紹介弦楽器奏者一覧





       
1.アッカルド  ヴァイオリン  1941〜  ACCARD  B  イタリア

 パガニーニという作曲家は、クラシック史上最高のヴァイオリニストでもありまして、ヴァイ  オリンという楽器の可能性を広げることにも尽力した偉大な音楽家です。楽器の可能性とは、  単に指で弦を押さえて弓で弾くだけでなく、他にも音を出す技法のことです。弦楽器を弾かれ  る方はお分かりになるでしょう。  よって、パガニーニの作曲した曲は、技巧の誇示と、ヴァイオリンのあらゆる技法を駆使して  演奏するために書かれたものですので、「超絶技巧曲」という、極めて難度の高い曲として知  られています。  そのパガニーニのスペシャリストとも言えるのが、アッカルドです。現在残されているパガニ  ーニのヴァイオリン作品のほぼすべてに録音を残しています。  驚異的なテクニックに加えて、明るく澄んだ音色、豊麗な歌が持ち味のヴァイオリニストです。  ですが、パールマンクレーメルら現役のスターヴァイオリニストに比べると、あまりに知名  度が低いです。  イタリア出身で、13歳で演奏会を開き、神童と呼ばれ、17歳でパガニーニ国際コンクール  で優勝、「パガニーニの再来」とも呼ばれました。現在は一線を退き、そのコンクールの審査  員を務めています。まさにパガニーニ尽くしのヴァイオリニストです。  もちろん、パガニーニ以外の、例えばブラームスメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も  録音してはいますが、どうも評判はさっぱりのようです。知名度が低いのも当然でしょうか。  こういうスペシャリスト的ヴァイオリニストもいるのだということを知っておいて頂ければと  思ってご紹介しました。
パガニーニ「ヴァイオリン協奏曲第2番『ラ・カンパネラ』」第3楽章より
 ☆推薦盤☆  ・パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番/デュトワ(75)(グラモフォン)   SS  ・ロッシーニ 弦楽のためのソナタ集/ガゾー(Vn)他(78)(フィリップス) SS      <超技巧派><パガニーニ◎>
2.オイストラフ  ヴァイオリン  1908〜1974  OISTRAKH  S  ウクライナ
 
 オイストラフは、モノーラル録音の19世紀生まれの巨匠達と現役の演奏家達の、中間に位置  する世代の代表的なヴァイオリニストです。  芸風は、若々しく、明るく楽天的なところで、シゲティのようなわび、さびの世界を感じさせ  る奏法とは対照的です。かといって、クライスラーのように甘美極まりない弾き方もしません  ので、スマートな奏法ではありますが、クレーメルのように冷たい音色でもありません。  よって、一部のファンにうけるタイプではなく、大衆的な人気がありました。  名盤も多く、下の推薦盤にご紹介しているように、有名なヴァイオリン協奏曲には評価の高い  演奏がズラリと顔を揃えています。  オイストラフはライブ、つまり実演で燃えるタイプであったと言われています。サービス精神  も旺盛だったそうですので、人気があったのもうなずける話です。  音が明るく、表現も解りやすいですので、初心者の方にもお薦めのヴァイオイニストです。
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲/オーマンディ(59)(SONY)     A  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/クレンペラー(60)(ワーナー)        A  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/セル(69)(ワーナー)            A  ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/クリュイタンス(58)(ワーナー)     A  ・ベートーヴェン Vnソナタ第5番「春」/オボーリン(p)(62)(デッカ)    A  ・ベートーヴェン Vnソナタ第9番「クロイツェル」/ 〃 (p)(62)(デッカ) A   *ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは同じCDです。     <明るい><実演派>
3.カザルス  チェロ  1876〜1973  CASALS  S  スペイン

ピアニストにしろ、弦楽器奏者にしろ、「神様」と呼ばれるのは、カザルスだけでしょう。  カザルスは「チェロの神様」と呼ばれます。19世紀生まれのチェリストですが、技術うんぬ  ん以前に、チェロを楽器として今日のように大衆性をもたせたのは他ならぬカザルスの功績で  す。今日一般的となっているチェロの弓の奏法を始めたのもカザルスです。チェロを弾く者な  らば、その名を知らなければ失礼にあたるほどの「レジェンド」なのです。  バッハの「無伴奏チェロ組曲」を芸術作品として世に広めたのもカザルスです。1930年代  後半の、いかにも貧しい音質の録音ですが、この歴史的名盤に限っては、後世の名チェリスト  がいかに優秀な録音をもってしてもかなわない、不滅の金字塔となっています。  スペイン生まれの13歳の少年カザルスが、ある古い楽譜屋に立ち寄った時、ふとボロボロに  なった楽譜を見つけました。バッハ作曲の作品で「チェロ独奏のための六つの組曲」と書いて  ありました。  全く偶然に見つけたその楽譜によって、カザルスは「無伴奏チェロ組曲」に、チェリストなら  ば誰もが一度は録音を切望するほどの価値を与えたのでした。  また、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第7番「大公」も、ヴァイオリンにティボー、ピアノ  にコルトーという、豪華絢爛なトリオによる永遠の名盤となっています。 ステレオ録音時代まで生きましたが、晩年は、高齢のためチェリストとしては一線を退き、指  揮者となりましたので(CDもあります)、チェリストとしての録音は古い録音ばかりです。
バッハ「無伴奏チェロ組曲」第1番(貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・ドヴォルザーク チェロ協奏曲/セル(37)(EMI)            B  ・バッハ 無伴奏チェロ組曲全曲/(36、38、39)(ワーナー)      SS  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/          ティボー(Vn)コルトー(P)(28)(ワーナー)      S   <雄大><音量豊富><指揮>
4.クライスラー  ヴァイオリン  1875〜1962  KLEISLER  A  オーストリア

19世紀、ウィーン生まれのクライスラーは、20世紀を代表する大ヴァイオリニストです。  演奏スタイルは、何といってもクライスラー特有の甘美な音色にありました。  ヴィブラートやポルタメント(弦に指を触れたままのずり上げ、ずり下げ)を必要以上に駆使  し、ウィーン情緒溢れる極めて甘美な音色を響かせました。ムード満点のクライスラーの音色  は独特でして、名前を伏せてもクライスラーの演奏だと判ります。言い換えますと、「クライ  スラーの音」を持っていたのです。  よって、非常に親しみやすいヴァイオリニストですので、初心者の方でも充分に楽しめるので  すが、如何せん、残された録音の音質が悪いのが惜しまれます。  またクライスラーは、ヴァイオリンのための小品の作曲家としても名高いです。  代表盤と言いますと、何と言っても、「愛の喜び」「愛の悲しみ」などの自作の小品も含めた  CDです。特に自作自演の曲に関してましては、約90年も経った今でも、誰もクライスラー  を超える録音を残していないと言われています。一般に、自作自演の演奏は評価が低い(特に  指揮した場合)ものですが、別格中の別格なのです。  とりわけ、ポルタメントを自在に駆使した「愛の悲しみ」(演奏することは非常に簡単な曲で  す)の洒落た哀愁は、真似することすら不可能なのではないでしょうか。 
「愛の悲しみ」自作自演   「タイスの瞑想曲」(マスネ作曲)
 ☆推薦盤☆  ・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲/ブレッヒ(26)(ナクソス)     B   <甘美><即興派><作曲>
5.グリュミオー  ヴァイオリン  1912〜1986  GRUMIAUX  A  ベルギー

20世紀を代表するヴァイオリニストのグリュミオーは、戦後になってからソリストとしての  評判が一気に高まった、比較的遅咲きのヴァイオリニストです。そして、ピアニストのハスキ  とのデュオで一世を風靡したのですが、1960年にハスキルが急逝すると、演奏家として  虚脱感に見舞われてしまったようです(夫婦ではありません)。  グリュミオーは非常に広いレパートリーを誇りました。古典派に始まり、20世紀のストラヴ  ィンスキーのような現代音楽までをもレパートリーとしていました。よって名盤も多いです。  グリュミオーの芸風は、何と言っても艶やかで気品のある音色で、旋律を豊麗に歌わせる点に  ありました。  有名なヴァイオリンの最高の名器の1つ、ストラディバリウスの魅力を最大限に活かした芸風  でした。よって、モーツァルトなどはまさにピッタリで、ここに挙げた推薦盤は、モーツァルト  の粋ともいえる名演ばかりです。   今では、クレーメルムターデュメイらのモーツァルトの名盤が登場した以上、手放しでグ  リュミオーがすべて最高という訳にはいきませんが、元祖、モーツァルト弾きのヴァイオリニ  ストと言ったらグリュミオーなのです。  かすかに憂いを漂わせている演奏は絶品です。
モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番/ロザンタール(63)(デッカ)   SS  ・パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番/ベルージ(72)(デッカ)        A  ・フランク ヴァイオリンソナタ/ハイデュ(P)(61)(デッカ)         A  ・モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番/デイヴィス(61)(デッカ)     SS  ・モーツァルト ヴァイオリン・ソナタ集/ハスキル(P)(56、58)(デッカ) SS  ・ラロ スペイン交響曲/ロザンタール(63)(デッカ)             SS     <美音><気品><モーツァルト◎>
6.クレーメル  ヴァイオリン  1947〜  KLEMER  S  ラトビア⇒ドイツ

 ヴァイオリンという楽器は旋律を歌うところに魅力のある楽器なのですが、クレーメルは旋律  をあまり意識的に歌うことをせず、ヴィブラートも必要以上にかけません。クールで、冷たい  音色が特徴です。クライスラーのように甘美な音色が持ち味の芸風とは正反対です。ましてや  クレーメルの場合はテンポも速めですので、その良さが解りにくいです。初心者の方には良さ  が分かりにくいヴァイオリニストでしょう。  ですが、ヴァイオリニストとしては最高と言ってもいいくらい、評価の高い名盤が多いです。  レパートリーも広いですので、まさに「名盤制作者」です。  クレーメルの透徹感のある演奏には深い芸術性が隠されていまして、何ともいえない感慨を与  えてくれますので、芸術家タイプのヴァイオリニストと言えます。決してデフォルメを駆使す  るようなタイプではないのですが、冷ややかな音色で奏でられる音楽の中には、ヴァイオリン  という楽器が持つもう一つの面、哀切な響きが充満しています。そこに惹かれてしまいます。  ほぼ毎年必ず来日してくれますので、クラシック鑑賞も中級者以上になりましたら、ぜひ実演  に接して頂きたいと思います。  クレーメルの演奏に感動できたら、クラシックの聴き方の幅が相当拡がっているはずでしょう。  なお、「奇才」の異名をもつように、21世紀になってからは、従来のクラシック曲をアレン  ジしたり、現代曲を初演したり、クレメラータ・バルティカという自選の演奏家だけで楽団を  組み、意欲的に活動していたりと、常に新風を巻き起こしています。まだまだ第一線で活躍し  ています。  最後になりますが、21世紀になって、どうもスタイルが変わってきた気がするのです。より  芸術家色が強くなっている気がするのです。「深化」したのだと思っています。  
バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」
パルティータ第2番第5曲
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/アルゲリッチ(P)他(85)(デッカ)     SS  ・バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ/(05)(ECM)  SS  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/バーンスタイン(82)(グラモフォン)     A  ・ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番/アファナシエフ(87)( 〃 )A  ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/アーノンクール(92)(テルデック)   SS  ・ベートーヴェン Vnソナタ第5番「春」/アルゲリッチ(P)(87)( 〃 ) SS  ・ベートーヴェン Vnソナタ第9番「クロイツェル」/ 〃(94)( 〃 )   SS  ・モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番/弾き振り(06)(グラモフォン)    A  ・モーツァルト 協奏交響曲/アーノンクール(83)(グラモフォン)        S  *ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ「春」と「クロイツェル」は同じCDです。   <クール><芸術主義><親日派>
7.五嶋みどり  ヴァイオリン  1971〜  A  日本

 アメリカを拠点にしている、日本のトップヴァイオリニストの一人です。海外では「Mido  ri」として知られています。弟の五嶋龍も有名なヴァイオリニストです。庄司紗矢香のよう  にコンクールを次々とものにしていった訳ではないですが、名声を得るまでの過程には庄司紗  矢香以上の天才的なものがあります。  11歳の時にメータ&ニューヨーク・フィルと共演という、驚くほどの鮮烈なアメリカデビュ  ーを飾りましたが、更に凄いのは、14歳の時に、何とあのバーンスタインとも共演していま  す。そして、本格的にソリストとしてはばたくこととなりました。  五嶋みどりはヴァイオリニストとしての活動の他に、社会福祉授業を行った音楽家としても有  名です。初めて着手したのが20歳そこそこというのだから素晴らしいという他ありません。  その後も自ら非営利団体を次々と創設し、ボランティア活動を行っています。  現在は、演奏活動の傍ら、アメリカの大学の講師も務めています。  なお、得意なレパートリーは、技巧的に難しい曲のようです。
カルメン幻想曲
 ☆推薦盤☆   特になし      <技巧派>
8.シェリング  ヴァイオリン  1918〜1988  SZERYNG  A  ポーランド

シェリングは、何といってもバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」  の名手と言われ、この楽曲は代名詞でもありました。不朽の名盤を残しました。  そして、室内楽においては、大ピアニスト、ルービンシュタインのお気に入りのパートナーと  され、名演奏を聴かせました。  シェリングの芸風はオーソドックスで、悪く言えば無個性ですが、よく言えばオールラウンダ  ーのヴァイオリニストでした。  というのも、ヨーロッパ各地を転々とし、各地の音楽を肌で吸収していったところにあります。  それゆえ、折衷的な演奏スタイルをもち、どんな時代の、どんな地域の音楽も弾きこなす器用  さがありました。レパートリーも幅広く、名盤も多いです。  巧みな弓使いとテクニックは、ハイフェッツの音色のつやを連想させ、ベートーヴェンの演奏  においては、シゲティの精神性の高さを連想させると言われました。  また、クライスラーの作品のような小品においても、常に格調の高さは保ちつつ、典雅な音色  や節回しに富んだ演奏を好んだと言われています。
バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」ソナタ第1番第2曲
 ☆推薦盤☆   ・シベリウス ヴァイオリン協奏曲/ロジェストヴェンスキー(65)(フィリップス) A  ・バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ/(67)(グラモフォン)A  ・バッハ ヴァイオリン協奏曲集/マリナー(76)(デッカ)            A  ・パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番/ギブソン(75)(デッカ)        A  ・ブラームス Vnソナタ全集/ルービンシュタイン(P)(60、61)(デッカ)  A  ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/S=イッセルシュテット(65)(デッカ)  A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/            フルニエ(Vc)ケンプ(P)(70)(グラモフォン)      A      <甘美><気品><レパートリー広>
9.シゲティ  ヴァイオリン  1892〜1973  SZIGETI  A  ハンガリー

19世紀生まれのシゲティは、20世紀を代表する大ヴァイオリニストで、神格化された存在  です。しかし、それほどの存在にもかかわらず、お世辞にも世紀の大ヴァイオリニストにふさ  わしい技術を持っていたとは言えません。不器用な演奏です。  では、何が神格化させているのかと言いますと、音楽に対する精神面の高さです。  シゲティは聴く者に感動を与えようと、どんな作品でも必死にその内容の深さをえぐり出そう  と努めていることは、演奏を聴けばすぐにお分かりになるでしょう。その意味では、後述する、  同じ大ヴァイオリニスト、ハイフェッツと好対照の芸風とも言えます。  ブラームスとベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を例にとりますと、武骨な響きから、何と  も言えない憂愁が聴こえてきます。音楽は決して耳だけで聴くものではなく、心でも聴くもの  であることがお分かり頂けると思うのです。渋さの極みのようなヴァイオリニストです。  よって演奏には華がないですし、オーソドックスとも言えませんので、初心者の方にその良さ  は解りにくいでしょう。  シゲティの演奏に感動できる方は、わび、さびの世界のような渋い演奏がお好みなのではない  でしょうか。
ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」第1楽章
 ☆推薦盤☆   ・バッハ 無伴奏Vnのためのソナタとパルティータ/(55、56)(ヴァンガード)A   <技巧×><芸術主義><渋い>
10.庄司紗矢香  ヴァイオリン  1983〜  A  日本

音楽には才能があるものだということを改めて痛感させられます。特に、ピアニストよりもヴ  ァイオリニストの方がその傾向が顕著なのかもしれません。  ここでご紹介する庄司紗矢香は、紛れもなく天賦の才を授かってヴァイオリンに出逢うべくし  て出逢ったヴァイオリニストなのでしょう。5歳の時にヴァイオリンを始めたのですが、小学  6年生の時に、全日本学生音楽コンクール全国大会で第1位になりました。それからは飛ぶ鳥  を落とす勢いで数々のコンクールで優勝、何と14歳でウィーン・ムジーク・フェラインザー  ル(ウィーン・フィルの本拠地です)に立ち、ウィーンデビューを飾るに至りました。また翌  年は、コンクール史上最年少で、日本人としては初めて、パガニーニ国際ヴァイオリン・コン  クールで優勝しました。このコンクール優勝者には、クレーメルもいるというコンクールです。  それほどの逸材が日本にもいたのです。  そして、17歳の時にメータと共演したCDを初リリースしました。  2000年以降は、世界の楽団とヨーロッパを中心に活動していまして、名実ともに世界的な  ヴァイオリニストです。世界的知名度のある共演者には、メータ、マゼール、アシュケナージ、  マリナー、デュトワ(以上指揮者です)、マイスキー(チェリスト)らがいます。  日本でも毎年必ず全国規模でコンサートを開いていますので、東京、大阪近辺以外の方にも実  演で聴く機会はあります。実演で燃えるタイプだということですので、ぜひ実演に接して頂き  たいと思います。  奏法には力強さがあり、音色はやはり女性的で明るいです。また、初CDが超絶技巧で知られ  るパガニーニのヴァイオリン協奏曲ですので、どうしても「技巧派」という眼で見られてしま  いますが、そのことをかなり嫌がっているようです。音楽に対する研究心は旺盛で、文学、美  術などにも触れていると言います。  実演派だからなのか、録音を聴いても即興的で、やや主観的な演奏をするようですので、一体  これからどういうタイプのヴァイオリニストになるのか、注目です。  
メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」全楽章
 ☆推薦盤☆   特になし   <技巧派><実演派>
11.チョン・キョンファ ヴァイオリン 1948〜 KYUNGーWHA CHUNG A 韓国

チョン・キョンファは韓国生まれの女性ヴァイオリニストです。10代の時に天才ヴァイオリ  ニストとして脚光を浴びましたが、アジアのヴァイオリニストが世界の表舞台に出るのは珍し  いケースでした。指揮者のチョン・ミュンフンは弟です。  演奏スタイルはまさしく芸術至上主義です。音色はクレーメルに似ていて、非常に冷たく、透  徹感のある音を響かせます。しかし、クールでストレートなクレーメルとは違い、演奏する作  品の芸術面を最大限に引き出すためにデフォルメ(楽譜を無視すること)を加え、精一杯の情  熱を注ぎ込みます。  「私は、演奏する曲を一度私の眼を通し、主観的に演奏することがモットー」と語っているの  ですから、典型的な主観主義演奏家です。一見そっけない印象を与えるクレーメルの演奏は解  りにですが、キョンファの場合は全身全霊を込めて旋律を歌い、デフォルメを誇張しますので、  決して初心者の方に解りにくい演奏ではないと思います。単に、表現力が卓越しているだけな  のだと思うのです。冷たい音色が、何とも言えない哀切に満ちています。  現役では珍しい主観主義のヴァイオリニストです。  一時期、出産で休養していたこともありまして、その後の録音はパッとしたものがありません。  2010年に復帰したそうですが、来日の機会はほぼありませんし、もう高齢になってしまい  ました。現在はどんな活動をしているのでしょうか。もう一花咲かせて欲しいところです
メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番/フォスター(75)(デッカ)   A   <情熱><主観主義〜デフォルメ><実演派>
12.ティボー  ヴァイオリン  1880〜1953  THIBAUD  B  フランス

19世紀にフランスで生まれたティボーは有名なクライスラーとほぼ同世代で、モノーラル録  音時代に活躍した世紀の大ヴァイオリニストです。後世に与えた影響も計り知れません。  残念ながら、日本公演に向けて来日する最中に、飛行機事故によって帰らぬ人となってしまい  ました。残された録音も少ないです。  ここに挙げた推薦盤では特に、カザルスの項でもご紹介していますベートーヴェンのピアノ三  重奏曲第7番「大公」が、チェロにカザルス、ピアノにコルトーという、豪華絢爛なトリオに  よる不滅の金字塔となっています。  ティボーはクライスラーのように古き佳き時代のヴァイオリニストで、やはり自分の音という  ものをもっていました。どちらかというと繊細で、メランコリックな音のようです。  また、私が興味半分で買ったブラームスのヴァイオリン協奏曲についてご紹介しましょう。名  演と呼べるのかさだかではないですし、何より、1953年の録音にしては原テープの痛みが  想像以上なCDで、20年代から30年代の録音に聴こえます。楽章の合間のチューニングと  拍手、あたかも咳をする人の前にマイクが置いてあるかのような録音体勢。古き佳き時代の演  奏のありようを知れる貴重なCDです。現代のヴァイオリニストの演奏を聴きなれた我々には  異様に聴こえますが、即興だらけで、こんなにも洒落の効いた演奏をしていたのだということ  を知ることは、演奏史を知るという意味で大変勉強になりました。つまり、コンクール時代で  ある現代のヴァイオリニストのように、型にはまった演奏ではありません。音楽という字の通  り、まさに本人も、聴衆も、音を楽しんでいるように聴こえます。  ティボーはクライスラーと並び、録音が残っている有名なヴァイオリニストの中では最古の存  在にあたります。
フランク「ヴァイオリンソナタ」第1楽章(おそらくCDと同じ音源です)
 ☆推薦盤☆  ・フランク ヴァイオリンソナタ/コルトー(P)(29)(ワーナー)      A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           カザルス(Vc)コルトー(P)(28)(ワーナー)     S      <繊細><即興派><実演派>
13.デュ・プレ  チェロ  1945〜1987  DUPRE  A  イギリス

薄幸の女性チェリスト「デュ・プレ」で名高いです。「神様」カザルスと共に、20世紀のチ  ェロ四天王(カザルス、ロストロポーヴィチフルニエ、デュ・プレ)の1人です。  16歳の時に鮮烈なデビューを飾りましたが、28歳の時に難病にかかり、演奏活動ができな  くなってしまいました。そして闘病生活の末、42歳でこの世を去ることとなってしまったの  です。実質の演奏活動の期間は約10年ということになりますが、その間、10代から20代  にかけて、歴史に残る名盤を残したのですから、天才肌のチェリストです。  ちょうど20歳の時に演奏したエルガーのチェロ協奏曲が何と言っても看板曲です。人生の哀  愁に満ちていて、ポルタメントを駆使した表情は極めて豊か、スケールは大きく、とても20  歳の女性による演奏とは信じがたいほどです。  当時の夫、バレンボイムとの共演によるドヴォルザークのチェロ協奏曲も、体がもたないので  はないかと思われるほどの体当たり的な大熱演に、心を打たれずにはいられません。  演奏スタイルは、叙情性を持ちながらも、男性顔負けの情熱溢れるものでした。わずか10年  の演奏活動とはいえ、いつまでも語り継がれるであろう女性チェリストです。
ブラームス「チェロ・ソナタ」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・エルガー チェロ協奏曲/バルビローリ(65)(ワーナー)      SS  ・ショパン チェロ・ソナタ/バレンボイム(71)(ワーナー)      A  ・ドヴォルザーク チェロ協奏曲/バレンボイム(70)(EMI)     B   <雄大><情熱>
14.デュメイ  ヴァイオリン  1949〜  DUMAY  S  フランス

デュメイは現役のヴァイオリニストですが、元々フランス音楽の演奏が主体だったこともあり  まして、ムターパールマンあたりに比べると一段階知名度が低い存在でした。  しかし、20世紀末から21世紀にかけて評価の高い名盤をたて続けに輩出していまして、今  やクレーメルらと並び、現役のヴァイオリニストでトップの存在となりました。と同時に、現  役最高のフランス系ヴァイオリニストでもあります。グリュミオーはデュメイの師匠です。  グリュミオー同様、デュメイの演奏の特徴は、ヴァイオリンという楽器の魅力を最大限に聴か  せることにあります。すなわち、上品で美しい音色や、旋律の歌いを基調とした演奏スタイル  です。基本に忠実と言えばそうなのですが、これだけ楽器の魅力を表出させることができるヴ  ァイオリニストはそうそういるものではありません。デュメイならではの明るく、音量の多い、  美しい音色が最大の持ち味で、初心者の方にも分かりやすいです。  なお、使用している楽器は、クライスラーが使用していたストラディバリウスです。  デュメイはコンクールなどで評判を上げていったタイプではなく、主に実演で評判を上げてい  った珍しいタイプのヴァイオリニストです。しかも、ベルリン・フィルやウィーン・フィルな  どの世界の第一級のオーケストラと共演した録音があるわけでもない不思議な存在です。  1990年代から世界的ピアニストのピリスと組んで、デュオによるヴァイオリン・ソナタの  録音をいくつか残していますが、この夫婦コンビの演奏はみなすこぶる評価が高いです。  現在、世界でNo1のデュオと言えるでしょう。  なお、2008年から関西フィルの首席客演”指揮者”となりましたので、毎年関西を中心に  来日しています。  
   
   管理人が2008年9月、東京文化会館にて撮影。「私の一番好きなピアニストは    ピリスです」と言ったところ、「あなたはいい趣味をしているね。私もそうだよ」    と答えてくれました。
ラヴェル「ツィガーヌ」
 ☆推薦盤☆  ・フランク ヴァイオリンソナタ/ピリス(P)(93)(グラモフォン)      SS  ・ブラームス ヴァイオリンソナタ全曲/ピリス(P)(91)(グラモフォン)   SS  ・ベートーヴェン Vnソナタ第5番「春」/ピリス(P)(97)(グラモフォン)  A  ・ベートーヴェン Vnソナタ第9番「クロイツェル」/ 〃 (02)( 〃 )   A  ・モーツァルト Vn協奏曲第3番/弾き振り SCA(96)(グラモフォン)    A  ・モーツァルト 協奏交響曲/弾き振り SCA(96)(グラモフォン)       S  ・モーツァルト ヴァイオリンソナタ集/ピリス(P)(90、91)(グラモフォン) A  ・ラロ スペイン交響曲/プラッソン(88、89)(ワーナー)           A  *SCAは、ザルツブルク・カメラータ・アカデミカの略です(指揮デュメイ)。  *ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは同じCDです。   <美音><明るい><ヴァイオリン・ソナタ◎>
15.ハイフェッツ  ヴァイオリン  1902〜1987  HEIFETZ  S  ロシア

 ヴァイオリニストにとって、ハイフェッツは神様のような存在だそうです。というのも、ハイ  フェッツは超絶的なテクニシャンで、ことテクニックにおいては今だ右に出るものがいないと  言われているからです。20世紀の最大のヴァイオリニストの1人です。  何と6歳でメンデルスゾーンのコンチェルトを弾き、13歳でベルリン・フィルと共演したと  いうのですから、信じられないような話です。  一説によりますと、腕の長さ、指の長さ、指の間隔、ひじの関節の柔らかさ、握力などといっ  た要素が、すべてヴァイオリンを上手く弾くのに合っていたそうです。まさにヴァイオリンを  弾くために生まれてきたような人物だったのであります。そこに巧みな表現力も兼ね備えてい  ましたので、鬼に金棒といったところでしょう。音色はやや渋く、ダンディです。  ハイフェッツはあまりに上手すぎてどんな難曲でもサラっと弾いてしまうため、曲によっては  演奏に深みがないと感じる方がいるかもしれません。決して、テクニックだけで表現力のない  タイプではないのですが、上手すぎるがゆえの宿命と言えなくはないところが惜しいところで  す。そこに物足りなさを感じる方は、他のヴァイオリニストを選ぶべきでしょうか。  初心者の方が、ハイフェッツの超絶的な技術に酔いしれるには、他のヴァイオリニストの演奏  を聴いてからの方が、より凄さをお分かり頂けるでしょう。 
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」ハイフェッツが映画の主役?
 ☆推薦盤☆  ・サラサーテ ツィゴイネルワイゼン/スタインバーグ(51)(RCA)     SS  ・シベリウス ヴァイオリン協奏曲/ヘンドル(59)(RCA)         SS  ・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲/ライナー(57)(RCA)      SS  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/ライナー(55)(RCA)          S  ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/トスカニーニ(40)(RCA)      A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           フォイアマン(Vc)ルービンシュタイン(P)(41)(RCA)A  ・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲/ミュンシュ(59)(RCA)     SS    *メンデルスゾーンとチャイコフスキーは同じCDです。   <超技巧派><やや渋い><鋭い><レパートリー広>
16.葉加瀬太郎  ヴァイオリン  1968〜  S  日本

 言わずと知れた、日本では超有名なヴァイオリニストです。クラシックに馴染みがない人でも  ご存じのヴァイオリニストです。それはマスコミ等への露出度によるものが大きいでしょう。  そもそもクラシックの演奏家と言えるのか?という疑問が発生してしまうのですが、「本業」  はクラシック演奏家とは言えない面があります。ここでご紹介している他のヴァイオリニスト  のように、オーケストラと協奏曲で共演したという話は聞いたことがありません。ですが、コ  ンサートやCDでクラシックの曲を演奏はしているのですから、クラシック演奏家という枠に  「入る」ことは確かでしょう。  葉加瀬太郎(本名 高田太郎 分かる人なら分かります)の略歴をご紹介しますと、東京芸術  大学ヴァイオリン専攻在学中に、学生同士で結成した「クライズラー&カンパニー」の中心人  物となり、クラシック、ポップスというジャンルを超えた音楽を広めて人気を博しました。  「クライズラー&カンパニー」解散後、1997年にアルバム「watashi」でソロデビ  ューを果たします。  その後、現在に至るまで、作曲家、演奏家の両面において活動。年間約100の公演がある人  気者です。  「クライズラー&カンパニー」は、クラシック演奏の団体というよりは、クラシック曲を現代  風にアレンジした曲を扱ったグループでした。20世紀末頃から、このようにクラシック曲を  アレンジした曲を演奏するグループが目に留まるようになってきました。  「クライズラー&カンパニー」は、まさに日本でのそういったグループの先駆け的存在でした。  そしてソロとなった後の葉加瀬はその流れを汲んではいるのですが、どちらかというと「現代  曲作曲家兼演奏家」としてのイメージが強いです。有名な作品は、「情熱大陸」「ファイナル  ファンタジーXII」「やじうまプラス」で使用されている曲や、「全日空」「新生銀行」のC  Mの曲などです。  
自作自演「情熱大陸」
 ☆推薦盤☆   特になし   <現代曲派><作曲>
17.ハーン  ヴァイオリン  1979〜  HAHN  S  アメリカ

 「ヴァイオリンの新しい女王」と呼ばれ、ヴァイオリニスト界の将来を担う存在と言われてい  たのがヒラリー・ハーンです。  9歳の時にピーボディ音楽院の名誉リサイタルのオーディションに最年少で優勝し、翌年、ヴ  ァイオリニストの英才教育で有名な、アメリカのカーティス音楽院に入学すると、その1年半  後にボルティモア交響楽団と共演します。そこからは飛ぶ鳥を落とす勢いで、ニューヨーク・  フィル、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団という、アメリカの主要オーケ  ストラと次々に共演を果たしたのでした。  1995年にはドイツデビューを果たし、2002年にはクラシックCD最大の大手、グラモ  フォンと専属契約を結びました。  このように、輝かしい経歴の持ち主で、現代の英才教育の申し子とも言えるハーンは、21世  紀の録音に着々と名盤を残しつつあり、名実ともにヴァイオリニスト界を背負う存在となって  います。  本人はバッハにやや重きをおいているようですが、他にもブラームスベートーヴェンなど、  ドイツ音楽を主体に演奏しています。  今後の録音に期待したいですし、来日も多いですので、ぜひ実演に接して頂きたいと思います。
パガニーニ「24のカプリース」
 ☆推薦盤☆  ・シベリウス ヴァイオリン協奏曲/サロネン(07)(グラモフォン)       A  ・バッハ ヴァイオリン協奏曲集/カハーン(02、03)(グラモフォン)     A  ・パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番/大植英次(05)(グラモフォン)    A  
18.パールマン  ヴァイオリン  1945〜  PERLMAN  S  イスラエル

現在は高齢ですが、現代最高級のテクニシャンとして知られ、現役で最も有名なヴァイオリニ  ストの一人です。映像で御覧になったことのある方はご存知でしょうが、小さい頃に小児マヒ  にかかり、下半身不自由なために座って演奏をします。  では、彼の音楽が素晴らしいかというと、ここが難しいところで、ハイフェッツ以上に、パー  ルマンの場合は上手さの方がどうしても目立ってしまいます。技巧派の演奏家は、上手すぎる  がゆえに、えてしてこういう罠に陥りやすいのですが、パールマンもその例にもれません。  よって、知名度の割には、これという名盤は少ないです。  楽天的だったり、淡白な面があったり、もっとじっくりと聴きたい部分も、サラっと弾いてし  まいます。明るい人間性が音楽にも反映されていて、右手の運動神経の良さからくる抜群のテ  クニックが裏目に出てしまっている面が随所に見られます。  もっとも、この点に関してはあくまで好みの問題です。  パールマンの演奏は、それほど深刻ではないので、初心者向けのヴァイオリニストでしょう。
サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」
 ☆推薦盤☆  ・サラサーテ ツィゴイネルワイゼン(77)(ワーナー) A   <超技巧派><レパートリー広>
19.フルニエ  チェロ  1906〜1986  FOURNIER  A  フランス

フルニエは20世紀を代表するチェリストで、神様カザルスと、ロストロポーヴィチ、女性の  デュ・プレらと共に、チェロ四天王として覚えて頂きたいと思います。  奏法は、デュ・プレのように全身全霊を込めて弾くわけでも、ロストロポーヴィチのように豊  富な音量とスケールで圧倒するタイプでもないのですが、気品があり、美しい音を響かせるチ  ェリストでした。その容姿もあいまって、「チェロの貴公子」と呼ばれました。  よって、同じ「チェロ四天王」でも、それぞれ個性が違います。デュ・プレの演奏を「熱すぎ  る」と言う人もいれば、特にロストロポーヴィチの場合は、その豊富な音量を、うるさいと感  じる人も少なくありません。デュ・プレもロストロポーヴィチも、録音の悪いカザルスもお気  に召さない方には、きっとフルニエがぴったりでしょう。  当サイトの推薦盤は、あくまで評論家による評価を序列化したものです。演奏をどう感じるか  は個人の感受性の問題ですから、フルニエの演奏が必ずしもカザルス、ロストロポーヴィチに  劣ると言い切れるものではありません。こと「チェロ四天王」にとっては、ご自分の最もお好  きなチェリストの演奏をお聴きになるのが良いと思います。
ドヴォルザーク「チェロ協奏曲」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・ドヴォルザーク チェロ協奏曲/セル(62)(グラモフォン)        SS  ・バッハ 無伴奏チェロ組曲/(60)(アルヒーフ)              A  ・ベートーヴェン チェロ・ソナタ全集/グルダ(P)(59)(グラモフォン)  A  ・ベートーヴェン ピアノ五重奏曲「大公」/           シェリング(Vn)ケンプ(P)(70)(グラモフォン)   A    *ベートーヴェンのチェロソナタ第3番とピアノ五重奏曲「大公」は同じCDです。   <気品>
20.マイスキー  チェロ  1948〜  MAISKY  S  ラトヴィア

現役で最高のチェリストの最有力候補といったら、このマイスキーでしょう。ヨーヨ・マと並  び、世界で最も有名な現役のチェリストです。  マイスキーはラトヴィア、旧ソ連の出身で、1948年生まれのため、物心がついた時には、  ソ連は冷戦状態でした。よって、当然のようにソ連当局からの厳しい束縛を受けた演奏家の一  人ですが、マイスキーほど旧ソ連の体制に苦労した演奏家もいないと言われています。  「チェロの代わりにスコップを手にする」という強制収容所での生活を経て、ようやくイスラ  エルに亡命したのが1973年のこと。ここから実質の演奏活動がスタートすることとなりま  した。  なお、強制収容所生活を強いられる前は、チェリストとしては神童と呼ばれ、同じくソ連を母  国とするロストロポーヴィチに師事していました。  そして、亡命後にメータに勧められてソリストとなってからは、世界の第一線で活躍するよう  になりました。  特に、ピアニストのアルゲリッチとは親交が深いことで有名です。  まずまず名演も残しているのですが、最高傑作といったら、アルゲリッチと共演し、師のロス  トロポーヴィチをも凌ぐ評価を得ている、シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」です。  高音になっても全く音量の変わらないテクニックと、哀しくも美しい表現力が満喫できる名盤  となっています。  なお、ラ○スとそっくりである点もポイントが高いです。
シューマン「アダージョとアレグロ」伴奏アルゲリッチ
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト アルペジオーネ・ソナタ/アルゲリッチ(84)(デッカ)    SS   <技巧派>
21.ミルシテイン  ヴァイオリン  1903〜1992  MILSTEIN  B  ウクライナ

これは!という特筆すべき録音は残してないものの、ミルシテインは20世紀の傑出したヴァ  イオリニストの一人でして、「ヴァイオリンの貴公子」と呼ばれました。  結局来日することはなく、またCDも実演に比べて上手く録音されていないこともあり、日本  での評価は本場ほどではないのが残念です。  芸風は、ハイフェッツに代表される超絶技巧と、常に違った演奏スタイルを模索する点を兼ね  備えているものでした。後者についてご説明しますと、弦楽器を弾かれる方はすぐにお分かり  になると思いますが、ヴァイオリンという楽器はピアノと違って、同じ音を出すのにもいくつ  かの指の押さえ方があります。弦が4本ありますので、最高で4つの指の押さえ方をする音も  あります。そして、どの指を使うかで、微妙に音色が違ってきます。ミルシテインは、弾くた  びにこの音色の違いを活用しました。  同じメロディーでも、聴衆は聴く時によって違う音色を楽しめたのです。つまり、ミルシテイ  ンは聴衆に「聴かせる」「聴いてもらう」ことに最大の重きをおいた、サービス精神旺盛なヴ  ァイオリニストだったのです。  ゆえに、聴衆を前にしてこそ個性が発揮されるヴァイオリニストであって、1パターンしか聴  けないCDでその真価をはかろうということには無理があります。冒頭で触れましたように、  これは!という録音が残されていないのもそれが大きな原因でしょうか。  現在、我々はCD等でしか演奏を知るすべがないのが残念です。
バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」
パルティータ第2番第5曲
   ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス ヴァイオリン協奏曲第3番/フィストゥラーリ(64)(EMI)  A  ・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲/アバド(72)(グラモフォン)      B  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/ヨッフム(74)(グラモフォン)        B  ・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲/アバド(73)(グラモフォン)      A   <技巧派><超即興派><実演派>
22.ムター  ヴァイオリン  1963〜  MUTTER  S  ドイツ

知名度や格、人気などで名実ともに現在のヴァイオリニスト界の女王で、クラシックCD最大  の大手であるグラモフォンの看板ヴァイオリニストです。  容姿端麗であるのも、男性ファンにはポイントが高いです。  まだまだ若く、50代で、盛んにレコーディングを行なっていますし、名盤を続々と輩出して  いますので、今が全盛期とも言えます。今後の録音にも大いに期待できます。  16歳の時に、カラヤン指揮の元、ベートーヴェンの協奏曲をレコーディングしたのですから、  元々天才肌のヴァイオリニストです。それだけに、早熟に終わらなければと懸念されていたの  ですが、90年代以降の録音も大変評判がよく、演奏はかなり個性的になりました。歴代のヴ  ァイオリニストの中でも最高クラスの「名盤制作者」です。  ムターの演奏スタイルは、美音で旋律の歌いを「聴かせる」タイプです。歌う部分と流す部分  のコントラストが大きく、中には歌う部分をしつこいと感じる方もいるようです。円熟期に差  し掛かり、「女王」の面目躍如たる妖艶な音色、容姿のごとく、艶っぽい音色、表現を、「ね  ちっこい」と感じる方がいるようです。  好みの方にとっては、この旋律の歌い方の豊麗さが最大の魅力で、この点において非常に個性  的です。ムターの演奏は総じて華やかになるのが特徴と言えます。  毎年とはいきませんが、来日回数は多い方ですので、是非とも実演に接して頂ければと思いま  す。
モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第5番」
 ☆推薦盤☆  ・ヴィヴァルディ 四季/トロンヘイム・ソロイスツ(99)(グラモフォン)     A  ・サラサーテ ツィゴイネルワイゼン/レヴァイン(92)(グラモフォン)      B  ・シベリウス ヴァイオリン協奏曲/プレヴィン(95)(グラモフォン)       A  ・ブラームス ヴァイオリンソナタ全曲/オーキス(P)(09)(グラモフォン)   A  ・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲/マズア(08)(グラモフォン)      A  ・モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番/ロンドン・フィル(05)(グラモフォン)A  ・モーツァルト ヴァイオリンソナタ集/オーキス(P)(06)(グラモフォン)   A     <華やか><明るい><ねっとり>  
23.ヨーヨー・マ  チェロ  1955〜  YO−YO MA  S  フランス

 
 現役のチェリストで知っている人は?と聞かれたら、大半の方が「ヨーヨー・マ」と答えるの  ではないでしょうか。現役にはマイスキーという大物がいますが、日本での知名度ではおそら  くヨーヨ・マの方が上でしょう。  ヨーヨー・マは、台湾系のアメリカ人です。中国で生まれたわけではなく、両親が中国人の音  楽家で、パリで生まれました。アメリカの大学を出て、今や世界で活躍しているチェリストで  す。何と、既にCDを50枚以上も出しているのですが、チェリストとしては異例でしょう。  知名度が高いからか、ヨーヨー・マのCDは日本ではよく売れるそうです。しかし、残念なが  らこれと言える程の名盤はないようです。チェロがソロで活躍する曲というのは絶対数が極め  て少ないため、ロストロポーヴィチフルニエなどが録音している曲だと、どうしても及ばな  いのは致し方ないことだと思われます。  ヨーヨー・マは、非常に幅の広いチェリストで、クラシックというジャンルを超えて活動して  います。例えば、南米の音楽であったり、中国の古来の民俗音楽であったり、普段、あまり人  目につかない音楽を発掘し、録音として残しています。それゆえ、CDの数が多いのです。  極端に言いますと、「クラシック」と定義される西洋音楽とは違った地域の音楽も重視してい  るため、「クラシックのチェリストとは言えない」と言う評論家もいる程です。  ヨーヨ・マの音楽観に共感する方は、CDをあたってみてはいかがでしょうか。
エルガー「チェロ協奏曲」
 ☆推薦盤☆   ・エルガー チェロ協奏曲/プレヴィン(75)(SONY)        A   <現代曲派><親日派>
24.ロストロポーヴィチ  チェロ  1927〜2007  ROSTROPOVICH  S  ロシア

チェリストとしてカザルスは別格ですが、格やクラシック界への功績という点で、次にくるの  はやはりロストロポーヴィチでしょう。  20世紀屈指の大チェリストで、21世紀初めまで生きていましたので、「生ける人間遺産」  とも言える存在でした。  芸風の最大の特徴は、その豊富な音量にありました。また、技巧派でもあり、当代随一のテク  ニシャンでもありました。言うまでもなく、協奏曲では、豊富な音量はソリストにとって不可  欠です。しかし、ロストロポーヴィチの音量は他のチェリストに比べて明らかに大きかったの  で、音量が大きすぎる、ですとか、大味であると言って嫌う人も中にはいるようです。  晩年は指揮業を副業としていて、この点はカザルスと同じですが、指揮者としてはカザルス以  上といってもよく、評価の高い名盤もいくつか輩出しています。  ロストロポーヴィチといえば、何といってもベートーヴェンのチェロソナタ第3番〜5番が不  滅の金字塔となっています。音量豊富な、スケールの大きい、雄大な演奏で、しかもステレオ  録音とくれば、これを凌ぐCDは当分現れないと言われています。  また、初心者の方が超一流のチェリストの演奏とはどういうものかということを知るためには、  ロストロポーヴィチの録音を聴くと分かりやすいと思われます。
ドヴォルザーク「チェロ協奏曲」(チェリストとして)
チャイコフスキー「交響曲第6番『悲愴』」(指揮者として)
 ☆推薦盤☆  <チェリスト>  ・シューベルト アルペジオーネ・ソナタ/ブリテン(P)(68)(デッカ)   A  ・ショパン チェロ・ソナタ/アルゲリッチ(P)(80)(グラモフォン)   SS  ・ドヴォルザーク チェロ協奏曲/カラヤン(68)(グラモフォン)       A  ・ベートーヴェン チェロ・ソナタ全集/リヒテル(P)(61〜63)(デッカ)SS  <指揮者>  ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/アルゲリッチ(P)(78)(グラモフォン) A  ・リムスキー=コルサコフ シェエラザード/パリ管弦楽団(74)(ワーナー) B   <音量豊富><技巧派><指揮>





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