紹介ピアニスト一覧





 
1.アシュケナージ  1937〜  ASHKENAZY  S  ロシア

アシュケナージは現役の音楽家の中でも屈指の知名度を誇っています。  本業はピアニストだったのですが、高齢のためか、現在では指揮者として活動しています。こ  のまま指揮者が本業となってしまうのかもしれません。  プレヴィンの後を受け、2007年8月までNHK交響楽団の音楽監督を務め、桂冠指揮者の  名を与えられるほど、日本との結びつきが強いです。N響の指揮をしている姿を目にしたこと  のある方は多いのではないでしょうか。ですが、指揮者としては全くといっていいほど名盤を  残してはおらず、実力よりも名前の方がはるかに先行している感があります。  ピアニストとしては、レパートリーが凄まじく多く、バッハからショスタコーヴィチまでほと  んどの作曲家の作品を網羅し、膨大な録音、多くの名盤を残していますし、ショパンにおいて  はほぼすべての作品を録音しています。  ところが、これぞベスト盤と言えるほどの決定的な名盤はないのが特徴でもあります。  と言いますのも、確かに音色は美しく、テクニックもあるのですが、音楽解釈については特に  個性や凄みがある訳ではなく、ハメを外さない優等生で、悪く言えば、無難と平凡が紙一重と  いう印象があるからでしょう。  ポリーニアルゲリッチなど現役の一線級のピアニストが弾かないマイナーな作品まで録音が  あるため、世界的なアシュケナージの演奏を聴けることはありがたいのですが、同じ土俵で戦  った場合今一歩歯が立たないのは、器用貧乏ということなのでしょうか。もちろん、いい意味  ではハズレが少ないピアニストです。  今後ピアニストとしての録音はあるのでしょうか。そして、今後どのような道を進むのでしょ  うか。いずれにしましても、現在、クラシック音楽界の重鎮とも言える存在です。
ショパン「練習曲」作品10−1
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 ☆推薦盤☆  ・ショパン 練習曲集/(71、72、81、82)(デッカ)           A ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/プレヴィン(75)(デッカ)       A  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番/ハイティンク(84)(デッカ)       A  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番/ハイティンク(85)(デッカ)       A   <美音><技巧派><超万能型> 
2.アルゲリッチ  1941〜  ARGERICH  S  アルゼンチン
 
 一般に、女性のピアニストは男性のような豪快さよりも、繊細さ、柔和さで魅力的な演奏をす  ると言えるのですが、ここにご紹介するアルゲリッチは正反対で、男性顔負けの豪快な演奏を  するタイプのピアニストです。  アルゲリッチはまだ現役の女性ピアニストで、天才肌のピアニストとしても知られます。いえ、  天才そのものと評する人も多いです。  現役ながら、既に細かくご紹介しきれないほどの名盤がズラリと並んでいます。レパートリー  は広く、特にお得意の作曲家はないのですが、推薦盤にはほとんどSS評価の演奏ばかり。ど  れも、その他の演奏を圧倒して断然の評価を得ているものばかりです。ここにはその一部しか  挙げてありませんが、レパートリーはほとんどS〜SS評価です。既に歴代最高の名盤制作ピ  アニストと言ってもいいほどです。  アルゲリッチは即興の鬼です。天才ゆえに気分次第の面はあるのですが、気分がのったときは  凄まじいです。ダイナミズムの極と言いますか、まさに鬼気迫る凄演を展開します。  それゆえ、協奏曲では時に、指揮者に喧嘩をうるほどの壮絶な演奏を聴かせます。  天才ならではのリアリズムの極みです。とても女性とは思えない気迫に満ちたタッチのピアニ  ストですので、どちらかと言いますと協奏曲に適性があると言えるのではないでしょうか。伴  奏のオーケストラをも喰ってしまうくらいの凄味があります。   アルゲリッチも齢70代ですが、まだまだ頑張って欲しいです。
ショパン「ピアノ協奏曲第1番」
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/クレーメル(Xn)他(85)(デッカ)    SS  ・シューマン 子供の情景/(83)(グラモフォン)               A  ・ショパン ピアノ協奏曲第1番/アバド(68)(グラモフォン)        SS  ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/ロストロポーヴィチ(78)(グラモフォン)   A  ・ショパン 前奏曲全曲/(75、77)(グラモフォン)             S  ・ショパン ピアノソナタ第2番「葬送」/(74)(グラモフォン)       SS  ・チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番/アバド(94)(グラモフォン)     S  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/アバド(04)(グラモフォン)      A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/アバド(13)(グラモフォン)      S  ・リスト ピアノ協奏曲第1番/アバド(68)(グラモフォン)         SS  ・リスト ピアノソナタ/(71)(グラモフォン)                A  ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/アバド(67)(グラモフォン)     SS  ・ラヴェル 夜のガスパール/(74)(グラモフォン)             SS  *ショパンとリストのピアノ協奏曲は同じCDです。   <即興派><情熱><協奏曲○><レパートリー広>
3.キーシン  1971〜  KISSIN  B  ロシア

 1971年生まれですので、まだピアニストとしては「若手」の方に入る年代ではありますが、  もっと若い頃から、将来楽壇を担うのではないかという期待の声もあるほどの逸材でした。  名盤をどんどん輩出するのではという期待を背負っていまして、現時点ではまずまずといった  ところでしょうか。  大きなコンクールの受賞歴があるタイプのピアニストではありません。  また、特に、強い個性や天才的な閃きのあるタイプではなく、テクニックと音楽性で勝負する  タイプです。それだけに、晩成型だとしたら、これからも名演奏をどんどん世に送り出す可能  性は充分にあります。  ですので、「エフゲニー・キーシン」という名前はぜひ覚えておいて頂きたいところです。  今後に期待、といったところです。
ショパン「英雄ポロネーズ」
 ☆推薦盤☆  ・ショパン 前奏曲集/(99)(RCA)                   A  ・ショパン 即興曲集/(04)(RCA)                   A  ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/アバド(83)(グラモフォン)     A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵/(01)(RCA)               A     <技巧派>
4.ギレリス  1916〜1985  GILELS  S  ロシア

 「鋼鉄の腕を持つ」と称されたギレリス。これは打鍵の強さや強靭な技巧の錬磨を表現したも  のです。ロシア生まれのピアニストで、「ロシア楽派」の本流を歩んだ人でした。  よって、演奏は打鍵の強さによる、力強く、厚みのあるスタイルでした。  本領は晩年に発揮されます。若々しさがなくなり、円みを帯びていきましたが、円熟期に入っ  て表現に深みを増していきました。70年代から80年代にかけての、ベートーヴェン演奏は、  ベートーヴェンの大家バックハウスと並び最高の評価を得ました。  今やCDの評価は断然と言っても良く、ベートーヴェンのピアノ・ソナタは、ギレリスのCD  を選べばまず間違いはないというくらい高い評価を得ています。  ここでのギレリスの演奏は、従来からの強靭なタッチに加え、強弱のバランスが大きく、誠に  華やかなベートーヴェンで、バックハウスとは対照的なスタイルです。  よく言われることですが、ギレリスはベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音を完成させる  ことなく亡くなってしまいました。ですが、3大ピアノ・ソナタや「田園」「テンペスト」  「ワルトシュタイン」などの有名曲の録音を遺してくれたのは不幸中の幸いです。
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第8番『悲愴』」全曲
 ☆推薦盤☆  ・ブラームス ピアノ協奏曲第1番/ヨッフム(72)(グラモフォン)       S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」/(80)(グラモフォン)    SS  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第14番「月光」/(80)(グラモフォン)    A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第23番「熱情」/(73)(グラモフォン)   SS  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番「テンペスト」/(81)(グラモフォン) S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」/(72)( 〃 )SS     *ベートーヴェンの「悲愴」と「月光」と「熱情」は同じCDです。  *ベートーヴェンの「テンペスト」と「ワルトシュタイン」は同じCDです。   <タッチ強><華やか>
5.ギーゼキング  1895〜1956  GIESEKING  B  ドイツ

 世界的なピアニストともなると、練習はどのように行っているかお考えになったことがあるで  しょうか?ここでご紹介しているミケランジェリなどは完璧主義で神経質な性格でしたので、  自分の納得のいかない一小節を、一日中練習していたこともあると言われています。  ギーゼキングは全く逆の極端なパターンで、ひたすら楽譜を読み続け、演奏のイメージを頭の  中で構築することが日課になっていたと言われています。自ら意識してピアノを弾く練習をし  たことがなかったそうです。もちろん、それを支えていたのは驚異的な記憶力があったからな  わけでして、初見(初めて楽譜を見てその場で弾くこと)の達人でもありました。  今日、ギーゼキングの得意なレパートリーとしてはドビュッシーモーツァルトラヴェルと  されていますが、世界で初めて「ピアノのために書かれた作品を全て演奏できる」という特技  をトレードマークにしました。完璧なまでの作品の記憶力、洞察力は同時期のピアニストの中  でも卓越したものを持っていましたので、今や伝説化されたピアニストの一人です。  残念なことに、録音はすべてモノーラル録音です。そこへきて、国内盤の廃盤も多いですので、  なかなか演奏に接する機会がありません。いずれ音質の向上や、CD化が進めば、もっと評価  されていいピアニストです。
モーツァルト「ピアノ・ソナタ第11番『トルコ行進曲つき』
 ☆推薦盤☆  ・ドビュッシー 「映像」第1&第2集/(53)(EMI)            A  ・ドビュッシー 前奏曲集 第1&第2巻/(53、54)(ワーナー)       A  ・ドビュッシー 子供の領分/(53、54)(ワーナー)             A  ・モーツァルト ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」/(53)(ワーナー) A   <イメージ派><ドビュッシー○><モーツァルト○>
6.グルダ  1930〜2000  GULDA  A  オーストリア

 グルダはバッハモーツァルトベートーヴェンを得意としました。推薦盤を御覧頂くと、ベ  ートーヴェンとモーツァルトのピアノ協奏曲がズラリ並んでいます。特にモーツァルトにおい  てはグルダが一番だと言ってもいいほどです。かなり得意なジャンルが偏ってはいますが、そ  の分野においては真のスペシャリストで、世界一といっても過言ではありません。モーツァル  トのピアノ協奏曲を聴きたかったら、グルダの演奏を聴けばいいのです。グルダのモーツァル  トはまさにチャーミングの粋。まるで作品を可愛がっているかのようです。ぜひ下のYOUTUBE  へのリンクから演奏姿もご覧下さい。  グルダは70年代に、何とジャズの演奏家に転向しようとしたのですが、周囲の反対にあって  あきらめ、クラシックとジャズの両立の道を選びました。  その点については様々な見解がなされていますが、バッハのような古い音楽も弾くしラヴェル  やドビュッシーのような新しい作曲家の曲も弾きました。その意味では、古い音楽と新しい音  楽の融合を目指した、先進的な考えをもったピアニストだということができるのではないでし  ょうか。  グルダが真に愛した作曲家はやはりモーツァルトで、弟子のアルゲリッチは「先生のモーツァ  ルトがある限り私は弾かない」と語ったというエピソードがあります。
モーツァルト「ピアノ・ソナタ第20番」第2楽章
 ☆推薦盤☆  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/シュタイン(70)(デッカ)        S  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/シュタイン(70)(デッカ)    S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」/(67)(デッカ)         A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/アバド(74)(グラモフォン)       S  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/アバド(74)(グラモフォン)      SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/アーノンクール(83)(テルデック)   SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」/アーノンクール(83)( 〃 )SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/アバド(75)(グラモフォン)       S       <モーツァルト◎><協奏曲◎>
7.グールド  1932〜1982  GOULD  A(バッハファンはS)  カナダ

 演奏中の手振りやうなり声、更には曲に合わせてハミングしたものが録音にも残されているな  どのパフォーマンスで有名なピアニスト、グールド。  グールドは不思議なピアニストで、最も脂ののりきった頃である1964年を境に、ステージ  での演奏活動を止めてしまいました。そしてその後は録音活動のみとなってしまったのです。  これは極めて珍しいケースです。  よって、実演での実力はあまり知られるところではなくなってしまいました。録音でしか知る  ことができなくなったのです。  グールド曰く、曲を演奏するのに、聴衆の咳払いや拍手は不要なだけであり、それを排除する  ために録音に専念することにしたのだとのことです。  グールドと言えば、何を差し置いてもバッハです。バッハのクラヴィーア曲(鍵盤楽器曲)は  グールドのピアノ演奏を選べばまず間違いはない、と言いますか、すべてグールドが、ダント  ツで最高の評価を得ているという、バッハの大家なのです。バッハの作品が現在ほどの一般性  をもったのもグールドの功績によるところが大きいとも言われています。  バッハを聴くならとにかくグールドなのです。
バッハ「フーガの技法」 ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第17番『テンペスト』」第3楽章
 ☆推薦盤☆  ・バッハ ピアノ(チェンバロ)協奏曲集/バーンスタイン他(57〜69)     A  ・バッハ イギリス組曲/(71〜76)(SONY)              SS  ・バッハ ゴルトベルク変奏曲/(81)(SONY)              SS      <バッハ◎>
8.ケンプ  1895〜1991  KEMPFF  A  ドイツ

 ドイツに生まれたケンプは、やはりドイツの作曲家、バッハベートーヴェンブラームスな  どを主なレパートリーとし、詩的感興に溢れた明晰な演奏が高く評価された、20世紀を代表  する名ピアニストです。演奏もそうですが、1960年にシューベルトのピアノソナタ全曲を  録音し、それまであまり知られていなかった作品を一般に広めた功績も高く評価されています。  また、ベートーヴェンにおいては、ピアノ協奏曲、ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、チェ  ロソナタに全集を残しているという功績も大きいです。  しかし本来は完全な実演派のピアニストでして、好調の時には奇跡的な名演を聴かせたと言わ  れています。よって、録音ではあまり本領が伺えないようです。  ケンプは同じベートーヴェンの大家であるバックハウスと比較されました。聴衆へのサービス  精神が旺盛でしたので、逆に、芸術家として厳しく、大衆に媚びないバックハウスに対して、  「腕ではバックハウス、サービス心ではケンプ」と言われ、日本ではケンプの方が人気があり  ました。  
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第14番『月光』」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           シェリング(Vn)フルニエ(Vc)(70)(グラモフォン)  A  ・ベートーヴェン チェロ・ソナタ全集/フルニエ(Vc)(65)(グラモフォン) A   <ロマンティック><実演派><伴奏派>
9.コルトー  1877〜1962  CORTOT S  スイス
 
 「20世紀で最高のピアニストは?」という質問には多くの回答がありそうですが、「音楽史  において、20世紀最大のピアニストは?」という質問の回答としては、コルトーが最有力候  補の1人であるのは間違いないほどの「レジェンド」です。 コルトーはショパンシューマンを語る上で欠かせない存在であるとともに、リパッティ   スキルらを門下にもつ、20世紀の大巨匠ピアニストです。「ピアノの詩人」と呼ばれた自ら  の演奏と共に、後世に与えた影響も計り知れません。  コルトーはショパンとシューマンの大家、と言いますか、ほとんどこの二人の作曲家がメイン  でした。ステレオ時代まで生きたのですが、晩年はテクニックの衰えが激しく、現在お薦めで  きる名盤となりますと、音質の悪い録音しかありません。新しい録音が増えるに従って名盤の  評価が下がる一方であるのは残念ですが、歴史的名盤としての価値は永遠に色あせることはな  いでしょう。  特に、現代のピアニストのショパンしか聴いたことのない方には、是非ともコルトーの演奏を  聴いて頂きたいと思います。曲を演奏するという行為が、単に指の運動の結果だとしたら、コ  ルトーはとても現代のピアニストはおろか、アマチュアにでさえ及ばないかもしれませんが、  演奏行為というものがどういうものであるのか、あるいは、なぜ「ピアノの詩人」と呼ばれて  いたのかが解り、クラシック音楽の聴き方の幅が拡がるはずです。
ショパン「練習曲」作品10−3「別れの曲」
 ☆推薦盤☆  ・ショパン 前奏曲集/(33、34)(EMI)                 A  ・ショパン 即興曲集/(33)(EMI)                    A  ・ショパン 練習曲集/(33、34、49)(ワーナー)           B↑A  ・ショパン ワルツ集/(34)(EMI)                    A  ・ショパン バラード/(33)(EMI)                    B  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           ティボー(Vn)カザルス(Vc)(28)(ワーナー)     S  <ロマンティック><芸術主義><テクニック劣><レパートリー狭> 
10.ツィメルマン  1956〜  ZIMERMAN  S  ポーランド

 「ZIMERMAN」は、「ツィマーマン」と表記されることも多いのですが、当サイトでは  ドイツ語読みの「ツィメルマン」で一貫しています。  ツィメルマンは20世紀後半になって全盛期を迎え、演奏が次々と高評価を受け、現在も旬、  ピアニスト界の最高峰に君臨しています。ちなみに、ツィマーマン(ツィンマーマン)という  女性ヴァイオリニストもいますので、ご注意下さい。ピアニストなのは、クリスティアン・ツ  ィマーマン(ツィメルマン)です。  ショパン・コンクール優勝者として華々しいデビューを飾り、カラヤンバーンスタインなど  に絶賛されたほどの素質をもっています。強靭なタッチ、音の強弱の絶妙さ、色彩感のある音  色などが持ち味ですが、何と言っても非常に個性の強いピアニストで、主観的なピアニストで  あるのが特徴です。  いわゆるデフォルメというほどではありませんが、かなり個性的な演奏が随所に見られますし、  「ナルシスト」というのが代名詞になっているくらい、甘美なメロディーなどには独特の世界  があります。「ツィメルマン」の世界です。  今までに充分な名演を残してはいますが、まだまだ若いですので、今後の録音、演奏からは目  を離せません。  また、ほぼ毎年来日公演がありますので、実演に接して頂きたいですね。
ショパン「バラード」全曲
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト 即興曲集/(90)(グラモフォン)            A  ・ショパン ピアノ協奏曲第1番/弾き振り(99)(グラモフォン)     A  ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/弾き振り(99)(グラモフォン)     S  ・ショパン バラード/(87)(グラモフォン)              A  ・ドビュッシー 前奏曲集 第1&第2/(91)(グラモフォン)      A   <主観主義><ナルシスト>
11.ハスキル  1895〜1960  HASKIL  A  ルーマニア

 女性で世界的な演奏家になると、結婚して女性としての道を選ぶか、ひたすら音楽の道を選ぶ  かが非常に難しいです。もちろん、大部分の女性は結婚し、母親としても演奏活動を続けては  いますが、アルゲリッチのように何度も離婚を重ねているケースもあります。妻、母親として  の道を選ぶと、どうしても音楽活動に影響してしまうのでしょう。  クララ・ハスキルは、20世紀に活躍した女性ピアニストの代表格ですが、あえて生涯結婚を  せず、音楽に身を捧げることを選択しました。その献身ぶりに、信奉する女性ファンが多いと  言われています。  ハスキルは当代随一のモーツァルト弾きでした。ここでよく考えてみますと、同じくここでご  紹介しているピリスもモーツァルト弾きですし、日本が世界に誇る内田光子もモーツァルト弾  きのピアニストです。  そうしますと、女性ピアニストとモーツァルトというのは何か関係があるのでしょうか。繊細  な音楽ですので、女性ピアニストに合っているということなのでしょうか。  ハスキルは、ソロとしても活躍しましたが、室内楽でヴァイオリンなどの伴奏者としても大活  躍しました。ソロの時は、いかにも孤独な女性を感じさせる繊細なタッチを見せ、伴奏の時は、  ソロの時にはない優しい微笑と大きなぬくもりを感じさせたと言われています。  伴奏としては、ヴァイオリニストのグリュミオーとのデュオが有名でした。
シューマン「ピアノ協奏曲」
 ☆推薦盤☆  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/マルケヴィチ(60)(デッカ)        S  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/フリッチャイ(57)(グラモフォン)     S  ・モーツァルト ヴァイオリンソナタ集/グリュミオー(Vn)(56、58)(デッカ)SS   <タッチ繊細><伴奏派><モーツァルト◎>
12.バックハウス  1884〜1969  BACKHAUS  S  ドイツ⇒スイス

 どの分野でもそうですが、「匠」と名の付くほどの人物ともなれば、その道を極めただけあっ  て、威厳にあふれ、他人に厳しい傾向にあります。バックハウスもそうでした。  バックハウスはベートーヴェンの大家として知られますが、20世紀を代表する大ピアニスト  です。最晩年はベームとウィーン・フィルと組んでよくコンサートを行いましたが、この三者  の競演は、当時のヨーロッパの最高の聴きものだったそうです。  芸術家としては非常に厳しく、笑顔一つ見せないなど大衆に媚びないため、一般受けはしませ  んでしたが、その品格の高さは別格でした。  タッチがどちらかというと武骨な印象を与えるため、初心者受けはしないタイプです。  と言いますのも、色彩感がなく、華がないタッチですので、演奏効果があまりないからです。  初心者の方には、美しい音色の方が聴き映えがするでしょう。  ですが、モーツァルトショパンには不向きでも、ベートーヴェンやブラームスの場合はむし  ろバックハウスのタッチの方が真実の鏡となります。かなり耳が肥えてこないとそこまでは分  かりにくいですので、中級者以上向けのピアニストでしょう。  ベートーヴェンの「三大ソナタ」はギレリスと比較されてきましたが、バックハウスの演奏の  良さが本当の意味で分かる方はかなりの上級者だと思います。ギレリスの芸風はタッチが鋭く、  音の輪郭がはっきりとしていますので、演奏効果に富んでいます。まるでバックハウスと正反  対で、大衆受けするのは明らかにギレリスの方だろうと思うのです。  バックハウスはベートーヴェンのピアノ協奏曲とピアノソナタの全集を録音として遺していま  す。ファンならずとも、まさにお宝と言っていい二大遺産となっています。
ベートーヴェン「ピアノソナタ第8番『悲愴』」
 ☆推薦盤☆  ・ブラームス ピアノ協奏曲第2番/ベーム(67)(デッカ)          A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」/(58)(デッカ)       A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第14番「月光」/(58)(デッカ)      B  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第23番「熱情」/(59)(デッカ)      B  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/ベーム(55)(デッカ)        B  *ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」「月光」「熱情」は同じCDです。  *ブラームスのピアノ協奏曲第2番とモーツァルトの第27番は同じCDです。   <音色渋><芸術主義><ベートーヴェン○>
13.パハマン  1848〜1933  PACHMANN  B  ウクライナ

 パハマンは19世紀中頃の生まれですから、まだショパンが生きていた時代に生まれました。  当時最高のピアニストでしたが、1925年に電気録音が可能になり、モノーラル録音ながら  名盤を多く残しているコルトーに比べますと、あまりに知名度が低いです。  というのは、現在残されているパハマンの録音のほとんどは、電気録音ではなく、機会吹き込  みのため、音質が貧弱でして、CDを店頭で見かけることは稀だからでしょう。  相当古い録音に慣れている方でないと厳しいです。楽曲の鑑賞用というより、歴史的録音とし  て聴くものだとお考え下さい。当然、鑑賞向きではありませんので、一般の音楽書籍では「名  盤」として採り上げられているものはありません。ピアニストとしての扱いも、「伝説のピア  ニスト」とされています。かろうじて録音が残っている程度にお考え下さい。  パハマンの特徴といったら、まずは演奏中に「美しい…」などのつぶやきが最も有名でして、  録音でも聴こえます。  演奏スタイルは、19世紀的ロマンティシズムの粋と言えるもので、芸術至上主義です。この  点はコルトーと同じです。ですが、「ピアノの詩人」と呼ばれたコルトーと違うのは、パハマ  ンの音色は青白さを感じさせるほどに繊細でメランコリックであったということです。  「すすり泣くような」「病的なほど」とたとえられる程で、いくら音質の悪い録音からでも、  それは伺えます。  よって、ベートーヴェンなどは全く不向き。ショパンを得意としていました。  その中で代表的録音と言いますと、夜想曲黒鍵のエチュード葬送行進曲などがあります。  黒鍵のエチュードでは、録音であるにもかかわらず、最初から弾き直しているのが有名です。  録音が残されているピアニストとしては最古の存在であるパハマン。貧弱な録音から音楽の素  晴らしさを充分に感じ取るのは不可能ではありますが、ピアニストの演奏史を語る上では絶対  に欠かせない巨星です。
ショパン「子犬のワルツ」(超貴重録音)
 ☆推薦盤☆   特になし   <ロマンティック><タッチ繊細><芸術主義><ショパン○>
14.ピリス  1944〜  PIRES  A  ポルトガル

 ピリスは現役の女性ピアニストです。1990年代までは、モーツァルトのピアノソナタくら  いしか評判の高いCDはなく、モーツァルトが得意なピアニスト程度の印象しかなかったので  すが、夫であるヴァイオリニストのデュメイとの一連のヴァイオリンソナタの絶妙なデュオが  大好評を博し、一躍世界の第一線級に躍り出ました。それからというもの、シューベルト、更  にはショパンにまで名盤を残し始めました。  タッチが柔らかく(体が小さいらしいです)、音色に気品がありますので、小品向けなのでし  ょう。依然、世界有数のモーツァルト弾きのピアニストと言えます。  よって、同じ女性でもアルゲリッチのように大編成の協奏曲向きではないと思われます。  今後も録音があるのか、年齢的に厳しいかもしれませんが、ぜひご注目下さい。  
 1998年10月、アバドと共にタワーレコード渋谷店にてサイン会
モーツァルト「ピアノ協奏曲第20番」第3楽章
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト 即興曲集/(96、97)(グラモフォン)            SS  ・ショパン 夜想曲全曲/(95、96)(グラモフォン)              A  ・ショパン 夜想曲選集/(95、96)(グラモフォン)              A  ・フランク ヴァイオリンソナタ/デュメイ(Vn)(93)(グラモフォン)    SS  ・ブラームス ヴァイオリンソナタ全曲/デュメイ(Vn)(91)(グラモフォン) SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第26番/アバド(90)(グラモフォン)       A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/アバド(11)(グラモフォン)       A  ・モーツァルト ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」/(90)(Gフォン) SS   <タッチ繊細><伴奏派><小品○><モーツァルト○>
15.フランソワ  1924〜1970  FRANCOIS  A  ドイツ⇒フランス

 フランソワは第二次世界大戦後のフランスにおける代表的なピアニストの一人です。5歳でピ  アノを始めた頃は天才と呼ばれ、コルトーに見出だされて本格的にピアノの道に進みました。  フランソワの特徴は、ムラッ気なところで、気分次第で演奏の出来不出来が激しいと言われて  います。アルゲリッチも気分次第のところがある代表的なピアニストですが、想像を絶する凄  演はあるものの、駄演という程のひどい演奏はしません。ですがフランソワは、気分が乗らな  い時は、明らかに弾く気がないような演奏をするという欠点があったそうです。  それゆえ、同じ曲でもCDを何枚も出していることが多いのですが、ここに挙げた推薦盤は、  気分が乗ったときの演奏なのでしょう。  また、演奏曲の選択にこだわりがあったことでも有名です。「ベートーヴェンは自分に合わな  い」と言って結局録音は残っていませんし、「モーツァルトなら受け入れてやってもいい」と  いう暴言に近い発言をしたというエピソードもあります。  主なレパートリーは、ショパンドビュッシーラヴェルで、特にショパンには名盤が多いで  す。  悪く言えば我がまま放題かもしれませんが、いかにも19世紀的な、古風な、個性溢れるピア  ニストでした。そんなフランソワは「鬼才」と呼ばれています。  
ドビュッシー「ベルガマスク組曲」全曲
 ☆推薦盤☆  ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/フレモー(65)(ワーナー)         S  ・ショパン 即興曲集/(57)(ワーナー)                  A  ・ショパン 夜想曲集/(65、67)(ワーナー)               A  ・ショパン 練習曲集/(58、59、66)(ワーナー)            A  ・ショパン ポロネーズ集/(68)(ワーナー)                A  ・ショパン ワルツ集/(63)(ワーナー)                  A  ・ショパン バラード/(54)(ワーナー)                  A  ・ショパン スケルツォ/(55)(ワーナー)                 A  ・ドビュッシー 「映像」第1&第2集(68〜70)(ワーナー)        A  ・ドビュッシー 子供の領分/(68)(ワーナー)               A  ・ラヴェル ピアノ協奏曲/クリュイタンス(59)(ワーナー)        SS  ・ラヴェル 夜のガスパール/(66、67)(ワーナー)            A  *ショパンのバラードとスケルツォは同じCDです。   <不安定><ショパン○><ドビュッシー○><ラヴェル○>
16.ブレンデル  1931〜 BRENDEL  A  クロアチア⇒オーストリア

 ブレンデルは2008年をもって、高齢のために演奏活動は引退しました。  日本ではポリーニアルゲリッチほどの人気はありませんでした。来日の機会が少なかったこ  ともあるのでしょう。しかし、本場のヨーロッパでは、両者に匹敵するほどの評価を得ました。  とりたてて華麗さや派手さがなく、中庸をいくピアニストですが、日本ではとにかく評論家ウ  ケがいいピアニストです。主にベートーヴェンブラームスモーツァルトなどのドイツ&オ  ーストリア系の作曲家の曲をレパートリーとしていますが、協奏曲にしてもソナタにしても、  名盤を多く輩出しています。  世界的な名声を得るようになったのは60年代からで、70年にフィリップスと専属契約を結  んでから、録音によって一気に評価が高まりました。推薦盤に挙げたCDは80年代から90  年代のものが多いですので、晩年になって更に評価を増したことになります。  決して花形のスター演奏家ではありませんでしたが、秘めた実力は世界でも屈指のピアニスト  です。  
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」/クリーヴランドSQ(77)(デッカ)   S  ・シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」/ツェートマイヤー(Vn)(94)(デッカ)S  ・ブラームス ピアノ協奏曲第1番/アバド(86)(デッカ)            A  ・ブラームス ピアノ協奏曲第2番/アバド(91)(フィリップス)         A  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/ラトル(98)(デッカ)          A  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/レヴァイン(83)(デッカ)    A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」/(94)(フィリップス)      A   <万能型>
17.ブーニン  1966〜  BUNIN  A  ロシア

 世界一と言っていいショパン・コンクールで優勝を決めた後、日本ではブーニン・ブームが起  こり、チケットが飛ぶように売れた頃がありました。  ブーニンはまだめぼしいCDも少なく、荒削りなピアニストですが、日本では今でも大変な人  気です。自身も親日家で、毎年ツアーがあります。  ブーニンは芸術家肌で、コンクール優勝者にはない「型破り」なところがあります。それゆえ  出来不出来が激しいのですが、ツボにはまるととんでもない名演が飛び出す可能性を秘めてい  ます。非常に芸達者で、主観的な演奏をしますので、個性が強く、何が飛び出すか分からない  ところが最大の魅力です。現役では貴重な、主観主義タイプのピアニストです。  演奏する曲に対する深い洞察も尋常ではないです。  ブーニンといえばショパンのイメージが定着しています。本人は本望ではないようなのですが、  日本公演ではショパンの親しみやすい有名曲を演奏してくれますので、ぜひ実演に接して頂き  たいです。  聴衆の反応をみて演奏の仕方を変えるサービス精神旺盛な面もあります。  ブーニンの演奏に感動できるようであれば、きっと彼のファンになるでしょう。逆に、単なる  深読みや小細工としか感じられないのならば、無縁ということになるでしょう。  なお、40歳を過ぎた頃から、早くも指の衰えについて語っています。全盛期の頃より練習に  5倍の時間がかかるのだそうです。  まだ若いのだから、がんばれブーニン!
ショパン「練習曲集 作品10−12『革命』」
 ☆推薦盤☆   特になし   <主観主義><実演派><即興派><不安定>
18.ホロヴィッツ  1904〜1989  HOROWITZ  S  ウクライナ

 ホロヴィッツが活躍した当時は極上のテクニシャンでした。ヴァイオリニストのハイフェッツ  と同様、人間業を超えたテクニックの持ち主でした。それに、ただ上手いだけのピアニストだ  ったわけではなく、卓越した表現力も備わっていたのですから、ハイフェッツと同じく、鬼に  金棒です。ホロヴィッツは20世紀屈指の大ピアニストです。  何と6歳の時に、すでにピアニストとして完成していると言われたという話があります。恐ろ  しいほどの天才児でした。  しかし、晩年はテクニックはもちろん、表現の衰えもひどかったというのも事実です。初来日  の際は、世界的大ピアニストの生演奏が聴けるということで大変な注目を浴びましたが、既に  テクニックの衰えはひどく、日本の聴衆の期待を裏切る形になってしまったと言われています。  「ひびの入った骨董品」などという迷言で中傷されたそうですが、天才肌のピアニストだけに  同情を禁じえない面があります。年齢に勝てない人などいないのですから。  それにしても全盛期の演奏は凄いです。凄演と言おうか猛演と言おうか、鬼気迫る音の嵐に心  打たれないものはいないだろうと言っても過言ではないほどです。録音が古いのが残念ですが、  一度でいいから聴いて頂きたいです。  本当のピアニズムというものはどういうものであるかがお分かり頂けると思うのです。  推薦盤は評価の高いものを挙げましたが、ホロヴィッツのCDで良いものとなれば、せいぜい  70年前後までという声が多いです。  ちなみに、妻は大指揮者トスカニーニの娘です。この、義父とのコンビによる共演は、音は古  いですが、まさに超人的な凄演です。
ショパン「ワルツ 作品64−2」
 ☆推薦盤☆  ・シューマン 子供の情景/(62)(SONY)                 SS  ・チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番/トスカニーニ(41)(RCA)      A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵/(51)(RCA)                 S  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番/ライナー(51)(RCA)         SS    *チャイコフスキーとムソルグスキーは同じCDです。   <超技巧派><情熱><レパートリー広>
19.ポゴレリチ  1958〜  POGORELIC  B  クロアチア

 ここで紹介している現役のピアニストでは、ツィメルマンより2歳若いポゴレリチ。世間一般  的には中年の歳ではあるのですが、クラシックの世界では、まだまだこれから旬を迎える時期  です。そういう意味では、ツィメルマンとよい好敵手になっていくだろうと思われるピアニス  トです。  とはいえ、残念ながら、今でも「これ」というCDがありません。この点では明らかにツィメ  ルマンに遅れをとっているのですが、過去にアルゲリッチが「天才」と評した逸材で、時が経  つにつれてその片鱗を見せつつあります。非常に個性の強い、異端ともいえるピアニストです。  演奏スタイルの魅力的なところは、何といっても天才的な「閃き」です。よって演奏は楽譜を  無視した主観的な演奏になり、時には誰にも真似できないような、変幻自在の即興のリアリズ  ムを見せます。  こういったタイプですから、いつ、何が飛び出すか解らないという期待を我々に持たせます。  これからとんでもない名盤が生み出される可能性もあります。この点がツィメルマンとの大き  な違いです。  来日する機会も多いので、ぜひ実演に接してみてはいかがでしょうか。即興派ゆえに、予想す  らしなかった名演に立ち会えるかもしれません。
ベートーヴェン「エリーゼのために」
 ☆推薦盤☆  ・ラヴェル 夜のガスパール/(82)(グラモフォン)             B   <主観主義><即興派>
20.ポリーニ  1942〜  POLLINI  S  イタリア

 日本では特に、出すCDがことごとく超絶賛され、コンサートも超天才扱いされてきた、20  世紀屈指のピアニスト、ポリーニ。CDは飛ぶように売れてきました。  しかし、実は批判も少なくないです。ポリーニは音色が極めて美しく、テクニックが素晴らし  いです。ことテクニックに関しては、20世紀のピアニストの中でも最高レベルだと言われて  います。しかも10代の頃からです。  ポリーニは1960年のショパン・コンクールでぶっちぎりの優勝を果たした時、審査委員で  あった当時の大ピアニスト、ルービンシュタインをして「我々審査員の中で技術的に彼より完  璧に弾ける者があるだろうか」と言わしめた人物です。この時が18歳でした。  人間精密機械とでもいうべき完璧なテクニックを既に持っていたのです。  ポリーニの人間離れしたテクニックを聴きたい方によくお薦めされるのが、当時、あまりの完  璧さに「歴史的事件」とも言われたショパンの「練習曲集」です。相当な難曲揃いのこの曲集  までをも完璧なまでに弾ききるポリーニ。複雑に構成された一音一音が光彩を放っており、こ  れほど完璧な演奏は、20世紀になって録音が可能になってから、誰一人残せませんでした。  ですが、上手すぎるがゆえに、批判を浴びることとなってしまいました。  確かに、批判派も含めて、すべての評論家が認める、稀代のピアニストです。そのため、どう  してもテクニックばかりが独り歩きしてしまい、クラシック音楽家に必要な、表現力の足りな  さが批判の的となってしまったのです。  私は、ポリーニの何とも言えない香りを持った音色は好きですが、逆に、ショパンの練習曲で  は「革命」や「別れの曲」、あるいはベートーヴェンの演奏において、何か大切なものを欠い  ていることにも賛成です。  おそらく、超天才としてマスコミが煽りすぎ、偶像だけが先走り、演奏すべてに完璧なものを  求められたがゆえの悲劇であると私は思うのです。ポリーニが技巧的な天才であるがゆえに起  こった悲劇なのだと思うのです。ポリーニは表現、音楽解釈など、すべての面において完全な  天才という偶像と比較されたために批判されることとなってしまったのではないでしょうか。  ポリーニはあくまで、「技巧面」での天才だということなのではないでしょうか。  10代にして精密機械のようなテクニックを持っていた天才児ポリーニ。もう70歳を過ぎて  います。21世紀になっても評価の高い名盤を輩出していますし、来日の機会も多いですので、  まだまだ今後も目を離せませんし、ピアニスト界の「レジェンド」であることは疑う余地があ  りません。
ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」第1楽章から ショパン「練習曲『革命』」   ショパン「練習曲『別れの曲』」
 ☆推薦盤☆  ・シューマン ピアノ協奏曲/アバド(89)(グラモフォン)         SS  ・ショパン 前奏曲集/(74)(グラモフォン)                S  ・ショパン 夜想曲集/(05)(グラモフォン)                S  ・ショパン 練習曲集/(72)(グラモフォン)               SS  ・ショパン ポロネーズ集(7曲)/(75)(グラモフォン)          A  ・ショパン バラード/(99)(グラモフォン)                S  ・ショパン スケルツォ/(90)(グラモフォン)              SS  ・ブラームス ピアノ協奏曲第2番/アバド(76)(グラモフォン)       A  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/アバド(92、93)(グラモフォン)  S  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/アバド(92、93)( 〃 ) S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」(03)(グラモフォン)     A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第14番「月光」(91)(グラモフォン)    S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第23番「熱情」(02)(グラモフォン)    A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番「テンペスト」(88)(グラモフォン) S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」(88)( 〃 ) A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/弾き振り(05)(グラモフォン)    A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/ベーム(76)(グラモフォン)     A  ・リスト ピアノ・ソナタ/(89)(グラモフォン)             SS  *ショパンのバラードとスケルツォは同じCDです。   <美音><超技巧派>
21.ミケランジェリ  1920〜1995  MICHELANGELI  A  イタリア

 20世紀に活躍したピアニストの中で、「個性の強さ」といったらミケランジェリは筆頭候補  ですが、それは演奏以外の色々な面でも個性的な人物であったことを指しています。  まずは、キャンセル魔と呼ばれていたことです。指揮者ではカルロス・クライバー、同じピア  ニストではアルゲリッチが同罪を犯したことで知られていますが、ミケランジェリはそれ以上  だったようでして、20世紀最大のキャンセル魔というくらいだったと言われています。  次は、極端にレパートリーが少なかったことですが、本人が言うには、自身が、既にこれ以上  の名演奏はないと思ったものには、「今更私が弾く必要はない」と言い、一切、手をつけなか  ったそうです。具体的には、ラフマニノフのピアノ協奏曲について、第2番では作曲者自身の、  第3番ではホロヴィッツの演奏を挙げています。  現役であった当時、本場のヨーロッパでは、「ミケランジェリを聴いた」と言うと、「プログ  ラムはA?B?それとも、もしかしてCでもやったの?」というジョークが流行ったこともあ  るほどレパートリーが狭かったというエピソードもあります。  また次には、ピアノに関して相当な神経質であったということです。何と演奏会場にピアノ2  台を持参し、調律師4人を連れていったのですが、結局納得のいく音が出せず、本番は中止に  なったという話も残っています。もちろん、悪意はありません。  最後に、演奏面に関してですが、完璧主義で、リヒテルのように高音のタッチが雑になること  を極端に嫌い、たとえテンポが遅くなろうともミスタッチのない演奏を信条としました。その  ミスタッチの少なさは、20世紀最高のテクニシャンの一人と言われたホロヴィッツにたとえ  られました。また、録音を極端に嫌っていた点など、我がままと言えばそれまでですが、美学  の表れなのでしょう。  以上のことに低通するのは、ミケランジェリは自分が完全に納得する状態でないと演奏をしな  かったという音楽哲学を持ったピアニストであったということです。それゆえ、CDも数は少  ないのですが、残されたものはみな評価が高いです。とりわけ、ドビュッシーにおいては他の  追随を全く許さないスペシャリストです。
ショパン「バラード第1番」
 ☆推薦盤☆  ・ドビュッシー 「映像」第1&第2集/(71)(グラモフォン)       SS  ・ドビュッシー 前奏曲集 第1&第2/(78、88)(グラモフォン)    SS  ・ドビュッシー 組曲「子供の領分」/(71)(グラモフォン)        SS  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/ジュリーニ(79)(グラモフォン)   A  ・ラヴェル ピアノ協奏曲/グラチス(57)(ワーナー)            A   <技巧派><超安定><レパートリー狭><ドビュッシー◎>
22.リパッティ  1917〜1950 LIPATTI  A  ルーマニア

 リパッティは33歳の若さでこの世を去ったため、録音の数も少ないですし、本当に名声を手  に入れることができたと言えるわけではありませんでした。ですが、いかに才能に溢れ、将来  を嘱望されていたかを物語るエピソードをご紹介します。  リパッティの師匠は、かの大ピアニストであり名教師でもあったコルトーです。ハスキルらの  門下生をもっていたコルトーが、最も評価していたのがリパッティでした。  リパッティが亡くなった後のこと、コルトーの初来日の際に「最も有望な若手ピアニストは?」  という質問に、一言「私の弟子にリパッティというものがいますが、不幸にも彼はもう亡くな  ってしまいました。他に考えつきません」と答えたと言われています。  コルトーをしてここまで言わしめた人物だったのですから、もっと長生きしていたら、「世紀  の大ピアニスト」とここにご紹介できたかもしれないほどの素質を持ったピアニストだったの  でしょう。遺した録音は少なく、しかもすべてがモノーラル録音なのですが、ほとんどが第一  級の評価を得ています。録音が悪いですので中級者以上向けのピアニストであると思われます。  ショパンの「ワルツ集」を聴いて頂けば、いかに芸術表現に長けたピアニストだったのかとい  うことを、嫌というほど思い知らされるでしょう。また、下の「推薦盤」に挙げてあります  「舟歌」が収録された「ピアノ小品集」の「主よ人の望みの喜びよ」は、リパッティの芸術の  一つの頂点とも言える演奏です。いえ、もはや演奏という次元を超えているかもしれません。  流れてくる音は、人間が奏でたものとは思えず、別世界から聴こえるようなのです。その音色  は、暖かく、優しいぬくもりに満ちたヴェールに包まれていて、聴き手を幻想の世界へといざ  ないます。  グリーグとシューマンのピアノ協奏曲は現在一枚のCDにカップリングされていますので、超  オススメCDでもあります。また、「ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル」は、主治  医の静止を振り切り、失神寸前の状態で遺した最後の録音と言われています。共に録音は古い  のですが、ファンは絶対に持っていたい貴重な遺産です。
ショパン「別れのワルツ」
 ☆推薦盤☆  ・グリーグ ピアノ協奏曲/ガリエラ(47)(ワーナー)           SS  ・シューマン ピアノ協奏曲/カラヤン(48)(ワーナー)           A  ・ショパン ピアノ協奏曲第1番/アッカーマン(50)(EMI)        B  ・ショパン ワルツ集/(50)(ワーナー)                 SS ・ショパン 舟歌/(48)(ワーナー)                    S  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/カラヤン(50)(EMI)       A  *グリーグとシューマンは同じCDです。   <ロマンティック><情熱><芸術主義>
23.リヒテル  1915〜1997  RICHTER  S  ロシア

 冷戦当時、ドイツ、イタリア、オーストリアなどのヨーロッパのクラシック主要国において、  神格化されたピアニストがいました。旧ソ連と西側諸国には「鉄のカーテン」と呼ばれる大き  な壁があったのですが、いち早く西側に進出したギレリスなどとは逆で、リヒテルはしばらく  ソ連から出ず、西側とは交流を持たなかったため、西側諸国では「カーテンの向こうに凄いピ  アニストがいるらしい」という風評だけが先走り、神格化されたのです。  リヒテルは間違いなく20世紀を代表するピアニストですが、好みの分かれるピアニストでは  ないでしょうか。と言いますのも、曲によって出来、不出来が激しいからです。リヒテルはロ  シアのピアニストで、同じロシアのギレリスと同様、打鍵の強さで演奏する「ロシア学派」の  タイプのピアニストです。  よって芸風は「ロシア学派」を受け継ぐもので、高音は打鍵の強さで弾くため、大味で、雑な  印象を与えます。逆に低音の繊細な部分は絶妙のタッチを見せます。リヒテル自身、ピアニッ  シモに相当こだわりがあったようです。この点が、曲によって出来、不出来が激しい理由とい  うことになるでしょうか。  推薦盤に挙げた中では、お国ものだからなのか、ラフマニノフのコンチェルトはまさに芸風に  合っていて素晴らしいです。特にこの作品の核心である第2楽章の繊細な演奏は、メランコリ  ックなラフマニノフの音そのものでして、この作品の代名詞ともなっている決定的名盤です。
ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・グリーグ ピアノ協奏曲/マタチッチ(74)(ワーナー)            A  ・シューベルト ピアノ五重奏曲「ます」/ボロディンSQ団員他(80)(ワーナー)A  ・チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番/カラヤン(62)(グラモフォン)    S  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第23番「熱情」/(60)(RCA)       A  ・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番「テンペスト」/(61)(ワーナー)   S  ・ムソルグスキー 展覧会の絵/(58)(デッカ)                A  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番/ヴィスロツキ(60)(グラモフォン)   SS  ・リスト ピアノ協奏曲第1番/コンドラシン(61)(デッカ)          A  *チャイコフスキーとラフマニノフは同じCDです。   <高音タッチ強><低音タッチ繊細><不安定><レパートリー広>
24.ルービンシュタイン  1887〜1982  RUBINSTEIN  A  ポーランド
 
 ルービンシュタインは、19世紀の生まれながら、評価の高い演奏はほとんどステレオ録音と  いう晩成型のピアニストで、主にショパンに名演を残しました。  若い頃はタッチに色彩感があり、迫力があり、華やかな演奏スタイルが持ち味でしたが、19  60年以降、自分の演奏スタイルに常に変化を求めていきました。  真価が発揮されるようになったのは晩年、表現に深みを増してからです。  若い頃は「遊び人」のレッテルが貼られていたほど自由奔放なピアニストだったそうです。  演奏活動に怠惰な面があったり、コンサートで稼いだお金をカジノやお酒につぎ込んだり、女  性問題が絶えなかったり、武勇伝にはことかかなかったと言われています。  そんなルービンシュタインも、さすがに落ち着き始めたのが、47歳の時と言われています。  この頃からは自分の立場を自覚し、演奏活動に真摯に取り組むようになりました。そして演奏  に磨きがかかり、巨匠ピアニストとして名盤を残すこととなったのです。   晩年に「停滞やマンネリズムは芸術家としての滅亡を意味する」と語っていたほどの芸術家タ  イプのピアニストで、80歳を過ぎてもなお日々進歩を目指していた大巨匠です。まるで人が  変わったようです。  全盛期の芸風は、いかにも巨匠スタイルと言っていい、堂々とした、スケールの大きい演奏で  す。スケールの雄大さという点では、他のどのピアニストよりも、ルービンシュタインが格段  に優れているのではないでしょうか。  ルービンシュタインと言いますとどうしてもショパンというイメージが強いのですが、ショパ  ンのスケールの小さな曲においては、持ち味が存分に活きているとは言い難い面があります。  ルービンシュタインの雄大さに惹かれる方は、是非ベートーヴェンなどの協奏曲を聴かれては  いかがでしょうか。
ショパン「英雄ポロネーズ」
 ☆推薦盤☆  ・ショパン 即興曲集/(64)(RCA)                  SS  ・ショパン 夜想曲集/(65、67)(RCA)                S  ・ショパン ポロネーズ集(7曲)/(64)(RCA)            SS  ・ショパン ワルツ集/(63)(RCA)                   A  ・ショパン マズルカ集/(65、66)(RCA)              SS  ・ショパン 舟歌/(64)(RCA)                     A  ・ショパン バラード/(59)(RCA)                   S  ・ショパン スケルツォ/(59)(RCA)                  A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲「大公」/           ハイフェッツ(Vn)フォイアマン(Vc)(41)(RCA) A  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番/オーマンディ(71)(RCA)      B    *ショパンの即興曲集と舟歌は同じCDです。  *ショパンのバラードとスケルツォは同じCDです。   <雄大><芸術主義><ショパン◎>





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