伝説のピアニスト達





  ギーゼキング  1895〜1956  GIESEKING  B  ドイツ

 世界的なピアニストともなると、練習はどのように行っているかお考えになったことがあるで  しょうか?ここでご紹介しているミケランジェリなどは完璧主義で神経質な性格でしたので、  自分の納得のいかない一小節を、一日中練習していたこともあると言われています。  ギーゼキングは全く逆の極端なパターンで、ひたすら楽譜を読み続け、演奏のイメージを頭の  中で構築することが日課になっていたと言われています。自ら意識してピアノを弾く練習をし  たことがなかったそうです。もちろん、それを支えていたのは驚異的な記憶力があったからな  わけでして、初見(初めて楽譜を見てその場で弾くこと)の達人でもありました。  今日、ギーゼキングの得意なレパートリーとしてはドビュッシーモーツァルトラヴェルと  されていますが、世界で初めて「ピアノのために書かれた作品を全て演奏できる」という特技  をトレードマークにしました。完璧なまでの作品の記憶力、洞察力は同時期のピアニストの中  でも卓越したものを持っていましたので、今や伝説化されたピアニストの一人です。  残念なことに、録音はすべてモノーラル録音です。そこへきて、国内盤の廃盤も多いですので、  なかなか演奏に接する機会がありません。いずれ音質の向上や、CD化が進めば、もっと評価  されていいピアニストです。
モーツァルト「ピアノ・ソナタ第11番『トルコ行進曲つき』
 ☆推薦盤☆  ・ドビュッシー 「映像」第1&第2集/(53)(EMI)            B  ・ドビュッシー 前奏曲集 第1&第2巻/(53、54)(ワーナー)       B  ・ドビュッシー 子供の領分/(53、54)(ワーナー)             B  ・モーツァルト ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲つき」/(53)(ワーナー) A   <イメージ派><ドビュッシー○><モーツァルト○>
  グルダ  1930〜2000  GULDA  A  オーストリア

 グルダはバッハモーツァルトベートーヴェンを得意としました。推薦盤を御覧頂くと、ベ  ートーヴェンとモーツァルトのピアノ協奏曲がズラリ並んでいます。特にモーツァルトにおい  てはグルダが一番だと言ってもいいほどです。かなり得意なジャンルが偏ってはいますが、そ  の分野においては真のスペシャリストで、世界一といっても過言ではありません。モーツァル  トのピアノ協奏曲を聴きたかったら、グルダの演奏を聴けばいいのです。グルダのモーツァル  トはまさにチャーミングの粋。まるで作品を可愛がっているかのようです。ぜひ下のYOUTUBE  へのリンクから演奏姿もご覧下さい。  グルダは70年代に、何とジャズの演奏家に転向しようとしたのですが、周囲の反対にあって  あきらめ、クラシックとジャズの両立の道を選びました。  その点については様々な見解がなされていますが、バッハのような古い音楽も弾くしラヴェル  やドビュッシーのような新しい作曲家の作品も弾きました。その意味では、古い音楽と新しい  音楽の融合を目指した、先進的な考えをもったピアニストだということができるのではないで  しょうか。  グルダが真に愛した作曲家はやはりモーツァルトで、弟子のアルゲリッチは「先生のモーツァ  ルトがある限り私は弾かない」と語ったというエピソードがあります。
モーツァルト「ピアノ・ソナタ第20番」第2楽章
 ☆推薦盤☆  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番/シュタイン(70)(デッカ)       SS  ・ベートーヴェン ピアノ協奏曲第5番「皇帝」/シュタイン(70)(デッカ)    A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第14番「月光」(67)(デッカ)        A  ・ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」(67)(デッカ)  A  ・ベートーヴェン ピアノと管楽のための五重奏曲/ウィーン・フィルWE(60)(デッカ)  A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第20番/アバド(74)(グラモフォン)       A  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/アバド(74)(グラモフォン)       S  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/スワロフスキー(63)(デンオン)     S  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第23番/アーノンクール(83)(テルデック)   SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第26番「戴冠式」/アーノンクール(83)( 〃 )SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第27番/アバド(75)(グラモフォン)       S       <スペシャリスト><モーツァルト◎><協奏曲◎>
  グールド  1932〜1982  GOULD  A  カナダ

 演奏中の手振りやうなり声、更には曲に合わせてハミングしたものが録音にも残されているな  どのパフォーマンスで有名なピアニスト、グールド。  グールドは不思議なピアニストで、最も脂がのりきった頃である1964年を境に、ステージ  での演奏活動を止めてしまいました。そしてその後は録音活動のみとなってしまったのです。  これは極めて珍しいケースです。  よって、実演での実力はあまり知られるところではなくなってしまいました。録音でしか知る  ことができなくなったのです。  グールド曰く、曲を演奏するのに、聴衆の咳払いや拍手は不要なだけであり、それを排除する  ために録音に専念することにしたのだとのことです。  グールドと言えば、何を差し置いてもバッハです。バッハのクラヴィーア曲(鍵盤楽器曲)は  グールドのピアノ演奏を選べばまず間違いはない、と言いますか、すべてグールドが、ダント  ツで最高の評価を得ていたという、バッハの大家なのです。バッハの作品が現在ほどの一般性  をもったのもグールドの功績によるところが大きいとも言われています。  今日では学問的な研究が進み、バッハの演奏はほとんど古楽器によるものになってしまいまし  たが、その卓越した表現力は永遠に色褪せないでしょう。  バッハを現代楽器のピアノで聴くならとにかくグールドなのです。
バッハ「フーガの技法」 ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」第1楽章
 ☆推薦盤☆  ・バッハ ピアノ(チェンバロ)協奏曲集/バーンスタイン他(57〜69)       ・バッハ イギリス組曲/(71〜76)(SONY)               S  ・バッハ フランス組曲/(71〜73)(SONY)               S  ・バッハ パルティータ全曲(57〜63)(SONY)                ・バッハ 平均律クラヴィーア曲集/(62〜67、69、71)(SONY)      ・バッハ ゴルトベルク変奏曲/(81)(SONY)               S      <スペシャリスト><バッハ◎>
  パハマン  1848〜1933  PACHMANN  B  ウクライナ

 パハマンは19世紀中頃の生まれですから、まだショパンが生きていた時代に生まれました。  当時最高のピアニストでしたが、1925年に電気録音が可能になり、モノーラル録音ながら  名盤を多く残しているコルトーに比べますと、あまりに知名度が低いです。  というのは、現在残されているパハマンの録音のほとんどは、電気録音ではなく、機会吹き込  みのため、音質が貧弱でして、CDを店頭で見かけることは稀だからでしょう。  相当古い録音に慣れている方でないと厳しいです。楽曲の鑑賞用というより、歴史的録音とし  て聴くものだとお考え下さい。当然、鑑賞向きではありませんので、一般の音楽書籍では「名  盤」として採り上げられているものはありません。ピアニストとしての扱いも、「伝説のピア  ニスト」とされています。かろうじて録音が残っている程度にお考え下さい。  パハマンの特徴といったら、まずは演奏中に「美しい…」などのつぶやきが最も有名でして、  録音でも聴こえます。  演奏スタイルは、19世紀的ロマンティシズムの粋と言えるもので、芸術至上主義です。この  点はコルトーと同じです。ですが、「ピアノの詩人」と呼ばれたコルトーと違うのは、パハマ  ンの音色は青白さを感じさせるほどに繊細でメランコリックであったということです。  「すすり泣くような」「病的なほど」とたとえられる程で、いくら音質の悪い録音からでも、  それは伺えます。  よって、ベートーヴェンなどは全く不向き。ショパンを得意としていました。  その中で代表的録音と言いますと、夜想曲黒鍵のエチュード葬送行進曲などがあります。  黒鍵のエチュードでは、録音であるにもかかわらず、最初から弾き直しているのが有名です。  録音が残されているピアニストとしては最古の存在であるパハマン。貧弱な録音から音楽の素  晴らしさを充分に感じ取るのは不可能ではありますが、ピアニストの演奏史を語る上では絶対  に欠かせない巨星です。
ショパン「子犬のワルツ」(超貴重録音)
 ☆推薦盤☆   特になし   <ロマンティック><タッチ繊細><芸術主義><ショパン○>
  リパッティ  1917〜1950 LIPATTI  A  ルーマニア

 リパッティは33歳の若さでこの世を去ったため、録音の数も少ないですし、本当に名声を手  に入れることができたと言えるわけではありませんでした。ですが、いかに才能に溢れ、将来  を嘱望されていたかを物語るエピソードをご紹介します。  リパッティの師匠は、かの大ピアニストであり名教師でもあったコルトーです。ハスキルらの  門下生をもっていたコルトーが、最も評価していたのがリパッティでした。  リパッティが亡くなった後のこと、コルトーの初来日の際に「最も有望な若手ピアニストは?」  という質問に、一言「私の弟子にリパッティというものがいますが、不幸にも彼はもう亡くな  ってしまいました。他に考えつきません」と答えたと言われています。  コルトーをしてここまで言わしめた人物だったのですから、もっと長生きしていたら、「世紀  の大ピアニスト」とここにご紹介できたかもしれないほどの素質を持ったピアニストだったの  でしょう。遺した録音は少なく、しかもすべてがモノーラル録音なのですが、ほとんどが第一  級の評価を得ています。録音が悪いですので中級者以上向けのピアニストであると思われます。  ショパンの「ワルツ集」を聴いて頂けば、いかに芸術表現に長けたピアニストだったのかとい  うことを、嫌というほど思い知らされるでしょう。また、「推薦盤」には挙げてないのですが、  「ピアノ小品集」というCDの(こちらからどうぞ)「主よ人の望みの喜びよ」は、リパッテ  ィの芸術の一つの頂点とも言える演奏です。いえ、もはや演奏という次元を超えているかもし  れません。流れてくる音は、人間が奏でたものとは思えず、別世界から聴こえるようなのです。  その音色は、暖かく、優しいぬくもりに満ちたヴェールに包まれていて、聴き手を幻想の世界  へといざないます。  グリーグとシューマンのピアノ協奏曲は現在1枚のCDにカップリングされていますので、超  オススメCDでもあります。また、「ブザンソン音楽祭における最後のリサイタル」は、主治  医の静止を振り切り、失神寸前の状態で遺した最後の録音と言われています。共に録音は古い  のですが、ファンは絶対に持っていたい貴重な遺産です。
ショパン「バラード」第4番(静止画)
   
バッハ「主よ人の望みの喜びを」(静止画)
 ☆推薦盤☆  ・グリーグ ピアノ協奏曲/ガリエラ(47)(ワーナー)              ・シューマン ピアノ協奏曲/カラヤン(48)(ワーナー)           A  ・ショパン ピアノ協奏曲第1番/アッカーマン(50)(EMI)          ・ショパン ワルツ集/(50)(ワーナー)                 SS  ・モーツァルト ピアノ協奏曲第21番/カラヤン(50)(ワーナー)        *グリーグとシューマンは同じCDです。   <ロマンティック><情熱><芸術主義>


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