名曲案内〜交響曲編Y〜

(ベートーヴェン<田園>〜<合唱>)



    
  やはりクラシックの華といえば大編成のオーケストラによる交響曲(シンフォニー)でしょう。
  日本のコンサートのプログラムでは常にメインに陣取る大曲ばかりです。
  クラシック鑑賞は、交響曲に始まり交響曲に終わるといってもいいでしょう。

ベートーヴェン


交響曲編T(サン=サーンス〜シューベルト)へ     ・交響曲編U(シューマン〜チャイコフスキー)へ

交響曲編V(ドヴォルザーク〜フランク)へ     ・交響曲編W(ブラームス〜プロコフィエフ)へ

交響曲編X(ベルリオーズ〜ベートーヴェン<運命>)へ      ・交響曲編Z(マーラー〜メンデルスゾーン)へ

交響曲編[(モーツァルト〜ラフマニノフ)へ




☆ベートーヴェン
作品NO.21 交響曲第6番「田園」 ★★ 2017年3月最新更新

 この交響曲もまた、あらゆる交響曲の中でも非常に有名な作品の1つです。交響曲としては珍しく、5
 つの楽章から成り立っています。これほど牧歌的なムードに溢れた交響曲は他になく、全体的に明るく、
 愉しい名作で、第5番「運命」とは対称的と言っていいほどの明るい曲風です。
 第1楽章は「田園についた時の晴れ晴れとした気分」を表現しています。第2楽章は「小川のほとりの
 情景」という自然への賛歌で、非常に牧歌的です。第3楽章は「田舎の人々の愉しいつどい」で、人間
 達の楽隊や踊りを表現していまして、愉しいです。第4楽章は「嵐」で自然の猛威を表現しています。
 嵐が吹き荒れる情景が眼前に拡がるようです。
 第5楽章は「羊飼いの歌」で、嵐が去った後の感謝の気持ちを表現しています。
 どの楽章も標題音楽のようにイメージが湧きやすく、あまり冗長にはなりませんので、初心者の方でも
 聴ける作品かと思われます。

全楽章(パーヴォ・ヤルヴィ指揮)  第1楽章(1936年ワルター指揮)
 ☆推薦盤☆   B2◎ワルター/コロンビア交響楽団(58)(SONY)            SS お薦め!    ○ワルター/コロンビア交響楽団(58)(SONY)            SS お薦め!  S×・ワルター/コロンビア交響楽団(58)(SONY)            SS    ▲ベーム/ウィーン・フィル(71)(グラモフォン)             A   △アバド/ベルリン・フィル(00)(グラモフォン)             A    ・ガーディナー/レボルショネール・エ・ロマンティーク(92)(アルヒーフ) A    ☆ワルター/ウィーン・フィル(36)(EMI)               B    ☆ワルター/ウィーン・フィル(36)(OPUS蔵)             B    「田園」には、ワルターの代名詞とも言えるSS評価の名盤があります。それが58年コロン    ビア交響楽団との録音です。この録音が収められたCDを3つ挙げておきました。    まず、ワルターの芸風と「田園」という交響曲の相性が抜群にいいです。ワルターは柔軟性に    富んだ指揮者ですが、それが作品の牧歌的な旋律美を存分に引き出しています。そして豊麗な    歌においては美しさ満点で、ワルターの魅力全快。こういう作品を振ったときのワルターは本    当に素晴らしいです。ありがたいことにステレオ録音でもあります。    ステレオ録音のワルター盤でさえ音質に抵抗のある方は、クラシック鑑賞の幅がすごくせまく    なってしまうと思うのです。この録音は、19世紀生まれの大巨匠ワルターの録音の中でも音    質がいい方に入りますので、これくらいの音質でも抵抗のある方は、多くの芸術遺産とも呼ぶ    べき録音に接することができなくなってしまいます。ものすごくもったいないお話です。    数年前までは、2番目の、S評価のベートーヴェンの第2番とのCDが、★絶対的なお薦め盤、    いえ、超お薦め盤で、このCDさえあれば他はいらないともいえるほどだったのですが、CD    の高音質化によって、かえって選択が難しくなってしまいました。    と言いますのも、「ベト2」とカップリングの高音質CDがないからです。これさえ発売され    れば何の問題もないのですが…。発売されたのは、ほとんどお薦めもされていない「運命」と    のBlu-specCD2となってしまいました。1番上のCDがそれです。    あくまでご参考までですが、Blu-specCD2の「田園」を聴くためにということで、この、    「運命」とのCDを第1のお薦めに、そして、「ベト2」とカップリングの通常音質のCDを    第2のお薦めとしました。3番目にはちょっとお高い、S×のSACD(紙ジャケット仕様で    す)を挙げておきました。    ベーム盤もワルター盤に迫るほどの、かなりの美演です。ワルターほどの牧歌的な魅力には欠    けるのですが、さすがに、ワルターと並ぶモーツァルトの大家であるベームならではの、細部    まで自然の美しさを追求した、デリケートで耽美的な表現は特筆に価するでしょう。心が洗わ    れるような演奏です。    新しい録音からはアバド盤を挙げておきます。    アバドの音楽性が活き、やはりベームのような耽美的な表現は秀逸で、この作品との相性の良    さを感じさせます。SHM−CDの割にはお安めなのもありがたいです。    次に、ガーディナー盤を挙げておきましたが、このCDは、輸入盤と共に長らく廃盤中です。    1番下の、ワルターのウィーン・フィルとの演奏は、ワルターの伝説的録音の1つです。    ワルターは第二次大戦後はアメリカに渡り、ニューヨーク・フィルやコロンビア交響楽団との    SONYの録音が多く残っていますが、戦前はウィーン・フィルとの伝説的な録音が旧EMI    に残されています。そのうちの1枚です。    正規のEMIのCDは現在廃盤中のため、OPUS蔵盤を採りあげました。音質は、まさに上    級者の方向けです。    この36年録音の「田園」は、LPレコードが開発される以前、ワルターの演奏としては最も    売れたもので、未だに色褪せないのは、コロンビア交響楽団との58年のステレオ録音にはな    い、弦楽器の美しさと、ウィーン情緒漂うワルター全盛期の指揮ぶりです。    YOUTUBEで聴ける演奏は、録音年が同じですので、おそらく同じ音源だと思われます。    <更新のポイント> 特に変わりはございません。
作品NO.22 交響曲第7番 ★★ 2017年3月最新更新

 ベートーヴェンの交響曲の中では、「運命」のように副題のつかない交響曲のため、知名度では劣りま
 す。ですが、4つの楽章すべてがあるリズムの反復によって書かれているために、とっつきやすく、歯
 切れがよく、演奏効果に富んでいまして、非常にファンが多い作品です。CMなど、テレビでも耳にす
 ることも多く、リズミカルで愉しいです。ワーグナーは「舞踏の神化」と評しました。
 全編の編成は「英雄」に似ています。第1楽章は大きな拡がりをもったスケールの大きな曲、第2楽章
 は「葬送行進曲」を思わせる深刻な曲ですが、英雄に比べてとっつきやすく、演奏時間も短いですので、
 「小英雄」と言ってもいい作品です。
 各楽章特有のリズムが全曲を貫いているため、おそらく、この作品にハマってしまったら、しばらくは
 脱出不可能な方もいらっしゃるのでは。
 私個人的には、大曲「英雄」を聴くための土台作りとして、この作品を先に聴くのもお薦めです。
 通称「ベト7」です。

第1楽章(クライバー指揮!指揮ぶりもお楽しみ下さい)
 ☆推薦盤☆  ★◎カルロス・クライバー/ウィーン・フィル(75、76)(グラモフォン) SS 超お薦め!    ○フルトヴェングラー/ウィーン・フィル(50)(ワ−ナー)        A  S○・フルトヴェングラー/ウィーン・フィル(50)(ワ−ナー)        A  S○▲カルロス・クライバー/バイエルン国立管弦楽団(82)(オルフェオ)   ?    この作品を初めて聴く方、あるいは初心者の方には録音の良いクライバー盤がお薦めです。    クライバーは強さと柔軟性を併せ持った指揮者ですが、それが演奏効果に富むこの交響曲と抜    群に相性がよく、速いテンポから繰り広げるクライバーの世界は爽快感満点。リズムも絶品で、    ベートーヴェン・サウンドを楽しむには、理想的な「ベト7」なのではないでしょうか。血湧    き肉踊るベートーヴェンです。    SS評価の運命」とカップリングされていますので、超々お薦めの殿堂入りのCDでもあり    ます。上のリンクから観れる映像は音源は違いますが、どうぞお楽しみ下さい。    ですが、いささかスポーツ的で、深刻な要素はない演奏ですから、ベートーヴェンの作品とし    ては深みがないと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。そういう方には、録音は古い    ですが、フルトヴェングラー盤がお薦めです。    娯楽性のある作品とはいえ、この交響曲もしっかりと大曲として受け止めています。50年の    録音ですので音は古いですが、鑑賞に差支える程ではないでしょう。堂々とした巨匠風のテン    ポ運びは立派でスケールが大きく、まさしく一大シンフォニーを聴く印象を与えてくれます。    第2楽章は「英雄」の「葬送行進曲」に通じるものがあり、温かい人間感情があふれています。    爽快なクライバー盤に対して、芸術至上主義的なフルトヴェングラー盤。初心者の方には前者    をお薦めしますが、スタイルが正反対のため、ぜひ両方持っておきたいところです。    カップリングの「運命」は「54年録音」の「運命」ですのでご注意下さい。    全く同じカップリングのハイブリッドSACDへのリンクもあります。SACDの互換機が必    要と記載されていますが、実物で確認しました。S○です。    なお、その下の、バイエルン国立管弦楽団とのクライバー盤は、こちらの方がリズムも軽快で、    オケも鳴っていて、ベト7だけをとればこちらの方が上、という声も多く、私も同感ですので    採り上げておきました。S○で日本語解説付きの輸入盤です。        <更新のポイント> クライバーのDVDへのリンクを外しました。
作品NO.23 交響曲第8番 ★★ 2017年3月最新更新

 この「交響曲第8番」は、ベートーヴェンの9つの交響曲の中で最も演奏時間が短いですが、全体的に
 とても明るく愉しく、ユーモアに溢れた曲として親しまれています。けれども、ベートーヴェンの9つ
 の交響曲のうち、最もマイナーな作品かもしれません。通称「ベト8」です。
 作曲の意図を研究した結果によりますと、当時の作曲家という職業から考えて(モーツァルトは依頼さ
 れた作品を作る「職人」「職業」的作曲家でしたが、ベートーヴェンの頃は現代のように、作曲家は意
 図に基づいて作曲をする、自由職であったと言われています)、この作品は真面目に受け止めるよりも、
 「お遊び」といったら言いすぎかもしれませんが、多分にベートーヴェンのユーモア、パロディを含ん
 だ作品のようです。
 そういう観点から聴くと、例えば第1楽章の最後の部分は確かにユーモアを感じさせますし、第2楽章
 の最後にいきなり大きな音で曲を締めくくるのも、聴き手を驚かせるようでユニークですし、第4楽章
 の最後も、どうやって終わるのだろう、「運命」のように引っ張るのだろうか、と考えているうちに、
 やはり「あれ?」という感じで終わってしまいます。愉快な作品です。

第1楽章(バーンスタイン指揮)
 ☆推薦盤☆  S○◎パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマー管弦楽団(05)(RCA)     S   B2○パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマー管弦楽団(05)(RCA)     S   ▲アバド/ベルリン・フィル(00)(グラモフォン)            A       ・ブリュッヘン/18世紀オーケストラ(89)(デッカ)          A        ◎のヤルヴィ盤は、カップリングの「英雄」がS評価ですので、「英雄」のカップリングとし    て聴けるのが魅力的です。第8番は「おまけ」という感覚で購入できますので、お薦め度◎と    しました。    2番目のCDはお安いBlu-specCD2なのですが、カップリングが良くありませんので、お薦    め度は○にしました。このあたりはお好みでどうぞ。    次に挙げたアバド盤は、演奏自体は良いのですが、ややお高い上にカップリングも良くありま    せん。    最後に、古楽器のブリュッヘン盤を挙げておきました。    古楽器による交響曲演奏においてはまさに第一人者のブリュッヘンによる演奏ですが、国内盤、    輸入盤共に廃盤中のようです。    <更新のポイント> S=イッセルシュテット盤を外しました。       
作品NO.24 交響曲第9番「合唱」 ★★ 2017年3月最新更新

 クラシックファンではない方にも有名なこの「第九」は、ベートーヴェンの最高傑作であるだけでなく、
 あらゆる音楽作品の中でも最高傑作の1つです。なぜ年末に演奏されることが多いのかということにつ
 きましては、本場のドイツに基づいたとされていますが、これは日本の慣習で、戦後、「第九」ほどの
 名曲ならばお客が入るということで、普段収入が乏しいオケや合唱団が年末年始を裕福に過ごすために
 (!?)今のNHK交響楽団が公演を行ったのが起源とされています。
 さて、有名な「歓喜の歌」は第4楽章から登場するのですが、それを知らない一般の方も多く、「第九」
 といえば「歓喜の歌」だと思われているところがあります。とんでもない!合唱が入るのは第4楽章の
 みです。更に、「歓喜の歌」の大合唱が始まる時間を考えれば、全体の5分の1程度しかありません。
 他の部分はれっきとした「交響曲」です。「第九」は、「交響曲」というジャンルに「合唱」を採り入
 れたという、「革命児」ベートーヴェンならではの、当時では画期的な作品なのです。実際の「第九」
 は、そこに至るまでに、オーケストラによる驚くべき音のドラマが展開され、3つの楽章があるからこ
 そ「合唱」の部分が活きてくるのですが…。
 第1楽章の冒頭のテーマは人間を威嚇する運命の主題です。過酷な運命が目の前に立ちはだかります。
 音楽は終始苦しみながら進み、戦います。
 第2楽章は”一見”明るく、苦しみを忘れようとする音楽です。中間部でガラっと雰囲気が変わりまし
 て、昔のよき想い出に浸る音楽となりますが、やがて悲しみと共に冒頭の主題が戻ってきてしまいます。
 この時のヴァイオリンの名残惜しさが非常に印象的で、重要な部分です。
 第3楽章は、温かい人間感情に溢れた美しい変奏曲です。いつまでもこの中に浸っていたいと思わせ、
 長い間、陶酔的なまでに美しい音楽が続きます。ところが…。
 平穏に満足してはいけなかったのです。過酷な運命から逃避しようとしていた自分に金管が警告を発し、
 ヴァイオリンが悲痛な調べでそれに応えます。一度はまた戻りたいと願い、美しい主題に戻りますが、
 「それではだめ!」と言わんばかりに、再び金管の警告が発せられます。今度こそ魂が目覚めます。
 このあたりは、音楽でここまで表現出来うるものかと感じさせられるほどで、文学、哲学に近いです。
 非常に重要な楽章でして、表現力のある指揮者の演奏によってこそ音楽が活きます。まさにベートーヴ
 ェンが音符に託した音によるドラマです。
 第4楽章は、汚い和音によって始まり、やがて低弦が「我々が求めているのはこんな音楽ではない」と
 言わんばかりに奏します。「こんな音楽」というのは第3楽章までを指していまして、第1楽章から第
 3楽章までの主題が数小節ずつ再現されるのですが、いずれも低弦によって否定されてしまいます。
 音楽は迷いながらも進行していきますが、やがて低弦から”わずかに”有名な「歓喜の歌」の主題が流
 れると、「これこそが我々の求めていた音楽だ!」と言わんばかりに心を弾ませて肯定し、歓喜の主題
 は段々と高音(ヴァイオリン)へと移り、やがて歓喜の主題が全体によって高らかに演奏されます。そ
 してバリトン独唱が「おお、友よ、我々が求めているのはこんな音楽ではない!」と歌い始めると、徐
 々に他の3人のソリストと大合唱が参加していき、有名なシラーの詩(こちらを参考になさって下さい。
 かなり宗教的です。)と「歓喜の歌」の主題が始まります。
 歌詞については、CDに付属の解説書をご覧下さい。
 大合唱による「歓喜の歌」が本格的に始まるのは、行進曲などの後で、まだまだ待たねばなりません。
 「第九」とは、「歓喜の歌」が始まるまでに、これだけの音のドラマが繰りひろげられるのです。
 この作品の初演者は、作曲者のベートーヴェン自身です。この頃には既に耳が不自由で、筆談による会
 話しかできなかったと言われています。
 音によってこれだけの表現を込めた、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」。もはや音楽という範疇
 を超えて、1つの芸術作品、人類の文化遺産と言えるのではないでしょうか。

第1楽章(バーンスタイン指揮)  第4楽章(バーンスタイン指揮)
 ☆推薦盤☆   ★◎フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(ワ−ナー)   SS 超お薦め!    △フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(デルタ)         SS    ・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(オルフェオ)        ?    ・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(オルフェオ)        ?  S○・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(ワーナー)        SS  S○▲パーヴォ・ヤルヴィ/ドイツ・カンマー管弦楽団(08)(RCA)         A    △クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団(57)(ワーナー)           A    △トスカニーニ/NBC交響楽団(52)(RCA)                 B   ・トスカニーニ/NBC交響楽団(52)(RCA)                 B    ○バーンスタイン/ウィーン・フィル(79)(グラモフォン)            B    ・ガーディナー/レヴォルショネール・エ・ロマンティークO(92)(アルヒーフ)  B    ・ガーディナー/レヴォルショネール・エ・ロマンティークO(92)(アルヒーフ)  B       「第九」のCDには不滅の金字塔があります。星の数ほどあるクラシックのCDのうち、最も    有名なCDの最有力候補、フルトヴェングラーの「第九」。「バイロイトの第九」とも呼ばれ    ています。20世紀最大の指揮者が、クラシック音楽の最高傑作とも呼ばれる「第九」を演奏    したのですから、最高の演奏が実現されたのも当然のことなのかもしれませんが、想像を超越    した演奏です。    演奏が再現行為である以上、どんな名演奏でもそれを上回る演奏がいずれ出現する可能性は常    にあるものですが、こと、このフルトヴェングラーのバイロイト盤に限っては、その可能性は    限りなく0に近いとも言われています。その理由には、この演奏自体が素晴らしかったという    だけではなく、第二次世界大戦後、荒廃した戦犯国ドイツで、国を代表する指揮者フルトヴェ    ングラー(ナチスと関係があるのではという疑惑を持たれ、演奏活動を休止させられていまし    た)が、やっと再開したバイロイト音楽祭(詳しくはこちらをどうぞ)の成功を双肩に託され、    バイロイト祝祭管弦楽団共々、世界平和を祈るような心境であったからこそ、空前絶後の名演    が誕生したとも考えられるからです。時代背景が現在とは全く違いますので、当時のような心    境での演奏が可能なはずがありません。同じフルトヴェングラーの「運命」と同様です。    そのような時代背景も加えて、地球が滅びるまで、この演奏がベスト1の座を守り続けるかも    しれません。「音楽表現」が、「楽器演奏」という領域を超越しています。    神業という他ないと私は思っています。    世界的指揮者のブロムシュテットは実際にこの演奏を「生で」聴いたのですが、同じ指揮者と    して自分のしていることが、フルトヴェングラーと比べられると、悩み抜くそうです。そして、    「第九」を演奏する時には、もし聴衆の中に一人でも、「バイロイトの第九」の実演に立ち会    った人がいれば、あるいはCDを聴いたことがある人でさえいることを想像すると、それだけ    で怖くてステージに上がれないのだそうです。    言わば、目標とすらできない、ただ別格中の別格の演奏が存在するということです。    フルトヴェングラーの「バイロイトの第九」についてまだまだ続きます。これだけ筆舌に尽く    しがたい演奏、CDは他にはありません。クラシックファンにとっては「人類の至宝」です。    第1楽章の、スケールが雄大で深遠な表現も非常に素晴らしいのですが、録音の古さもあって、    マイクが捉えきっていないこともあるのでしょう、第1楽章は、もっとダイナミックな演奏が    お好みの方もいらっしゃると思われます。特に再現部は音の拡がりに欠けます。いくらこの演    奏を絶賛してもしきれない私でも、個人的には、唯一の欠点の楽章だと思っています。    ですが、その欠点を補って余りあり過ぎる、他の楽章の素晴らしさは、私の言語表現の域を超    えています。    第2楽章の名残惜しそうな弦の響きは、弦楽器が言葉を発しているように聴こえます。    更に、個人的に筆舌に尽くしがたいと思うのは、第3楽章です。フルトヴェングラーが遅いテ    ンポから奏でる冒頭の主題のこぼれ出るような人間感情の温かさ、警告を発する時の金管の悪    魔じみた音色、ヴァイオリンの悲痛な響き。もはや楽器ではなくなって、自然発生的に音を発    する生命体のような…。    おそらくこの楽章は真似をすることすら不可能なのではないでしょうか。ただただ、フルトヴ    ェングラーの芸術の巨きさと演奏者に感服する他なく、これほどの演奏記録が遺されているこ    とに感謝したいです。    第4楽章も、低弦の響きはまるで人間がしゃべるように聴こえます。    耳を澄ましてお聴き下さい。ここまでくると、もはや音楽を超越しているのかもしれません。    クライマックスでは、フルトヴェングラーはオーケストラが乱れて鳴らないくらいに加速させ、    天に召されていくさまを表現しています。この「クライマックスの加速」の、デフォルメはフ    ルトヴェングラーの十八番なのですが「第九」の第4楽章では最大限に機能しているのではな    いでしょうか。もうこれ以上、音も言葉も必要ないのでしょう。    この演奏はもちろん、フルトヴェングラーの最高傑作の1枚で、クラシックCDを代表する永    遠の名盤の1枚です。    ということで、「人類の至宝」であるこの演奏を超えるものはないとされているのですが、い    かんせん音が悪いのです。同時期に録音された「英雄」はだいぶ音質が良くなっているのに、    「バイロイトの第九」はまだまだイマイチです。私も、再発売の度に何枚も購入し、現在最も    流出している1番上のワーナーミュージック盤も所有していますが、10年前からほとんど変    わっていない気がします。なぜでしょう。正直、初心者の方には厳しい…です…ね。    このCDは演奏だけを考えますと、もちろん★究極のお薦め盤 なのですが、録音の古さは認    めざるを得ません。    「第3番「英雄」、第5番「運命」のところでも触れましたが、フルトヴェングラー指揮によ    る「第九」の演奏もいくつも存在します。「バイロイトの第九」としてご紹介しているのは旧    EMI、現在はワーナーミュージックが、そしてデルタ等から発売されている、1951年7    月29日、バイロイト祝祭歌劇場でのライヴ録音です。ご注意下さい。    この音源の音質改善はレコード界の大命題ともされているようで、正規盤はワーナーの音源な    のですが、数年に一度は、別のレーベルから「バイロイトの幻の音源発見」のようなCDが発    売されています。興味のある方はどうぞ。私も音質改善を切に望みます。    現在、最も信頼がおけるワーナー以外のレーベルのCDは推薦盤の2番目のCDです。    焦点は、「どれくらい音質が違うのか?」ということなのですが、正直、私のような素人で、    しかも高性能の音響機器を持っているわけでもない者には、何となく音質がいいような気がす    るとしか言えません。ワーナー盤より音質が劣っているということはないと思いますので、私    が「第九」を聴く時にはこのCDを聴いています。    耳に自信のある方、またはお金を惜しまない方は、是非聴いて頂ければ。ただ、歌詞対訳が無    いのでご注意下さい。    ところで、フルトヴェングラーの「バイロイトの第九」の音源といったら旧EMIが所有して    いたのですが、2007年に、このEMIの音源とは違う、「バイエルン放送が録音した音源」    をCD化したものが発売されました。確かに、EMIの音源とは所々違っています。音質はや    や劣っています。こちらの音質は、初心者の方には厳しいでしょう。    この秘蔵音源のCD化により、何と、1951年7月29日に、バイロイト祝祭歌劇場詳し    くはこちらをどうぞ)で、フルトヴェングラーによって演奏された「第九」が、「バイエルン    の音源」である可能性が出てきてしまいました。諸説が飛び交い、全く真偽のほどはさだかで    はありませんが、「バイエルンの音源」が従来のワーナーの音源と違うのは確かです。    興味のある方はこちらからどうぞ。    上から3番目のCDが国内盤へのリンクになっていますが、廃盤中のようです。輸入盤はその    下です。    発売当時は話題になったものの、それ以来はさっぱりというのが現状でして、やはり、旧EM    I、現在ではワーナー所有の音源が一番信頼がおけると言うことなのでしょう。    その下のCDは、SACDの互換機が必要と記載されていますが、実物で確認しました。S○    です。フルトヴェングラーのバイロイト盤については以上にしまして。    次にお薦めするCDは非常に困っています。ちょっと主観的にいくつかご紹介します。    ステレオ録音の名盤を挙げますと、バーンスタイン盤でしょうか。21世紀の今や、ヤルヴィ    盤の方が上かもしれませんが、「英雄」と同様、感情を十分に込めた表現が光っています。    音の良さもあって、第1楽章などは「バイロイトの第九」よりもダイナミックです。いえ、む    しろそれよりも、全楽章とも、芸術表現が陳腐でないことに敬意を表したいです。もしかする    と、上のYOUTUBEと同じ音源かもしれません。どうぞお聴き下さい。    さすがにフルトヴェングラーには及びませんが、第3楽章の人間感情溢れる表現などは、バー    ンスタインのお得意とも言え、素晴らしいです。私個人的には、あっさりとし過ぎているヤル    ヴィ盤よりも上だと思いますし、20世紀においては堂々とステレオ録音でNo1と言える演    奏でしたので、「バイロイトの第九」の次にお薦めです。お値段もお安いです。     3番手は、ベートーヴェンの録音に、21世紀の名盤を残し続けているヤルヴィ盤です。バー    ンスタイン盤とは好みの問題としか言えないのですが、ダイナミックな第1楽章はともかく、    他の楽章のあっさりし過ぎさは、いくらそれが21世紀の「第九」演奏と言えようとも、疑問    を感じてしまいます。もちろん、あくまで「好みの問題」です。S○のCDです。    次に、堂々とした風格のクレンペラー盤をお薦めしたいです。    トスカニーニ盤はそもそも録音が古いのですが、フルトヴェングラーとは正反対のアプローチ    で、聴く価値は大いにあります。第1楽章はフルトヴェングラーを凌駕する音のダイナミズム    で、トスカーニイズムといったら比肩するものはない演奏でしょう。第1楽章だけでなく、他    の楽章も「楽譜に忠実に」というトスカニーニの芸風とはちょっと違った面が垣間見られるの    ですが、さすがにこの録音の古さではどうでしょうか。1番上にはお得な2枚組を、2番目に    は、RCAからのXRCDを挙げておきました。    最後に挙げたのは、ガーディナーによる古楽器の演奏で、古楽器ファンの方には是非ともお薦    めしたいのですが、国内盤は廃盤中、輸入盤も在庫がないようです。    結局、「第九」は、「バイロイトの第九」の録音が古くて鑑賞にならないという方は、まずは    バーンスタイン盤か、ヤルヴィ盤がお薦め、その次には、やはり「バイロイトの第九」を聴い    て頂きたいということになります。    <更新のポイント> クレンペラー盤を追加しました。


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