20世紀で最も有名な指揮者。「帝王」と呼ばれる。フルトヴェングラーの後を受けてベルリ ン・フィルの第4代目の常任指揮者に就き、クラシック音楽の全盛期をもたらせた最大の功労 者。どのくらい有名なのかは、クラシックを聴いたことがない人でも、カラヤンという名前は 知っている程である。クラシックファンでない方々にとっては、指揮者=カラヤンである。他 に知っている指揮者といえば、せいぜい小澤征爾くらいだろう(ダン池田も?)。 カラヤンは恐ろしいほど幅広いレパートリーを誇り、膨大な数の録音を世に送り出した。しか し、彼ほど賛否が分かれる指揮者もいない。いや、非難の多い指揮者もいないのである。 彼はクラシック音楽の普及のため、サウンドとしての音楽を追及した。そのため、本来のクラ シック音楽のもつ芸術性をどこかに置き忘れてしまったのである。従って、彼の音楽は、磨き に磨いたベルリン・フィルの技術とあいまって、スピーディーで、爽快で、「かっこよく」、 「耳に心地よい」音楽である。芸術性に乏しいこの芸風こそが、彼の「罪」となってしまった。 しかし、彼がクラシック音楽の普及に大変な功績を残したのも事実である。レコードだけでな く、コンサートの映像(ビデオ、LD)の普及にも尽力した。CDが現在の収録時間にまで拡 大されたのは、彼が「ベートーヴェンの『第九』が1枚のCDに収まるように』」と依頼した ためだというのは有名な話である。 今日ほどクラシックが普及しているのは、彼の功績といっても全く過言ではなく、ましてや西 洋の音楽が、遠い日本に普及したのも、彼のおかげである。カラヤンの全盛期、カラヤン(指 揮者)、ベルリン・フィル(オーケストラ)、グラモフォン(レコード会社)が揃えば怖いも のなしといった時代が続いた。 クラシック初心者の方は、あまり深いことを考えずに、彼のサウンドを重視した音楽から入る のもいいのでは。彼には批判も多いが、名盤も多いのは事実である。しかし、彼の演奏スタイ ルに慣れたら、他の、芸術主義の指揮者の演奏を聴いてみると、きっとクラシック音楽の芸術 としての奥の深さに触れることができるだろう。 アバド、小澤らと同様、初心者にはもってこいの指揮者である。 ☆推薦盤☆ ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/ウィーンフィル(84)(グラモフォン) A ・ドヴォルザーク 交響曲第8番&第9番/ウィーンフィル(85)(グラモフォン) A ・ビゼー 「カルメン」/ベルリンフィル(82,83)(グラモフォン) SS ・フランク 交響曲/パリ管弦楽団(69)(EMI) S ・ブラームス 交響曲第1番/ベルリンフィル(87)(グラモフォン) A ・ブラームス 交響曲第2番&第3番/ベルリンフィル(86)(グラモフォン) A ・プッチーニ 「蝶々夫人」/ウィーンフィル(74)(デッカ) SS ・リスト 前奏曲/ベルリンフィル(67)(グラモフォン) S ・R・シュトラウス「ツァラストゥトラはかく語りき」/BPO(83)(G) SS ・R・シュトラウス「ばらの騎士」/フィルハーモニア管弦楽団(56)(EMI) S <客観主義><超万能型>
父に名指揮者エーリッヒ・クライバーをもつサラブレッド。20世紀最後のカリスマ指揮者。 彼は現在の指揮者界の重鎮達と同世代なのだが、2004年の突然の訃報に世界中が落胆した。 現役の時の彼は天才指揮者の名を欲しいままにした。それは彼の尋常でない耳の良さと音楽に 対する勘によるものだと私は思う。 スタイルは現代的でスピード感のあるものなので、外面は現代の客観主義と同じであるが、感 動の質がまるで違う。今まさにその曲が生まれたかのような新鮮なニュアンスを持って響く彼 の音は、音にいのちが吹き込まれているかのように響くのである。よって音楽は常に活き活き とし、躍動感を伴って流れていく。激しさと柔軟性も併せ持っている。強音と弱音のバランス は最高で、格調も高い。「音」で勝負するタイプなので、初心者にも分かりやすい。 それらが「天才」と呼ばれる所以で、他の指揮者からは聴くことの出来ない光彩を放った音を オケから引き出すことができた。 最大の欠点はレパートリーが少なかったことだが、絶対の自信のある曲しか演奏しないという、 彼の流儀を一生貫き通した。それゆえに、ウィーン・フィルと喧嘩をして出入り禁止になった り、当日のドタキャンがあったりと、エピソードにもことかかない指揮者だった。その一種の 神秘性が、彼にカリスマ性を持たせることとなった。そのカリスマ性を恐れて、カラヤンが、 彼をベルリン・フィルの指揮台に一度ものせることはなかった。 彼は実はオペラの曲が得意で、十八番がズラリとあるが、交響曲も、ほぼすべてが第一級の評 判である。当然、自信のある曲しか演奏しなかったことにも起因するのだが、最もはずれの少 ない指揮者と言うこともできるだろう。 また、彼の指揮姿の流麗さは、さながら音楽の化身のようであり、これ自体が既に芸術ともな っている。合わせるオケの方は大変だったらしいが…是非DVDで観て頂きたい。 ☆推薦盤☆ ・ウェーバー「魔弾の射手」/ドレスデン国立管弦楽団(73)(グラモフォン) S ・ヴェルディ 「椿姫」/バイエルン国立管弦楽団(76,77)(グラモフォン) S ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ウィーンフィル(78)(グラモフォン) A ・ブラームス 交響曲第4番/ウィーンフィル(80)(グラモフォン) S ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/ウィーンフィル(74)(グラモフォン) SS ・ベートーヴェン 交響曲第7番/ウィーンフィル(75,76)(グラモフォン) SS ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/ドレスデン国立(80〜82)(グラモフォン)A ・ニューイヤー・コンサート1989&1992(89,92)(SONY) A ・ニューイヤー・コンサート1989(DVD)(89)(ユニバーサルミュージック) A *ベートーヴェンの交響曲第5番と第7番は同じCDです。 <テンポやや速><かなり鋭い><柔軟><レパートリー狭>
指揮者によって演奏の何が違ってくるのかというと、一番分かりやすいのはテンポだろう。 クレンペラーの音楽は「構造主義」と呼ばれ、概してテンポは遅く、感情に流されることがな く、堂々と音楽を響かせていくスタイルである。従って立派さではこの上なく、ずっしりとし た重厚な響きが生まれる。似たようなタイプとしては、朝比奈隆やベームがいるが、クレンペ ラーこそが本家本元、「構造主義」を地でいくスタイルである。旋律を意識的に歌わなかった り、テンポが遅かったり、トスカニーニのようなダイナミズムもないので、一見無味乾燥、重 々しく感じられる面があるが、その分細部まで充実した響きを聴かせる。 よって、曲との相性も当然あるし、聴く人によって好みが分かれるスタイルである。 ちなみに、彼の言葉に、「私とワルターとは性格も音楽に対する考え方も正反対」「フルトヴ ェングラーの、楽曲の終わりでテンポを速めてゆくのは感心できない」というものがある。 彼の若い頃の演奏はあまり評価が芳しくはない。とてもここに紹介できるレベルの指揮者では なかったという。しかし、晩年になって、ガラっと演奏スタイルを変えてしまった。 彼は寝タバコで火だるまになったり、指揮台から落ちて演奏不能に陥ったりと、エピソードに はことかかない指揮者だが、半身不随、言語不明瞭になりながらも指揮をしていた最晩年の頃 の演奏の方が評価が高い。テンポが更に遅くなり、音楽も表現も、より深みを増したため、こ の頃の彼を「満身創痍」と表現する評論家もいる。 ☆推薦盤☆ ・ブラームス ドイツ・レクイエム/フィルハーモニア管弦楽団(61)(EMI) B無 ・ヘンデル 「メサイア」/ニューフィルハーモニア管弦楽団(64)(EMI) S無 ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/フィルハーモニアO(59)(EMI) A ・ベートーヴェン ミサ・ソレムニス/ニューフィルハーモニアO(65)(EMI) S無 ・マーラー 交響曲第2番「復活」/フィルハーモニアO(61,62)(EMI) B ・マーラー 交響曲「大地の歌」/フィルハーモニア管弦楽団(64,66)(EMI)S ・メンデルスゾーン 交響曲第3番「スコットランド」/ 〃 (60)(EMI) S ・メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」/フィルハーモニア管弦楽団(60)(EMI) A ・ワーグナー 管弦楽曲集T/フィルハーモニア管弦楽団 (60,61)(EMI) A ・ワーグナー 管弦楽曲集U/フィルハーモニア管弦楽団 (60,61)(EMI) A <テンポ遅><スケールかなり大><重厚>
アメリカ生まれのバーンスタインは、カラヤンと同時期の指揮者で、日本では人気を二分した。 すなわち、20世紀後半のステレオ録音時代を代表する大指揮者である。カラヤン以外で同時 期の大指揮者には、ウィーン・フィルとの共演で名高いベーム、ロシアのムラヴィンスキーら がいる。いずれも、モノーラル録音の時代に生まれながら、ステレオ録音で名演を鑑賞できる 世代である。 バーンスタインといえば、まず浮かぶのはマーラーである。彼は同じくマーラー指揮者であっ たワルターの後継であり、先輩ワルター以上といってもよい名演を残した。マーラーの交響曲 に限っては彼の演奏を選べばまずは間違いなく、それだけでも歴史に名を残す指揮者と言える。 しかし、彼は万能型で、レパートリーはかなり広い。特にベートーヴェンにおいては彼の雄弁 さや、カラヤンの及びもつかぬ表現力とあいまって、名演奏がある。交響曲第3番「英雄」、 交響曲第9番「合唱」はとりわけ、フルトヴェングラーの録音がモノーラルで音質が悪いため、 ステレオ録音としては真っ先に挙げられるほどの名演である。 彼はウィーン・フィルとは数多く録音しているが、ベルリン・フィルの指揮台に上がったこと は一度しかない。ある日、ベルリン・フィルの常任指揮者であったカラヤンが指揮棒を振ると、 いつになく音がよく鳴る。その前日にバーンスタインがベルリン・フィルを振ったことを知っ たカラヤンは、二度と彼をベルリン・フィルの指揮台にのせなかったというのは有名な話。 そのたった一度の共演が、推薦盤に挙げてあるマーラーの「交響曲第9番」である。 彼の芸風は、感情をムキ出しにするスタイルである。激しい部分では、非常に恰幅がよく、豪 快で、情熱的な演奏をする傍ら、叙情的な部分では、内面を吐露するかのような哀切に満ちた 演奏をする。そのため、ライヴ録音の方が評価は高い。 彼は自分の感情の赴くままに演奏する。批判されようが自分のスタイルを貫く主義である。よ って初心者の方にもとっつきやすい指揮者ではあるのだが、如何せんマーラーは曲自体が分か りづらい。 マーラー以外の作曲者の演奏から、バーンスタインに触れてみてはいかがだろう。 ちなみに、彼の作曲した「ウェスト・サイド・ストーリー」は、名指揮者が作曲した作品とし ては最も有名な作品。演奏曲によっては、ピアニストとしても登場する多才な指揮者である。 ☆推薦盤☆ ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー/コロンビアSO(59)(SONY) S ・ショスタコーヴィチ 交響曲第5番/ニューヨークフィル(79)(SONY) S ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/ウィーンフィル(78)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン 交響曲第9番/ウィーンフィル(79)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン ミサ・ソレムニス/アムステルダムCG(78)(グラモフォン) S ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/アムステルダムCG(87)(グラモフォン) A ・マーラー 交響曲第2番「復活」/ニューヨークフィル(87)(グラモフォン) SS ・マーラー 交響曲第5番/ウィーンフィル(87)(グラモフォン) SS ・マーラー 交響曲第9番/アムステルダムCG(85)(グラモフォン) S ・マーラー 交響曲第9番/ベルリンフィル(79)(グラモフォン) S ・モーツァルト レクイエム/バイエルン放送交響楽団(88)(グラモフォン) A *アムステルダムCGはアムステルダム・コンセルト・ヘボウの略です <万能型><実演派><スペシャリスト><情熱強><作曲>
ベームといえば、カラヤン、バーンスタインと同時期の大指揮者で、ウィーン・フィルとの共 演が多く、日本でも大人気であった。彼は19世紀生まれなので、モノーラル録音の時代、ラ イヴ録音での白熱した演奏にも定評があったが、現在名盤として名高い演奏は、晩年のウィー ン・フィルとのステレオ録音がほとんどである。晩年に、自分の演奏スタイルを確立した。 彼はワルターに次ぐモーツァルトの大家としても知られる。 ここで紹介している指揮者の中では唯一モーツァルトの交響曲全集を録音しているし、モーツ ァルトの小品の録音も多い。彼のモーツァルトに対する人一倍の愛情が感じられる。 先輩ワルターよりも、モーツァルトの録音は多い。 ベームの芸風は、徹底した職人タイプであった。リハーサルでがっしりと仕込みあげた音楽を ステージにもってくるタイプで、常に充実した響きを聴かせた。その意味では、「構造主義」 のクレンペラーのテンポを速めたようなスタイルである。彼の言葉に「音楽は造形である」と いうものがあるが、柔軟性には富んでいるものの、感情を表に出すタイプではなく、激しさは あまりない。よって音楽は常に崩れることなく、イン・テンポで、地に足がついた、どっしり とした重厚なものである。彼は大学で法律を学んだのだが、楽譜に書いてあることから逸脱す することを嫌ったその芸風は、法を遵守するという考えに基づいているとの説もある。 モーツァルトの音楽において、彼の柔軟性は存分に活きてはいるのだが、如何せん、音楽にダ イナミズムを望むファンにとっては、彼の音楽は「重たく」感じられるようだ。 彼はモーツァルトに多くの録音を残したが、モーツァルトファンにとっては、ワルターと並び、 最もはずれの少ない指揮者である。 ☆推薦盤☆ ・シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」/BPO(63)(グラモフォン) A ・ブラームス 交響曲第2番/ウィーンフィル(75)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」/ウィーンフィル(71)(グラモフォン) A ・モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」/ 〃 (76)(グラモフォン) A ・モーツァルト「フィガロの結婚」/ベルリン・ドイツ・オペラ(68)(グラモフォン)A ・モーツァルト レクイエム/ウィーンフィル(71)(グラモフォン) S ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/バイロイト祝祭O(66)(グラモフォン) A <テンポやや遅><重厚><スペシャリスト>
ロシア生まれの指揮者。ここで紹介している名指揮者の中で、真の天才となると、実はこのム ラヴィンスキーだけかもしれない。彼は世界的な指揮者だが、一方で超個性的な指揮者であり、 固定ファンにとってはまさに神格化された存在である。 彼は曲を演奏する際、一切の常識とか伝統などを無視し、自分の眼を通して極めて主観的にス コア(楽譜)を読む。そこで当然デフォルメがなされるわけだが、同じデフォルメにしても、 フルトヴェングラーのように解りやすい芸術ではないのである。極めて抽象的なデフォルメで あり、何を表現したいのかが非常に解りにくい。この神秘性が彼にカリスマ性を抱かせるのだ ろう。よって、当然上級者向けではあるのだが、上級者でさえ一般受けはしないはずだ。 彼の音楽は、完全に「個」の世界で、大衆受けを拒否するものである。 彼の演奏はテンポが速く、リズムはきびきびと刻まれ、身をきるようなフレージングがなされ るため、外面はトスカニーニ風と言っていいだろう。しかし、その坦々と進む音楽の中には千 変万化の表情の移ろいがあったり、デフォルメがあったり、一見そっけない印象を与えるのだ が、実は枚挙に暇がない。よほど耳の肥えた方でないと、彼のデフォルメを理解するのは難し いかもしれない。「この曲にはこんな解釈の仕方があったんだ」と感動できるのなら、彼こそ が真の天才のように思えてくるだろう。そうでない方は彼とは無縁だと思う。 彼はロシアのレニングラード・フィルハーモニーと終生コンビを組んでいたため、同楽団はま さしく彼の「手兵」であったようで、鍛えに鍛え上げただけに、オケとしてのレベルは相当高 いものがある。このコンビの録音には、お国物のロシア音楽が多いが、実際、レパートリーは 非常に幅広い。 最も初心者向けなのは、やはりチャイコフスキーである。それ以外は彼独特の、一筋縄ではい かない演奏が多いので、もっと耳が肥えた時に聴いてみたい。 しかし、彼のCDは音があまり良くないものがほとんど。原因は、彼の所属レーベルの「メロ ディア」が旧ソ連のレーベルで、あまり海外の最先端の技術を導入しなかったことに起因する らしいが、なぜか70年代の録音でさえモノーラルで、この点は覚悟する必要がある。 良い音質で聴きたい方は、「ALTUS」レーベルかビクターの録音がお薦め。 ☆推薦盤☆ ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/レニングラード(77)(アルトゥス) ↑A ・ショスタコーヴィチ 交響曲第5番/レニングラード(84)(ビクター) ↑A ・チャイコフスキー 交響曲第4番/レニングラード(60)(グラモフォン) SS ・チャイコフスキー 交響曲第5番/レニングラード(60)(グラモフォン) A ・チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」/レニングラード(60)(グラモフォン)A ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/レニングラード(61)(ドリームライフ)B ・ベートーヴェン 交響曲第4番/レニングラード(73)(アルトゥス) ↑S *チャイコフスキーの交響曲第4番と第5番と第6番は同じCDです。 <テンポ速〜高速><かなり鋭い><デフォルメ>