名曲案内〜声楽曲編U〜

(フォーレ〜リヒャルト・シュトラウス)



    
  オーケストラや吹奏楽、ピアノなどからクラシックに親しんだ方にとっては、特に声楽曲は   
  馴染みの薄いことでしょう。しかし、合唱経験のある方は声楽曲からクラシック音楽に触れ
  るのも、とてもよい方法なのです。
  普段はあまり接する機会のない曲が多いですが、これら珠玉の作品たちも、クラシック音楽
  を担う立派な一ジャンルであり、クラシックの上級者の方でも、これらの作品に触れると、
  いかに大きな感動を与えてくれる曲ばかりなのかを実感することでしょう。
  声楽曲にも実は、クラシックを代表する名曲が多いのです。
  
    歌詞対訳のないCDや輸入盤は、インターネットである程度調べることが出来ますが、
  不便なため、評価ランクのところに「輸」あるいは「無」マークがあります。 

フォーレ  ・ブラームス  ・ブリテン  ・ブルックナー  ・ヘンデル

   ・ベートーヴェン  ・マーラー  ・モンテヴェルディ  ・モーツァルト  ・R.シュトラウス



声楽曲編T(秋川雅史〜バッハ)へ




☆フォーレ
作品NO.90 レクイエム ★★ 2021年2月最新更新
  
 ヴェルディモーツァルトのレクイエムと並んで、3大レクイエムの1つと呼ばれる、フォーレの代表
 作品であるとともに、あらゆる宗教曲の中でもトップクラスの人気があります。
 フォーレがパリのマドレーヌ教会の合唱長をしていた時に作られました。
 ヴェルディのレクイエムはオペラチックで劇的ですので、「フォーレの静、ヴェルディの動」と称され
 ていますように、こちらはおとなしく、慎ましく、瞑想的なレクイエムです。
 男声はバリトン、女声はソプラノの独唱歌手2名と合唱団によって歌われます。
 ヴェルディのレクイエムと同じく7曲構成ですが、こちらは規模が小さく、演奏時間は約40分です。
 その意味でも、ヴェルディよりはこちらを先に聴く方がお薦めです。

第3曲「サンクトゥス」     第7曲「楽園にて」
 ☆推薦盤☆      ◎クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団(62)(ワーナー)              S    ・コルボ/ローザンヌ声楽アンサンブル(06)(Mirare)            S    ○コルボ/ベルン交響楽団(72)(エラート)                    A    ・ラター/シティ・オヴ・ロンドン・シンフォニア団員(84)(Collegium)  A    ・ロマーノ/レ・シエクル(18)(Aparte)                  A    ▲ガーディナー/レヴォルショネール・エ・ロマンティーク管弦楽団(92)(デッカ)  A    クリュイタンス盤は古くからの名盤で、これが一番お薦めです。    バリトン独唱に20世紀屈指の歌手、フィッシャー=ディースカウが参加していることもあり、    合唱部分も素晴らしいです。    2番目のコルボ盤、ラター盤、ロマーノ盤はいずれも廃盤中のようです。ロマーノ盤はCDの    特定もできておりません。    第2にお薦めするコルボ盤は、ソプラノ独唱に女性の代わりに少年を使っていまして、純粋な    美しさではこちらの方が上だという声もあります。    3番手、お薦め度▲として古楽器のガーディナー盤を挙げておきました。    フォーレについて触れられるのはここしかありませんので一つ。    フォーレの代表曲といえば何といってもこの「レクイエム」になりますが、かなり多くの方が    聴いたことがあると思われるのは下の「シシリエンヌ」という曲です。「シチリアーノ」と呼    ばれることもあります。原曲はチェロの曲なのですが、フルート用の管弦楽用に編曲されてい    まして、ヴァイオリン用などにアレンジされたものもあります。    ハープにのったフルートの音色が何とも言えず、どことなく郷愁漂うメロディーに惹かれたこ    とがある方も多いのではないでしょうか。
「ペレアスとメリザンド」より「シシリエンヌ」

☆ブラームス
作品NO.54 ドイツ・レクイエム ★★★ 2021年1月最新更新
  
 ブラームスがなぜレクイエムを作曲したのかは明らかになっていません。この作品は他のレクイエムと 
 違い、ラテン語で書かれているわけでもなく、ルター訳のドイツ語訳の旧約聖書などから、ブラームス
 自身が気に入った言葉を自由に選んで書いたものでして、通常のレクイエムの形式とは異なっています。
 従来のレクイエムは、神への許しを求め、死者の平和を願う祈りであるのに対し、この作品は、生き残
 ったものへの悲しみと慰めを主題にしているという点が特徴です。全部で7曲です。

第1曲「幸いだ、悲しんでいる人たちは」
 ☆推薦盤☆    ◎クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団(61)(ワーナー)           S    ○アーノンクール/ウィーン・フィル(07)(RCA)               S    ▲カラヤン/ベルリン・フィル(76)(ワーナー)                 A    △ジュリーニ/ウィーン・フィル(87)(グラモフォン)              A    △ハーディング/スウェーデン放送交響楽団(18)(ハルモニアムンディ)      A    △ガーディナー/レヴォリュショネール・エ・ロマンティークO(90)(デッカ)   A        この作品のお薦めCDはいつも大混戦です。    カラヤンは何とこの作品を6度も録音しているのですが、中では76年盤が最もお薦めです。    クレンペラー盤は古くから評価が高いです。お薦め度◎にしたのは、クレンペラー指揮の他    の声楽曲でもそうなのですが、歌手陣の評価が高いからです。    アーノンクール盤は、録音が新しく、高音質のBlu-specCD2なのが魅力です。    また、古楽器がお好きな方にはガーディナー盤もお薦めしたいです。    他、ハーディング盤はかなり新しい録音ですが、お値段が高いのがネックです。その点、すっ    かり評価を落としてしまったジュリーニ盤は、お値段がお安いのが魅力です。

☆ブリテン
作品NO.232 戦争レクイエム ★★★ 2021年2月最新更新
  
 作曲者のブリテンは、現代のイギリス最大の作曲家で、1913〜1976に活躍し、主な作品は、こ
 の「戦争レクイエム」です。1961年、第二次世界大戦で破壊された聖マイケルズ大聖堂の献堂式の
 ために作曲されました。
 大戦で亡くなった友人に献呈され、強い反戦と平和への祈りを込めています。
 6つの部分からなり、ほぼレクイエムの形式に基づいています。
 痛切な慟哭に満ちた作品で、極めて現実的な詩と音楽が、ラテン語の典礼文と絡み合っています。
 
全曲(何とブリテン自作自演!演奏開始は6:41からです)
 ☆推薦盤☆     ★◎ブリテン/ロンドン交響楽団(63)(デッカ)             SS    ・ヒコックス/ロンドン交響楽団(91)(シャンドス)           A    ・ラトル/バーミンガム市交響楽団(83)(EMI)            A    クラシック作品としてはイギリスローカルな作品として扱われているのでしょうか。廃盤が多    いです。ヒコックス盤も、ラトル盤も、リンク先のCDで100%間違いないかの確証がとれ    ておりません。    ですが、この作品には、ブリテンの自作自演というSS評価、お薦め度★という絶対的な名盤    があります。上のYOUTUBEへのリンクも自作自演です。    クラシックの演奏において、なぜか自作自演は総じて評価が低いのですが、この作品は例外で    す。まずはブリテンの自作自演のCDで、存分に堪能して頂きたいと思います。  

☆ブルックナー
作品NO.235 テ・デウム ★★★ 2021年3月最新更新
  
 交響曲主体に作曲活動を行ったブルックナーですが、声楽曲の傑作も作曲しています。それが、この、
 「テ・デウム」です。敬虔なカトリック信者であったブルックナーは、交響曲にも宗教的な色を表して
 いますが、この作品も宗教曲です。「交響曲第7番」の頃に作曲されました。
 「テ・デウム」というのは、カトリックで礼拝式や朝課で歌われる、神への感謝の歌のことです。
 ブルックナー自身もこの作品を随分と気に入っていたようでして、第3楽章までで未完成に終わってし
 まった「交響曲第9番」の第4楽章を「テ・デウム」にするようにと言い残したというエピソードもあ
 ります。
 全5曲からなり、合計約20分ほどの短い作品ですが、第5曲のクライマックスは大変感動的です。
 ブルックナーの交響曲が今一つ解らない方は、この作品を聴く方が近道かもしれないと言われています。

全曲
 ☆推薦盤☆      ◎ヨッフム/ベルリン・フィル(65)(グラモフォン)          SS    ・カラヤン/ウィーン・フィル(84)(グラモフォン)           A    ○チェリビダッケ/ミュンヘン・フィル(82)(ワーナー)         A        これといったCDはないのが現状です。    ブルックナーはお得意のヨッフムの演奏が高い評価を得ています。ただ、これは輸入盤ですの    で、曲名や歌詞が分かりません。その点がマイナス要素です。    カラヤン盤は、廃盤中ですし、音源の確証がありません。    チェリビダッケ盤は国内盤で、かつ「第7番」とのカップリングです。2枚組ですのでお高い    のですが、こちらを○としました。       

☆ヘンデル
作品NO.97 オラトリオ「メサイア」 ★★★ 2021年3月最新更新
  
 まず、「オラトリオ」というものについて簡単にご説明させて頂きますと、オラトリオとは、バロック
 時代に始まった音楽形式のことで、歌詞は聖書から採り、合唱曲を歌うものですが、単なる合唱曲では
 なく、形式は後のオペラに基づいていまして、オペラから演技や舞台装置を取り除いたもの、とお考え
 頂ければと思います。主にバッハハイドンなどの作曲家がオラトリオを作曲しています。
 ここでご紹介するヘンデルの「メサイア」ですが、この作品はオラトリオを代表する作品の一つでして、
 またバロック期の合唱曲としてはバッハの「マタイ受難曲」などと並んで有名な作品の一つです。
 「メサイア(messiah)」という名は、英語読みした「メシア(救世主)」に由来しています。歌詞はも
 ちろん聖書から採っていますが、すべて英語であるというのが特徴です。イエス・キリストの生涯を、
 独唱曲や合唱曲で歌い上げています。全3部構成とされています(元々決まった形はありません)。
 有名な曲は、何と言っても第2部の合唱曲「ハレルヤ」です。ほとんどの方がご存知の「ハレルヤ・コ
 ーラス」で、第2部の最後に歌われます。
 バッハなどのミサ曲は概して暗い面がありますが、この「メサイア」は明るい雰囲気で、宗教的な声楽
 曲の暗さが苦手な方にはぜひ聴いて頂きたい逸品です。

第2部より 合唱曲「ハレルヤ」
 ☆推薦盤☆    ◎アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(04)(RCA)    SS    ○ガーディナー/イギリス・バロック管弦楽団(82)(デッカ)           A    ・マクリーシュ/ガブリエリ・コンソート&プレイヤーズ(96)(アルヒーフ)    A    ・クリスティ/レザール・フロリサン(93)(ハルモニア・ムンディ)        A    ・クレンペラー/ニューフィルハーモニア管弦楽団(64)(ワーナー)        A    ヘンデルあたりになると、ほとんど推薦盤には古楽器演奏しかなくなっているのが現状でして、    ここでもクレンペラーが孤軍奮闘です。    バロック音楽と言ったら、古楽器演奏で聴くのが当たり前、というように、リスナーの我々の    耳も馴らしていかなければいけないのかもしれません。    ◎のアーノンクール盤は録音も新しいですし、彫の深い表現は卓越していますので、第一にお    薦めです。    ガーディナー盤も特に合唱が素晴らしいのですが、アーノンクール盤に比べて、2枚組にもか    かわらず破格のお値段というのが魅力です。お値段重視の方にはこちらがお薦めです。    マクリーシュ盤はお値段がかなり高いですし、廃盤中のようです。    クリスティ盤は廃盤中ですが、声楽曲の輸入盤は曲名などがわかりませんので、あまり積極的    にお薦めはできません。    最後のクレンペラーは現代楽器によるものです。古楽器が苦手な方にはお薦めしたいのですが、    現在は廃盤中のようです。

☆ベートーヴェン
作品NO.38 ミサ・ソレムニス ★★★★ 2021年3月最新更新
  
 「ミサ・ソレムニス」のことを、日本語では「荘厳ミサ」と呼びます。同じ「ミサ」だと思って、バッ
 モーツァルトと同じイメージを抱いてしまっては、痛い目に遭ってしまいます。ベートーヴェンが
 書いた最後の大宗教曲でありまして、大曲であるがゆえに難解な作品です。ベートーヴェンという名前
 につられて初心者の方が聴こうものならば、わけがわからなくなるでしょう。
 「名作曲家列伝」のページに書きましたが、ベートーヴェンという作曲家は、他のジャンルの作品でも
 交響曲的に聴こえるほど、分厚い音楽を作りました。この声楽曲でさえその例に漏れません。「第九」
 はもちろん交響曲ですが、まだ親しみやすいところがあるのに対して、この作品はいかにも「荘厳」と
 いう言葉が似合います。あまり大衆受けする作品ではありません。その分、作品としては大傑作でして、
 合唱自体は「第九」の第4楽章よりも優れているという声も多いほどです。
 5曲から成り立っていまして、曲数は少ないのですが、1曲1曲が長く、いきなり初めから通して聴く
 のは厳しいでしょう。まずは、第2曲「グローリア」、第3曲「クレド」、第5曲「アニュス・デイ」
 の3曲だけを聴き込むという方法がオススメです。

第2曲「グローリア」(バーンスタイン指揮同じ音源??)
 ☆推薦盤☆    ◎アーノンクール/ウィーン・コンツェンントゥス・ムジクス(15)(SONY)  S    ▲バーンスタイン/アムステルダム・コンセルト・ヘボウ(78)(グラモフォン)  S    ○クレンペラー/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団(65)(ワーナー)      A    △ガーディナー/イギリス・バロック管弦楽団(12)(Soil Deo Gloria)      A    S評価が2つあります。また、アーノンクール盤とガーディナーの新盤は古楽器演奏です。    アーノンクール盤は、世界的な巨匠の最後の録音です。その点を考慮するわけではありません    が、アーノンクールの古楽器演奏は、こじんまりとしたイメージのある古楽器演奏とは一線を    画していまして、威風堂々たる古楽器演奏となっています。この演奏も例にもれませんので、    ○としました。    現代楽器のバーンスタイン盤とクレンペラー盤ですが、声楽曲はお得意のクレンペラーでもあ    りますし、芸風が作品と相性がいいと思われますので、クレンペラー盤を◎としました。    古楽器のガーディナー盤は、89年録音の旧盤もありますのでご注意下さい。

☆マーラー
作品NO.114 さすらう若人の歌 ★★ 2021年5月最新更新
  
 マーラーといえば何と言っても交響曲が代表作であるというイメージがあって、事実その通りに違いな
 いのですが、交響曲と歌曲が連作のような形になっています。これは有名な作曲家では珍しいです。
 特に最晩年の交響曲「大地の歌」では、歌曲そのものが交響曲となっています。
 全4曲からなり、伴奏はピアノとオケの2つのバージョンがありますが、後者が主流となっています。
 演奏時間は、4曲で20分弱。詩はマーラー自身によるもので、ヨハンナ・リヒターというソプラノ歌
 手と自らの失恋がテーマとなっていまして、失恋に嘆く若者の苦悩を如実に描いています。
 この作品と連作になっているのは交響曲第1番「巨人」で、2つで1つといってもいいほどの関連性が
 あり、双方を聴けばより理解しやすいと言われています。第2曲が第1楽章に、第4曲が第3楽章にそ
 れぞれ転用されています。
 なお、歌詞についてはこちらをご参照下さい。

第1曲「恋人の婚礼の時」
 ☆推薦盤☆     ・ゲルハーヘル/ナガノ モントリオール交響楽団(12)(SONY)     S   ☆◎ディースカウ/フルトヴェングラー フィルハーモニアO(52)(ワーナー) S    ・ハンプソン/バーンスタイン ウィーン・フィル(90)(グラモフォン)   A    〇ディースカウ/クーベリック バイエルン放送交響楽団(68)(グラモフォン)A    ゲルハーヘル&ナガノ盤は廃盤中です。ハンプソン&バーンスタイン盤は、在庫はあるような    のですが、なぜか異常にお高く、どうも廃盤中のようです。    そこで、寂しい推薦盤となってしまいましたが、古い音質でも構わないという方には、古くか    らの定盤とされてきた歴史的名盤、ディースカウ&フルトヴェングラー盤がお薦めです。    20世紀最高の指揮者と最高の歌手が組んだのですから、名前を見ただけでも名盤と疑う余地    がないほどでしょう。    フィッシャー・ディースカウは20世紀屈指の男声歌手ですので、ぜひ覚えて頂きたいです。    最大の欠点は52年という録音年なのですが、一般的に、声楽曲は多少録音が古くても鑑賞に    は差し支えないと言われています。    〇は同じくディースカウとクーベリックによる演奏で、ステレオ録音です。    連作ともいえる「巨人」(こちらは推薦盤には挙げていません)とのカップリングという粋な    計らいがされていますので、その意味では◎〇は甲乙つけがたいです。お好みでどうぞ。

☆モンテヴェルディ
作品NO.119 聖母マリアの夕べの祈り ★★★★ 2021年5月最新更新
   
 モンテヴェルディはバロック初期の作曲家で、一般に鑑賞、演奏されるバロック期の作曲家では最古の
 存在にあたります。従って、クラシックの作曲家では最も古いと考えて頂いても差し支えありません。
 そのモンテヴェルディの代表作が「聖母マリアの夕べの祈り」で、宗教的な声楽曲ですが、この作品を
 声楽曲の最高傑作と呼ぶ人もいるくらいの大作、名作です。
 大きく分ければ14の部分からなり、細かく分ければ36の部分からなります。
 「夕べの祈り」とは、聖務日課のうち、聖母マリアにちなむ祝日の、日没ころに行われる祈り(これを
 晩課と言います)のための音楽です。

第2曲 詩篇109「主はわが主に言いたまえり」(ガーディナー指揮89年ライヴ映像)
 ☆推薦盤☆    ◎マレット/コンパーニャ・デル・マドリガーレ(16)(グロッサ)        S    〇ガーディナー/イギリス・バロック管弦楽団(89)(アルヒーフ)        S    ・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ(04)(NAIVE)     A    ▲ベスティオン/ラ・タンペート(18)(Alpha)              A    ・サバール/ラ・カペーリャ・レイアル・デ・カタルーニャ(18)(Alia Vox)         A    モンテヴェルディはバロック初期の作曲家ですので、この作品のCDは、現代楽器の演奏を探    すのが大変なくらいです。もちろん、推薦盤はすべて古楽器演奏です。    S評価のCDが2つありますが、現状ではマレット盤がこれからの定盤、ガーディナー盤は今    までの定盤という感じです。    よって、マレット盤を◎にしました。国内盤の方がお好みの方には、ガーディナー盤やベステ    ィオン盤をお薦めします。    アレッサンドリーニ盤、サバール盤は共に廃盤中のようです。   

☆モーツァルト
作品NO.148 戴冠ミサ曲 ★ 2016年6月最新更新
  
 天国的な美しい旋律を作り出すモーツァルトが、声楽曲を作ったとしたらどんなイメージをお持ちにな
 るでしょう。実際は、モーツァルトの声楽曲で最も有名な作品は次にご紹介する「レクイエム」でして、
 作品の性質からして暗さが充満しています。これではモーツァルトの魅力が半減してしまいます。「レ
 クイエム」以外には、主にミサ曲を作曲したのですが、その中で最もモーツァルティックな魅力に満ち
 た作品としては、この「戴冠ミサ曲(あるいは戴冠式ミサ曲とも呼ばれます)」が最有力候補です。
 全部で6曲構成という短い作品ですが、1曲目の「キリエ」の冒頭から天国的な美しさ満点です。
 あるいは、6曲目の「アニュス・デイ」の旋律の美しさといったらどうでしょう。とてもこの世の音楽
 とは思えないです。2曲目の「グローリア」も次々と出てくる美しい旋律に我を忘れてしまいます。
 この作品は以上のように旋律がとても親しみやすく、また1曲が短いですので、初心者の方でも堪能で
 きます。声楽曲を聴こうという方は、まずはこの作品からいかがでしょうか。
 合唱経験からクラシックを聴こうという方でも、あるいは交響曲やピアノ曲には詳しいけれども声楽曲
 には触れていないという方でも、とにかくこの作品を聴いて頂きたいのです。これを聴かないなんて本
 当にもったいないと思うのです。

全曲(カラヤン指揮)   第6曲「アニュス・デイ」(カラヤン指揮バトル独唱抜粋)
 ☆推薦盤☆       ◎クーベリック/バイエルン放送交響楽団(73)(グラモフォン)     SS    ○カラヤン/ベルリン・フィル(75)(グラモフォン)           A    ▲コープマン/アムステルダム・バロック管弦楽団(94)(エラート)    A         「戴冠ミサ曲」の名盤紹介をしている書籍は非常に少ないです。    クーベリック盤が断然のSS評価です。お値段もお安いですし、無難な演奏と思われますので、    第一にお薦めします。    カラヤン盤は75年録音の旧盤の方です。A評価の「レクイエム」とのカップリングで、クーベ    リック盤よりは少しお高いだけです。私個人的には、クーベリック盤よりもこちらの方が好み    です。    上のYOUTUBEからお聴き頂けるのは、おそらく同じ音源かと思われる新盤の方ですのでご参考    までにどうぞ。ちなみに、ソプラノ独唱は、歴史に名を残す名歌手キャサリン・バトルです。    新盤はB評価ですので割愛しました。    コープマン盤は古楽器の演奏ですので、古楽器が好きな方向けです。録音が新しいためか、メ    リハリがあって非常に聴き取りやすいのですが、やや即興的で純粋な美しさに欠けている気が    しないでもないです。格安なのは魅力的です。    <更新のポイント> クーベリック盤の評価をSSとし、デイヴィス盤を外しました。

作品NO.149 レクイエム ★★★ 2017年1月最新更新

 モーツァルトの「レクイエム」については伝説化されているところがありまして、諸説が入り乱れ、今
 でも研究がされている段階です。はっきりと分かっていますのは、モーツァルト自身が作曲したのは第
 1曲と第2曲だけということです。他は、声楽部だけをモーツァルトが作曲し、オケの部分はモーツァ
 ルトの指示に基づいて弟子が作曲したということですが、いずれにしてもモーツァルト以外の人の手が
 加えられているのは事実です。よって、完全に「モーツァルト作曲」の曲は2曲しかありません。
 まず、作曲の経緯からご説明しますと、ある日、ネズミ色のマントを着た男がモーツァルトの前に現れ、
 「名前は聞かないでほしいが『レクイエム』を作曲してほしい」と頼みました。当時、オペラの「魔笛」
 作曲に取り掛かっていたモーツァルトは貧困と病気にあえいでいましたが、もはや命が長くはないこと
 を自覚していましたので、「これは地獄からの使者ではないか」と思い、レクイエムの作曲を承諾しま
 す。そして「自分自身のために」レクイエムの作曲に取り掛かった、とされています。この「自分自身
 のために」という部分が未だ謎の部分で、夭折の天才モーツァルトを伝説化したもの、という説があり
 ます。といいますのは、ネズミ色のマントを着た男も、その男にレクイエムの作曲を依頼させた人物も
 実在の人物であることが分かっていまして、モーツァルトのレクイエム作曲の意図が今一つよく分かっ
 ていないからです。「モーツァルトの書簡」も残っているのですが、それも偽作であるという説があり、
 全く真相は定かではないのが現状です。
 さて、病気は急に重くなり、いよいよこの作品の進行もままならなくなってしまいました。そこでモー
 ツァルトは信頼していた弟子を呼び、この作品を書き進めるよう指示しました。結局、モーツァルトは
 この作品の完成をみないうちに生涯を閉じ、翌年、弟子の補筆を加えた形で完成したのです。全部で1
 4曲からなりますが、すべてをモーツァルト自身が作曲したわけではないですので、この「補筆」に関
 しては様々な波紋を呼んでいます。CDのほとんどは、「補筆」による楽譜を使用した演奏なのですが、
 後に2人のモーツァルト研究家が補筆した楽譜を使用したCDも出ています。つまり、同じモーツァル
 トの「レクイエム」でも、CDによって曲が違うということが起きてしまっています。ここではこれ以
 上詳しいことは割愛させて頂きますので、興味のある方は是非他の専用サイトをあたってみて下さい。
 作品の特徴は、死を前にしたモーツァルトはもはや聴衆のことは考えず、自分の精神状態を吐露するか
 のように作曲しました。そのため、貧困と病気にあえいでいた晩年でさえ明るい曲を作曲していたので
 すが、この作品は例外的に暗く、深刻な曲となっています。すなわち、モーツァルトらしくない曲なの
 がこの「レクイエム」で、モーツァルトの「最期」の作品です。

第8曲「ラクリモーザ」(ベーム指揮)
 ☆推薦盤☆   ◎ベーム/ウィーン・フィル(71)(グラモフォン)            S お薦め!   B2○アーノンクール/ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス(03)(RCA) S   ▲ガーディナー/イギリス・バロック管弦楽団(86)(デッカ)       A    △カラヤン/ベルリン・フィル(75)(グラモフォン)           A    △バーンスタイン/バイエルン放送交響楽団(88)(グラモフォン)     B      20世紀中はベーム盤が断然の評価を得ていた名盤でした。今回の更新まではSS評価にして    いましたが、21世紀録音のアーノンクール盤が肩を並べているという状態です。    お薦め◎はベーム盤で変わりありません。アーノンクール盤も確かに素晴らしいのですが、古    楽器演奏であるということと、アーノンクールならではの斬新な演奏スタイルがありますので、    やはりまずはベーム盤から聴いて頂きたいからです。    ガーディナー盤も古楽器演奏です。この作品のCDとしては安定した評価を得ていますのでお    薦め度▲にしましたが、古楽器がお好みに合うかどうかです。    カラヤン盤は、86年のウィーン・フィル盤よりも、75年のベルリン・フィル盤の方が評価    は高いです。また、上でご紹介している「戴冠ミサ曲」が入っていますので、そちらもお聴き    になりたい方にはお薦めです。    最後のバーンスタイン盤は、評価はB評価と他のCDよりも低いのですが、例の「モーツァル    ト研究家」バイヤーによる補筆の楽譜を用いた演奏の代表盤でして、ベーム盤とは内容がかな    り異なります。そういう意味で採り上げておきました。    なお、他の楽譜による演奏に興味がある方は、専門の文献、ホームページをあたって下さい。    <更新のポイント> ベーム盤の評価をSSからSに下げ、アーノンクール盤をSに上げました。              また、ワルター盤を外しました。

☆リヒャルト・シュトラウス
作品NO.206 4つの最後の歌 ★★★ 2017年2月最新更新
   
 この歌曲集は文字通りリヒャルト・シュトラウスの最後の作品でして、あらゆる歌曲の中でも傑作の誉
 れが高いです。全曲ともソプラノ独唱とオーケストラのために書かれ、詩はヘッセとアイヒェンドルフ
 に基づいています。全曲とは「春」「九月」「眠りにつこうとして」「夕映えの中に」の4曲です。
 主題は翌年に亡くなるリヒャルト・シュトラウスそのものの死への諦念ですが、第1曲のみ、春の至福
 を歌っています。
 演奏時間は、第1曲が約3分、第2、3曲が約5分ずつ、第4曲が約8分で合計約22分と決して長い
 ものではありませんので、聴きやすいです。
 この作品は、作曲者の「辞世の句」ともいえる作品で、至高の境地、すでに作曲者の魂は浄化されてい
 るがごとく、この世の音楽とは思えないものがあります。特に第4曲が聴き所です。
 歌詞については、こちらからどうぞ。

全曲(何とシュヴァルツコップ独唱!)
 ☆推薦盤☆   ★◎シュヴァルツコップ/セル ベルリン放送交響楽団(65)(ワーナー) SS お薦め!    ○ヤノヴィッツ/カラヤン ベルリン・フィル(73)(グラモフォン)   A        20世紀を代表するソプラノ歌手、シュヴァルツコップの演奏は、ダントツの評価を得ている    不滅の名盤となっています。お薦め度は★です。上のYOUTUBEへのリンクは同じ音源です。    シュヴァルツコップの歌唱が大変素晴らしいのは事実なのですが、人間味が出過ぎていて、曲    の性質からいって、もっと透明感がある方がよりこの世との惜別の念としてふさわしいと考え    る評論家は、純粋さに満ちたカラヤン&ヤノヴィッツ盤をお薦めしています。    つまり、第4曲あたりでは、作曲者であるリヒャルト・シュトラウスの魂は、もはや現実の世    界にあるものではないと解釈する評論家が多いです。この曲のファンの方は、できれば両方持    っておきたいところです。        <更新のポイント> 特に変わりはございません。


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