの国民学派(クラシック音楽の主流であっ  た、ドイツ、オーストリア、イタリアなど以外の国で、国民的作曲家と呼ばれた作曲家のこと  です)の作曲家と言われています。  「スラヴ舞曲集」のご紹介のところでも触れていますが、ブラームスに触発されて作曲したこ  の作品によって、ドヴォルザークの名はヨーロッパ中に轟き、成功へのきっかけとなりました。  そしてアメリカに渡り、音楽教育に力を注ぐ傍ら、ネイティヴ・アメリカン(アメリカが母国  のアメリカ人です)の音楽や黒人霊歌などに影響を受けました。  最も有名な作品で、演奏回数も交響曲の中では屈指である、交響曲第9番「新世界より」も、  それらの影響を受けています。よって、都会的な、洗練されたイメージではないのですが、素  朴でどことなく懐かしさを感じさせるメロディーに惹かれるファンの方は多いです。  ドヴォルザークの作品の中では、第9番「新世界より」がとび抜けて有名ですので、ぜひ聴い  て頂きたいです。ほとんどの方は第4楽章の冒頭を聴いたことがあるのではないでしょうか。
(ユーモレスク パールマン演奏)
 ☆代表作☆  <交響曲>    第8番  第9番「新世界より」  <協奏曲>    チェロ協奏曲  <管弦楽曲>   スラヴ舞曲集  弦楽セレナーデ  <室内楽曲>   弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」  ユーモレスク

26.グリーグ  1843〜1907  GRIEG  A  ノルウェー
  
同時期のチャイコフスキードヴォルザークらと同様、グリーグはノルウェーの国民学派(ク  ラシック音楽の主流であった、ドイツ、オーストリア、イタリアなど以外の国で、国民的作曲  家と呼ばれた作曲家のことです)の作曲家でした。一時期は、ノルウェーの紙幣に肖像画が載  っていた程の人気者です。  作風は北欧風で、民族色の強い作品を残しました。北欧のクラシック音楽の、日本にはない独  特の雰囲気に惹かれる方も多いです。  代表作といえば、何といっても教科書にも載っていることが多い「ペールギュント」と、ファ  ンの多い名作「ピアノ協奏曲」です。  また、「北欧のショパン」と呼ばれることもあり、北欧の雰囲気に満ちた抒情小品が魅力的で  す。多くのピアノ曲やヴァイオリン・ソナタなどがそれにあたります。  ☆代表作☆  <協奏曲>     ピアノ協奏曲  <管弦楽曲>    ペールギュント  ホルベルク組曲  抒情小品集   <器楽曲>     抒情小品集(ピアノ、ヴァイオリン)

27.プッチーニ  1858〜1924  PUCCINI  B  イタリア
 
 プッチーニ家は18世紀から宗教音楽の家系でしたが、このプッチーニは同じくイタリアの  ェルディ「アイーダ」の上演に接して感銘を受け、オペラ作曲家を目指しました。そして終  生をオペラの作曲に捧げることとなり、今ではヴェルディ亡き後の、イタリアの最高のオペラ  作曲家の評価を得ています。  プッチーニは第3作目の「マノン・レスコー」が大成功となったのを皮切りに、「ラ・ボエー  ム」「トスカ」「蝶々夫人」という代表作を立て続けに発表し、オペラ作曲家としての地位を  確立させました。とりわけ、「蝶々夫人」は自身の最高傑作であるばかりでなく、イタリア・  オペラの代表作ともされています。  プッチーニの音楽の最大の特徴は、旋律の忘れがたい美しさにあります。時として長いものも  ありますが、女性的で、口ずさみやすく、覚えやすいです。よって、クラシックの初心者の方  やオペラの初心者の方にとっても、親しみやすく、魅力的です。  ☆代表作☆  <オペラ曲>   蝶々夫人   ラ・ボエーム   トスカ             マノン・レスコー   トゥーランドット 
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28.エルガー  1857〜1934  ELGER  A  イギリス
 
「名作曲家列伝」でご紹介している作曲家は主にドイツ・オーストリア系が中心で、そこにイ  タリア系、フランス系、ロシア系、北欧系などが加わっています。これが主なクラシックの作  曲家の地域的区分になります。  ヨーロッパの主な国はほぼ揃った感があるのですが、大英帝国、イギリスの名がありません。  事実、イギリスはヨーロッパの大国であったのにも関わらず、クラシックの主要な作曲家には  恵まれませんでした。そのイギリスの音楽の再興に重要な役割を果たしたのが、エルガーです。  エルガーはクラシックの作曲家の中ではマイナーな部類に入りますが、イギリス音楽において  は英雄視されています。  最も有名な曲は、行進曲としても使われる「威風堂々」第1番ですが、この中間部の旋律は英  国王エドワード七世に気に入られ、その部分だけを歌詞をつけて編曲した作品「戴冠式頌歌」  は、イギリスの第2の国歌として愛されているほどです。イギリスの大きな催しでは必ず演奏  される行進曲です。  また「チェロ協奏曲」も、同じくイギリス出身のチェリストであるデュ・プレの名演によって、  一躍有名曲の仲間入りをした作品です。  最後にご紹介したいのは、ヴァイオリニストならば誰もが一度は弾くといっていいほどの有名  曲「愛の挨拶」です。原曲はピアノ曲で、この曲はその名の通り、エルガーが婚約者のために  作曲した音楽によるラヴレターなのです。今日では弦楽器、管楽器、とにかく様々な楽器のた  めの編曲がなされていますが、ヴァイオリンとピアノによるヴァイオリン・ソナタの形式が最  もポピュラーです。
愛の挨拶(ヴァイオリン版 宮本笑里演奏)
 ☆代表作☆  <協奏曲>   チェロ協奏曲  <管弦楽曲>  「威風堂々」第1番  エニグマ変奏曲    <ピアノ曲>  愛の挨拶(後に様々な管弦楽曲・室内楽曲に編曲)  

29.マーラー  1860〜1911  MAHLER  B  オーストリア
 
マーラーは、本業は当時最高の指揮者でした。副業で作曲もしたのですが、20世紀後半のマ  ーラーブームによって、今では有数の作曲家として知られるようになりました。  指揮者としては、暴君もいいところで、楽員を震え上がらせるほどの存在だったそうです。  残念ながら録音が遺されてはいませんが(マーラーが弾いているとされるピアノ演奏の録音が  ありますが、疑わしいようです)、ワルタークレンペラーという、20世紀を代表する名指  揮者を育てています。とりわけワルターは、晩年のマーラーの唯一の友人とも言える存在でし  た。ワルターは師匠マーラーの演奏家として第一人者となり、現在ではバーンスタインと共に  マーラー指揮者として名高いですが、この3人に共通するのはユダヤ人の血をひいているとい  うことで、両指揮者、特にアメリカ生まれのバーンスタインが大変な共感を持ってマーラーの  作品を演奏できたことに関しては同じユダヤ系であるということがクラシック界の話題にもな  っています。  マーラーの作品はほぼ10の交響曲といくつかの歌曲だけと言えます。マーラーといえば交響  曲の作曲家として有名ですが、歌曲を伴っていまして、特に交響曲「大地の歌」は、交響曲な  のか歌曲なのか今一つ判然としない面はありますが、有名な名作です。  マーラーの作曲のコンセプトはただ一つ、「死への恐怖」です。マーラーは病的に死を恐れま  した。その反動として、現世の美しさに憧れぬきます。傑作の名が高い交響曲第9番など、死  の恐怖にのたうちまわるマーラーの姿があります。この作品はマーラーの作風が顕著に表現さ  れた代表的な作品です。  よって、多分にメランコリックな作品もあるのですが、どうしても陰鬱になりやすく、かなり  好みが分かれる作曲家でもあります。  ☆代表作☆  <交響曲> 第1番「巨人」 第2番「復活」 第4番 第5番 第9番 「大地の歌」  <声楽曲> さすらう若人の歌  子供の不思議な角笛  亡き子をしのぶ歌

30.ドビュッシー  1862〜1918  DEBUSSY  B フランス
 
 ドビュッシーはフランス生まれの作曲家で、あまり世間一般的に馴染みのある曲はないに等し  いのですが、音楽史上においては特筆すべき重要な作曲家です。いささか学問的なご紹介にな  ってしまいますが、ご了承下さい。  ドビュッシーの独特な作曲技法は「印象主義音楽」と呼ばれ、モーツァルトらの古典派の音楽  や、ベートーヴェンらのロマン派の音楽から、20世紀の音楽へと橋渡しを行ったという功績  において、極めて重要な人物です。  初期〜中期の代表作品、例えば「牧神の午後への前奏曲」に見られる全音音階(1オクターブ  において、2度ずつずれた音階を使用することです。ド、レ、ミ、ファ#、ソ#、ラ# か、  ド#、レ#、ファ、ソ、ラ、シの6音階の2パターンしかありません)の技法などは、当時の  西洋音楽としては異色でした。  そして中〜後期の代表作、ピアノ曲では「映像」「子供の領分」「前奏曲」、管弦楽・室内楽  曲では、「交響詩『海』」「夜想曲」に見られる作曲技法は、印象主義音楽、あるいは印象派  と呼ばれています。印象主義音楽というものをごく簡単にご説明しますと、物語の描写のよう  な表現は避け、その時の気分や雰囲気にまかせた、簡潔で明快な様式のことです。  ☆代表作☆   <交響詩>    交響詩「海」  <管弦楽曲>   夜想曲  牧神の午後への前奏曲  <ピアノ曲>   「映像」第1&第2集  子供の領分  前奏曲集 第1&第2巻

31.リヒャルト・シュトラウス  1864〜1949  RICHARD STRAUSS  B  ドイツ
 
 リヒャルト・シュトラウスは、ワルツやポルカで有名なヨハン・シュトラウスと区別するため  か、書籍などでは「R・シュトラウス」と表記されます。クラシックにかなり詳しい方でも、  このリヒャルトとヨハンを混同しやすいのですが、親戚関係は全くありません。  旅先で、「あなたがあの『美しき青きドナウ』ヨハン・シュトラウスU世の曲です)を作曲  された方ですか?」と尋ねられたことも多かったというエピソードも残っているくらいですか  ら、当時の人も区別できなかったようです。  リヒャルト・シュトラウスは、作曲家であると同時に指揮者でもありました。モーツァルトの  大家ベームや、詳しい方ならご存知のセルの師匠でもあります。  当時第1級の指揮者で、自演自作の録音も残っているらしいのですが、なぜか名演と呼ばれる  ものはこれといってありません。  作品は主に、交響詩、オペラ曲、歌曲です。  交響詩とは、リストが創設した標題つきの大規模音楽のことで、1つの楽章しかなく、何曲か  が絶え間なく連続して一気に演奏される形式の作品のことを言います。交響詩でリヒャルト・  シュトラウスの有名な作品と言ったら、やはり「ツァラトゥストラはかく語りき」で、このジ  ャンルにおいては断然の第一人者です。  ワルツやポルカの作曲家ではないので、改めてご注意を、と言いたいところなのですが、オペ  ラも作曲していますので、ワルツも一応作曲してはいます。  本当に紛らわしいのですが、素晴らしい作品を残した人物ですので、是非「リヒャルト・シュ  トラウス」という1人の偉大な作曲家を覚えて頂ければと思います。  ☆代表作☆   <管弦楽曲>   アルプス交響曲  <交響詩>    ツァラトゥストラはかく語りき  ドン・ファン  英雄の生涯  <声楽曲>    4つの最後の歌  <オペラ曲>   ばらの騎士

32.シベリウス  1865〜1957  SIBELIUS  C  フィンランド
 
 シベリウスは北欧フィンランドの作曲家ですので、作品も北欧風です。ですが、同じ北欧の  リーグのように叙情的な作品を作った作曲家かどうかといいますと、全く作風が違います。ド  イツのブルックナーと同じく、孤高の作曲家でしたので、シベリウスの作品の中核をなす交響  曲はいずれも大変難しいです。内省的で、大衆受けを拒否する音楽ですので、作者シベリウス  が何を言いたいのかが分かりにくいのです。  初心者の方がシベリウスの交響曲を聴こうものなら、退屈で仕方なくなってしまうでしょう。  ブルックナー同様、特殊な作曲家なのです。上級者の方向けの作曲家です。  そんなシベリウスの交響曲に親しもうというのならば、演奏者も作品の真実をつかんだ人物を  選ぶ必要があります。ベルグルンドという指揮者で、シベリウスと同じフィンランドの指揮者  です。シベリウスの交響曲以外にめぼしい録音はないものの、シベリウスの指揮者としては第  一人者で、シベリウスの交響曲のCDのほとんどで、ベスト盤と評価されています。  特に内容的にも深い第5番などでは、相性の悪い指揮者の演奏など冗長で聴いていられないで  しょう。他には、バルビローリ、ネーメ・ヤルヴィ、ヴァンスカなども「シベリウス指揮者」  と言えます。  シベリウスの音楽の本質を聴くには、上級者と言えども難しいものがあります。よって、初め  てシベリウスの音楽に接する方は、ヴァイオリン協奏曲から入ることをお薦めしたいです。フ  ィンランディアはシベリウスの曲の中で最も聴きやすいものの1つですが、作曲意図が違いま  すので、シベリウス入門には向いていないと思うのです。ヴァイオリン協奏曲を聴き込んだら、  交響曲第2番、第3番あたりから聴くのがよいと思われます。内容的には第5番あたりが最も  深いと言われています。  ☆代表作☆  <交響曲>  第2番  第3番  第4番  第5番  第6番   <協奏曲>  ヴァイオリン協奏曲  <管弦楽曲> フィンランディア  カレリア組曲

33.ラフマニノフ  1873〜1943  RACHMANINOV  A  ロシア
 
ラフマニノフは、名前から想像がつくように、ロシアの音楽家です。作曲家であると同時に、  当代有名なピアニストでもありました。また、1943年まで生きたということは、指揮者で  例を挙げますと、トスカニーニフルトヴェングラーが活躍していた頃ですので、自作自演の  CDも残されています。  代表作といったら、やはりピアノ協奏曲第2番でしょう。映画に使われたり、フィギュアスケ  ートに使われたりしています。ラフマニノフは、交響曲第1番が酷評されたために、極度の神  経衰弱に陥ってしまいました。精神科医の助けを借りながら作曲したピアノ協奏曲第2番です  が、メランコリックな旋律に満ちていて、ことに有名なピアノ協奏曲の名曲となりました。  また、交響曲第2番の第3楽章の甘美なメロディーにも非常にファンが多いです。  ラフマニノフの音楽はほとんどが短調、しかもニ短調です。ナィーブな神経が、こういった作  品を書かせたのかもしれません。  ☆代表作☆  <交響曲>   第2番  第3番  <協奏曲>   ピアノ協奏曲第2番  ピアノ協奏曲第3番

34.ラヴェル  1875〜1937  RAVEL  A  フランス

フランス印象派を代表する作曲家が、このラヴェルです。自作の「ボレロ」が大変有名な作曲  家ですが、「オーケストレーションの天才」「管弦楽の魔術師」と呼ばれるほど精緻な管弦楽  手法で知られ、有名な編曲作品にムソルグスキーの「展覧会の絵」の管弦楽曲版があります。  同じくフランス印象派を代表するドビュッシーと親交がありましたが、作風は異なり、ラヴェ  ルの場合はモーツァルトグリーグらの影響を受けていると自ら主張していましたし、また一  方でスペイン音楽やアメリカのジャズに加え、アジアの音楽や各地のフォークソングなど、世  界中の音楽の影響を受けていたと言われています。20世紀風の、現代的な作品も多いです。 代表的作品である「ピアノ協奏曲」については、モーツァルト及びサン=サーンスの協奏曲が  そのモデルとして役立ったと語ったと言われています。  そういう意味で、ラヴェルは自分の感性だけを頼りに曲を創作するといったタイプの作曲家だ  けではなく、既に存在する音楽を、より魅力を増させたり、音楽的に巧みな構造に作り変える、  編曲家のような性質も持ったタイプの作曲家であるということができるでしょう。  ☆代表作☆  <協奏曲>   ピアノ協奏曲  <管弦楽曲>  ボレロ    <室内楽曲>  弦楽四重奏曲 ツィガーヌ   <ピアノ曲>  夜のガスパール  水の戯れ  <バレエ曲>  マ・メール・ロワ  ダフニスとクロエ

35.ストラヴィンスキー  1882〜1971  STRAVINSKY  B  ロシア

ストラヴィンスキーは指揮者、ピアニストとしても活躍した、20世紀を代表する作曲家です。  ロシアの芸術プロデューサー、ディアギレフの委嘱を受け、ロシア・バレエ団のために作曲し  た初期の3作品、「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」で知られています。  他に交響曲、協奏曲なども作曲しましたが、何と言ってもこれらのバレエ曲が代表作となって  います。  特に「原始主義」と呼ばれる作風が結実した「春の祭典」は、20世紀の音楽の最高傑作の1  つとも呼ばれている程です。  また、作曲家としては異例で、コロンビア交響楽団を指揮するなどして遺した自作自演のCD  は22枚に及ぶとされています。  更に、来日してNHK交響楽団を指揮した記録も残っています。
火の鳥 自作自演
 ☆代表作☆  <バレエ曲>  火の鳥  ペトルーシュカ  春の祭典

36.ショスタコーヴィチ  1906〜1975  SHOSTAKOVICH  B  ロシア

 1906年に生まれ、1975年に没したショスタコーヴィチは完全に20世紀の作曲家でし  て、旧ソビエト連邦時代の作曲家です。多くのジャンルの曲を作曲しましたが、主に交響曲と  弦楽四重奏曲で知られ、特に交響曲についてはマーラー以降の、室内楽曲の弦楽四重奏曲につ  いてはベートーヴェン以降の最大の作曲家としての評価が確立しています。  ショスタコーヴィチは内心は改革派であったため、初期の作品などは、社会主義を標榜するソ  ビエト当局と対立することがありました。よって、交響曲第5番「革命」以降は、「表向きは  社会主義体制に迎合、内心は改革派」というスタイルを貫かざるを得ませんでした。そのため、  皮肉なことに、西側諸国では、「悲劇の作曲家」ということで演奏の機会も急増しました。  作風はと言いますと、代表作である交響曲第5番「革命」は、前向きで熱狂的なのですが、そ  れ以降作風を変えてしまってから、つまり作品の大半はそうなのですが、恐ろしく暗いものと  なっています。悲劇的な内面を吐露する曲が多く、おそらく暗さでいけばクラシック作曲家で  屈指の存在です。ですが、代表作である弦楽四重奏曲、つまりカルテットの第8番などは、こ  のジャンルの最高傑作とまで評価する人もいるほどです。あまりに暗く、虚無感、人生への苦  悩に満ちた作品ですので、好みに合わない方も当然いらっしゃると思われますが、ベートーヴ  ェンの弦楽四重奏曲に匹敵するとまで言われています。    ☆代表作☆  <交響曲>   第5番「革命」 第7番「レニングラード」  <室内楽曲>  弦楽四重奏曲第8番







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