アバドはフルトヴェングラー、カラヤンに次ぐ、世界最高のオーケストラ、ベルリン・フィル ハーモニーの第5代目の常任指揮者であった。従って、現役の中では知名度では世界一である と言っていいし、今や指揮者界の長老的存在となった。 芸風は「音符主義」まではいかないが、どちらかというと無個性で、音楽性で勝負するタイプ である。従って、ベートーヴェンなどはどうしてもドラマ性に欠けてしまうのだが、他の作曲 家には結構名盤を残している。タイプとしては、カラヤンをややおとなしくした感じ。これで 無個性となると平凡なだけだが、客観主義的ながらカンタービレを効かせた響きの美しさが非 常に心地よく、推薦盤に挙げた演奏は皆、彼の卓越した音楽性によって魅力が増大している。 その点や、無難な演奏である点を考慮すると、初心者にはもってこいの指揮者でもある。 彼は皮肉にもベルリン・フィルと組んでからこれといった名演を残していないので、CDで聴 くにはその前、あるいは後の方が評判は良い。 一時期、高齢による体調不良で指揮台に立つこと自体が無かったこともあり、今後来日の機会 があるかどうかは未定だが、現在は病気から見事に復帰し、自らオケを結成して活動している。 1998年10月、ピリスと共にタワーレコード渋谷店にてサイン会 ☆推薦盤☆ ・ヴェルディ レクイエム/ミラノ・スカラ座管弦楽団(79,80)(グラモフォン)S無 ・ハイドン 交響曲第100番「軍隊」/ヨーロッパ室内0(92)(グラモフォン) A ・ブラームス 交響曲第2番/ベルリンフィル(88)(独グラモフォン) S ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/ベルリンフィル(89)(グラモフォン) A ・マーラー 交響曲第5番/ベルリンフィル(93)(グラモフォン) A ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢&交響曲第4番/ベルリンフィル(95)(SONY)A ・モーツァルト 交響曲第40番&第41番/ロンドン交響楽団(80)(グラモフォン)A ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/ウィーンフィル(94)(グラモフォン) A ・ロッシーニ 「セビリアの理髪師」/ロンドンSO(71)(グラモフォン) SS <柔軟><客観主義><万能型>
現在、世界で最も意欲的に活動している指揮者、あるいは、今後の大活躍が期待される指揮者 の筆頭に挙げられるのがゲルギエフである。 彼はロシアの指揮者であるが、とにかく世界中を飛び回っており、10年間で30枚のCDを 録音したり、サンクトペテルブルク、フィンランド、イスラエル、ロッテルダム、ロンドンで 毎年音楽祭を開催したりしながら、かつベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ボストン交響 楽団などの世界の主要オーケストラと共演しているのであるから、凄いバイタリティである。 もちろん、来日して、日本のオケと共演もしている。毎年来日公演がある。 演奏もやはりバイタリティに満ちており、迫力、力感が凄い。よくこれで体がもつなあと思わ れるほどの指揮ぶりである。 彼は元々劇場の音楽監督を主としてきたので、得意なジャンルはオペラやバレエである。交響 曲も含め、本格的に録音を始めたのは90年代からなので、まさに今後が期待される逸材であ る。従って、彼のCDは今の段階でも評価は高いが、録音が新しく、実績がないだけに、私の 評価としてはランクを下げざるを得なかった。将来的には同曲一番のSS評価の名盤になりそ うなものもある。 彼の迫力ある指揮ぶりを見るのなら、当然だが実演に接するのが1番である。今後も精力的に 来日してくれると思われるので、ぜひ生で観て頂きたいものだ。 ただ、彼は気力で押すタイプなので、気力がのらない時の演奏はさっぱりとか。 ☆推薦盤☆ ・ショスタコーヴィチ 交響曲第7番/キーロフ劇場O他(01)(フィリップス) A ・ストラヴィンスキー 春の祭典/キーロフ劇場管弦楽団(99)(フィリップス) A ・ストラヴィンスキー 火の鳥/キーロフ劇場管弦楽団(95)(フィリップス) A ・チャイコフスキー 眠りの森の美女/キーロフ劇場O(92)(フィリップス) A ・ラフマニノフ 交響曲第2番/キーロフ劇場管弦楽団(93)(グラモフォン) A ・リムスキー=コルサコフ シェエラザード/キーロフ劇場O(01)(フィリップス) S <情熱強><安定性やや劣>
クラシックでは、有名な演奏家が必ずしも名盤を数多く残しているとは限らないし、逆に、世 界的知名度は今一つでも、残した録音が高い評価を得ている演奏家もいる。 デュトワは日本と非常に深い関係がある。彼自身、大の親日家ということもあるのだが、現在、 NHK交響楽団の名誉音楽監督、宮崎国際音楽祭の芸術監督を務めている。以前はN響の常任 指揮者だったこともあって、同楽団を率いて海外ツアーを行ったり、NHKの大河ドラマの音 楽の指揮をしたり、更には「徹子の部屋」に出演することもあった。 このように、身近な存在のため、実力よりも知名度が先行しているデュトワであるが、実は我 々クラシックファンにはお宝物の名盤を数多く残している大変な実力者なのである。 また、現役では最高のフランス音楽の指揮者で、アンセルメ、クリュイタンスの後継とも言え る存在である。 ヨーロッパでは、ウィーン・フィルやベルリン・フィルとよく共演したというタイプではない し、マスコミとあまり関わりを持たなかったため、知名度は今一つであるが、カナダのモント リオール交響楽団の音楽監督を25年間務め、同楽団を世界レベルの楽団に育て上げた。 そして、残した名盤の数々を考えると、まさに「隠れた実力者」と言えるだろう。指揮者とし ての実力は、現在世界最高レベルにあるといっても過言ではない。 そんな彼の演奏を、我々は生で聴けるのであるから、彼が指揮台に立つときはぜひ駆けつけた い。しかし、プレヴィン同様、深刻な交響曲には弱いようだ。 ☆推薦盤☆ ・サン=サーンス 交響曲第3番/モントリオール交響楽団(86)(デッカ) S ・チャイコフスキー 白鳥の湖/モントリオール交響楽団(91)(デッカ) S ・ビゼー「アルルの女」/モントリオール交響楽団(86)(デッカ) A ・フランク 交響曲/モントリオール交響楽団(89)(デッカ) S ・プロコフィエフ 交響曲第1番&第5番/モントリオールSO(88)(デッカ) SS ・ホルスト 惑星/モントリオール交響楽団(86)(デッカ) A ・ムソルグスキー 展覧会の絵/モントリオール交響楽団(85)(デッカ) S <管弦楽曲○><フランス音楽○><親日派>
21世紀だからこそ誕生したとも言える、超新星。南米の、西洋音楽とは縁が遠いベネズエラ の地で、ベルリン・フィルの音楽監督ラトルをして「クラシック音楽の未来はベネズエラにあ る」とまで言わしめた逸材が、なぜ今、世界中の注目を浴びているのか。 ドゥダメルは、1981年生まれ。まだ20代で、指揮者としてはあまりに若すぎるのだが、 17歳でシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYOV)の音楽 監督に就任。2004年に指揮者の国際コンクールで優勝した。 彼にはまだめぼしい名盤はないし、世界的な指揮者でもない。名指揮者と言えるのかどうかも まだ判らない。そのため、デュダメルと表記されることもあるくらいなのだが、彼と、シモン ・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、クラシック界の話題の先端にある。 詳しくは2008年の来日公演について紹介してあるこちらをご覧下さい。 簡潔にまとめると、ベネズエラというクラシックとは縁が遠い国で、青少年の更生のために音 楽教育を取り入れた教育システムが根付き、その最高位にあるのがSBYOVである。このオ ケは25歳までのユース・オーケストラなので、本職の方からすればセミプロ程度にしか思え ないかもしれないのだが、同じ音楽教育を受けたドゥダメルの指揮棒の元、ベートーヴェンや チャイコフスキーのCDを完成し、演奏旅行も行っている。 確かに世界的なオケに比べればアンサンブルの雑さは目立つが、若いオケと指揮者ゆえに、そ の情熱あふれる演奏スタイルは、本場のプロ中のプロの心をも掴んだ。 ベルリン・フィルのメンバーが直接指導にあたったり、前述のラトル、そしてアバドという第 一級の指揮者が指揮台に立ったりということは、いかにドゥダメルとオケに彼らを惹きつける ものがあったかということを如実に示している。 ドゥダメル自身は他のオケを指揮してもいるが、CD化、DVD化されているものは、皆SB YOVとの演奏である。 私が彼のベートーヴェンを聴いた限りでは、現代的な速めのテンポで、リズムはきびきびと刻 まれるスタイルなのだが、所々にテンポを自在に変化させる独特の表現がある。 しかし、まだ20代という、駆け出しもいいところの年代。彼の演奏を評価するにはあまりに も早すぎる。 本当にクラシックの将来を担うことになるのだろうか。これという名盤を早く聴きたい。 ☆推薦盤☆ ・フィエスタ!/SBYOV(グラモフォン) ? ・チャイコフスキー 交響曲第5番/SBYOV(グラモフォン) ? ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」&第7番/SBYOV(グラモフォン) ? ・マーラー 交響曲第5番/SBYOV(グラモフォン) ? ・プロミス・オブ・ミュージック/ドゥダメルのドキュメンタリーDVD ? ・教皇ベネディクト16世 バースデイ・コンサート/SBYOV DVD ? ・ライヴ・フロム・ザルツブルク/SBYOV DVD ?
20世紀後半になって、古楽器による復古的演奏が盛んになってきたのだが、ブリュッヘンは その中でも代表的な指揮者である。たまに現代楽器のオーケストラの指揮をすることもあるが、 CDのレコーディングはすべて古楽器による演奏である。 彼は本来ブロックフレーテ(昔の縦笛フルート)の奏者で(何と、奏者として中学生の音楽の 教科書に載っている)、それだけでは満足できず、指揮者になった。そして「18世紀オーケ ストラ」という少人数の古楽器グループを結成し、毎年一定期間だけ演奏旅行に出かけ、その 際にレコーディングをするのである。 推薦盤を見て頂けばお分かりのように、第一級の名曲がズラリ。彼の演奏の特徴は、古楽器な がらスケールが大きく、重量感のあるところで、ガーディナーやアーノンクールのように、バ ロック音楽の演奏には力を注がない。よって、管弦楽曲等よりは、交響曲にこれだけの名盤を 残している。特にモーツァルトの交響曲においては、現代楽器の演奏を凌いで、同曲ベストの 評価を得ているものもある。 彼の芸風は、現代楽器の指揮者に例えれば、ベームにダイナミズム、躍動感を加えたようなス タイル。アーノンクールのように、奇抜な演奏は決して行わないので、同じ古楽器指揮者でも、 タイプは全く違う。「古楽器の交響曲演奏なんて所詮」とお思いの方は、是非一度彼の演奏に 耳を傾けて頂ければと思う。 おそらく、古楽器演奏の歴史において、最も優れた指揮者の一人になるのでは。 ☆推薦盤☆ ・ハイドン 交響曲第94番「驚愕」/18世紀オーケストラ(92)(デッカ) S ・ハイドン 交響曲第101番「時計」/ 〃 (87)(デッカ) A ・ハイドン 交響曲第101番「時計」/ 〃 (87)(デッカ)SS ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/ 〃 (90)(デッカ) B ・モーツァルト 交響曲第31番「パリ」/ 〃 (85)(デッカ) A ・モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」/ 〃 (85)(デッカ) S ・モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」/ 〃 (88)(デッカ) A ・モーツァルト 交響曲第40番/ 〃 (85)(デッカ) A ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/ 〃 (86)(デッカ) S *ハイドンの交響曲第94番と第101番、モーツァルトの交響曲第40番と第41番は 同じCDです。 <スケール大><重厚><古楽器>
21世紀でも活躍している指揮者達の中で、世界の主要なオーケストラや楽団の常任指揮者を 務めている、いわゆる花形指揮者達は、どうもこれという決定盤を残している指揮者が少ない。 例を挙げると、マゼール、ムーティ、レヴァイン、ドホナーニ、小澤らである。 ベルリン・フィルの常任指揮者だったアバドは名盤は多いが、なぜかベルリン・フィルを振っ たCDにはあまり恵まれていない。 そんな中で、世界的には決して第一線の花形指揮者とは言いがたいのだが、名盤は数多く残し ている実力者がプレヴィンである。特に演出性のある曲を振らせたら超一級品だ。 彼はクラシックの指揮者を務める傍ら、アメリカで映画の音楽監督の仕事もしている。おそら くこの、音楽の演出性に秀でているところが、クラシック演奏にも共通しているのだろう。深 刻な曲よりは、華やかであったり、ロマンティックな曲に適性がある。 彼は、同じく親日派で、管弦楽曲に強いデュトワに似ていて、非常に間違いやすい。 プレヴィンは日本でNHK交響楽団の指揮台にも立っている。もし相性の合いそうな曲を振る のであれば必聴だ。日本にいながら、世界最高の演奏を生で聴けるチャンスである。 また、彼はジャズピアニストとしての一面も持っている。 ☆推薦盤☆ ・エルガー 威風堂々第1番/ロイヤルフィル(85)(フィリップス) A ・オルフ カルミナブラーナ/ウィーンフィル(93)(グラモフォン) A ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー/ピッツバーグSO(84)( 〃 ) S ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/ピッツバーグ交響楽団(80)(フィリップス) S ・チャイコフスキー 白鳥の湖/ロンドン交響楽団(76)(EMI) S ・チャイコフスキー くるみ割り人形/ロイヤルフィル(86)(EMI) SS ・チャイコフスキー 眠れる森の美女/ロンドン交響楽団(74)(EMI) A ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢/VPO&合唱団(85)(フィリップス) SS ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢/ロンドンO&合唱団(76)(EMI) A ・ラフマニノフ 交響曲第2番/ロイヤルフィル(85)(テラーク) S ・R・シュトラウス ツァラトゥストラはかく語りき/VPO(87)(テラーク) S <管弦楽曲○><親日派><作曲>
アバドの後を受けて現在ベルリン・フィルハーモニーの第6代目の常任指揮者、すなわち世界 の指揮者界のトップに立っている指揮者の一人なのが、このサイモン・ラトルである。 まだ50代であり、ベルリン・フィルの常任になってから間もないので、評価は確立されてい ない。前代のアバドは、ベルリン・フィルとはこれといった名演を残せなかったのだが、ラト ルは第4代目のカラヤン、前代のアバドよりはどちらかというと主観の強い指揮者なので、評 論家筋では不安よりも期待の方が大きいようだ。 ベルリン・フィルを率いるとなると、どうしてもレパートリーの広さが求められ、大衆に迎合 する指揮者になってしまいがちである。前代のアバドがまさにその犠牲者とも言える。彼は元 々イタリアの指揮者であったのだが、ベルリン・フィルとコンビを組むことで、ドイツ音楽の 演奏も求められた。得意でないレパートリーも得意でなければならないという立場に置かれた ことで、不評を買ってしまった。ベルリン・フィルの常任になる前に多くの名演を残している のは、いかにも皮肉な話である。 私はラトルの演奏をそれほど聴いたことがないので何ともいえないが、大衆向けというよりは、 自分の思ったように演奏しているように思える。是非彼の個性を発揮して欲しいと思う。 今のところ評判のいいCDというと、マーラーに偏っている。彼の評価が定まるのは、これか らのベルリン・フィルとの録音次第だ。 ☆推薦盤☆ ・ラトル/バーミンガム市交響楽団(97)(EMI) A ・マーラー 交響曲第9番/ウィーンフィル(93)(EMI) B ・マーラー 交響曲「大地の歌」/バーミンガム市交響楽団(95)(EMI) B