19世紀生まれの3大巨匠指揮者達





  トスカニーニ  1867〜1957  TOSCANINI  S  イタリア
 
 トスカニーニは、ドイツのフルトヴェングラーと並ぶ20世紀最大の指揮者です。  ワルターを加え、19世紀生まれの「3大指揮者」と呼ばれています。  フルトヴェングラーの芸風とは常に比較されていますが、音の背後にあるドラマなどを重んじ  たフルトヴェングラーとは正反対の芸風で、スコア(楽譜)こそがすべてでした。  現代の指揮者に「はやり」の、この「客観主義」ですが、トスカニーニの場合は全く似て非な  るものでした。トスカニーニは「音」にすべてを託します。よって演奏中、パッションは炎の  ように燃え立ち、リズムは地の底にまで突き刺さります。楽員一人たりとも気を抜くことは許  されず、全身全霊を込めた音楽を創造していくスタイルです。この、音のダイナミズムこそが  トスカニーニの芸風でした。よって、テンポは速めで、楽譜のffなどの記号も殊更強調され  ます。ただ楽譜どおりに演奏するスタイルと一線を画しているのは、音楽に対する熱意、芸術  家としての格の違いでしょう。スコアには忠実ながらも、最高のエネルギーに満ちた「音」を  聴かせてくれるのがトスカニーニです。その点こそがトスカニーニイズムです。  そこまでの「音」をオーケストラから引き出すには、普通の接し方で通じるはずがありません。  トスカニーニは暴君、あるいは凄まじいかんしゃく持ちとしても知られていました。  リハーサルの最中に納得がいかないと、怒号、罵声が飛ぶことなど当たり前。しかもスコアを  破ったり、指揮棒を投げつけることも日常茶飯事で、裁判沙汰になることさえありました。  けれども、音楽の素晴らしさは楽員も認めざるを得なく、イタリア人ゆえの陽気な性格で、楽  員からは非常に慕われていて、一般の人気も凄かったのです。  得意なレパートリーは、ベートーヴェンの他、ワーグナーなどのオペラ曲。やはりイタリア生  まれだけあって、ヴェルディロッシーニなど、イタリア生まれの作曲家にも相性がいいです。  もちろん、初めはヨーロッパで成功しましたが、後にアメリカに渡り、RCAというメジャー  レーベルと、トスカニーニのために結成されたNBC交響楽団との共演で、大成功を収めまし  た。現在入手できるCDは、NBC交響楽団との録音によるものがほとんどです。  残念ながら、録音は1950年代までで、数枚のステレオ録音が残されているだけです。  ですが、古い録音でも、録音は音質に定評のあるRCAレーベルがほとんどですから、今では  かなり音質が改善されているのが本当にありがたい限りです。  なお、下のリンクから見れる超貴重映像は、何と80歳を過ぎてのものですので、驚くほかな  いといえますし、トスカニーニの音楽にかける情熱が伝わってきます。  後世に与えた影響も計り知れません。オペラの時にオーケストラが演奏する「オーケストラピ  ット」を考案しましたし、「指揮者は作品を演奏させて頂く」という、「作曲者至上主義」は  指揮法を学ぶ原点とされたり、指揮者たるものはオーケストラという「楽器」を操るためには  君主であるべきだという、19世紀からの伝統的な指揮者の在り方を踏襲する姿は模範とされ  ました(現在ではこうした伝統はほとんど崩壊しました)。  そのカリスマ性もあいまって、トスカニーニは「指揮者の中の王」とも呼ばれています。
ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」第1楽章(超貴重映像)
ワーグナー「ワルキューレの騎行」(超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・ヴェルディ レクイエム/NBC交響楽団(51)(RCA)            A  ・ベートーヴェン 交響曲第1番/NBC交響楽団(51)(RCA)           ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/NBC交響楽団(53)(RCA)       ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/NBC交響楽団(52)(RCA)       ・メンデルスゾーン 交響曲第4番「イタリア」/NBC交響楽団(54)(RCA)    ・レスピーギ 交響詩「ローマ三部作」/NBC交響楽団(49〜53)(RCA)  SS   <テンポ速><超鋭い><情熱爆発><客観主義><イタリア音楽○>

  フルトヴェングラー  1886〜1954  FURTWANGLER  S  ドイツ

 イタリアのトスカニーニと人気を二分した、20世紀最大の指揮者の一人です。特に日本にお  いては神格化されています。19世紀生まれの「3大指揮者」の一人です。  フルトヴェングラーの芸風は、「真芸術主義」とも言えるもので、作品の外面のみを捉えて演  奏するのではなく、作曲家が作品に込めた主張、ドラマを音として表現するものです。こうい  った演奏スタイルはドイツの「精神主義」という伝統的な演奏法でして、見事にそれを具現化  しました。  よって、フルトヴェングラーは作品が持っている哲学性、思想性を表現するのに、デフォルメ  したり、ルバートを多く用いたり、主観的に演奏することに何のはばかりもありませんでした。  すなわち、指揮者という枠を超えた、真の芸術家タイプの指揮者だったのです。「楽譜に忠実」  がモットーのトスカニーニとは正反対の芸風でした。  そんなフルトヴェングラーが最も得意としたのはベートーヴェンでした。ベートーヴェンが作  品に込めた哲学性、思想性を音として表現することと才能とが融合し、人類の至宝ともいうべ  き不滅の演奏を後世に残しました。  フルトヴェングラーは世界最高のオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニーの第3代目の常  任指揮者となったのですが、今残されている録音のほとんどは、1940〜1950年頃のモ  ノーラル録音です。よって、いくら名演とはいえ、鑑賞に支障のある録音もあるのは認めざる  を得ないところです。  ですが、たとえ音質が悪くとも、今でも多くの指揮者の中でも屈指の人気を誇っておりまして、  多くの名演がベスト盤とも言える評価を得ていることは、フルトヴェングラーの芸術表現が決  して時代によって色あせるものではないことの証拠でもあります。  フルトヴェングラーは19世紀が生んだ最高の指揮者の一人であったのは紛れもない事実です。  如何せん、音楽解釈が哲学的で奥深く、音楽+αですので、初心者の方には難しいでしょう。  ましてや録音が古いですので、中級者以上の方向けの指揮者なのではないでしょうか。  なお、実演で燃えるタイプでしたので、代表盤にはライヴ録音が多いです。  トスカニーニと違って、ステレオ録音は全く残されていません。あと10年生きてくれれば。
ベートーヴェン「交響曲第5番『運命』」第1楽章(1947年静止画)
ベートーヴェン「交響曲第9番『合唱』」第4楽章最終部分(超貴重映像)
モーツァルト「ドン・ジョバンニ」より(何とカラーの超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第9番「ザ・グレイト」/BPO(51)(グラモフォン)   S  ・ブラームス 交響曲第3番/ベルリン・フィル(49)(ワーナー)         A  ・ブラームス 交響曲第4番/ベルリン・フィル(48)(ワーナー)         A  ・ベートーヴェン 交響曲第3番「英雄」/ウィーン・フィル(52)(ワーナー)     ・ベートーヴェン 交響曲第5番「運命」/BPO(47)(グラモフォン)      A  ・ベートーヴェン 交響曲第7番/ウィーン・フィル(50)(ワーナー)       A  ・ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」/バイロイト祝祭O(51)(ワーナー)     ・マーラー さすらう若人の歌/ディースカウ(52)(ワーナー)          S  ・リスト 前奏曲/ウィーン・フィル(54)(ワーナー)              A  ・ワーグナー 管弦楽曲集/ウィーン・フィル他(38〜54)(ワーナー)      A  ・ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」/フィルハーモニア管弦楽団(52)(ワーナー)A   <スケールかなり大><実演派><ベートーヴェン◎><主観主義〜デフォルメ><作曲> 

  ワルター  1876〜1962  WALTER  S  ドイツ
 
ブルーノ・ワルターは、トスカニーニフルトヴェングラーと同じ19世紀生まれの指揮者で、  この3人は19世紀生まれの3大指揮者と言われています。しかし、ワルターが2人と決定的  に違い、我々にとって身近な存在である点は、1960年代まで長生きしたために、コロンビ  ア交響楽団(世紀の大指揮者、ワルターの録音のためだけに結成されました)との一連の名演  を、ステレオ録音で存分に鑑賞できるという点です。トスカニーニにはわずかにステレオ録音  が残っていますが、フルトヴェングラーにはありません。ワルターの演奏は、1930年前後  のウィーン・フィルとの一部の古い録音を除き、ステレオ録音で聴くことができるのです。  何という幸せでしょう。しかも、現在では、そのほとんどが高音質化されています。神とワル  ターに感謝する他ありません。  演奏の特徴は、基本的には楽譜に忠実なのですが、他の指揮者には真似出来ないほど豊麗な旋  律の歌わせ方にありました。極めて人間感情豊かな表現、ロマンチックで、「カンタービレ」  という言葉はワルターのためにあったと言っても過言ではないほどです。  「柔」という表現が似合いますので、演奏の「凄み」や、指揮者としての「君主性」などの点  ではトスカニーニやフルトヴェングラーに一歩を譲るでしょうが、ワルターならではの温かな  人間性や、ウィーン情緒が溢れる表現に満ちた「名演」の数では、ステレオ録音ということも  あってか、両者をはるかに凌いでいまして、相性がいい作品では、今なお多くの名盤がズラリ  と顔を揃えています。  割と万能型の指揮者なのですが、作曲家によってはスペシャリストの面もありました。  モーツァルトとは相性がピッタリで、ベームと並ぶ大家としても知られています。  モーツァルトに加え、ベートーヴェンの偶数番号の交響曲、シューベルトマーラーなどにお  いて、その人間感情の表現の巧みさは、今でも他の追随を許さないほどです。  特にマーラーの演奏においては、指揮者マーラーの弟子、及び唯一の友人ということもあって、  バーンスタインと並ぶマーラー指揮者でもあります。今では録音年代の違いもあってバーンス  タインの方が評価が高いですが、マーラーのファンならばどうしてもワルターの演奏は聴いて  おきたい、第一人者です。  そんなスペシャリストの面を持ちながらも、得意なレパートリーが多く、有名曲の録音も多い  ですので、クラシック鑑賞には絶対に欠かすことのできない、初心者にも上級者にも温かい、  まさに世紀の大指揮者なのであります。  なお、上級者の方向けですが、モーツァルト、マーラーなどに1930年代録音のウィーン・  フィルとのモノーラル録音の名演がありまして、今ではお世辞にも録音がいいとは言えない演  奏なのですが、是非、歴史的名盤として持っていたい逸品が揃っています。
ブラームス「交響曲第2番」第4楽章(リハーサル?超貴重映像)
 モーツァルト「交響曲第40番」第4楽章(超貴重映像)
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト 交響曲第5番/コロンビア交響楽団(60)(SONY)       S  ・シューベルト 交響曲第8番「未完成」/ニューヨーク・フィル(58)(SONY) A  ・ハイドン 交響曲第100番「軍隊」/ウィーン・フィル(38)(OPUS蔵)   B  ・ブラームス 交響曲第4番/コロンビア交響楽団(59)(SONY)        A  ・ベートーヴェン 交響曲第2番/コロンビア交響楽団(59)(SONY)      A  ・ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」/コロンビアS0(58)(SONY)    S  ・マーラー 交響曲第1番「巨人」/コロンビアS0(61)(SONY)       A  ・マーラー 交響曲「大地の歌」/ウィーン・フィル(52)(デッカ)        A  ・マーラー 交響曲第9番/ウィーン・フィル(38)(OPUS蔵)           ・モーツァルト 交響曲第25番/ウィーン・フィル(56)(SONY)       A  ・モーツァルト 交響曲第40番/ウィーン・フィル(52)(SONY)         ・モーツァルト アイネクライネナハトムジーク/  〃  (36)(OPUS蔵)    ・モーツァルト レクイエム/ニューヨーク・フィル(56)(SONY)       B   <かなり柔軟><スケールやや小><豊麗><万能型><マーラー◎><モーツァルト○>


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