紹介指揮者一覧





1.朝比奈隆  1908〜2001   B

 
日本人指揮者で有名なのは何と言っても小澤征爾だが、「隠れた実力者」扱いされてきた名指  揮者が一人いる。朝比奈隆である。朝比奈はカラヤンと同い年だが2001年まで生き、21  世紀になった時には指揮者界の長老というべき存在であった。演奏活動は、「手兵」大阪フィ  ルの海外公演もあったが、ほとんど国内にとどまり、同オケの常任指揮者として活動し、小澤  のような華やかな世界からは遠かった。しかし、この日本の一指揮者に過ぎない朝比奈を某評  論家が絶賛し、固定ファンが徐々に増え、ファンの間では朝比奈のブルックナーは生年も没年  もほぼ同じヴァントと並び称された。ヴァントといえばクラシック史上世界一のブルックナー  指揮者とも言える存在。そのヴァントと並び称されたのである。また、ベートーヴェンの「英  雄」「運命」なども非常に高い評価を受けた。これはあくまで、「彼のファンの中」ではあっ  たが、90年代に入ってからの最晩年は、国内を通して人気があった。東京公演などでのお得  意なレパートリーのコンサートでは、小澤を凌ぐ人気もあったほどである。90歳を超えても  彼は指揮台に立ち続けたが、とても90歳を超えていたとは思えない、背筋の伸びた立派な姿  をご記憶の方も多いと思う。  朝比奈の芸風は、徹底した職人仕事で、クレンペラーに近い。朝比奈は各パートのバランスを  整えたり、表情に味付けをしたりということはせず、ただひたすら楽員全員がしっかりと細部  まで弾くことに専念させた。よって、ステージではどのパートをとってもずっしりと、しっか  りとしたハーモニーが響くのである。彼の得意なレパートリーといったら、ブルックナー、ベ  ートーヴェンのスケールの大きな交響曲であるという点も、彼の芸風に合っている。  彼は「愚直」という言葉を好み、芝居気は0であったので、私の好きなタイプとはいえない。  同様に、クレンペラーも私の好きなタイプではないのだが、クレンペラーのファンの方は是非  聴いてみてはいかがだろう。  どういうわけか、朝比奈の没後、彼の遺した名盤はほとんどが廃盤になってしまったため、新  しく朝比奈の音楽を知ろうというクラシックファンには苦々しい時期が続いたが、生誕100  周年を記念して、名演が揃ってSACDで復活した。彼のファンにはお宝もののCDばかり。  今後、没後の朝比奈の音楽はどう評価されていくのだろう。  ☆推薦盤☆  ・ブルックナー 交響曲第4番/大阪フィル(93)(ポニーキャニオン)      B  ・ブルックナー 交響曲第7番/大阪フィル(75)(ビクター)          B  ・ブルックナー 交響曲第8番/大阪フィル(94)(ポニーキャニオン)      B  ・ブルックナー 交響曲第9番/大阪フィル(95)(ポニーキャニオン)      B  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/大阪フィル(92)(ポニーキャニオン) B  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/大阪フィル(00)(エクストン)    B   <テンポかなり遅><重厚><客観主義>
2.アシュケナージ  1937〜   S

 
アシュケナージは現役の音楽家の中でも屈指の知名度を誇る。特に日本では抜群である。  彼は本業はピアニストで、ピアニストとしての活動は現在も続けてはいるが、副業の指揮者活  動の方が活発なよう。このまま指揮者が本業となってしまうのかもしれない。  彼はプレヴィンの後を受け、2007年8月までNHK交響楽団の音楽監督を務め、桂冠指揮  者の名を与えられるほど、N響との結びつきが強い。彼がN響の指揮をしている姿を目にした  ことのある方は多いと思う。しかし、指揮者としては全くといっていいほど名演を残してはお  らず、実力よりも名前の方がはるかに先行している感がある。  ピアニストとしては、世界でも有数の知名度を誇る。というのも、彼のレパートリーは凄まじ  く多く、バッハからショスタコーヴィチまでほとんどの作曲家の曲を網羅し、膨大な録音を残  していることや、ショパンにおいてはほぼすべての曲を録音しているからである。  しかし、ピアニスト活動においても、あまりの知名度の割には、一級レベルの名盤は少ない。  確かに彼の音色は美しく、テクニックもあるのだが、音楽解釈については特に個性や凄みがあ  る訳ではなく、ハメを外さない優等生で、悪く言えば、無難と平凡が紙一重という感がある。  ポリーニアルゲリッチなど現役の一線級のピアニストが弾かないマイナーな曲まで録音があ  るため、世界的な彼の演奏を聴けることはありがたいのだが、同じ土俵で戦った場合は、今一  歩歯が立たないことがほとんど。今後どのような道を進むのだろうか。  ☆推薦盤☆  <指揮者>   特になし          <ピアニスト>    ・〜別れの曲〜ショパン名曲集/(71〜84)(デッカ)             ?  ・ショパン 練習曲集/(71,72,81,82)(デッカ)           S  ・ショパン バラード/(76〜84)(デッカ)                 A ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/プレヴィン(75)(デッカ)       S  ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番/ハイティンク(84)(デッカ)       A 
3.アバド  1933〜   S

 
 アバドはフルトヴェングラーカラヤンに次ぐ、世界最高のオーケストラ、ベルリン・フィル  ハーモニーの第5代目の常任指揮者であった。従って、現役の中では知名度では世界一である  と言っていいし、今や指揮者界の長老的存在となった。  芸風は「音符主義」まではいかないが、どちらかというと無個性で、音楽性で勝負するタイプ  である。従って、ベートーヴェンなどはどうしてもドラマ性に欠けてしまうのだが、他の作曲  家には結構名盤を残している。タイプとしては、カラヤンをややおとなしくした感じ。これで  無個性となると平凡なだけだが、客観主義的ながらカンタービレを効かせた響きの美しさが非  常に心地よく、推薦盤に挙げた演奏は皆、彼の卓越した音楽性によって魅力が増大している。  その点や、無難な演奏である点を考慮すると、初心者にはもってこいの指揮者でもある。  彼は皮肉にもベルリン・フィルと組んでからこれといった名演を残していないので、CDで聴  くにはその前、あるいは後の方が評判は良い。  一時期、高齢による体調不良で指揮台に立つこと自体が無かったこともあり、今後来日の機会  があるかどうかは未定だが、現在は病気から見事に復帰し、自らオケを結成して活動している。  
1998年10月、ピリスと共にタワーレコード渋谷店にてサイン会
 ☆推薦盤☆  ・ヴェルディ レクイエム/ミラノ・スカラ座管弦楽団(79,80)(グラモフォン) S  ・ハイドン 交響曲第100番「軍隊」/ヨーロッパ室内0(92)(グラモフォン)  A  ・ブラームス 交響曲第2番/ベルリンフィル(88)(独グラモフォン)       S  ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/ベルリンフィル(89)(グラモフォン)     A  ・マーラー 交響曲第5番/ベルリンフィル(93)(グラモフォン)         A  ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢交響曲第4番/ベルリンフィル(95)(SONY)A  ・モーツァルト 交響曲第40番第41番/ロンドン交響楽団(80)(グラモフォン)A  ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/ウィーンフィル(94)(グラモフォン)    A  ・ロッシーニ 「セビリアの理髪師」/ロンドンSO(71)(グラモフォン)    SS   <柔軟><客観主義><万能型> 
4.アーノンクール  1929〜   A

 
 しばしば「現代の問題児」との指摘もされるのがアーノンクールである。しかし、いい意味で  言えば、没個性的な指揮者が多い現在、貴重な個性派、いや、超個性派とも言える存在。  ウィーン・フィルとの共演も多く、現在、知名度は世界でもトップクラスである。  彼は非常に革新的な考えをもった指揮者で、斬新な演奏を常に心がけている主観主義者である。  従って、それがツボにはまった時は強烈な印象を与える名演を残すが、不発に終わったときは  批判の的となる。「無難」という言葉など、自らかなぐり捨てているのだが、そこまで割り切  っているのは立派なことだと私は思う。無難な演奏ばかりを繰り返していては、新鮮な感動を  受ける演奏が生まれることは難しいことだと思う。  20世紀後半に、古楽器による復古的演奏が行われ始め、古楽器演奏だから許されたのか、非  常に斬新な演奏をする指揮者、奏者が頭角を現してきた。彼こそがその先駆者的存在である。  「こんな演奏の仕方があったのか」という、クラシック演奏の一大変革期をもたらした。  彼は元々古楽器演奏の指揮者であったため、現在は現代楽器のオケと両方の録音が残っている。  ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスという楽団を指揮したときは前者、ウィーン・フィル  や、アムステルダム・コンセルト・ヘボウ、ヨーロッパ室内管弦楽団など、現代楽器の有名な  オケを指揮したときは後者と覚えておいて頂きたい。  だが、後者のような現代楽器の有名なオケとの演奏でも、古楽器的な演奏をするのが彼の一貫  したスタイルのようである。  ☆推薦盤☆  ・ヴィヴァルディ 「四季」/WCM(77)(テルデック)             A  ・シューベルト 交響曲第5番/アムステルダムコンセルトヘボウ(92)(テルデック)A  ・シューベルト 交響曲第8番/アムステルダムコンセルトヘボウ(92)(テルデック)A  ・バッハ カンタータ第147番/WCM(81)(テルデック)           B  ・ヘンデル 水上の音楽/WCM(78)(テルデック)               S  ・モーツァルト 交響曲第40番/ヨーロッパ室内O(91)(テルデック)      B     *WCMはウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの略です。      <主観主義><安定性×><古楽器>
5.ヴァント  1912〜2002   B ブルックナーのファンはS

 
1912年に生まれながらも、21世紀まで生きたので、ごく最近までいた印象が強いヴァン  トは、指揮者の歴史上、類をみないほどの大器晩成型であった。  何しろ、手兵北ドイツ放送響との一連の演奏が高い評価を受け、世界の表舞台に出たのが齢7  0代〜80代の時で、その後ベルリン・フィルとのブルックナーの演奏が絶賛を浴びたのが9  0歳近くだったのである。この時点で超一流の仲間入りをした。と思っていたら、10年も経  たないうちに亡くなってしまった。  彼は主にブルックナー指揮者であるが、ひたすらスコア(楽譜)を読み込み、緻密な音楽を創り  出す。これといった大芝居をうつタイプではないが、その適切なテンポ設定、音の強弱などを、  徹底したリハーサルによってステージにもってくるタイプである。これも、長年のスコアの読  み込みの産物らしい。  彼とベルリン・フィルとのブルックナー録音は、いずれも各曲の最高の評価を得ている。  とはいえ、誰もが100%絶賛、という訳ではなく、彼の緻密な演奏を息苦しく感じる人も中  にはいるので、好みに合うかを試す意味でも、ブルックナーを鑑賞する上で、彼の演奏を聴か  ずにはいられないだろう。  彼のブルックナーがいかに素晴らしいとは言え、さすがにブルックナーだけでは対象が上級者  に限られてしまう。  初心者向けとしては、モーツァルトの交響曲第40番第41番シューベルトの「未完成」  の録音もあるので、そちらで彼の円熟の境地に達した演奏を堪能するのもいかが?  ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ベルリンフィル(95)(RCA)     B  ・ブラームス  交響曲第2番/北ドイツ放送響(96)(RCA)          A  ・ブラームス  交響曲第3番/北ドイツ放送響(95)(RCA)          A  ・ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」/ベルリンフィル(98)(RCA)SS  ・ブルックナー 交響曲第5番/ベルリンフィル(96)(RCA)         SS  ・ブルックナー 交響曲第7番/ベルリンフィル(99)(RCA)         SS  ・ブルックナー 交響曲第8番/ベルリンフィル(01)(RCA)        ↑SS  ・ブルックナー 交響曲第9番/ベルリンフィル(98)(RCA)          S  ・モーツァルト 交響曲第39番&第40番&第41番/〃(90,94)(RCA)  B   <緻密><超スペシャリスト>
6.小澤征爾  1935〜   S

 
日本で最も有名な指揮者、「OZAWA」。「世界的指揮者」とされているが、どれほど世界  的に有名なのかというと、本場のクラシック中級者くらいなら、まずOZAWAの名前は知っ  ているといったレベルである。つまり、アーノンクール、メータ、ムーティら、現役の世界的  花形指揮者の中の一人である。なにせニューイヤー・コンサートを指揮した人物なのだ。  ニューイヤー・コンサートの指揮台に日本人が立つこと自体、奇跡に近いことである。  そして彼はウィーン国立歌劇場の音楽監督にまで上りつめた。指揮者としてこれ以上の出世は  ないと言ってもいいくらいなのだ。  彼は現代の「音符主義」を地でいっているような指揮者で、音楽に対する勘と耳のよさで勝負  するタイプである。よって、芝居気はなく、音楽は常に楽譜そのものに、無味無臭、没個性的  に進められる。耳が良いので、各パートのバランスはハイレベルに保たれ、気品がある。さわ  やかな音楽を創り出す。あえて言えば、フルトヴェングラートスカニーニとは正反対のスタ  イルである。泥臭さがないともいえるだろう。  彼も70歳を過ぎたため、近年は指揮者としての活動が少なくなってしまった。一時期は病気  療養との話もあった。よって、彼が今、日本で必ず指揮台に立つのは、夏に恒例となったサイ  トウ・キネン・フェスティバルである。これは長野県松本市を中心に毎年何日かにかけて開催  されるので、興味のある方は足を運んではいかがだろうか。あるいは、体調が良ければ東京公  演などもある。   ちなみに、彼の手兵サイトウ・キネン・オーケストラとは、桐朋学園出身の演奏家を中心に結  成されており、常設のオケではなく、夏のフェスティバルの時だけ松本に集合する。世界各地  で活躍しているソリストが多いので、個々の技術レベルは相当高く、世界の一流オケと比較し  ても全くひけをとらないらしい。  ☆推薦盤☆  ・オルフ カルミナブラーナ/ベルリンフィル(88)(フィリップス)       B  ・チャイコフスキー 弦楽セレナーデ/サイトウ・キネンO(92)(フィリップス)↑A  ・ブラームス 交響曲第4番/サイトウ・キネンO(89)(フィリップス)     B  ・マーラー 交響曲第2番「復活」/サイトウ・キネンO(00)(SONY)    A ・ニューイヤー・コンサート2002(02)(フィリップス)           B      <音符主義><気品><万能型> 
7.カラヤン  1908〜1989   S
 
 
20世紀で最も有名な指揮者。「帝王」と呼ばれる。フルトヴェングラーの後を受けてベルリ  ン・フィルの第4代目の常任指揮者に就き、クラシック音楽の全盛期をもたらせた最大の功労  者。どのくらい有名なのかは、クラシックを聴いたことがない人でも、カラヤンという名前は  知っている程である。クラシックファンでない方々にとっては、指揮者=カラヤンである。他  に知っている指揮者といえば、せいぜい小澤征爾くらいだろう(ダン池田も?)。  カラヤンは恐ろしいほど幅広いレパートリーを誇り、膨大な数の録音を世に送り出した。しか  し、彼ほど賛否が分かれる指揮者もいない。いや、非難の多い指揮者もいないのである。  彼はクラシック音楽の普及のため、サウンドとしての音楽を追及した。そのため、本来のクラ  シック音楽のもつ芸術性をどこかに置き忘れてしまったのである。従って、彼の音楽は、磨き  に磨いたベルリン・フィルの技術とあいまって、スピーディーで、爽快で、「かっこよく」、  「耳に心地よい」音楽である。芸術性に乏しいこの芸風こそが、彼の「罪」となってしまった。  しかし、彼がクラシック音楽の普及に大変な功績を残したのも事実である。レコードだけでな  く、コンサートの映像(ビデオ、LD)の普及にも尽力した。CDが現在の収録時間にまで拡  大されたのは、彼が「ベートーヴェンの『第九』が1枚のCDに収まるように』」と依頼した  ためだというのは有名な話である。  今日ほどクラシックが普及しているのは、彼の功績といっても全く過言ではなく、ましてや西  洋の音楽が、遠い日本に普及したのも、彼のおかげである。カラヤンの全盛期、カラヤン(指  揮者)、ベルリン・フィル(オーケストラ)、グラモフォン(レコード会社)が揃えば怖いも  のなしといった時代が続いた。  クラシック初心者の方は、あまり深いことを考えずに、彼のサウンドを重視した音楽から入る  のもいいのでは。彼には批判も多いが、名盤も多いのは事実である。しかし、彼の演奏スタイ  ルに慣れたら、他の、芸術主義の指揮者の演奏を聴いてみると、きっとクラシック音楽の芸術  としての奥の深さに触れることができるだろう。  アバド小澤らと同様、初心者にはもってこいの指揮者である。  ☆推薦盤☆  ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/ウィーンフィル(84)(グラモフォン) A  ・ドヴォルザーク 交響曲第8番&第9番/ウィーンフィル(85)(グラモフォン)  A   ・ビゼー 「カルメン」/ベルリンフィル(82,83)(グラモフォン)      SS  ・フランク 交響曲/パリ管弦楽団(69)(EMI)                S   ・ブラームス 交響曲第1番/ベルリンフィル(87)(グラモフォン)        A  ・ブラームス 交響曲第2番&第3番/ベルリンフィル(86)(グラモフォン)    A  ・プッチーニ 「蝶々夫人」/ウィーンフィル(74)(デッカ)          SS  ・リスト 前奏曲/ベルリンフィル(67)(グラモフォン)             S  ・R・シュトラウス「ツァラストゥトラはかく語りき」/BPO(83)(G)    SS  ・R・シュトラウス「ばらの騎士」/フィルハーモニア管弦楽団(56)(EMI)   S   <客観主義><超万能型><スペシャリスト> 
8.クナッパーツブッシュ  1888〜1965   B
 
 
ドイツにクナッパーツブッシュというこ難しい名前の指揮者がいた。と、こんな表現をするの  も、彼は同時期のフルトヴェングラーワルターと比べていかにも地味な存在だったからであ  る。しかし、ウィーン・フィルやベルリン・フィルを振っているし、バイロイトの音楽祭にも  常連として参加しているので、当時の第一級の指揮者ではあったのだろう。  彼の固定ファンは多い。特に日本ではその傾向が顕著らしいが、年々彼の音楽のとてつもなさ  が日本でも良く知られるところとなってきた。そして、彼を神格化するファンが多いのである。  彼は名指揮者、というか、迷指揮者といってもいいのだが、デフォルメ(楽譜を無視すること)  の鬼であった。彼は遊び心のある指揮者で、演奏を途中で止めてしまったり、指揮中に背中を  かいたりという人物であったが、超名演と迷演が紙一重のところがあり、ツボにはまった時に  はとてつもない音楽を聴かせる。その実力たるや、ちょっと名の知れた程度の指揮者には及び  もつかない表現力をもっていた。この、彼独特のデフォルメこそが彼の芸風のいのちであり、  そういう意味では数少ない芸術至上主義の指揮者である。それに、他の誰にも真似できないと  いう点では、天才的な閃きも持っていたとも言えるだろう。  彼のテンポは概して遅い。時には常識外に遅い時もあるが、それが巨大なスケールを生み出し、  宇宙的拡がりをみせる。そのため、巨人指揮者の異名をもつ。  そんな彼の芸風にピッタリだったのはブルックナーワーグナーで、この二人の作曲家におい  ては別格といってもいいほどの名演を聴かせた。  彼の凄さは、音を聴いているだけでも解る。他の指揮者からは聴き得ない、まさに地の底から  大爆発が起こったような音を出すことができるのは、彼独特の世界。  彼の音楽は残念ながら初心者には解りにくいかもしれない。ブルックナーとワーグナー自体が  初心者向けではないこともあるのだが、小品でも、彼の凄さが解るのは中〜上級者だろう。  なお、彼のように亜流で個性が強いカリスマ指揮者のファンは、その指揮者の演奏ならば何で  もとりこになってしまうという意味で、信者と呼ばれる。  信者の意見を鵜呑みにするのは早計だが、一度は聴いてみる価値のある指揮者だと私は思う。    ☆推薦盤☆  ・ブラームス 交響曲第3番/ベルリンフィル(50)(セブンシーズ)       ↑A  ・ブルックナー 交響曲第5番/ウィーンフィル(56)(デッカ)          A  ・ブルックナー 交響曲第8番/ミュンヘンフィル(63)(ウェストミンスター)  ↑S  ・ワーグナー 管弦楽曲集/ミュンヘンフィル、ウィーンフィル   (各種)     A  ・ワーグナー 「ワルキューレ」第1幕全曲/ウィーンフィル(57)(デッカ)    S  ・ワーグナー 「パルジファル」/バイロイト祝祭管弦楽団(62)(フィリップス) SS  ・クナッパーツブッシュ名演集/ウィーンフィル(57,60)(デッカ)       A   <テンポかなり遅><スケール巨大><デフォルメ> 
9.カルロス・クライバー  1930〜2004   S

 
父に名指揮者エーリッヒ・クライバーをもつサラブレッド。20世紀最後のカリスマ指揮者。  彼は現在の指揮者界の重鎮達と同世代なのだが、2004年の突然の訃報に世界中が落胆した。  現役の時の彼は天才指揮者の名を欲しいままにした。それは彼の尋常でない耳の良さと音楽に  対する勘によるものだと私は思う。  スタイルは現代的でスピード感のあるものなので、外面は現代の客観主義と同じであるが、感  動の質がまるで違う。今まさにその曲が生まれたかのような新鮮なニュアンスを持って響く彼  の音は、音にいのちが吹き込まれているかのように響くのである。よって音楽は常に活き活き  とし、躍動感を伴って流れていく。激しさと柔軟性も併せ持っている。強音と弱音のバランス  は最高で、格調も高い。「音」で勝負するタイプなので、初心者にも分かりやすい。  それらが「天才」と呼ばれる所以で、他の指揮者からは聴くことの出来ない光彩を放った音を  オケから引き出すことができた。  最大の欠点はレパートリーが少なかったことだが、絶対の自信のある曲しか演奏しないという、  彼の流儀を一生貫き通した。それゆえに、ウィーン・フィルと喧嘩をして出入り禁止になった  り、当日のドタキャンがあったりと、エピソードにもことかかない指揮者だった。その一種の  神秘性が、彼にカリスマ性を持たせることとなった。そのカリスマ性を恐れて、カラヤンが、  彼をベルリン・フィルの指揮台に一度ものせることはなかった。  彼は実はオペラの曲が得意で、十八番がズラリとあるが、交響曲も、ほぼすべてが第一級の評  判である。当然、自信のある曲しか演奏しなかったことにも起因するのだが、最もはずれの少  ない指揮者と言うこともできるだろう。  また、彼の指揮姿の流麗さは、さながら音楽の化身のようであり、これ自体が既に芸術ともな  っている。合わせるオケの方は大変だったらしいが…是非DVDで観て頂きたい。  ☆推薦盤☆  ・ウェーバー「魔弾の射手」/ドレスデン国立管弦楽団(73)(グラモフォン)    S  ・ヴェルディ 「椿姫」/バイエルン国立管弦楽団(76,77)(グラモフォン)   S  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ウィーンフィル(78)(グラモフォン)  A  ・ブラームス 交響曲第4番/ウィーンフィル(80)(グラモフォン)        S  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/ウィーンフィル(74)(グラモフォン) SS  ・ベートーヴェン 交響曲第7番/ウィーンフィル(75,76)(グラモフォン)  SS  ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/ドレスデン国立(80〜82)(グラモフォン)A  ・ニューイヤー・コンサート1989&1992(89,92)(SONY)      A  ・ニューイヤー・コンサート1989(DVD)(89)(ユニバーサルミュージック) A  *ベートーヴェンの交響曲第5番と第7番は同じCDです。    <テンポやや速><かなり鋭い><かなり柔軟><レパートリー超狭い>
10.クリュイタンス  1905〜1967   B

 
フランス音楽の指揮者の大家といったら、モントゥーなどの名前が挙がるが、実際にラヴェル  などのCDの評判でいえば、断然、このクリュイタンスである。ベルギー出身ながらフランス  で活躍した指揮者である。  フランス出身の指揮者は数多く、フランス音楽の筆頭であるラヴェルを皆得意としているが、  ラヴェルの演奏においてこのクリュイタンスの右に出るものはいない。20世紀に録音が可能  になってから、指揮者は数え切れないほどいるが、フランス音楽のスペシャリストはクリュイ  タンスなのである。  名盤の数こそ少ないが、これという演奏、特にフランスの作曲家の楽曲の演奏は、誰も及ばぬ  SS級の超名盤ばかり。あくまで音楽評論家による評価ではあるとは言え、これは凄いとしか  言いようがない。彼こそまさにスペシャリスト系指揮者の代表格である。  レパートリーは、むしろ幅広いのだが、ここで紹介している指揮者の中では、世界的知名度の  点でかなり下位である。カラヤンのように「何でも屋」ではないからなのだろうか。  なお、彼はベルリン・フィルにも客演指揮者として招かれているが、ベルリン・フィルとして  初のベート−ヴェンの交響曲全集の録音を行ったのは、フルトヴェングラーでもカラヤンでも  なく、彼であった。  ☆推薦盤☆  ・ビゼー 「アルルの女」第一&第二組曲/パリ音楽院管弦楽団(64)(EMI)SS  ・フォーレ レクイエム/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI)        SS  ・ラヴェル ボレロ/パリ音楽院管弦楽団(61)(EMI)          SS  ・ラヴェル 「ダフニスとクロエ」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI) SS  ・ラヴェル 「マ・メール・ロア」全曲/パリ音楽院管弦楽団(62)(EMI) SS   <超スペシャリスト>
11.クレンペラー  1885〜1973   A

 
指揮者によって演奏の何が違ってくるのかというと、一番分かりやすいのはテンポだろう。  クレンペラーの音楽は「構造主義」と呼ばれ、概してテンポは遅く、感情に流されることがな  く、堂々と音楽を響かせていくスタイルである。従って立派さではこの上なく、ずっしりとし  た重厚な響きが生まれる。似たようなタイプとしては、朝比奈隆ベームがいるが、クレンペ  ラーこそが本家本元、「構造主義」を地でいくスタイルである。旋律を意識的に歌わなかった  り、テンポが遅かったり、トスカニーニのようなダイナミズムもないので、一見無味乾燥、重  々しく感じられる面があるが、その分細部まで充実した響きを聴かせる。  よって、曲との相性も当然あるし、聴く人によって好みが分かれるスタイルである。  ちなみに、彼の言葉に、「私とワルターとは性格も音楽に対する考え方も正反対」「フルトヴ  ェングラーの、楽曲の終わりでテンポを速めてゆくのは感心できない」というものがある。  彼の若い頃の演奏はあまり評価が芳しくはない。とてもここに紹介できるレベルの指揮者では  なかったという。しかし、晩年になって、ガラっと演奏スタイルを変えてしまった。  彼は寝タバコで火だるまになったり、指揮台から落ちて演奏不能に陥ったりと、エピソードに  はことかかない指揮者だが、半身不随、言語不明瞭になりながらも指揮をしていた最晩年の頃  の演奏の方が評価が高い。テンポが更に遅くなり、音楽も表現も、より深みを増したため、こ  の頃の彼を「満身創痍」と表現する評論家もいる。  ☆推薦盤☆  ・ブラームス ドイツ・レクイエム/フィルハーモニア管弦楽団(61)(EMI)  B  ・ヘンデル 「メサイア」/ニューフィルハーモニア管弦楽団(64)(EMI)   S  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/フィルハーモニアO(59)(EMI)  A  ・ベートーヴェン ミサ・ソレムニス/ニューフィルハーモニアO(65)(EMI) S  ・マーラー 交響曲第2番「復活」/フィルハーモニアO(61,62)(EMI)  B  ・マーラー 交響曲「大地の歌」/フィルハーモニア管弦楽団(64,66)(EMI)S  ・メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコットランド」/ 〃 (60)(EMI)  S  ・メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」/フィルハーモニア管弦楽団(60)(EMI) A  ・ワーグナー 管弦楽曲集T/フィルハーモニア管弦楽団 (60,61)(EMI) A  ・ワーグナー 管弦楽曲集U/フィルハーモニア管弦楽団 (60,61)(EMI) A   <テンポ遅><スケールかなり大><重厚>
12.クーベリック  1914〜1996   B

 
 チェコ生まれのクーベリックはチェコ・フィルハーモニーの首席指揮者であったが、チェコの  政治的内紛により祖国を追われることとなった。  その後ドイツで18年間、バイエルン放送響を手兵として活躍、一躍ヨーロッパでその名を高  めた。  1986年に指揮者を引退するが、89年にチェコで民主化革命がおこり、翌年、首都プラハ  で「プラハの春」音楽祭が行われた際に再びチェコ・フィルを振り、スメタナの「わが祖国」  の歴史的名演を行い、チェコ・フィルの終身名誉指揮者となった。  クーベリックはドイツ・オーストリア系の曲もレパートリーとしているが、何と言ってもお国  物のチェコの曲を振らせたら、右に出るものはいない程の存在である。そういう意味では、お  国物のスペシャリストであり、当面彼の演奏を超えるものは出てきそうにない。  それだけでも充分歴史に名を残すに値する指揮者である。  チェコの音楽と言ったら、ドイツ・オーストリア系、イタリア、フランスなどのクラシック音  楽の本場に次ぐ存在であり、何と言ってもドヴォルザークが有名である。    ☆推薦盤☆  ・ウェーバー 魔弾の射手/バイエルン放送響(79)(デッカ)           S  ・シューマン 交響曲第3番「ライン」/バイエルン放送響(79)(SONY)    A  ・スメタナ わが祖国/ボストン交響楽団(71)(グラモフォン)         SS  ・ドヴォルザーク 交響曲第9番/ベルリンフィル(72)(グラモフォン)      B  ・ドヴォルザーク スラヴ舞曲集/バイエルン放送響(73,74)(グラモフォン) SS  ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/バイエルン放送響(80)(SONY)A   ・モーツァルト 「戴冠ミサ曲」/バイエルン放送交響楽団(73)(グラモフォン) *B
13.ゲルギエフ  1953〜   A

 
 現在、世界で最も意欲的に活動している指揮者、あるいは、今後の大活躍が期待される指揮者  の筆頭に挙げられるのがゲルギエフである。  彼はロシアの指揮者であるが、とにかく世界中を飛び回っており、10年間で30枚のCDを  録音したり、サンクトペテルブルク、フィンランド、イスラエル、ロッテルダム、ロンドンで  毎年音楽祭を開催したりしながら、かつベルリン・フィル、ウィーン・フィル、ボストン交響  楽団などの世界の主要オーケストラと共演しているのであるから、凄いバイタリティである。  もちろん、来日して、日本のオケと共演もしている。毎年来日公演がある。  演奏もやはりバイタリティに満ちており、迫力、力感が凄い。よくこれで体がもつなあと思わ  れるほどの指揮ぶりである。  彼は元々劇場の音楽監督を主としてきたので、得意なジャンルはオペラやバレエである。交響  曲も含め、本格的に録音を始めたのは90年代からなので、まさに今後が期待される逸材であ  る。従って、彼のCDは今の段階でも評価は高いが、録音が新しく、実績がないだけに、私の  評価としてはランクを下げざるを得なかった。将来的には同曲一番のSS評価の名盤になりそ  うなものもある。  彼の迫力ある指揮ぶりを見るのなら、当然だが実演に接するのが1番である。今後も精力的に  来日してくれると思われるので、ぜひ生で観て頂きたいものだ。  ただ、彼は気力で押すタイプなので、気力がのらない時の演奏はさっぱりとか。  ☆推薦盤☆  ・ショスタコーヴィチ 交響曲第7番/キーロフ劇場O他(01)(フィリップス)   A  ・ストラヴィンスキー 春の祭典/キーロフ劇場管弦楽団(99)(フィリップス)   A  ・ストラヴィンスキー 火の鳥/キーロフ劇場管弦楽団(95)(フィリップス)    A  ・チャイコフスキー 眠りの森の美女/キーロフ劇場O(92)(フィリップス)    A  ・ラフマニノフ 交響曲第2番/キーロフ劇場管弦楽団(93)(グラモフォン)    A  ・リムスキー=コルサコフ シェエラザード/キーロフ劇場O(01)(フィリップス) S    <情熱強><安定性やや劣>
14.シューリヒト  1880〜1967   B

 
 まさに通好みの指揮者の筆頭格がシューリヒトである。ドイツの指揮者だが、本場ヨーロッパ  では、同じく19世紀生まれのトスカニーニフルトヴェングラーワルターらに比べていか  にも地味な存在で、スター指揮者として脚光を浴びることはなかった。  しかも、トスカニーニの情熱、フルトヴェングラーのドラマ性、ワルターの豊麗さのように、  これといった個性もなく、大衆受けする要素にも乏しい指揮者であった。  彼の芸風の真価は非常に解りづらい。テンポは速く、旋律を歌うことも無いので、誇張や聴衆  への媚びもなく、更にスケールは小さいので、いかにも淡白で、雑な印象を与える。  しかし、彼の音楽は、ひょうひょうとした流れの中に、実は千変万化の表情の移ろいがあった  り、曲の最も大事な部分を実直に表現していたりという、聴く側に「知」を求めるというもの  である。  よって、とても初心者向けとは言えないし、よほど耳の肥えた方でないと、彼の音楽は理解で  きないかもしれない。地味な存在だったのは、芸風の解りづらさも多分に影響しているだろう。  晩年の彼は湖のほとりに暮らし、自然を愛し続けた。そんな彼の最後の大傑作がブルックナー  の交響曲第8番、第9番である。ブルックナーにおいては彼のテンポの速さ、雑さ、スケール  の小ささが裏目に出るはずなのだが、大自然をこよなく愛し、枯淡の境地に達した彼だからこ  そ成しえた至芸である。  ☆推薦盤☆  ・ブルックナー 交響曲第8番/ウィーンフィル(63)(EMI)          B  ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーンフィル(61)(EMI)          A  ・ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」/パリ音楽院管弦楽団(57)(EMI)   B   <テンポかなり速><スケール小> 
15.ジュリーニ  1914〜2005   B

 
 ジュリーニは、世界的な名声に比べて、特定のポストに就いていた期間が短く、晩年はフリー  としてウィーン・フィル、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウなどに招かれて客  演指揮者として活躍した。  ジュリーニの言葉に、「私はスコアと共に生き、スコアは私の一部になる。その瞬間、私は作  曲家の召使となる。作曲家は天才で、私は何者でもない。」というものがある。この、作曲家  至上主義というものはモントゥーと同じであるが、ジュリーニの場合もやはり、モントゥーと  同じように作曲家、曲に対して愛情を持ち、演奏させていただく喜びを感じることのできる指  揮者であった。  ちなみに、トスカニーニの、スコアこそがすべてという客観主義も、同じく作曲家至上主義か  ら来ていると言われている。  晩年、テンポが遅くなり、スケールはより大きくなっていったが、テンポを遅くすることで緻  密な表現が可能になった。作曲者が楽譜に書き入れた音符のすべてが聴き手に伝わるように、  という考えに基づいていると、本人は語っている。  彼の音楽観が行き着いた最後の形なのだろう。  ☆推薦盤☆  ・ドヴォルザーク 交響曲第8番/ロイヤルコンセルトヘボウ(90)(SONY) B  ・ブラームス ドイツ・レクイエム/ウィーンフィル(87)(グラモフォン)   B  ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーンフィル(88)(グラモフォン)     B  ・モーツァルト 「フィガロの結婚」/フィルハーモニアO(59)(EMI)   A  ・モーツァルト 「ドン・ジョバンニ」/フィルハーモニアO(59)(EMI)  A     <テンポやや遅><かなり柔軟>
16.ショルティ 1912〜1997   B

 
 イギリスという国では、依然社会的階層が根ざしており、クラシック音楽や指揮者の地位は、  他の国々に比べると驚くほど高く、例を挙げると、バルビローリ、マリナー、ラトルらには  「Sir(サー)」の称号が与えられている。ショルティはハンガリー生まれだが、夫人が  イギリス出身であることと、イギリス音楽界への功績を認められて、サーの称号を得ている。  なお、イギリスにはEMIやDECCA(デッカ)というメジャーレーベルがあるにも関わ  らず、未だに大指揮者と呼べるほどの人物は輩出していない。ラトルが今後、そういった存  在になれるかどうか。  ショルティは、名盤も多く輩出しているが、それよりも、クラシック音楽界への功績という  点で大きく評価されてしかるべき指揮者である。  彼の最大の功績は何と言っても、上演に4日、CDでは12,3枚はかかるという驚異の大  作、ワーグナーの「ニーベルングの指輪」の世界初全曲版録音を果たしたことだろう。この  録音にデッカとショルティは10年もの時間を費やした(当初はクナッパーツブッシュを起  用したが、途中で挫折してしまった)。この録音はありがたいことにステレオ録音でもあり、  今なお、この作品の断然のベスト演奏との評価を得ている、正真正銘の歴史的名盤である。  また、彼はオーケストラのトレーナーとしては「血も涙もない」と表現されるほど厳しく、  アメリカのシカゴ交響楽団を、世界最高レベルのアンサンブル集団へと鍛え上げた。  彼の芸風は、どちらかというと現代風の没個性的なスタイルではあるが、「一糸乱れぬアン  サンブル」をモットーとし、小節の始めにはすべての音がピタリと合わないと気が済まない  程の完璧主義者であった。よって、ヨーロッパの伝統的な解釈が必要とされるロマン派の時  代の音楽はあまり得意ではないが(ウィーン・フィルとのリハーサルの時、楽員が怒って帰  ってしまったというエピソードもある)、それ以降のマーラーらの現代音楽には、精密さと  重厚さを兼ね備えた見事なまでの手腕を発揮している。   ☆推薦盤☆  ・エルガー 「威風堂々」第1番/ロンドン交響楽団(77)(デッカ)      A  ・バルトーク 弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽/                シカゴ交響楽団(89)(デッカ)         A  ・マーラー 交響曲第4番/シカゴ交響楽団(83)(デッカ)          A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵<管弦楽版>/シカゴ交響楽団 (80)(デッカ) S  ・モーツァルト 「魔笛」/ウィーン・フィル(69)(デッカ)        SS  ・ワーグナー 「ニーベルングの指輪」/〃(58、62、64、65)(デッカ)SS   <現代音楽○><やや鋭い>
17.チェリビダッケ  1912〜1996   B

 
 指揮者の中には、いや、ピアニストなどの音楽家全般の中には、演奏が独特であるのに加え、  考え方も独特な者がいる。例えばクナッパーツブッシュが代表例である。  演奏は主観のかたまり、やりたい放題であるし、指揮者という仕事自体も「自分の演奏を聴き  たくないものは来るな」的な、大衆を拒否するものがあった。こういった指揮者は、我々聴き  手としては概して好き嫌いが激しくなり、好きな人はその指揮者を神格化する傾向にある。  チェリビダッケもそういった指揮者の一人である。録音嫌いで、現役時代はほとんど録音を残  さなかったため、彼の死後に、遺族の意向でCD化された演奏が多い。また、相当な毒舌家と  して知られ、他の指揮者に対する批判は絶えなかった。自分の思うような演奏ができないとい  う理由で、あのベルリン・フィルとまで犬猿の仲になったというエピソードもある。  彼の演奏スタイルは、哲学に深く通じていたこともあり、哲学的な音楽解釈が根底にあった。  「音は鳴らすものではなく、自然現象から発するもの」という持論があったため、テンポは概  して遅い。まさに、音はオケが鳴らしていると言うよりも、自然発生的に生じるように聴こえ  たり、作曲者の心の響きに聴こえたりする。彼の演奏を聴きこめば、すぐに彼の演奏だと判る  ものが多い。チェリのこういった音楽観は、録音嫌いということにも通じていたのだろう。  彼は「レコードは音楽を破壊する」とまで言い切るほどであった。   そのため、一回一回の演奏の価値というものが高まり、神々しささえ感じさせ、ましてや録音  がないことが彼を神格化させたので、彼のファンの中には徹底した信者が多い。   特に、音楽にダイナミズムを求める方は、彼と相性がいいとはいえないが、興味半分で聴いて  みてはいかがだろう。音楽に対する考え方の幅が拡がると思う。  ☆推薦盤☆(信者ならばすべてSSか?)  ・ブラームス 交響曲第4番/シュトゥットガルト放送響(74)(グラモフォン) B  ・ブルックナー 交響曲第5番/ミュンヘン・フィル(93)(EMI)      B  ・ブルックナー 交響曲第8番/ミュンヘン・フィル(93)(EMI)      B   <テンポ遅〜超遅><スケール大><主観主義>
18.デュトワ  1936〜   A

 
 クラシックでは、有名な演奏家が必ずしも名盤を数多く残しているとは限らないし、逆に、世  界的知名度は今一つでも、残した録音が高い評価を得ている演奏家もいる。  デュトワは日本と非常に深い関係がある。彼自身、大の親日家ということもあるのだが、現在、  NHK交響楽団の名誉音楽監督、宮崎国際音楽祭の芸術監督を務めている。以前はN響の常任  指揮者だったこともあって、同楽団を率いて海外ツアーを行ったり、NHKの大河ドラマの音  楽の指揮をしたり、更には「徹子の部屋」に出演することもあった。  このように、身近な存在のため、実力よりも知名度が先行しているデュトワであるが、実は我  々クラシックファンにはお宝物の名盤を数多く残している大変な実力者なのである。  また、現役では最高のフランス音楽の指揮者で、アンセルメ、クリュイタンスの後継とも言え  る存在である。  ヨーロッパでは、ウィーン・フィルやベルリン・フィルとよく共演したというタイプではない  し、マスコミとあまり関わりをもたなかったため、知名度は今一つであるが、カナダのモント  リオール交響楽団の音楽監督を25年間務め、同楽団を世界レベルの楽団に育て上げた。  そして、残した名盤の数々を考えると、まさに「隠れた実力者」といえるだろう。指揮者とし  ての実力は、現在世界最高レベルにあるといっても過言ではない。  そんな彼の演奏を、我々は生で聴けるのであるから、彼が指揮台に立つときはぜひ駆けつけた  い。しかし、プレヴィン同様、深刻な交響曲には弱いようだ。  ☆推薦盤☆   ・サン=サーンス 交響曲第3番/モントリオール交響楽団(86)(デッカ)    S  ・チャイコフスキー 白鳥の湖/モントリオール交響楽団(91)(デッカ)     S  ・ビゼー「アルルの女」/モントリオール交響楽団(86)(デッカ)        A  ・フランク 交響曲/モントリオール交響楽団(89)(デッカ)          S  ・プロコフィエフ 交響曲第1番&第5番/モントリオールSO(88)(デッカ) SS  ・ホルスト 惑星/モントリオール交響楽団(86)(デッカ)           A  ・ムソルグスキー 展覧会の絵/モントリオール交響楽団(85)(デッカ)     S  <管弦楽曲○><フランス音楽○><親日派>
19.トスカニーニ  1867〜1957   S
 
 
ドイツのフルトヴェングラーと肩を並べた、20世紀最大の指揮者の一人。イタリア生まれ。  フルトヴェングラーの芸風とは常に比較されてきたが、音の背後にあるドラマなどを重んじた  フルトヴェングラーとは正反対の芸風で、彼にとってはスコア(楽譜)こそがすべてであった。  現代の指揮者にはやりの、この「客観主義」であるが、トスカニーニの場合は似て非なるもの  であった。彼は、「音」にすべてを託す。よって演奏中、パッションは炎のように燃え立ち、  リズムは地の底にまで突き刺さる。楽員一人たりとも気を抜くことは許されず、全身全霊を込  めた音楽を創造していく。この音のダイナミズムこそが、彼の芸風であった。従って、概して  テンポは速く、楽譜のffなどの記号も殊更強調される。ただ楽譜どおりに演奏するスタイル  と一線を画しているのは、彼の音楽に対する熱意、芸術家としての格の違いだろう。スコアに  は忠実ながらも、最高のエネルギーに満ちた「音」を聴かせてくれるのが彼である。  ここまで徹底して楽員を管理するには、普通の接し方で通じるはずがない。彼は凄まじいかん  しゃく持ちで知られていた。  リハーサルの最中に納得がいかないと、怒号、罵声が飛ぶことなど当たり前。しかもスコアを  破ったり、指揮棒を投げつけることも日常茶飯事で、裁判沙汰になることさえあったと言う。  しかし、彼の音楽の素晴らしさは楽員も認めざるを得なかったし、イタリア人ゆえの陽気な性  格で、楽員からは非常に慕われていたし、一般の人気も凄かった。  残念ながら、彼の録音のほとんどは音質が非常に悪く、数枚のステレオ録音が残されているだ  けである。しかし、彼は表現というよりも、音そのもので勝負するタイプなので、古い録音で  も彼の音楽の凄まじさはよく解ると思う。  彼が後世に与えた影響も計り知れない。オペラの時にオーケストラが演奏する「オーケストラ  ピット」を考案したのは彼であるし、「指揮者は作品を演奏させて頂く」という、彼の「作曲  者至上主義」は、指揮法を学ぶ原点とされたり、指揮者たるものはオーケストラという「楽器」  を操るためには、君主であるべきだという、19世紀からの伝統的な指揮者の在り方を踏襲す  る姿は模範とされた(現代ではこうした伝統はほとんど崩壊した)。  そのカリスマ性もあいまって、彼は「指揮者の中の王」とも呼ばれる。  ☆推薦盤☆  ・ヴェルディ レクイエム/NBC交響楽団(51)(RCA)            S  ・ベートーヴェン 交響曲第1番/NBC交響楽団(51)(RCA)         A  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/NBC交響楽団(53)(RCA)    ↑A  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/NBC交響楽団(52)(RCA)    ↑A  ・ベートーヴェン 交響曲全集/NBC交響楽団(39)(RCA)         *A  ・メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」/NBC交響楽団(54)(RCA)  S  ・レスピーギ 交響詩「ローマ三部作」/NBC交響楽団(49〜53)(RCA)  SS  ・ロッシーニ 序曲集/NBC交響楽団(50)(RCA)              A  ・ワーグナー ステレオ録音/NBC交響楽団(54)(Music & Arts)         ?  *ベートーヴェンの交響曲第1番と第3番は同じCDです。   <テンポ速><超鋭い><情熱爆発><客観主義>
20.ドゥダメル  1981〜   A
 
 
21世紀だからこそ誕生したとも言える、超新星。南米の、西洋音楽とは縁が遠いベネズエラ  の地で、ベルリン・フィルの音楽監督ラトルをして「クラシック音楽の未来はベネズエラにあ  る」とまで言わしめた逸材が、なぜ今、世界中の注目を浴びているのか。  ドゥダメルは、1981年生まれ。まだ20代で、指揮者としてはあまりに若すぎるのだが、  17歳でシモン・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラ(SBYOV)の音楽  監督に就任。2004年に指揮者の国際コンクールで優勝した。  彼にはまだめぼしい名盤はないし、世界的な指揮者でもない。名指揮者と言えるのかどうかも  まだ判らない。そのため、デュダメルと表記されることもあるくらいなのだが、彼と、シモン  ・ボリバル・ユース・オーケストラ・オブ・ベネズエラは、クラシック界の話題の先端にある。  詳しくは2008年の来日公演について紹介してあるこちらをご覧下さい。  簡潔にまとめると、ベネズエラというクラシックとは縁が遠い国で、青少年の更生のために音  楽教育を取り入れた教育システムが根付き、その最高位にあるのがSBYOVである。このオ  ケは25歳までのユース・オーケストラなので、本職の方からすればセミプロ程度にしか思え  ないかもしれないのだが、同じ音楽教育を受けたドゥダメルの指揮棒の元、ベートーヴェンや  チャイコフスキーのCDを完成し、演奏旅行も行っている。  確かに世界的なオケに比べればアンサンブルの雑さは目立つが、若いオケと指揮者ゆえに、そ  の情熱あふれる演奏スタイルは、本場のプロ中のプロの心をも掴んだ。  ベルリン・フィルのメンバーが直接指導にあたったり、前述のラトル、そしてアバドという第  一級の指揮者が指揮台に立ったりということは、いかにドゥダメルとオケに彼らを惹きつける  ものがあったかということを如実に示している。  ドゥダメル自身は他のオケを指揮してもいるが、CD化、DVD化されているものは、皆SB  YOVとの演奏である。  私が彼のベートーヴェンを聴いた限りでは、現代的な速めのテンポで、リズムはきびきびと刻  まれるスタイルなのだが、所々にテンポを自在に変化させる独特の表現がある。  しかし、まだ20代という、駆け出しもいいところの年代。彼の演奏を評価するにはあまりに  も早すぎる。  本当にクラシックの将来を担うことになるのだろうか。これという名盤を早く聴きたい。  ☆推薦盤☆  ・フィエスタ!/SBYOV(グラモフォン)                  ?  ・チャイコフスキー 交響曲第5番/SBYOV(グラモフォン)         ?  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」&第7番/SBYOV(グラモフォン)  ?  ・マーラー 交響曲第5番/SBYOV(グラモフォン)             ?  ・プロミス・オブ・ミュージック/ドゥダメルのドキュメンタリーDVD      ?  ・教皇ベネディクト16世 バースデイ・コンサート/SBYOV DVD     ?  ・ライヴ・フロム・ザルツブルク/SBYOV DVD              ?
21.バレンボイム  1942〜   A

 
バレンボイムは現在は指揮者として活動しており、よく来日するので名前を聞いたことのある  方も多いと思うが、彼は本来はピアニストであった。それも、異常なまでの天才ピアニストで  あった。何と7歳の時にすべてのベートーヴェンのプログラムを弾いたというのだから、常識 では考えられない。当時の彼は神童の名を欲しいままにしていた。  彼は二十代になると、指揮業も兼ねるようになってきたが、現在は高齢ということもあるのか、  指揮業に専念しているようだ。  しかし、指揮業はあまり芳しいとはいえない。パリ管弦楽団の音楽監督に就いた時には、その  不評の責任を追及されたし、これといった名演も出していない。  音楽の才能はありあまるものをもっていた天才だけに、早熟だったのか。  ワーグナーでは割とよい演奏をしているようだ。  疑いない天才音楽家だけに、もう一花咲かせて欲しいところ。  ☆推薦盤☆  <指揮者>   ・ワーグナー トリスタンとイゾルデ/ベルリンフィル(94)(テルデック)     B  ・ワーグナー パルジファル/ベルリンフィル(89、90)(テルデック)      B         <ピアニスト>    ・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/ベルリンフィル(88)(テルデック)    B  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/ベルリンフィル(89)(テルデック)    B  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第24番/ベルリンフィル(88)(テルデック)    A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」/ベルリンフィル(89)( 〃 ) A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/ベルリンフィル(88)(テルデック)    B     *すべてピアノ+指揮(弾き振り)  *モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と第23番は同じCDです。  *モーツァルトのピアノ協奏曲第24番と第26番と第27番は同じCDです。
22.バーンスタイン  1918〜1990   S
 
 
アメリカ生まれのバーンスタインは、カラヤンと同時期の指揮者で、日本では人気を二分した。  すなわち、20世紀後半のステレオ録音時代を代表する大指揮者である。カラヤン以外で同時  期の大指揮者には、ウィーン・フィルとの共演で名高いベーム、ロシアのムラヴィンスキーら  がいる。いずれも、モノーラル録音の時代に生まれながら、ステレオ録音で名演を鑑賞できる  世代である。  バーンスタインといえば、まず浮かぶのはマーラーである。彼は同じくマーラー指揮者であっ  たワルターの後継であり、先輩ワルター以上といってもよい名演を残した。マーラーの交響曲  に限っては彼の演奏を選べばまずは間違いなく、それだけでも歴史に名を残す指揮者と言える。  しかし、彼は万能型で、レパートリーはかなり広い。特にベートーヴェンにおいては彼の雄弁  さや、カラヤンの及びもつかぬ表現力とあいまって、名演奏がある。交響曲第3番「英雄」、  交響曲第9番「合唱」はとりわけ、フルトヴェングラーの録音がモノーラルで音質が悪いため、  ステレオ録音としては真っ先に挙げられるほどの名演である。  彼はウィーン・フィルとは数多く録音しているが、ベルリン・フィルの指揮台に上がったこと  は一度しかない。ある日、ベルリン・フィルの常任指揮者であったカラヤンが指揮棒を振ると、  いつになく音がよく鳴る。その前日にバーンスタインがベルリン・フィルを振ったことを知っ  たカラヤンは、二度と彼をベルリン・フィルの指揮台にのせなかったというのは有名な話。  そのたった一度の共演が、推薦盤に挙げてあるマーラーの「交響曲第9番」である。  彼の芸風は、感情をムキ出しにするスタイルである。激しい部分では、非常に恰幅がよく、豪  快で、情熱的な演奏をする傍ら、叙情的な部分では、内面を吐露するかのような哀切に満ちた  演奏をする。そのため、ライヴ録音の方が評価は高い。  彼は自分の感情の赴くままに演奏する。批判されようが自分のスタイルを貫く主義である。よ  って初心者の方にもとっつきやすい指揮者ではあるのだが、如何せんマーラーは曲自体が分か  りづらい。  マーラー以外の作曲者の演奏から、バーンスタインに触れてみてはいかがだろう。  ちなみに、彼の作曲した「ウェスト・サイド・ストーリー」は、名指揮者が作曲した作品とし  ては最も有名な作品。演奏曲によっては、ピアニストとしても登場する多才な指揮者である。  ☆推薦盤☆  ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー/コロンビアSO(59)(SONY) S  ・ショスタコーヴィチ 交響曲第5番/ニューヨークフィル(79)(SONY)   S  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/ウィーンフィル(78)(グラモフォン) A  ・ベートーヴェン 交響曲第9番/ウィーンフィル(79)(グラモフォン)     A  ・ベートーヴェン ミサ・ソレムニス/アムステルダムCG(78)(グラモフォン) S  ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/アムステルダムCG(87)(グラモフォン)  A  ・マーラー 交響曲第2番「復活」/ニューヨークフィル(87)(グラモフォン) SS  ・マーラー 交響曲第5番/ウィーンフィル(87)(グラモフォン)       SS  ・マーラー 交響曲第9番/アムステルダムCG(85)(グラモフォン)      S  ・マーラー 交響曲第9番/ベルリンフィル(79)(グラモフォン)        S  ・モーツァルト レクイエム/バイエルン放送交響楽団(88)(グラモフォン)   A    *アムステルダムCGはアムステルダム・コンセルト・ヘボウの略です   <やや万能型><実演派><スペシャリスト><情熱強><作曲> 
23.フルトヴェングラー  1886〜1954   S

 
イタリアのトスカニーニと人気を二分した、20世紀最大の指揮者の一人。特に日本において  は神格化されている。  彼の芸風は、「真芸術主義」とも言えるもので、作品の外面のみを捉えて演奏するのではなく、  作曲家が作品に込めた主張、ドラマを音として表現するものである。こういった演奏スタイル  は、ドイツの「精神主義」という伝統的な演奏法であり、彼は見事にそれを具現化した。  従って、彼は作品が持っている哲学性、思想性を表現するのに、曲をデフォルメしたり、ルバ  ートを多く用いたり、主観的に演奏することに何のはばかりもなかった。つまり、指揮者とい  う枠を超えた、真の芸術家タイプの指揮者だったのである。「楽譜に忠実」がモットーのトス  カニーニ(イタリア生まれ)とは正反対の芸風である。  そんな彼が最も得意としたのはベートーヴェンであった。ベートーヴェンが作品に込めた哲学  性、思想性を音として表現することと彼の才能とが融合し、人類の至宝ともいうべき不滅の演  奏を後世に残したのである。  彼は世界最高のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニーの第3代目の常任指揮者となった  が、今残されている録音のほとんどは、1940〜1950年頃のモノーラル録音である。  よって、いくら名演とはいえ、鑑賞に支障のある録音もあるのは認めざるを得ない。  しかし、たとえ音質が悪くとも、今だに彼が多くの指揮者の中でも1,2の人気を誇っており、  多くの名演がベスト盤とも言える評価を得ていることは、彼の芸術表現が決して時代によって  色あせるものではないことの証拠である。  彼こそは19世紀が生んだ最高の指揮者の一人であったのは紛れもない事実である。  如何せん、彼の音楽解釈は哲学的で奥深く、初心者の方には難しいだろう。ましてや録音が古  いので、中級者以上向けの指揮者なのではなかろうか。  なお、彼は実演で燃えるタイプだったので、代表盤にはライヴ録音が多い。  トスカニーニと違って、ステレオ録音は全く残されていない。あと10年生きてくれれば。  ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」/BPO(51)(グラモフォン)   A  ・シューマン 交響曲第4番/ベルリンフィル(53)(グラモフォン)       SS  ・ブラームス 交響曲第4番/ベルリンフィル(48)(EMI)           A  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/ウィーンフィル(52)(EMI)     S  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/ベルリンフィル(47)(グラモフォン)*SS  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/ウィーンフィル(54)(EMI)     A  ・ベートーヴェン 交響曲第7番/ウィーンフィル(50)(EMI)         A  ・ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」/バイロイト祝祭管弦楽団(51)(EMI)SS  ・マーラー さすらう若人の歌/ディースカウ(52)(EMI)          SS  ・ワーグナー 管弦楽曲集/ウィーンフィル他(38〜54)(EMI)        A  ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/フィルハーモニア管弦楽団(52)(EMI)A   <テンポ変幻自在><スケールかなり大><実演派><主観主義〜デフォルメ><作曲> 
24.ブリュッヘン  1934〜   B

 
 20世紀後半になって、古楽器による復古的演奏が盛んになってきたのだが、ブリュッヘンは  その中でも代表的な指揮者である。たまに現代楽器のオーケストラの指揮をすることもあるが、  CDのレコーディングはすべて古楽器による演奏である。  彼は本来ブロックフレーテ(昔の縦笛フルート)の奏者で(何と、奏者として中学生の音楽の  教科書に載っている)、それだけでは満足できず、指揮者になった。そして「18世紀オーケ  ストラ」という少人数の古楽器グループを結成し、毎年一定期間だけ演奏旅行に出かけ、その  際にレコーディングをするのである。  推薦盤を見て頂けばお分かりのように、第一級の名曲がズラリ。彼の演奏の特徴は、古楽器な  がらスケールが大きく、重量感のあるところで、ガーディナーやアーノンクールのように、バ  ロック音楽の演奏には力を注がない。よって、管弦楽曲等よりは、交響曲にこれだけの名盤を  残している。特にモーツァルトの交響曲においては、現代楽器の演奏を凌いで、同曲ベストの  評価を得ているものもある。  彼の芸風は、現代楽器の指揮者に例えれば、ベームにダイナミズム、躍動感を加えたようなス  タイル。アーノンクールのように、奇抜な演奏は決して行わないので、同じ古楽器指揮者でも、  タイプは全く違う。「古楽器の交響曲演奏なんて所詮」とお思いの方は、是非一度彼の演奏に  耳を傾けて頂ければと思う。  おそらく、古楽器演奏の歴史において、最も優れた指揮者の一人になるのでは。  ☆推薦盤☆  ・ハイドン 交響曲第94番「驚愕」/18世紀オーケストラ(92)(デッカ) S  ・ハイドン 交響曲第101番「時計」/     〃   (87)(デッカ) A  ・ハイドン 交響曲第101番「時計」/     〃   (87)(デッカ)SS  ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/    〃   (90)(デッカ) B  ・モーツァルト 交響曲第31番「パリ」/    〃   (85)(デッカ) A   ・モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」/  〃   (85)(デッカ) S  ・モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」/   〃   (88)(デッカ) A  ・モーツァルト 交響曲第40番/        〃   (85)(デッカ) A  ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/ 〃   (86)(デッカ) S  *ハイドンの交響曲第94番と第101番、モーツァルトの交響曲第40番と第41番は   同じCDです。      <スケール大><重厚><古楽器> 
25.プレヴィン  1929〜   A

 
 21世紀でも活躍している指揮者達の中で、世界の主要なオーケストラや楽団の常任指揮者を  務めている、いわゆる花形指揮者達は、どうもこれという決定盤を残している指揮者が少ない。  例を挙げると、マゼール、ムーティ、レヴァイン、ドホナーニ、小澤らである。  ベルリン・フィルの常任指揮者だったアバドは名盤は多いが、なぜかベルリン・フィルを振っ  たCDにはあまり恵まれていない。  そんな中で、世界的には決して第一線の花形指揮者とは言いがたいのだが、名盤は数多く残し  ている実力者がプレヴィンである。特に演出性のある曲を振らせたら超一級品だ。  彼はクラシックの指揮者を務める傍ら、アメリカで映画の音楽監督の仕事もしている。おそら  くこの、音楽の演出性に秀でているところが、クラシック演奏にも共通しているのだろう。深  刻な曲よりは、華やかであったり、ロマンティックな曲に適性がある。  彼は、同じく親日派で、管弦楽曲に強いデュトワに似ていて、非常に間違いやすい。  プレヴィンは日本でNHK交響楽団の指揮台にも立っている。もし相性の合いそうな曲を振る  のであれば必聴だ。日本にいながら、世界最高の演奏を生で聴けるチャンスである。  また、彼はジャズピアニストとしての一面も持っている。  ☆推薦盤☆  ・エルガー 威風堂々第1番/ロイヤルフィル(85)(フィリップス)        A  ・オルフ カルミナブラーナ/ウィーンフィル(93)(グラモフォン)        A  ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー/ピッツバーグSO(84)( 〃 )  S  ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/ピッツバーグ交響楽団(80)(フィリップス)   S  ・チャイコフスキー 白鳥の湖/ロンドン交響楽団(76)(EMI)         S  ・チャイコフスキー くるみ割り人形/ロイヤルフィル(86)(EMI)      SS  ・チャイコフスキー 眠れる森の美女/ロンドン交響楽団(74)(EMI)      A  ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢/VPO&合唱団(85)(フィリップス)    SS  ・メンデルスゾーン 真夏の夜の夢/ロンドンO&合唱団(76)(EMI)      A  ・ラフマニノフ 交響曲第2番/ロイヤルフィル(85)(テラーク)         S  ・R・シュトラウス ツァラトゥストラはかく語りき/VPO(87)(テラーク)   S  <管弦楽曲○><親日派><作曲>
26.ベーム  1894〜1981   S

 
ベームといえば、カラヤンバーンスタインと同時期の大指揮者で、ウィーン・フィルとの共  演が多く、日本でも大人気であった。彼は19世紀生まれなので、モノーラル録音の時代、ラ  イヴ録音での白熱した演奏にも定評があったが、現在名盤として名高い演奏は、晩年のウィー  ン・フィルとのステレオ録音がほとんどである。晩年に、自分の演奏スタイルを確立した。  彼はワルターに次ぐモーツァルトの大家としても知られる。  ここで紹介している指揮者の中では唯一モーツァルトの交響曲全集を録音しているし、モーツ  ァルトの小品の録音も多い。彼のモーツァルトに対する人一倍の愛情が感じられる。  先輩ワルターよりも、モーツァルトの録音は多い。  ベームの芸風は、徹底した職人タイプであった。リハーサルでがっしりと仕込みあげた音楽を  ステージにもってくるタイプで、常に充実した響きを聴かせた。その意味では、「構造主義」  のクレンペラーのテンポを速めたようなスタイルである。彼の言葉に「音楽は造形である」と  いうものがあるが、柔軟性には富んでいるものの、感情を表に出すタイプではなく、激しさは  あまりない。よって音楽は常に崩れることなく、イン・テンポで、地に足がついた、どっしり  とした重厚なものである。彼は大学で法律を学んだのだが、楽譜に書いてあることから逸脱す  することを嫌ったその芸風は、法を遵守するという考えに基づいているとの説もある。  モーツァルトの音楽において、彼の柔軟性は存分に活きてはいるのだが、如何せん、音楽にダ  イナミズムを望むファンにとっては、彼の音楽は「重たく」感じられるようだ。  彼はモーツァルトに多くの録音を残したが、モーツァルトファンにとっては、ワルターと並び、  最もはずれの少ない指揮者である。  ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」/BPO(63)(グラモフォン)   A  ・ブラームス 交響曲第2番/ウィーンフィル(75)(グラモフォン)        A  ・ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」/ウィーンフィル(71)(グラモフォン)  A  ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/ 〃 (76)(グラモフォン)   A  ・モーツァルト「フィガロの結婚」/ベルリン・ドイツ・オペラ(68)(グラモフォン)A  ・モーツァルト レクイエム/ウィーンフィル(71)(グラモフォン)        S  ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/バイロイト祝祭O(66)(グラモフォン)  A   <テンポやや遅><重厚><スペシャリスト>
27.ミュンシュ 1891〜1968   B

 
指揮者はピアニスト出身者が多いのだが、弦楽器出身の者も多い。かのトスカニーニもそうで  あった。ここで紹介するミュンシュもそうで、指揮者デビューはなんと41歳だったという。  彼の指揮者としてのエピソードに、リハーサルが短いことで有名だったというものがある。そ  れは、本番にすべての情熱を捧げるためという、オーケストラ出身の彼なりの美学であった。  実際、彼の指揮ぶりは、指揮棒を風車のように回すほどの情熱的な指揮ぶりで、演奏も大変情  熱に満ちた熱いものであった。  彼は晩年、パリ音楽院管弦楽団を元に設立されたパリ管弦楽団の初代音楽監督となり、最後の  力を注いだ。ミュンシュ自身の名盤の数は少ないが、推薦盤に挙げた、パリ管弦楽団との熱演  であるブラームスの交響曲第1番ベルリオーズの幻想交響曲は、今なお同曲のベスト演奏と  の評価が定着しており、今後も歴史的名盤として語り継がれていくだろう。  ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス 交響曲第3番/ボストン交響楽団(59)(RCA)   B  ・ブラームス 交響曲第1番/パリ管弦楽団(68)(EMI)       S  ・ベルリオーズ 幻想交響曲/パリ管弦楽団(67)(EMI)      SS  ・ラヴェル ボレロ/パリ管弦楽団(68)(EMI)           A   <情熱かなり強>
28.ムラヴィンスキー  1903〜1988   A

 
ロシア生まれの指揮者。ここで紹介している名指揮者の中で、真の天才となると、実はこのム  ラヴィンスキーだけかもしれない。彼は世界的な指揮者だが、一方で超個性的な指揮者であり、  固定ファンにとってはまさに神格化された存在なのである。  彼は曲を演奏する際、一切の常識とか伝統などを無視し、自分の眼を通して極めて主観的にス  コア(楽譜)を読む。そこで当然デフォルメがなされるわけだが、同じデフォルメにしても、  フルトヴェングラーのように解りやすい芸術ではないのである。極めて抽象的なデフォルメで  あり、何を表現したいのかが非常に解りにくい。この神秘性が彼にカリスマ性を抱かせるのだ  ろう。よって、当然上級者向けではあるのだが、上級者でさえ一般受けはしないはずだ。  彼の音楽は、完全に「個」の世界で、大衆受けを拒否するものである。  彼の演奏はテンポが速く、リズムはきびきびと刻まれ、身をきるようなフレージングがなされ  るため、外面はトスカニーニ風と言っていいだろう。しかし、その坦々と進む音楽の中には千  変万化の表情の移ろいがあったり、デフォルメがあったり、一見そっけない印象を与えるのだ  が、実は枚挙に暇がない。よほど耳の肥えた方でないと、彼のデフォルメを理解するのは難し  いかもしれない。「この曲にはこんな解釈の仕方があったんだ」と感動できるのなら、彼こそ  が真の天才のように思えてくるだろう。そうでない方は彼とは無縁だと思う。  彼はロシアのレニングラード・フィルハーモニーと終生コンビを組んでいたため、同楽団はま  さしく彼の「手兵」であったようで、鍛えに鍛え上げただけに、オケとしてのレベルは相当高  いものがある。このコンビの録音には、お国物のロシア音楽が多いが、実際、レパートリーは  非常に幅広い。  最も初心者向けなのは、やはりチャイコフスキーである。それ以外は彼独特の、一筋縄ではい  かない演奏が多いので、もっと耳が肥えた時に聴いてみたい。  しかし、彼のCDは音があまり良くないものがほとんど。原因は、彼の所属レーベルの「メロ  ディア」が旧ソ連のレーベルで、あまり海外の最先端の技術を導入しなかったことに起因する  らしいが、なぜか70年代の録音でさえモノーラルで、この点は覚悟する必要がある。  良い音質で聴きたい方は、「ALTUS」レーベルかビクターの録音がお薦め。  ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/レニングラード(77)(アルトゥス) ↑A  ・ショスタコーヴィチ 交響曲第5番/レニングラード(84)(ビクター)    ↑A  ・チャイコフスキー 交響曲第4番/レニングラード(60)(グラモフォン)   SS  ・チャイコフスキー 交響曲第5番/レニングラード(60)(グラモフォン)    A  ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/レニングラード(60)(グラモフォン)A  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/レニングラード(61)(ドリームライフ)B  ・ベートーヴェン 交響曲第4番/レニングラード(73)(アルトゥス)     ↑S  *チャイコフスキーの交響曲第4番と第5番と第6番は同じCDです。     <テンポ速〜高速><超鋭い><デフォルメ>
29.メンゲルベルク 1871〜1951   B

 
 同じく19世紀生まれのワルタートスカニーニフルトヴェングラーらと比べても、格的に  決して見劣りしないカリスマ性を持っていたのが、このメンゲルベルクである。彼が指揮台に  上がった時の暴君ぶりは、まさしく19世紀の指揮者像そのもので、トスカニーニ以上とも言  えるものだった。この四人を、19世紀生まれの四大指揮者とも呼ぶ。  楽員の自主性を許さなかったり、リハーサルでは長々と演説をしたり、徹底してパート練習を  させたり。そうして、当時のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者を約5  0年間務め、世界でも有数の技術集団に鍛え上げた。  このコンビに、リヒャルト・シュトラウス交響詩「英雄の生涯」(英雄とは自分のこと)  を捧げている。また、マーラーは弟子のワルター以上に、彼のマーラー演奏を評価していた。  彼の芸風は、その指揮者ぶりと同様に、19世紀風のロマンティシズムに溢れるものであった。  時にはフルトヴェングラー以上に、やりたい放題とも言える主観的な指揮ぶりで、テンポは著  しく変動する。現代のオケならば、そのわがままぶりに、楽員が怒って帰ってしまうと思われ  かねない程である。  また、弦の音色の甘美さを徹底し、ワルターを基準とすれば、やりすぎと思われるほど、濃厚  な甘美さを表出させた。  彼は、現在の基準からいくと、「名盤」としてお薦めできるCDはない。よって、名盤を多く  残している三大指揮者に比べると、知名度は数段落ちる。というのも、おそらく彼が引き継い  だロマンティシズムというものが濃厚すぎ、現代では古すぎて受け容れにくく、また録音が古  いことなどもあり、万人向けではないからだろう。よって、彼の録音は皆「歴史的録音」とい  う、都合のいい範疇に収められてしまった。同じ基準で判断できないということなのだろう。  従って、中〜上級者向けの指揮者である。  しかし、評論家の方々は、彼の演奏の素晴らしさは百も承知で、「ぜひ聴いて欲しい伝説の録  音」ということで、必ず推薦しているのが、下の推薦盤にあるものである。特にマタイ受難曲、  悲愴、英雄の生涯は、本心では今でも同曲のベストCDに挙げる人も多い。また、マーラーの  第5番の第4楽章(アダージェット)はこの楽章だけがよく採り上げられる。異常なまでの甘  美な世界である。    ☆推薦盤☆  ・バッハ マタイ受難曲/アムステルダム・コンセルトヘボウ(39)(OPUS)   B  ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/  〃 (37)(OPUS)      B  ・ブラームス 交響曲第2番、第4番他/     〃 (41)(ナクソス)      B  ・ブラームス 交響曲第3番他/        〃 (37)(ナクソス)      B  ・マーラー  交響曲第5番第4楽章/     〃 (35)(ナクソス)      B  ・R.シュトラウス 英雄の生涯/       〃 (41)(テルデック)     B   <ロマンティック><主観主義〜デフォルメ><超柔軟>
30.モントゥー 1875〜1964   B

 
 19世紀生まれの名指揮者の中の一人に挙げてもいい実力者なのが、フランスの指揮者、モン  トゥーである。しかし、同じく19世紀生まれのトスカニーニフルトヴェングラーらと比べ  るとカリスマ性に欠ける点があるので、録音の数自体が少なく、日本ではマニア好みの存在と  いうのが現状である。  彼はトスカニーニのように、作曲者に対して畏敬の念を常に抱き、演奏者は作曲者のしもべで  あるという観念を貫いていた。こういった考え方は「作曲者至上主義」とも呼ばれる。  ジュリーニと同じ考え方である。  彼の芸風は、基本的にはスコアに忠実で、強弱の誇張もあまりなく、効果を狙うような演出は  しない。加えてテンポも速めなので、いかにもそっけなく感じられる。総じて無個性な指揮ぶ  りなのだが、彼には音楽に対する「愛」があった。作曲者のしもべであるという考え方は、作  曲家や曲に対する「愛」の表れであり、演奏をさせて頂くという喜びに溢れていた。そっけな  いながらも彼の演奏が評価されるのは、彼の音楽には「愛」があるからなのである。それが演  奏をするオーケストラにも伝わり、オーケストラも喜びに満ちて演奏をする。そういった両者  の音楽に対する「愛」、「喜び」が聴く者を惹きつけるのだろう。  彼は「ブラームスの音楽が自分に一番しっくりくる」と語っていたという。新しい録音の名盤  が出てきた以上、彼の録音を真っ先にお薦めしたいとは言いがたいが、推薦盤に挙げた第2番  などは彼の渾身のブラームスであり、ぜひ一度耳にして頂ければと思う。  また、彼はフランス出身なので、お国物のラヴェルも得意なレパートリーであった。    ☆推薦盤☆  ・チャイコフスキー 交響曲第5番/シカゴ交響楽団(58)(RCA)       B  ・ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲/ロンドン交響楽団(61)(デッカ)    B  ・フランク 交響曲/シカゴ交響楽団(61)(RCA)              A  ・ブラームス 交響曲第2番/ウィーンフィル(59)(デッカ)          B     <テンポやや速><柔軟性高>
31.ラトル  1955〜   A

 
アバドの後を受けて現在ベルリン・フィルハーモニーの第6代目の常任指揮者、すなわち世界  の指揮者界のトップに立っている指揮者の一人なのが、このサイモン・ラトルである。  まだ50代であり、ベルリン・フィルの常任になってから間もないので、評価は確立されてい  ない。前代のアバドは、ベルリン・フィルとはこれといった名演を残せなかったのだが、ラト  ルは第4代目のカラヤン、前代のアバドよりはどちらかというと主観の強い指揮者なので、評  論家筋では不安よりも期待の方が大きいようだ。  ベルリン・フィルを率いるとなると、どうしてもレパートリーの広さが求められ、大衆に迎合  する指揮者になってしまいがちである。前代のアバドがまさにその犠牲者とも言える。彼は元  々イタリアの指揮者であったのだが、ベルリン・フィルとコンビを組むことで、ドイツ音楽の  演奏も求められた。得意でないレパートリーも得意でなければならないという立場に置かれた  ことで、不評を買ってしまった。ベルリン・フィルの常任になる前に多くの名演を残している  のは、いかにも皮肉な話である。  私はラトルの演奏をそれほど聴いたことがないので何ともいえないが、大衆向けというよりは、  自分の思ったように演奏しているように思える。是非彼の個性を発揮して欲しいと思う。  今のところ評判のいいCDというと、マーラーに偏っている。彼の評価が定まるのは、これか  らのベルリン・フィルとの録音次第だ。  ☆推薦盤☆  ・ラトル/バーミンガム市交響楽団(97)(EMI)               A  ・マーラー 交響曲第9番/ウィーンフィル(93)(EMI)           B  ・マーラー 交響曲「大地の歌」/バーミンガム市交響楽団(95)(EMI)    B
32.リヒター  1926〜1981   B バッハのファンはS

 
カール・リヒターは指揮者兼チェンバロ奏者で、一生をバッハの演奏活動に捧げた。現在発売  されているCDでバッハ以外にはヘンデルくらいしかない。  その代わり、彼の演奏するバッハはほぼすべてが超一級品と言ってよく、このサイトの推薦盤  紹介でもほとんどがトップの評価である。トップ評価で、しかも二位以下を大きく突き放して  いるのだから、ほとんど独走状態。近年はガーディナーらの古楽器によるバッハの演奏が増え  て来ているため、バッハのすべての作品でリヒターが一番とまでは言い切れないのだが、現代  楽器による演奏においては、有無を言わさずリヒターの演奏がトップである。いくらバッハに  限ったこととは言え、これは凄いことである。  バッハのファンは、何がなんでも彼の名前を覚えておきたい。「リヒター指揮」と書いてある  CDがあったら、イコールそれが現代楽器の最高の演奏ということになる。  ☆推薦盤☆  ・バッハ 管弦楽組曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(60、61)(アルヒーフ) SS  ・バッハ ブランデンブルク協奏曲/ 〃     (67)(アルヒーフ)     S  ・バッハ 管弦楽組曲&ブランデンブルク協奏曲/ 〃(60〜67)(アルヒーフ)SS  ・バッハ チェンバロ協奏曲第1番/ 〃  (71,72)(アルヒーフ)     A  ・バッハ 音楽の捧げ物/            (63)(アルヒーフ)     S  ・バッハ オルガン作品集(選集)/    (64〜78)(アルヒーフ)     A  ・バッハ カンタータ集(各種)/ 色々    (各年代)(アルヒーフ)  A〜SS  ・バッハ ミサ曲/ミュンヘン・バッハ管弦楽団(61)(アルヒーフ)       S  ・バッハ ヨハネ受難曲/ 〃(64)(アルヒーフ)               S  ・バッハ マタイ受難曲/ 〃(58)(アルヒーフ)              SS   <超スペシャリスト>
33.ワルター  1876〜1962   S
 
 
ブルーノ・ワルターは、トスカニーニフルトヴェングラーと同じ19世紀生まれの指揮者で、  この3人は20世紀の3大指揮者と言っても良い。しかし、ワルターが二人と決定的に違い、  我々にとって身近な存在である点は、彼が1960年代まで長生きしたために、コロンビア交  響楽団との一連の名演を、ステレオ録音で存分に鑑賞できるという点である。トスカニーニと  フルトヴェングラーの演奏には、中には耐え難い音質のCDもあるのだが、ワルターの演奏は、  ウィーン・フィルとの一部の古い録音を除いて、ステレオ録音で聴くことができるのである。  これはもう、ワルターと神に感謝するほかない(ワルターは既に引退はしていた)。  なお、コロンビア交響楽団とは、ステレオ録音が開発されてから、世紀の大指揮者、ワルター  の演奏を、再演奏してステレオ録音として残すために結成されたオケである。  彼の芸風は、基本的には楽譜に忠実なのだが、他の指揮者には真似出来ない豊麗な旋律の歌わ  せ方にあった。極めて人間感情豊かな表現で、「カンタービレ」という言葉は彼のためにある  と言っても過言ではないほどである。  彼は、ベームと並ぶモーツァルトの大家としても知られ、今でもベストの評価を得ている名演  もある。  モーツァルトに加え、ベートーヴェンの偶数番号の交響曲、シューベルトマーラーなどにお  いて、その人間感情の表現の巧みさは、他の追随を許さない。  また、彼は得意なレパートリーが多く、有名曲の録音も多いので、クラシック鑑賞には絶対に  欠かすことのできない、初心者にも上級者にも温かい、大指揮者なのである。  彼は、マーラーの唯一の友人ということもあって、バーンスタインと並ぶマーラー指揮者でも  ある。今では録音年代の違いもあってバーンスタインの方が評判は良いが、マーラーのファン  ならばどうしても両指揮者の演奏は揃えておきたい。  モーツァルトにもマーラーにも、ウィーン・フィルとのモノーラル録音の名演があり、今では  録音の古さから、とても初心者向けとは言えない演奏ではあるが、是非、歴史的名盤として持  っていたい絶品ばかりである。    ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ニューヨークフィル(58)(SONY)  A  ・ブラームス 交響曲第4番/コロンビア交響楽団(59)(SONY)        A  ・ベートーヴェン 交響曲第2番/コロンビア交響楽団(59)(SONY)      S  ・ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」/コロンビアS0(58)(SONY)   SS  ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/コロンビアS0(61)(SONY)       A  ・マーラー 交響曲第9番/ウィーンフィル(38)(EMI)           ↑A  ・マーラー 交響曲「大地の歌」/ウィーンフィル(52)(デッカ)       ↑SS  ・モーツァルト 交響曲第25番/ウィーンフィル(56)(SONY)        A  ・モーツァルト 交響曲第38番「プラハ」/コロンビア交響楽団(59)(SONY) A  ・モーツァルト 交響曲第40番/ウィーンフィル(52)(SONY)       ↑S  ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/コロンビアS0(58)(SONY) A  ・モーツァルト アイネクライネナハトムジーク/コロンビアSO(58)(SONY) A  ・モーツァルト レクイエム/ニューヨークフィル(56)(SONY)        A  *モーツァルトの交響曲第25番と第40番は同じCDです。   <かなり柔軟><スケールやや小><豊麗><万能型><スペシャリスト>







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