19世紀生まれの個性派指揮者達





  シューリヒト  1880〜1967  SCHURICHT  B  ドイツ

 シューリヒトはここでご紹介するほどの存在ではないかもしれません。「指揮者列伝」の類の  書籍にはまず載っていることが多いのですが、生涯、特定のポストについていたわけでもない  ですし、これといった名盤は少ないですし、それもブルックナーファンでなければほとんど無  縁と言ってもいいくらいの指揮者です。  ドイツ生まれの指揮者ですが、スター指揮者として脚光を浴びることはありませんでした。  晩年になってようやくウィーン・フィルを振れた指揮者です。  シューリヒトの芸風の真価は非常に解りづらいです。トスカニーニ的な鋭さには富んでいまし  て音で勝負するタイプなのですが、テンポは速めで、スケールが小さいですので、いかにも淡  白な印象を与えます。  ところが、淡々とした流れの中に、実は千変万化の表情の移ろいがあったり、作品の最も大事  な部分を実直に表現していたりという、聴く側に「知」を求めるというものだと言われていま  す。よほど耳の肥えた方でないと、シューリヒトの音楽は理解できないかもしれません。地味  な存在だったというのも、芸風の解りづらさが多分に影響していたのでしょうか。  晩年は湖のほとりに暮らし、自然を愛し続けました。最後の傑作がブルックナーの交響曲です。  ブルックナーにおいてはテンポの速さやスケールの小ささが裏目に出るはずなのですが、大自  然をこよなく愛し、枯淡の境地に達したからこそ成しえた至芸です。  なお、ベートーヴェンブラームスなどのドイツ音楽も得意としました。  ぜひ下のリンクから「英雄」をお聴き下さい。スマートなだけの演奏とは一線を画しているこ  とをお分かり頂けるはずです。
ベートーヴェン「交響曲第3番『英雄』」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・ブルックナー 交響曲第7番/ハーグ・フィル(64)(デンオン)       A  ・ブルックナー 交響曲第9番/ウィーン・フィル(61)(ワーナー)      A  ・モーツァルト 交響曲第35番「ハフナー」/ウィーン・フィル(56)(デッカ)A   <鋭い><テンポ速><スケール小>

  セル  1897〜1970  SZELL  B  ハンガリー

 セルは、ショルティ、ライナーなどと同じハンガリー出身の指揮者で、アメリカに渡り、クリ  ーヴランド管弦楽団を鍛えに鍛え上げた指揮者として名高いです。  元々はヨーロッパのオペラハウスを転々としていたのですが、たまたまニューヨークに滞在し  ていた際に第二次世界大戦が勃発し、そのままアメリカに留まることとなりました。そしてメ  トロポリタン歌劇場の指揮者になった後、1946年にクリーヴランド管弦楽団と運命の出会  いを果たします。  セルは19世紀風の、君主性の強い指揮者でした。  楽団員の任命権からプログラム決定権まで、クリーヴランド管弦楽団の全権を掌握し、同オー  ケストラを世界屈指のアンサンブル集団と呼ばれるまで鍛え上げました。  そして多くの名盤を残しましたが、とりわけ、1970年、最後の録音となったドヴォルザー  クの「交響曲第8(7)番」は、「セルの遺産」とも呼ばれ、同作品の不朽の名盤とされてい  ます。
ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』第1楽章」リハーサル風景
 ☆推薦盤☆  ・ドヴォルザーク 交響曲第8番/クリーヴランド管弦楽団(70)(ワーナー) SS  ・ドヴォルザーク スラヴ舞曲集/  〃  (62〜65)(SONY)     S  ・ヘンデル 水上の音楽/ロンドン交響楽団(61)(デッカ)          B  ・ヘンデル 王宮の花火の音楽/ロンドン交響楽団(61)(デッカ)       B  ・メンデルスゾーン 交響曲第4番/クリーヴランド管弦楽団(62)(SONY) A  ・モーツァルト 交響曲第40番/クリーヴランド管弦楽団(67)(SONY)  A  ・モーツァルト交響曲第41番/クリーヴランド管弦楽団(63)(SONY)   A  ・モーツァルト ポストホルン/クリーヴランド管弦楽団(69)(SONY)   A

  ミュンシュ  1891〜1968  MUNCH  B  ストラスブール⇒フランス

指揮者はピアニスト出身者が多いのですが、弦楽器出身者も多いです。かのトスカニーニがそ  うでした。ここでご紹介するミュンシュもそうで、指揮者デビューはなんと41歳でした。  指揮者としてのエピソードに、リハーサルが短いことで有名だったというものがあります。そ  れは、本番にすべての情熱を捧げるためという、オーケストラ出身のミュンシュなりの美学で  あったと言われています。  実際、ミュンシュの指揮ぶりは、指揮棒を風車のように回すほどの情熱的な指揮ぶりで、演奏  も大変情熱に満ちた熱いものでした。  ミュンシュは晩年、パリ音楽院管弦楽団を元に設立されたパリ管弦楽団の初代音楽監督となり、  最後の力を注ぎました。ミュンシュ自身の名盤の数は少ないですが、推薦盤に挙げた、パリ管  弦楽団との熱演であるブラームスの交響曲第1番とベルリオーズの幻想交響曲は、今なお同作  品の定盤、永遠の名演と言われています。
ブラームス「交響曲第1番」全楽章
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス 交響曲第3番/ボストン交響楽団(59)(RCA)   S  ・ブラームス 交響曲第1番/パリ管弦楽団(68)(エラート)        ・ベルリオーズ 幻想交響曲/パリ管弦楽団(67)(エラート)        ・ラヴェル ボレロ/パリ管弦楽団(68)(エラート)          A   <情熱かなり強>

  メンゲルベルク 1871〜1951 MENGELBERG  B  オランダ

 同じく19世紀生まれのワルタートスカニーニフルトヴェングラーらと比べても、格的に  決して見劣りしないカリスマ性を持っていたのが、このメンゲルベルクです。メンゲルベルク  が指揮台に上がった時の暴君ぶりは、まさしく19世紀の指揮者像そのもので、トスカニーニ  以上とも言えるものだったそうです。この4人を、19世紀生まれの4大指揮者と呼ぶことも  あります。  楽員の自主性を許さなかったり、リハーサルでは長々と演説をしたり、徹底してパート練習を  させたり。そうして、当時のアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現在のロイヤル・  コンセルトヘボウ管弦楽団)の首席指揮者を約50年間務め、世界でも屈指のオーケストラに  鍛え上げました。  このコンビに、リヒャルト・シュトラウス交響詩「英雄の生涯」(英雄とは自分のことです)  を捧げています。また、マーラーは弟子のワルター以上に、メンゲルベルクのマーラー演奏を  評価していました。  演奏スタイルは、その指揮者ぶりと同様に19世紀風のロマンティシズムに溢れるものでした。  時にはフルトヴェングラー以上に、やりたい放題とも言える主観的な指揮ぶりで、テンポは著  しく変動します。現代のオケならば、そのわがままぶりに、楽員が怒って帰ってしまうと思わ  れかねない程自分の理想を優先させます。  また、弦の音色の甘美さを徹底し、ワルターを基準としますと、やりすぎと思われるほど、濃  厚な甘美さを表出させました。  残念ながら、「名盤」として評価の高いCDはほとんどありません。録音が古いことや、かな  り主観的な演奏で一般向けではないことが理由なのでしょう。  名盤を多く残している3大指揮者に比べると、知名度も数段落ちます。  よって、メンゲルベルクの録音は皆「歴史的録音」という、都合のいい範疇に収められてしま  っています。上級者の方向けの指揮者です。  年配の音楽評論家の方々は、演奏の素晴らしさは百も承知で、「ぜひ聴いて欲しい伝説の録音」  ということで、バッハの「マタイ受難曲」チャイコフスキーの「悲愴」、R・シュトラウス  の「英雄の生涯」は、今でも同作品のベストCDに挙げる人も多いです。  また、下にYOUTUBEへのリンクがあるマーラーの第5番の第4楽章(アダージェット)も伝説  的名演としてこの楽章だけがよく採り上げられます。
マーラー「交響曲第5番」第4楽章「アダージェット」
 ウェーバー「オベロン序曲」(超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・バッハ マタイ受難曲/アムステルダム・コンセルトヘボウ(39)(OPUS蔵)  ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/   〃   (37)(OPUS蔵)  ・マーラー 交響曲第4番/     〃        (39)(フィリップス)   <ロマンティック><主観主義〜デフォルメ><超柔軟>  

  モントゥー 1875〜1964 MONTEUX  B  フランス

 19世紀生まれの名指揮者の中の一人に挙げてもいい実力者なのが、フランスの指揮者、モン  トゥーです。しかし、同じく19世紀生まれのトスカニーニフルトヴェングラーらと比べる  とカリスマ性に欠ける面がありますので、録音の数自体が少なく、日本では通好みの存在とい  うのが実状です。  モントゥーはトスカニーニのように、作曲者に対して畏敬の念を常に抱き、演奏者は作曲者の  しもべであるという観念を貫いていました。こういった考え方は「作曲者至上主義」と呼ばれ  れ、ジュリーニも同じです。  スタイルは、基本的にはスコアに忠実で、強弱の誇張もあまりなく、効果を狙うような演出は  しません。加えてテンポも速めですので、いかにもそっけなく感じられてしまいます。総じて  無個性な指揮ぶりなのですが、音楽に対する「愛」がありました。作曲者のしもべであるとい  う考え方は、作曲家や曲に対する「愛」の表れであり、演奏をさせて頂くという喜びに溢れて  いました。外面ではそっけない印象を与えながらも演奏が評価されるのは、モントゥーの音楽  には「愛」があるからなのです。それが演奏をするオーケストラにも伝わり、オーケストラも  喜びに満ちて演奏をするのです。そういった両者の音楽に対する「愛」、「喜び」が聴く者を  惹きつけるのでしょう。  モントゥーは「ブラームスの音楽が自分に一番しっくりくる」と語っていたと言われています。  新しい録音の名盤が続々と出てきた以上、モントゥーの演奏を真っ先にお薦めしたいとは言い  がたいのですが、モントゥー渾身のブラームスで、ぜひ一度耳にして頂ければと思います。  また、フランス出身なので、「お国もの」のラヴェルも得意なレパートリーでした。
ベートーヴェン「交響曲第8番」
   ☆推薦盤☆  ・ドビュッシー 牧神の午後への前奏曲/ロンドン交響楽団(61)(デッカ)    A  ・フランク 交響曲/シカゴ交響楽団(61)(RCA)              S  ・ブラームス 交響曲第2番/ロンドン交響楽団(62)(デッカ)         S  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/アムステルダムCG(62)(デッカ)  S   <テンポやや速><柔軟性高>


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