アシュケナージは現役の音楽家の中でも屈指の知名度を誇っています。 本業はピアニストだったのですが、高齢のためか、現在では指揮者として活動しています。 プレヴィンの後を受け、2007年8月までNHK交響楽団の音楽監督を務め、桂冠指揮者の 名を与えられるほど、日本との結びつきが強いです。N響の指揮をしている姿を目にしたこと のある方は多いのではないでしょうか。ですが、指揮者としては全くといっていいほど名盤を 残してはおらず、実力よりも名前の方がはるかに先行している感があります。 ピアニストとしては、レパートリーが凄まじく多く、バッハからショスタコーヴィチまでほと んどの作曲家の作品を網羅し、膨大な録音、多くの名盤を残していますし、ショパンにおいて はほぼすべての作品を録音しています。 ところが、これぞベスト盤と言えるほどの決定的な名盤はないのが特徴でもあります。 と言いますのも、確かに音色は美しく、テクニックもあるのですが、音楽解釈については特に 個性や凄みがある訳ではなく、ハメを外さない優等生で、悪く言えば、無難と平凡が紙一重と いう印象があるからでしょう。 ポリーニ、アルゲリッチなど現役の一線級のピアニストが弾かないマイナーな作品まで録音が あるため、世界的なアシュケナージの演奏を聴けることはありがたいのですが、同じ土俵で戦 った場合今一歩歯が立たないのは、器用貧乏ということなのでしょうか。もちろん、いい意味 ではハズレが少ないピアニストです。 今後ピアニストとしての録音はあるのでしょうか。そして、今後どのような道を進むのでしょ うか。いずれにしましても、現在、クラシック音楽界の重鎮とも言える存在です。 ショパン「練習曲」作品10−1 指揮者編のご紹介へ ☆推薦盤☆ ・ショパン 練習曲集/(71、72、81、82)(デッカ) A ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/プレヴィン(75)(デッカ) A ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/弾き振り(80)(デッカ) A ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番/ハイティンク(84)(デッカ) A ・ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番/ハイティンク(85)(デッカ) A <美音><技巧派><超万能型>
1971年生まれですので、まだピアニストとしては「若手」の方に入る年代ではありますが、 もっと若い頃から、将来楽壇を担うのではないかという期待の声もあるほどの逸材でした。 名盤をどんどん輩出するのではという期待を背負っていまして、現時点ではまずまずといった ところでしょうか。 大きなコンクールの受賞歴があるタイプのピアニストではありません。 また、特に、強い個性や天才的な閃きのあるタイプではなく、テクニックと音楽性で勝負する タイプです。それだけに、晩成型だとしたら、これからも名演奏をどんどん世に送り出す可能 性は充分にあります。 ですので、「エフゲニー・キーシン」という名前はぜひ覚えておいて頂きたいところです。 今後に期待、といったところです。 ショパン「英雄ポロネーズ」 ☆推薦盤☆ ・ショパン 即興曲集/(04)(RCA) A ・プロコフィエフ ピアノ協奏曲第3番/アバド(83)(グラモフォン) A ・ムソルグスキー 展覧会の絵/(01)(RCA) A <技巧派>
「ZIMERMAN」は、「ツィマーマン」と表記されることも多いのですが、当サイトでは ドイツ語読みの「ツィメルマン」で一貫しています。 ツィメルマンは20世紀後半になって全盛期を迎え、演奏が次々と高評価を受け、現在も旬、 ピアニスト界の最高峰に君臨しています。ちなみに、ツィマーマン(ツィンマーマン)という 女性ヴァイオリニストもいますので、ご注意下さい。ピアニストなのは、クリスティアン・ツ ィマーマン(ツィメルマン)です。 ショパン・コンクール優勝者として華々しいデビューを飾り、カラヤンやバーンスタインなど に絶賛されたほどの素質をもっています。強靭なタッチ、音の強弱の絶妙さ、色彩感のある音 色などが持ち味ですが、何と言っても非常に個性の強いピアニストで、主観的なピアニストで あるのが特徴です。 いわゆるデフォルメというほどではありませんが、かなり個性的な演奏が随所に見られますし、 「ナルシスト」というのが代名詞になっているくらい、甘美なメロディーなどには独特の世界 があります。「ツィメルマン」の世界です。 今までに充分な名演を残してはいますが、まだまだ若いですので、今後の録音、演奏からは目 を離せません。 また、ほぼ毎年来日公演がありますので、実演に接して頂きたいです。 ショパン「バラード」4番 ☆推薦盤☆ ・シューベルト 即興曲集/(90)(グラモフォン) A ・ショパン ピアノ協奏曲第1番/弾き振り(99)(グラモフォン) A ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/弾き振り(99)(グラモフォン) S ・ショパン バラード/(87)(グラモフォン) A ・ドビュッシー 前奏曲集 第1&第2/(91)(グラモフォン) S ・ブラームス ピアノ協奏曲第1番/ラトル(03)(グラモフォン) S ・リスト ピアノ協奏曲第1番/小澤(87)(グラモフォン) A ・リスト ピアノ・ソナタ/(90)(グラモフォン) A <主観主義><ナルシスト>
ショパン・コンクールは、世界で最も権威ある、ピアニストの国際コンクールとされてきて、 優勝者にはポリーニ、アルゲリッチ、ツィメルマンなどを輩出してきました。 ブレハッチも2005年の優勝者で、しかも、ショパンと同じポーランド出身者としては、ツ ィメルマン以来30年ぶりの優勝でした。その際に、端正な顔立ちと雰囲気がショパンに似て いると話題になったそうです。 演奏も抜群です。類まれなテクニックはもちろんのこと、美音、打鍵の強さと、3拍子を兼ね 備えています。形式に囚われた現代の音楽教育の元に育ったピアニストとしては異例とも言え る、天才的な感性の持ち主だと言われています。 ブレハッチは主にショパン弾きのピアニストです。1985年生まれで、初のレコーディング が2007年ですので、まだ録音自体が少ないのですが、将来は歴史に残るショパン弾きと称 される可能性を十分に秘めています。いえ、それどころか、他のレパートリーでも名演、名盤 を残してくれるかもしれない超新星です。 ショパン「ワルツ」作品64−1〜64−3 ☆推薦盤☆ ・ショパン ピアノ協奏曲第2番/セムコフ(09)(グラモフォン) S ・ショパン 前奏曲集/(07)(グラモフォン) A ・ショパン ポロネーズ集/(13)(グラモフォン) A <ショパン○><打鍵><美音><テクニック>
世界一と言っていいショパン・コンクールで優勝を決めた後、日本ではブーニン・ブームが起 こり、チケットが飛ぶように売れた頃がありました。 ブーニンはまだめぼしいCDも少なく、荒削りなピアニストですが、日本では今でも人気です。 自身も親日家で、毎年ツアーがあります。 ブーニンは芸術家肌で、コンクール優勝者にはない「型破り」なところがあります。それゆえ 出来不出来が激しいのですが、ツボにはまるととんでもない名演が飛び出す可能性を秘めてい ます。非常に芸達者で、主観的な演奏をしますので、個性が強く、何が飛び出すか分からない ところが最大の魅力です。現役では貴重な、主観主義タイプのピアニストです。 演奏する作品に対する深い洞察も尋常ではないです。 ブーニンといえばショパンのイメージが定着しています。本人は本望ではないようなのですが、 日本公演ではショパンの親しみやすい有名作品を演奏してくれますので、ぜひ実演に接して頂 きたいです。 聴衆の反応をみて演奏の仕方を変えるサービス精神旺盛な面もあります。 ブーニンの演奏に感動できるようであれば、きっと彼のファンになるでしょう。逆に、単なる 深読みや小細工としか感じられないのならば、無縁ということになるでしょう。 なお、40歳を過ぎた頃から、早くも指の衰えについて語っています。全盛期の頃より練習に 5倍の時間がかかるのだそうです。 まだ若いのだから、がんばれブーニン! ショパン「練習曲集 作品10−12『革命』」 ☆推薦盤☆ 特になし <主観主義><実演派><即興派><不安定>
ここで紹介している現役のピアニストでは、ツィメルマンより2歳若いポゴレリチ。世間一般 的には中年の歳ではあるのですが、クラシックの世界では、まだまだこれから旬を迎える時期 です。そういう意味では、ツィメルマンとよい好敵手になっていくだろうと思われるピアニス トです。 とはいえ、残念ながら、今でも「これ」というCDがありません。この点では明らかにツィメ ルマンに遅れをとっているのですが、過去にアルゲリッチが「天才」と評した逸材で、時が経 つにつれてその片鱗を見せつつあります。非常に個性の強い、異端ともいえるピアニストです。 演奏スタイルの魅力的なところは、何といっても天才的な「閃き」です。よって演奏は楽譜を 無視した主観的な演奏になり、時には誰にも真似できないような、変幻自在の即興のリアリズ ムを見せます。 こういったタイプですから、いつ、何が飛び出すか解らないという期待を我々に持たせます。 これからとんでもない名盤が生み出される可能性もあります。この点がツィメルマンとの大き な違いです。 来日する機会も多いので、ぜひ実演に接してみてはいかがでしょうか。即興派ゆえに、予想す らしなかった名演に立ち会えるかもしれません。 ベートーヴェン「エリーゼのために」 ☆推薦盤☆ ・ショパン スケルツォ/(95)(グラモフォン) S ・ラヴェル 夜のガスパール/(82)(グラモフォン) B ・リスト ピアノ・ソナタ/(90)(グラモフォン) A <主観主義><即興派>
日本では特に、出すCDがことごとく超絶賛され、コンサートも超天才扱いされてきた、20 世紀屈指のピアニスト、ポリーニ。CDは飛ぶように売れてきました。 しかし、実は批判も少なくないです。ポリーニは音色が極めて美しく、テクニックが素晴らし いです。ことテクニックに関しては、20世紀のピアニストの中でも最高レベルだと言われて います。しかも10代の頃からです。 ポリーニは1960年のショパン・コンクールでぶっちぎりの優勝を果たした時、審査委員で あった当時の大ピアニスト、ルービンシュタインをして「我々審査員の中で技術的に彼より完 璧に弾ける者があるだろうか」と言わしめた人物です。この時が18歳でした。 人間精密機械とでもいうべき完璧なテクニックを既に持っていたのです。 ポリーニの人間離れしたテクニックを聴きたい方によくお薦めされるのが、当時、あまりの完 璧さに「歴史的事件」とも言われたショパンの「練習曲集」です。相当な難曲揃いのこの曲集 までをも完璧なまでに弾ききるポリーニ。複雑に構成された一音一音が光彩を放っており、こ れほど完璧な演奏は、20世紀になって録音が可能になってから、誰一人残せませんでした。 ですが、上手すぎるがゆえに、批判を浴びることとなってしまいました。 確かに、批判派も含めて、すべての評論家が認める、稀代のピアニストです。そのため、どう してもテクニックばかりが独り歩きしてしまい、クラシック音楽家に必要な、表現力の足りな さが批判の的となってしまったのです。 私は、ポリーニの何とも言えない香りを持った音色は好きですが、逆に、ショパンの練習曲で は「革命」や「別れの曲」、あるいはベートーヴェンの演奏において、何か大切なものを欠い ているという意見にも賛成です。 おそらく、超天才としてマスコミが煽りすぎ、偶像だけが先走り、演奏すべてに完璧なものを 求められたがゆえの悲劇であると私は思うのです。ポリーニが技巧的な天才であるがゆえに起 こった悲劇なのだと思うのです。ポリーニは表現、音楽解釈など、すべての面において完全な 天才という偶像と比較されたために批判されることとなってしまったのではないでしょうか。 ポリーニはあくまで、「技巧面」での天才だということなのではないでしょうか。 10代にして精密機械のようなテクニックを持っていた天才児ポリーニ。もう高齢です。21 世紀になっても評価の高い名盤を輩出していますし、来日の機会も多いですので、まだまだ今 後も目を離せませんし、ピアニスト界の「レジェンド」であることは疑う余地がありません。 ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」第1楽章から ショパン「練習曲『革命』」 ショパン「練習曲『別れの曲』」 ☆推薦盤☆ ・シューベルト ピアノ・ソナタ第21番/(87)(グラモフォン) A ・シューマン ピアノ協奏曲/アバド(89)(グラモフォン) SS ・ショパン 前奏曲集/(74)(グラモフォン) S ・ショパン 夜想曲集/(05)(グラモフォン) A ・ショパン 練習曲集/(72)(グラモフォン) SS ・ショパン ポロネーズ集(7曲)/(75)(グラモフォン) A ・ショパン バラード/(99)(グラモフォン) A ・ショパン スケルツォ/(90)(グラモフォン) S ・ブラームス ピアノ協奏曲第1番/ベーム(79)(グラモフォン) A ・ブラームス ピアノ協奏曲第2番/アバド(76)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/アバド(92、93)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/アバド(92、93)( 〃 ) A ・ベートーヴェン ピアノソナタ第14番「月光」(91)(グラモフォン) S ・ベートーヴェン ピアノソナタ第17番「テンペスト」(88)(グラモフォン) A ・ベートーヴェン ピアノソナタ第21番「ワルトシュタイン」(88)( 〃 ) A ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」(76)(〃)SS ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/ベーム(76)(グラモフォン) A ・リスト ピアノ・ソナタ/(89)(グラモフォン) S *ショパンのバラードとスケルツォは同じCDです。 *ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「テンペスト」「ワルトシュタイン」は同じCDです。 <美音><超絶テクニック>