名曲案内〜交響曲編W〜

(ブラームス〜プロコフィエフ)



    
  やはりクラシックの華といえば大編成のオーケストラによる交響曲(シンフォニー)でしょう。
  日本のコンサートのプログラムでは常にメインに陣取る大曲ばかりです。
  クラシック鑑賞は、交響曲に始まり交響曲に終わるといってもいいでしょう。 

ブラームス     ・ブルックナー     ・プロコフィエフ


交響曲編T(サン=サーンス〜シューベルト)へ     ・交響曲編U(シューマン〜チャイコフスキー)へ

交響曲編V(ドヴォルザーク〜フランク)へ     ・交響曲編X(ベルリオーズ〜ベートーヴェン<運命>)へ

交響曲編Y(ベートーヴェン<田園>〜<合唱>)へ     ・交響曲編Y(マーラー〜メンデルスゾーン)へ

      ・交響曲編[(モーツァルト〜ラフマニノフ)へ



   
☆ブラームス
作品NO.44 交響曲第1番 ★★ 2021年2月最新更新
 
  ブラームスの芸風は、その渋い旋律とロマンティシズムにありまして、4つの交響曲を書きました。 
 後になるほど音楽は深刻で、暗さを帯びてくるのですが、いずれも名作です。
 とりわけ、この「ブラ1」はブラームスの交響曲の中でも最もポピュラーな作品で、ファンも多いです。
 慎重なブラームスは、構想に、何と20年もかけてこの交響曲を作曲しました。
 ブラ1はブラームス独特の暗さがあまりなく、ベートーヴェンに次ぐ「第10交響曲」とまで言われて
 いまして(第4楽章に、ベートーヴェンの「第九」の「歓喜の歌」のテーマを、ブラームスが意図的に
 引用した部分があります)、情熱とロマンティシズムに満ちた傑作です。第4楽章のフィナーレはベー
 トーヴェンのように勝利の曲となります。
 ブラームスはネクラな性格ですので(詳しくは「作曲家列伝」をご覧下さい)、そういう意味では、ブ
 ラームスの代表的な作品なのにもかかわらず、他のブラームスの作品とは趣が違います。
 ブラームスの交響曲入門用としては、このブラ1かブラ4と言われていますが、「ブラームスの作風」
 を知るには、第4番の方が相応しいと私は思うのです。

全楽章(パーヴォ・ヤルヴィ指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎ミュンシュ/パリ管弦楽団(68)(エラート)                  ▲ガーディナー/レヴォルショネール・エ・ロマンティークO(07)(SDG)S    ○カラヤン/ベルリン・フィル(87)(グラモフォン)           A        ブラ1とベルリオーズの「幻想交響曲」だけはミュンシュの演奏が断然のトップでした。    特に録音が古いわけでもありませんので、ブラ1においてもその雄大なスケールと、いざとい    う時の迫力、情熱が素晴らしく、SS評価を不動のものとしてきました。    ティンパニの強打も非常に効果的で、しかも楽章によっては憂いを帯びた弦の表情も素晴らし    いです。また、フィナーレは最高にドラマティックで、ブラ1はこれ1枚あれば充分という、    古くからの愛好者も多い不滅の名盤、レジェンド盤です。    もちろん、今なおその魅力は色あせていないのですが、21世紀の「定盤」には相応しくない    ということなのか、評価を落としています。    私は、録音が悪ければ別ですが、録音年代が古くてもその価値を考慮してお薦め度◎としまし    た。安心してこの「永遠の名盤」でブラ1を堪能して頂きたいと思います。    2番手には、21世紀の録音で、近年好評を得ているガーディナー盤を挙げました。    古楽器演奏はたとえロマン派の作品であろうと、21世紀になってから20年以上を経た今日    では、むしろオーソドックスというのが時代の流れですが、ブラームス的な重厚さはありませ    んので、すっきりとしたブラ1がお好みの方にはお薦めです。    それに続くのはカラヤンの新盤としました。ベルリン・フィルの機能を活かしきっているよう    で、オケの厚みはミュンシュ盤以上、ロマンティックな歌わせ方はミュンシュ盤にも匹敵する    のではと思われる名演です。

作品NO.45 交響曲第2番 ★★★ 2021年2月最新更新
 
  「ブラ1」に次ぐこの「ブラ2」はまだそれほどブラームス特有の暗さが出てはいない作品です。
 ブラームスの交響曲をすべて聴こうという方は、ブラ2を最後に聴くことになる方も多いです。
 ブラームスの交響曲4作品の中では、「隠れた名作」的な作品です。ブラームスが好きな私個人的にも、
 他の3つの交響曲よりはどうしても地味な印象です。
 構想に20年を費やした「ブラ1」とは対称的に、わずか3ヶ月で書き上げた作品です。
 この作品は「ブラームスの田園交響曲」と呼ばれますように、明るく牧歌的な雰囲気を持っていますが、
 かつブラームスチックな甘美な旋律も随所にみられます。第1楽章の、ヴァイオリンやチェロが奏でる
 哀愁に満ちた旋律を是非下のリンクからお聴き下さい。
 第1楽章は牧歌的かつ詠嘆的な曲で、まさにブラームス的な魅力満載です。第2楽章は、ブラームスの
 内面を吐露するかのような曲で、中間部でのヴァイオリンの痛ましいほどの響きが何とも印象的です。
 第3楽章は非常に牧歌的な曲で、この楽章が「田園交響曲」と呼ばれるゆえんなのでしょうか。
 第4楽章は「ブラ1」と同様、情熱的なフィナーレとなります。
 ブラームスの交響曲4作品の中では最も明るく、美しい自然の中で書いたと言われる作品です。
 ちなみに、「田園交響曲」と呼ばれてはいますが、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」のように、
 田園の風景を描写するような場面はありません。

第1楽章(ハーディング指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎モントゥー/ロンドン交響楽団(62)(デッカ)   紙ジャケット S    ○アバド/ベルリン・フィル(88)(グラモフォン)         S       △ジュリーニ/ウィーン・フィル(91)(グラモフォン)       A    ▲カラヤン/ベルリン・フィル(86)(グラモフォン)        B    ・ヴァント/北ドイツ放送響(95)(RCA)     全集     B    この作品は、ブラームスの芸風である枯淡さ、憂鬱さなどと、純粋に交響曲としての重厚さ、    流麗さなどのどちらを優先するかによって演奏選びも違ってきますので、難しい面があります。    この度の更新によって、19世紀生まれの巨匠、モントゥーの演奏が断然抜けだした評価を得    ていますが、上記の2つの要素を併せ持ってはいながらも、やはり19世紀生まれの巨匠モン    トゥーだけあり、テンポを変えたり、詠嘆的な演奏となっています。その点が再評価されたの    でしょうか。62年の録音ながら、デッカですので音質は良好です。     以前はアバド盤が抜け出していまして、SS評価にしてもいいほどだったのですが、こちらは    正反対とも言えるスタイルで、シンフォニック(交響曲的)で重厚かつ若々しい演奏となって    います。アバドの音楽性が存分に活きた格調高いブラームスで、流麗なことこの上なく、陰鬱    さのない、純音楽的な名演と言えます。    以下の推薦盤も、どちらのスタイルを採るかによると思われます。    ジュリーニ盤は、テンポも緩やかで、詠嘆的な表現で、落ち着いた中でブラームスの音楽を堪    能できるという点では素晴らしいのですが、カップリング、お値段などを考慮しますと、CD    としてはあまりお薦めできない面があります。    カラヤン盤はアバド盤よりも力感に溢れる演奏です。    旋律の歌いは抜群で、かつ力強い演奏となっています。その分、ヴァントのような詠嘆的な要    素には乏しいです。なお、カラヤンのブラ2の録音は他にもありますので、ベルリン・フィル    との86年盤ということでお間違えのないようにお気をつけ下さい。A評価の「ブラ3」との    カップリングと言う点もポイントが高いです。    ヴァント盤は、ブラ2だけの分売は元々なかったのですが、ついに廃盤にまで至ってしまいま    した。推薦盤は国内盤の全集ですが廃盤中で、お値段は高めです。ブラ2の演奏自体ならば個    人的にはお薦め度◎にしたいのですが…。    簡単に特徴を書きますと、スマートさや派手さを排除した、ドイツの老匠ヴァントならではの、    渋〜いブラ2です。常に愁いを帯びていて、詠嘆に満ち、味わい深さでは、アバド、カラヤン    よりも上で、聴くほどに魅力を増す、最もブラームス的な演奏なのではと思っています。

 

作品NO.46 交響曲第3番 ★★★ 2021年2月最新更新
 
  「ブラ3」はブラームスの交響曲4作品の中では後期にあたり、彼独特の「暗さ」が目立ち始めている
 作品です。ロマンティシズムに溢れ、哀愁を帯びた名作です。
 確かに「ブラ1」はベート−ヴェンのように情熱的な作品であるために、ブラームスの交響曲の中でも
 一際ポピュラーなのはうなずけます。暗い曲がお好きでない方にとってはなおさらでしょう。
 けれども、私のようなブラームスファンは、暗いながらも哀愁がたっぷりとこもったこの作品の魅力は
 たまりません。そこがブラームスの音楽の最大の魅力なのではないでしょうか。
 古くから、愛好者の多い作品ではありますが、一方、ブラームスの「明るさ」も随所に見られるという、
 やや複雑な性格の作品となっていますので、作品に何を求めるかが好みの別れどころです。
 第3楽章はこの作品を象徴するかのような甘美な曲で、殊更に哀しく美しいのです。

 
全楽章(バーンスタイン指揮)     第3楽章(フルトヴェングラー指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎カラヤン/ベルリン・フィル(88)(グラモフォン)         A    ・アーノンクール/ベルリン・フィル(97)(テルデック)    全集 A    ・ヴァント/北ドイツ放送交響楽団(95)(RCA)          A    ○フルトヴェングラー/ベルリン・フィル(49)(ワーナー)      A    ▲ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(00)(オンディーヌ) 全集 A        「ブラ3」にはこれというCDがありません。その理由としては、上記のように、聴き手にと    って、この作品に求めるものが異なるからでしょう。その中で◎はカラヤン盤にしました。    カップリングがB評価の「ブラ2」ですし、演奏そのものや録音の質等を考えると、最もお薦    めです。    第1楽章のぶ厚さはさすがにベルリン・フィルと思わされますし、第3楽章の哀愁に満ちたロ    マンティシズムの表現も良好。第4楽章の迫力も素晴らしいです。ただ、ここにご紹介してい    る他の演奏に比べれば、やや表面的な演奏に感じられないこともないかもしれません。    アーノンクール盤は輸入盤の全集ですが、現在は完全廃盤中です。    ヴァント盤は、全集から分売されていたのですが、廃盤中です。いかにもヴァントらしい、老    巨匠風、ドイツ風のブラームスです。「ブラ2」同様、効果を狙わず、哀愁に満ち、頑固なま    でに詠嘆的なスタイルの演奏です。その意味では第4楽章など若々しさやダイナミズムはない    かもしれませんが、ブラームスの深い味わいを醸し出しておりまして、カラヤンの、ややもす    ると勢いに任せた様な演奏を好まない方は絶対にこちらでしょう。廃盤中なのが残念です。    「ブラ2」ではB評価で推薦盤に挙げてある全集も現在廃盤中です。    ブラームスの交響曲4作品において、元々明るい「ブラ1」以外でトップ評価を受けている演    奏はスマートで、「ブラームス的な暗さ」がない演奏となっていることも多いです。つまり、    「ブラームスらしさ」を排除した演奏が高評価を受けている傾向にあります。「ブラームス的    な暗さがない」ということで、純音楽的な完成度の高さが高評価につながっています。    ブラームスファンは、ブラームスの音楽には「ブラームスらしさ」があるからこそ聴きたいと    思うわけですから、やはり好みが対照的になってしまっています…。    フルトヴェングラー盤は、持ち味が存分に発揮    された凄演で、今でも堂々のA評価に値する名盤です。演奏だけをとれば◎にしたいくらいな    のですが、いかんせん音質が悪いです。    内容主義の演奏で、戦慄がほとばしり、猛烈なダイナミズムやうねりと共に迫りくる音楽の畏    ろしさ、ヴァイオリンの痛ましいまでの悲痛な叫び。    全くもって芸術的なスケールは巨大としか言い様がなく、この作品を愛する方には必聴の名盤    で、世紀の大指揮者フルトヴェングラーのベスト演奏の一つとも言われているほどの演奏です。    第3楽章は素晴らしいです。ポルタメントを駆使して弦の表情は常にロマンティシズムの雰囲    気を漂わせながら、音符を一つ一つかみしめながら進行していくかのようです。    上のYOUTUBEへのリンクは、フルトヴェングラー&ベルリン・フィルの演奏ですが、同じ音源    かは分かりません。しかし、映像がこの曲にマッチし過ぎていて、かつ一つ一つに深みがあり、    私には言葉が出ません。「CLASSIC MUSEUM」でリンクしている映像は約250ですが、その中    でも1番と言っていいほどです。世界中のどなたかが編集したものですが、この「第3楽章」    に共感できる方には、これ以上ないと言えるほどの編集となっています。投稿して下さった方    には頭が上がりません。    第4楽章も真価が発揮されています。他の演奏を聴いた後ですと、これほどまでに劇的な解釈    があったのかと、新たな発見すらあり、さすがはフルトヴェングラーと、有無を言わさず納得    させられてしまいます。これが歴史的名盤の神髄というものなのでしょうか。彼は主観主義の    指揮者ですが、ドイツの伝統的な演奏法の継承者でもあります。こういった精神性重視のブラ    ームスは、いつのまにかどこかへ忘れ去られていってしまったのでしょうか。もはや、現役の    指揮者では聴けない演奏ではないでしょうか。それが、録音が古いのにトップ争いをしている    要因でしょう。    カラヤン盤には詠嘆的要素が無く、ヴァント盤は暗く、フルトヴェングラー盤は音質に問題が    ある、という方には1番下のベルグルンド盤をお薦めします。北欧の指揮者ということもある    のか、陰鬱なブラームスを吹き飛ばす、純音楽的に洗練されたブラームスです。  

作品NO.47 交響曲第4番 ★★★ 2021年2月最新更新

  数ある交響曲の中でも、人気はトップクラスの交響曲です。ブラームス特有の暗さに満ちている作品で
 すが、チャイコフスキーの「悲愴」のように深刻な暗さはなく、哀愁の込められた甘美な旋律とロマン
 ティシズムに溢れたブラームスの代表作です。ぜひ下のリンクからお聴き下さい。
 特に、第1楽章の冒頭からの哀感に満ちたヴァイオリンによる第1主題と、チェロによる第2主題は、
 ブラームスファンならずとも惹かれるものがあるのではないでしょうか。
 「ブラ1」よりもブラームスらしい作品で、ブラームスの交響曲を聴き始める方は、まずこの「ブラ
 4」から聴き始めるのもお薦めです。
 古くからトスカニーニムラヴィンスキーなど往年の大指揮者達も揃って録音している有名曲であるた
 め、録音の数は相当数になるようです。

第1楽章(晩年のクライバー指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎カルロス・クライバー/ウィーン・フィル(80)(グラモフォン)  S     ・シャイー/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス(13)(デッカ)    S    〇フルトヴェングラー/ベルリン・フィル(48)(ワーナー)     A    ▲ワルター/コロンビア交響楽団(59)(SONY)         A    S評価でお薦め度◎のクライバー盤は、発売以来ダントツのトップ評価を受けてきた名盤です。    音楽は常に緊張感を保ちながらも、かつ流麗で、クライバーの天才的な音楽性が満喫できます。    深刻になり過ぎず、かといってブラームスの味わいにも欠けていない絶妙なバランスの演奏。    格調も高いです。第1楽章に漂う哀愁、第2楽章、第4楽章での、ブラームス風のナイーブな    表現も抜群。最も完成度の高い演奏、いえ、完璧に近い演奏とも言えるかもしれません。クラ    イバーの代表盤の1枚で、人気抜群のCDです。どちらかと言いますと、詠嘆的な要素よりも、    シンフォニックの要素が強く、今まではお薦め度★のSS評価でした。    私としては、やはりこちらを第一に推薦します。しかし近年、21世紀録音のシャイー盤も評    価を挙げてきました。この演奏も、テンポはやや速めで、伝統的な、詠嘆性の強いブラームス    ではありません。ブラームスの解釈は確実に変わってきています。「ブラームス」という先入    観をもたずに、スコア(総譜)に基づいた「客観的な」音楽解釈が主流になっている1つの例    と言えるのではないでしょうか。残念ながら、国内盤は廃盤中です。    フルトヴェングラー盤は彼ならではの主観的な演奏で、第1楽章冒頭の1音目から、既に伝家     の宝刀、デフォルメが炸裂しています。特に第1楽章、第4楽章に見られる尋常でない興奮度    は、もはやブラームスという音楽を越えて芸術性満点。絶えず音楽からいのちが噴き出してい    ます。ここまでの領域に達すると、フルトヴェングラーだけが創りうる世界で、クライバーだ    けでなく、誰もかなわないでしょう。極めて人間的でドラマチック。これぞフルトヴェングラ    ー、これぞ歴史的演奏の神髄と、まさに頭が下がる思いです。48年という古い録音が、かえ    って凄みを助長させているかのように聴こえますが、鑑賞用としてはギリギリの音質でしょう。    この3つの演奏は、スタイルが違うので甲乙つけがたいです。初めて聴く方には無難にクライ    バー盤をお薦めしたいです。    ワルター盤は陰鬱な表現のない演奏なので、凄みはないですし、ブラームス的でないと嫌う方    がいらっしゃるかもしれません。ブラームスの暗さが苦手な方にはお薦めの、詠嘆に満ちた純    音楽的な名演というスタイルです。    「ブラ4」では、以上の4つの演奏を推薦盤としました。

☆ブルックナー
作品NO.56 交響曲第4番「ロマンティック」 ★★★★ 2021年2月最新更新

 ブルックナーの交響曲の中では、第7番あたりと並んで、最も親しみやすいのが、この第4番とされて
 います。ですが!ブルックナーの音楽を聴いたことのない方が注意しなければならないのは、この交響
 曲もブルックナーの音楽には変わりはないということです。「ロマンティック」という副題は作曲者が
 つけたもので、作曲されたのもロマン派の時代となれば、いかにも勘違いをしてしまうでしょうが、ブ
 ルックナーの交響曲は、ベートーヴェンブラームスらの交響曲とは全く違います。
 「ロマンティック」という名前につられて興味半分でこの作品を聴いてしまったら、訳がわからなくな
 ってしまうこと必至です。上級者の方でも苦痛にしか感じないかもしれません。
 確かにブルックナーの交響曲の入門用にいいとは思いますが、今までのロマン派の交響曲という概念を
 捨てて、「ブルックナー」の交響曲とはどういうものかを知ろうという覚悟で聴く必要があります。
 作曲者自身が、この作品は、中世の騎士が狩に出かけ、大自然に触れることをイメージして聴くのが良
 いと言っているだけに、初めてこの交響曲を聴く方は、ぜひこのイメージを大切に、ブルックナーの音
 楽というものがどういうものなのかを理解して頂ければと思います。「ブル4」を聴いて、ブルックナ
 ーの交響曲に興味を感じたら、次は第8番か第9番でブルックナーの核心に触れて頂きたいです。
 なお、「ブル4」はブルックナーの交響曲の中期の作品とされていますが、他の中期の作品や後期の作
 品とはやや趣が異なります。
 牧歌的、耽美的な要素が強い作品となっています。

全楽章(チェリビダッケ指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎ヴァント/ベルリン・フィル(98)(RCA)              S    ○チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル(88)(ワーナー)         S    ▲ネルソンス/ライプツィヒ・ゲバヴァントハウスO(17)(グラモフォン) A       ブルックナーの交響曲と言ったら、ヴァントの演奏でお決まりというのが、クラシック界の定    説となっていたと言ってもいいくらい、最晩年にベルリン・フィルと録音したブルックナーの    交響曲は、いずれも各交響曲のベスト1級の評価を得ていました。これにより、ヴァントはク    ラシックの歴史上最高のブルックナー指揮者としての名を不動のものとしました。    この第4番でも堂々のS評価。細部の繊細さから強音部分までのバランスは、絶妙の一言で、    90歳を目の前にしたヴァントの神業に頭が下がる思いです。当然で第一のお薦めです。    ハイブリッドSACDもあります。    チェリビダッケは、特に第4楽章が素晴らしいのですが、上級者の方向けという感じがします。    「音を積み重ねていく」ような丁寧な音楽づくりで、まさに「音が自然に発する」印象を受け    ます。上のYOUTUBEで試聴できる演奏は同じ音源ではないようですが、是非ともチェリの音楽    を「心」で聴いて頂きたいです。    3番目としてネルソンス盤を挙げておきましたが、やはり上の2つの演奏どちらかを聴いて、    少しでもブルックナーの音楽の呼吸というものをご理解頂ければと思います。

作品NO.57 交響曲第5番 ★★★★★ 2021年2月最新更新

 ブルックナーの音楽は特殊です。とても初心者の方が聴く音楽ではありませんし、かと言ってよほどの
 クラシック上級者の方でも時間がかかります。また、相性が合わないと駄目です。それは、音楽を聴い
 ているだけでは、作曲者が何を表現したいのかが解りづらいのが原因です。
 「ブルックナーの音楽の本質」については、このページにご紹介してある第8番の方をお読み下さい。
 この第5番は、ブルックナーの9つの交響曲の「中期」にあたる作品ですが、非常に難しい音楽でして、
 ブルックナーを初めて聴く方がこの作品から聴き始めたら、まず挫折するでしょう。挫折するどころか、
 ブルックナー自体、いえ、最悪、クラシック音楽をも嫌いになってしまう可能性があります。その点に
 はくれぐれもご注意下さい。ブルックナーをとにかく聴き込んだ方のみが、この作品を聴く権利を与え
 られるようなもので、聴き込んだ方でさえ、この「ブル5」を理解するのには時間がかかるでしょう。
 第8番、第9番を聴きこんで「ブルックナーの音楽の本質」を理解していることがまず前提となるので
 はないでしょうか。全くもって大衆性のない作品です。
 「ブル5」は重厚、壮大、まるで大伽藍のようで、音による巨大な建造物を彷彿とさせます。まさにブ
 ルックーの世界です。
 いつかこの曲が理解できたのならば、めでたくブルックナーは卒業と言ってもいいでしょう。
 あるいは、まだまだブルックナーを聴きたいという方は、第6番、第3番、第0番(本当にあります)
 〜第2番などいかがでしょうか。

全楽章(何とヴァント指揮!)
 ☆推薦盤☆    ◎ヴァント/ベルリン・フィル(96)(RCA)             S    ○アーノンクール/ウィーン・フィル(02)(RCA)          S    ・ヨッフム/アムステルダム・コンセルト・ヘボウ(64)(デッカ)    A    ▲ヨッフム/ドレスデン国立管弦楽団(80)(ワーナー)         A    ヴァント盤は、このCDによってヴァントがクラシックの歴史上最高のブルックナー指揮者と    して評価され始めたきっかけのCDでもあります。その後ブルックナーの録音をする度に評価    を高めていきました。そんなヴァントのブルックナー録音の中でも一際優れた演奏として名高    い1枚です。現在、国内盤はハイブリッドSACDのみです。    ヴァント自身も、「第5番」と「第7番」をブルックナーの最高傑作と評しています。    上のYOUTUBEで聴ける演奏は、手兵、北ドイツ放送交響楽団とのものですので、お薦めCDと    は音源が違います。    アーノンクール盤は、賛否両論のようです。晩年になって、遂にブルックナーも録音しただけ    に、非常に客観的で、他のどの推薦盤でも聴くことができないものも部分的にはあります。    この作品のファンの方は一度は聴いてみる価値はあります。    2枚組で、2枚目がリハーサルだけというユニークなCDです。    ヨッフム盤には新旧2枚ありまして、旧盤は、ヴァント盤が出る前は「ブル5」のベストCD    とされてきましたが、廃盤中のようですので、新盤を▲としておきました。    ヨッフムはブルックナーが得意な指揮者です。ヴァントの音楽は繊細、丁寧なだけに、それが    人によってはしつこく感じられることがあるようなのですが、重厚でかつ軽快な印象で、開放    感があるのが特徴です。もちろん、「ブル5」でも、細部のデリケートさは失っていません。    時に、「ブル5」でもそうなのですが、あっさりとしていてイマ一つ堪能できない面もありま    す。それがヨッフムの演奏の欠点と言われてもいます。    どうしてもヴァントの演奏に神経質さを感じる方にはヨッフムの演奏がお薦めです。

作品NO.58 交響曲第7番 ★★★★ 2021年2月最新更新

 ブルックナーの交響曲は9曲ありますが、第7番、第8番、第9番は後期の3曲と称されます。第8番、
 第9番がブルックナーの音楽の核心だと言われていますが、第7番は第4番と共に、その2曲よりもと
 っつきやすく、演奏頻度も高いとされています。
 ブルックナーの交響曲を聴くには、まずは第8番から入って頂くのが私はベストだと思いますが、第7
 番の第2楽章は名作で、ブルックナーにあまり親しんでいない方も聴けると思います。この曲は作曲者
 が、かのワーグナーの死の予感のうちに書かれた葬送行進曲ですが、ベートーヴェンの「英雄」の第2
 楽章などとは違い、至って宗教的なブルックナーの世界です。非常に荘厳、美しい祈りに満ちた曲です
 ので、この楽章を聴いて少しでもブルックナーの音楽に共感できた方は、是非とも第8番を聴きこんで
 頂きたいです。
 既に第8番、第9番を聴きこんだ方には、フィナーレ(第4楽章)が今一つ物足りない分、やはり聴き
 所は第2楽章なのではないでしょうか。

第2楽章(カラヤン指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎ヴァント/ベルリン・フィル(99)(RCA)         S    ○カラヤン/ウィーン・フィル(89)(グラモフォン)      A    ▲シューリヒト/ハーグ・フィル(64)(デンオン)       A    △ジュリーニ/ウィーン・フィル(86)(グラモフォン)     A    ヴァント&ベルリン・フィルの一連のブルックナーの録音は、ほぼすべての作品においてベス    トの評価を受けていますが、特にこの第7番の演奏が最高傑作という人は少なくありません。    ヴァントの繊細、細やかなスタイルは、第7番のような作品には相性がピタリと合っていまし    て、神業という他ない演奏です。特に第2楽章の深い瞑想に満ちた表現は特筆すべきだと個人    的にも思います。神への祈りを聴くような演奏です。    カラヤン盤は、少し表面的な美しさに聴こえてしまう面が無いとも言えませんが、崇高な祈り    を美しく奏で、かつ重厚な部分ではブルックナーそのものと言ってもいいほどの宇宙的な拡が    りを見せています。お薦め度○にしました。    音源は違うと思われますが、是非とも上のYOUTUBEからご試聴下さい。    そしてこのCD、何と、膨大な録音を遺したカラヤンの最後の録音でもあり、記録としても価    値があるCDです。    シューリヒト盤はやや速めのテンポですが、そもそもブルックナーの本質を捉えている指揮者    だけに、他の演奏では重たいという方にはもってこいの演奏です。    ジュリーニ盤は、「ブル8」「ブル9」と同じことが当てはまります。ジュリーニの音楽に対    する真摯な姿勢が演奏にも表れていて、第2楽章などは上記2つの演奏にも匹敵するのではな    いかと思われるほどです。

作品NO.59 交響曲第8番 ★★★★ 2021年2月最新更新

 第9番と共に、交響曲だけでなく、あらゆるクラシック音楽の作品の中でも最高傑作の一つとの誉れが
 高い作品です。私自身も交響曲の中でベートーヴェンの「第九」以上の、ベストの作品だと思います。
 しかし、ブルックナーの交響曲は、初心者の方には分かりにくいです。真価が分からないと、これとい
 った旋律もなく、非常に長いですので、ただの苦痛になってしまうでしょう。そうなるとクラシック音
 楽自体が嫌いになる恐れがありますので、初心者の方は手を出さないで下さい!私も初めの頃はブルッ
 クナーが皆目分かりませんでした。これがなぜクラシック作品の中で最高傑作の一つなのか、不思議で
 仕方ありませんでした。しかしある日、突然その真価が分かり、以来ブルックナーの愛好家になってし
 まったのです。
 上級者の方向けですが、さすがの上級者の方でも初めは退屈で仕方ないと思います。ですが、ブルック
 ナーを愛するファンは誰もが通って来た道ですので、いつかその魅力が分かるはずです。あまりにも勿
 体無い話ですので、食わず嫌いだけはやめて欲しいのです。それでも、どうしてもダメという方はブル
 ックナーとは無縁でしょう。誰にでも共感できる音楽ではありませんので、それ以上聴くのは苦痛でし
 かないと思われます。
 ブルックナーの交響曲で一般的に最もポピュラーなのは第4番「ロマンティック」ですが、ブルックナ
 ーの魅力に満ちた、この「ブル8」から入るべきではと私は思っています。
 ブルックナーの交響曲は、作曲者の言いたいことが分かりづらいので難しいです。それに、後述するよ
 うに、ブルックナーと相性のいい指揮者の演奏に巡り合っていないのも原因なのではないでしょうか。
 ブルックナーの本質は、悠久な大自然と、限りある生命の明滅、時には人間業を超える自然の怖ろしさ、
 そして大宇宙や、生命を創造した神に対する崇高な祈りと畏敬の念などです。これらが音楽から感じ取
 れればブルックナーが解るようになるでしょう。一貫して、人間世界とはかけ離れているのがブルック
 ナーの音楽です。
 「ブル8」の第3楽章は言語を絶する音楽美による陶酔的な音楽で、大自然の崇高な美しさに身を浸す
 ことができます。前半部のハープが奏でる部分は、清澄な川の流れ。これだけ陶酔的な音楽は他に例が
 ないでしょう。
 第4楽章、フィナーレもブルックナーの音楽の魅力満点でして、印象的な冒頭からしてまさにブルック
 ナーの世界です。この冒頭は再現部で繰り返されますが、この部分だけでも頭に残るようになれば「ブ
 ル8」への理解はぐっと深まるはずです。そして最後にはアルプスの威容が眼前に立ちはだかります。
 壮大なクライマックスとなります。
 これら第3、第4楽章が「ブル8」の核心ですので、初めて聴く方はこの2つの楽章だけでよいのでは
 ないでしょうか。
 なお、ブルックナーの音楽には人間のドラマは存在しないため、その点を理解している相性のいい指揮
 者でないと、とたんに音楽が壊れてしまいます。作為的な演出をした途端に、大自然の音楽では無くな
 ってしまいます。
 ブルックナーの音楽を感じ取れる指揮者と言いますと、ヴァントカラヤンクナッパーツブッシュ、
 アーノンクールチェリビダッケシューリヒトジュリーニ朝比奈隆、ヨッフム、ハイティンク、
 マタチッチあたりでしょうか。

第3楽章(ヴァント&北ドイツ放送響)  第4楽章(ヴァント&北ドイツ放送響)
 ☆推薦盤☆    ▲カラヤン/ウィーン・フィル(88)(グラモフォン)           SS    ◎ヴァント/ベルリン・フィル(01)(RCA)               A    ・クナッパーツブッシュ/ミュンヘン・フィル(63)(ウェストミンスター)  A    ・アーノンクール/ベルリン・フィル(00)(テルデック)          A    ○チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル(90)(SONY)          A    ・ハイティンク/ウィーン・フィル(95)(デッカ)             A         まず真っ先に推薦したいのは、ヴァントの新盤です。    テンポ設定、弦の表情、金管の素朴さなどが練れ切っていて、ベルリン・フィルの機能もあい    まって、最も完璧に近い演奏なのではないでしょうか。    ヴァントは93年の旧盤では緻密さが目立って息苦しい面もありましたが、この演奏では見事    に吹っ切れています。90歳を目の前にしたヴァントの進化に頭が下がるばかりです。「ブル    8」の演奏に必要な要素をすべて兼ね備えていると思われます。    RCAのヴァント&ベルリン・フィルのブルックナーのCDとしては最後に録音されたもので、    最後の大仕事となりました。ヴァントが残してくれた遺産です。    なお、上のYOUTUBEの映像は、ベルリン・フィルとのものではなく、ヴァントの手兵、北ドイ    ツ放送交響楽団(NDR)とのものです。永年、ドイツ音楽を追究してきた1人の音楽家の姿    がここにあります。是非ご試聴下さい。    カラヤン盤はSS評価ですので、文句なしのトップ評価です。確かに表面の美しさは特筆すべ    き名演なのですが、肝心な寂寥感や侘しさがあまり感じられません。詠嘆的な要素に乏しいで    す。また、作業的な演奏に聴こえ、私は好みません。    その他、クナッパーツブッシュ盤、アーノンクール盤、ハイティンク盤と、廃盤が多いです。    チェリビダッケ盤は、独特な音楽観そのもので、スローテンポによって一音一音を積み重ねて    いくスタイルです。ブルックナーの音楽にはマッチしていると思われますが、極端な遅さに違    和感を感じる方がいるかもしれません。

作品NO.60 交響曲第9番 ★★★★★ 2021年2月最新更新

 第3楽章まで作曲したところでブルックナーが他界してしまいましたので、3楽章しかありません。で
 すが、内容は非常に深く、「ブル8」と共に、あらゆる音楽作品の中でもベストを争う傑作と言われて
 います。
  3楽章しかありませんので、他のブルックナーの交響曲に比べますと演奏時間は短く、CDも1枚で済
 みますが、「ブル8」に比べて宗教的要素が強く、やはりブルックナー入門は「ブル8」からが良いと
 私は思います。
 個人的には、「ブル9」の第1楽章は素晴らしいと思っています。ブルックナーの他の交響曲を含め、
 ブルックナーの魅力が解りやすくかつ聴きやすいという点ではベストの楽章だと思っています。
 ブルックナーを初めて聴く方は第1楽章を何度も繰り返し聴くのも良いと思われます。ブルックナーへ
 の理解がぐっと深まるはずです。ぜひ、下のリンクから前半の7分だけでも聴いてみて下さい。
 一方で、第3楽章のアダージョは「ブル8」に比べると難しいと言えるのではないでしょうか。
 宗教的要素が強く、ブルックナーの奥の院といった趣ですので、じっくりと腰をすえて聴く必要がある
 でしょう。
 なお、下のアーノンクールのCDのご紹介でも触れていますが、ブルックナーは生前に、第4楽章が完
 成しなければ、同じくブルックナー作曲の声楽曲「テ・デウム」を演奏するようにと伝えていたそうで
 す。この「補筆」については現在でも研究が進められていまして、第4楽章は実はほとんど完成してい
 たですとか、諸説があります。それは、この「ブル9」に限らず、他の作品でも、ブルックナーが改訂
 癖(楽譜を複数回書きなおす癖)があったことと関係しています。ここでご紹介している他の交響曲で
 も、ほぼすべてのCDに「○○版」と記されていまして、楽譜が部分的に異なっています。このサイト
 ではあえてそこまでは触れておりませんので、ご興味のある方はこちらを参照なさって下さい。

第1楽章前半(ヴァント&BPO おそらくCDと同じ音源です)
 ☆推薦盤☆    ◎アーノンクール/ウィーン・フィル(02)(RCA)       S    ○ヴァント/ベルリン・フィル(98)(RCA)          S    ▲シューリヒト/ウィーン・フィル(61)(ワ−ナー)       A    △チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル(95)(ワ−ナー)     A    △ジュリーニ/ウィーン・フィル(88)(グラモフォン)      A    アーノンクールヴァントというS評価の2つの演奏が本当に素晴らしいです。この作品の方    が「ブル8」よりも宗教的な要素が強いと思われますが、完璧なまでに表現されています。    アーノンクールのCDは2枚組で、演奏自体はヴァントと全く甲乙つけがたいのですが、この    CDは、現在「断片」と言われているものを集め、2枚組の1枚目に、アーノンクール本人の    解説付きの第4楽章の断片の演奏が収録されている点が特徴です。詳しくは上をご参照頂きた    いのですが、さすがアーノンクールと言える大胆な試みで、演奏記録として価値があると思わ    れます。その点を考慮し、こちらをお薦め度◎としました。なお、ラトルらも第4楽章を録音    しています。    今後の録音では、第4楽章の問題は避けて通れないと思われます。    ヴァントは緻密な音楽を創り出しますが、それが作品との相性と絡んで、独特なヴァントの世    界を形成しています。神のお告げ、神への祈りを聴く演奏と言ってもいいほどです。    上のYOUTUBEへのリンクは、おそらく同じ音源です。    シューリヒト盤は、ヴァント盤が出る前、「ブル9」のベスト盤として君臨してきました。    この演奏の良さは、テンポが速めで、気軽に聴けながらも、ブルックナーの本質をしっかりと    捉えている点です。楽器の素朴な音色はブルックナーそのもので、アーノンクールやヴァント    の演奏以上にブルックナーが解りやすいかもしれません。初めてこの作品を聴く方は、この演    奏から入るのもお薦めです。ですが、スケールが小さく、ブルックナーを聴きこんだ方には、    その点がいかにも物足りなく、淡白に聴こえてしまうかもしれません。    チェリビダッケ盤、ジュリーニ盤はテンポが遅いですので、その点では正反対の演奏とも言え    ます。チェリビダッケ盤は、リハーサルが収録されていますので2枚組です。壮大なスケール    の音楽を緩やかに奏で、心の底から身を浸すことが出来ますし、チェリの最晩年の音楽観がよ    く表れている演奏です。その意味では、この作品を聴きこんだ方向けかもしれません。    ジュリーニ盤は、第1楽章は極端なスローテンポで、極大なスケールを生み出しています。    異常なほどの遅さかもしれません。第3楽章はジュリーニの、真摯に楽譜と向き合う姿勢が表    れていまして、いかにもジュリーニの音楽という印象を受けます。

☆プロコフィエフ
作品NO.153 交響曲第1番「古典交響曲」 ★★ 2016年8月最新更新

 プロコフィエフという作曲家は1953年没の20世紀のロシアの作曲家です。交響曲というよりは、
 協奏曲や管弦楽曲で、CDやコンサートのプログラムなどでたまに見かける名前です。
 よって、初心者の方がこの作品を進んで聴こうとは思われないのではないでしょうか。もっと有名な作
 曲家は山ほどいますし、有名な交響曲も山ほどあります。私個人的にも、かなりクラシックを聴き込む
 まで、この作曲家の作品を聴こうという気すら起きませんでした。
 しかし、プロコフィエフの交響曲の中で最も有名なこの「交響曲第1番」は、初心者の方にも是非お薦
 めしたい作品です。
 と言いますのは、何と、長い楽章でもせいぜい4分少々で、音楽自体も大変優雅で、まるでバレエ曲の
 ような美しい旋律に耳を傾けていると、あっという間に1つの楽章が終わってしまいます。つまり、と
 ても聴きやすく、親しみやすい作品なのです。
 私も初めてこの作品を聴いてみて、「こんなに初心者向けの交響曲がまだあったのか」と驚きました。
 副題の「古典交響曲」というのは、ハイドンの形式、つまり古典派の交響曲様式に基づいて作曲したと
 いう意味でして、この交響曲が作曲されたのは1917年、ロシア革命の起きた年なのですが、現代に
 おける古典様式の交響曲を作ろうという意図によるものです。確かにハイドン並みに短く、聴きやすい
 です。
 しかし、クラシック上級者の方にはどうでしょう。旋律が優雅なので当然一度は聴いて頂きたい曲では
 ありますが、ロマン派の交響曲ように深みのある交響曲ではないので、飽きがきやすいかもしれません。

第1楽章
 ☆推薦盤☆    ・デュトワ/モントリオール交響楽団(88)(デッカ)       SS    ・ゲルギエフ/ロンドン交響楽団(04)(デッカ)          A   ◎プレヴィン/ロスアンジェルス・フィル(86)(デッカ)      A    ○アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団(86)(グラモフォン)      B      デュトワ盤がまさにダントツのSS評価ですが、長らく謎の廃盤中のままです。    ゲルギエフ盤も同じく廃盤中です。共に輸入盤もなく、完全廃盤中です。    プレヴィン盤はデュトワ盤と同じくカップリングは第5番で。お安いです。このCDを◎とし    ました。    アバド盤は、2枚組なのに1500円とお安いシリーズのものです。プロコフィエフの他の作    品も聴けますが、特筆すべきは、超SS評価の、アルゲリッチとのコンビによる、同作曲家の    ピアノ協奏曲第3番が入っていることです。その意味ではこちらのCDの方がお薦めかもしれ    ません。           <更新のポイント> お薦めCDが完全廃盤中のため、変更しました。              推薦盤自体は変わっていません。


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