現役の弦楽器奏者達





  アッカルド  ヴァイオリン  1941〜  ACCARD  B  イタリア

 パガニーニという作曲家は、クラシック史上最高のヴァイオリニストでもありまして、ヴァイ  オリンという楽器の可能性を広げることにも尽力した偉大な音楽家です。楽器の可能性とは、  単に指で弦を押さえて弓で弾くだけでなく、指で弦を弾いたり、他にも音を出す技法のことで  す。弦楽器を弾かれる方はお分かりになるでしょう。  よって、パガニーニの作曲した作品は、技巧の誇示と、ヴァイオリンのあらゆる技法を駆使し  て演奏するために書かれたものですので、「超絶技巧曲」という、極めて難度の高いものとし  て知られています。  そのパガニーニのスペシャリストとも言えるのが、アッカルドです。現在残されているパガニ  ーニのヴァイオリン作品のほぼすべてに録音を残しています。  驚異的なテクニックに加えて、明るく澄んだ音色、豊麗な歌が持ち味のヴァイオリニストです。  ですが、パールマンクレーメルら現役のスターヴァイオリニストに比べると、あまりに知名  度が低いです。  イタリア出身で、13歳で演奏会を開き、神童と呼ばれ、17歳でパガニーニ国際コンクール  で優勝、「パガニーニの再来」とも呼ばれました。現在は一線を退き、そのコンクールの審査  員を務めています。まさにパガニーニ尽くしのヴァイオリニストです。  もちろん、パガニーニ以外の、例えばブラームスメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲も  録音してはいますが、どうも評判はさっぱりのようです。知名度が低いのも当然でしょうか。  こういうスペシャリスト的ヴァイオリニストもいるのだということを知っておいて頂ければと  思ってご紹介しました。
パガニーニ「ヴァイオリン協奏曲第2番『ラ・カンパネラ』」第3楽章
 ☆推薦盤☆  ・パガニーニ ヴァイオリン協奏曲第1番/デュトワ(75)(グラモフォン)   SS  ・ロッシーニ 弦楽のためのソナタ集/ガゾー(Vn)他(78)(フィリップス) SS      <超技巧派><パガニーニ◎>

  シギスヴァルト・クイケン ヴァイオリン 1944〜 KUIJKEN A ベルギー

 兄でバロック・チェロ奏者のヴィーラント・クイケン、弟でリコーダー奏者のバルトルト・ク  イケンと共に「クイケン3兄弟」と呼ばれ、古楽器演奏の中心人物であるのが、シギスヴァル  ト・クイケンです。自身はバロック・ヴァイオリン奏者である他、バロック・ヴィオラ奏者で  もあり、指揮業、教育業も行っています。今日の古楽器ブームに大変な功績を残しています。  「クイケン3兄弟」としては、「ラ・プティット・バンド」というオーケストラ名と、「クイ  ケン弦楽四重奏団」という団体名で活動しています。同じく、古楽器の指揮者兼鍵盤楽器奏者  であるレオンハルトと親交が深いことでも知られています。  主にバロック音楽、古典派がレパートリーでしたが、近年はロマン派まで手を広げていまして、  高齢ではありますが、精力的に演奏、録音を現在も続けています。
バッハ パルティータ第2番より「シャコンヌ」
 ☆推薦盤☆  ・ヴィヴァルディ 四季/ラ・プティット・バンド(06)(ACCENT)      S  ・ハイドン 交響曲第101番「時計」/ラ・プティットバンド(94)(ハルモニア・ムンディ)A  ・ハイドン 弦楽四重奏曲第77番「皇帝」/クイケンSQ(96)(デンオン)    S  ・バッハ ヴァイオリン協奏曲/ラ・プティット・バンド(81)(ハルモニア・ムンディ)   S  ・バッハ ブランデンブルク協奏曲/ラ・プティット・バンド(09)(ACCENT) A  ・バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(99、00)(ハルモニアM) A  ・バッハ Vnとチェンバロのためのソナタ全集/(73)(ドイツ・ハルモニア・ムンディ)    S  ・バッハ マタイ受難曲/レオンハルト(89)(ハルモニア・ムンディ)       A  ・バッハ ヨハネ受難曲/ラ・プティット・バンド(87)(ハルモニア・ムンディ)  A  ・モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番/ラ・プティット・バンド(95)(デンオン)A  ・モーツァルト 協奏交響曲/ラ・プティット・バンド(95)(デンオン)      A  ・モーツァルト 弦楽四重奏曲第14番〜第19番/クイケンSQ(90〜92)(デンオン)  A  ・モーツァルト 弦楽五重奏曲第4番/クイケンSQ、寺神戸亮(95)(デンオン)  S     <古楽器><指揮>

  クレーメル  ヴァイオリン  1947〜  KLEMER  S  ラトビア⇒ドイツ

 ヴァイオリンという楽器は旋律を歌うところに魅力のある楽器なのですが、クレーメルは旋律  をあまり意識的に歌うことをせず、ヴィブラートも必要以上にかけません。クールで、冷たい  音色が特徴です。クライスラーのように甘美な音色が持ち味の芸風とは正反対です。ましてや  クレーメルの場合はテンポも速めですので、その良さが解りにくいヴァイオリニストでしょう。  ですが、ヴァイオリニストとしては最高と言ってもいいくらい、評価の高い名盤が多いです。  レパートリーも広いですので、まさに「名盤制作者」です。  クレーメルの透徹感のある演奏には深い芸術性が隠されていまして、何ともいえない感慨を与  えてくれますので、芸術家タイプのヴァイオリニストと言えます。決してデフォルメを駆使す  るようなタイプではないのですが、冷ややかな音色で奏でられる音楽の中には、ヴァイオリン  という楽器が持つもう一つの面、哀切な響きが充満しています。そこに惹かれてしまいます。  ほぼ毎年必ず来日してくれますので、クラシック鑑賞も中級者以上になりましたら、ぜひ実演  に接して頂きたいと思います。  クレーメルの演奏に感動できたら、クラシックの聴き方の幅が相当拡がっているはずでしょう。  なお、「奇才」の異名をもつように、21世紀になってからは、従来のクラシック曲をアレン  ジしたり、現代曲を初演したり、クレメラータ・バルティカという自選の演奏家だけで楽団を  組み、意欲的に活動していたりと、常に新風を巻き起こしています。まだまだ第一線で活躍し  ています。  
バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」
パルティータ第2番第5曲
 ☆推薦盤☆  ・サン=サーンス 動物の謝肉祭/アルゲリッチ(P)他(85)(デッカ)     SS  ・バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ/(05)(ECM)   S  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/バーンスタイン(82)(グラモフォン)     A  ・ブラームス ヴァイオリン・ソナタ第1番〜第3番/アファナシエフ(87)( 〃 )S  ・ベルク ヴァイオリン協奏曲/デイヴィス バイエルン放送SO(84)(デッカ)  A  ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/アーノンクール(92)(テルデック)   SS  ・ベートーヴェン Vnソナタ第5番「春」/アルゲリッチ(P)(87)( 〃 )  S  ・ベートーヴェン Vnソナタ第9番「クロイツェル」/ 〃(94)( 〃 )   SS  ・モーツァルト ヴァイオリン協奏曲第3番/弾き振り(06)(グラモフォン)    S  ・モーツァルト 協奏交響曲/アーノンクール(83)(グラモフォン)        S   <クール><芸術主義>

  デュメイ  ヴァイオリン  1949〜  DUMAY  S  フランス

デュメイは現役のヴァイオリニストですが、元々フランス音楽の演奏が主体だったこともあり  まして、ムターパールマンあたりに比べると一段階知名度が低い存在でした。  しかし、20世紀末から21世紀にかけて評価の高い名盤をたて続けに輩出していまして、今  やクレーメルらと並び、現役のヴァイオリニストでトップの存在となりました。と同時に、現  役最高のフランス系ヴァイオリニストでもあります。グリュミオーはデュメイの師匠です。  グリュミオー同様、デュメイの演奏の特徴は、ヴァイオリンという楽器の魅力を最大限に聴か  せることにあります。すなわち、上品で美しい音色や、旋律の歌いを基調とした演奏スタイル  です。基本に忠実と言えばそうなのですが、これだけ楽器の魅力を表出させることができるヴ  ァイオリニストはそうそういるものではありません。デュメイならではの明るく、音量の多い、  美しい音色が最大の持ち味で、初心者の方にも分かりやすいです。  なお、使用している楽器は、クライスラーが使用していたストラディバリウスです。  デュメイはコンクールなどで評判を上げていったタイプではなく、主に実演で評判を上げてい  った珍しいタイプのヴァイオリニストです。しかも、ベルリン・フィルやウィーン・フィルな  どの世界の第一級のオーケストラと共演した録音があるわけでもない不思議な存在です。  1990年代から世界的ピアニストのピリスと組んで、デュオによるヴァイオリン・ソナタの  録音をいくつか残していますが、このコンビの演奏はみな評価が高いです。  
   
   管理人が2008年9月、東京文化会館にて撮影。「私の一番好きなピアニストは    ピリスです」と言ったところ、「あなたはいい趣味をしているね。私もそうだよ」    と答えてくれました。
モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第3番」
 ☆推薦盤☆  ・フランク ヴァイオリンソナタ/ピリス(P)(93)(グラモフォン)       S  ・ブラームス ヴァイオリン・ソナタ全曲/ピリス(P)(91)(グラモフォン)   S  ・ベートーヴェン Vnソナタ第5番「春」/ピリス(P)(97)(グラモフォン)  A  ・ベートーヴェン Vnソナタ第9番「クロイツェル」/ 〃 (02)( 〃 )   A  ・モーツァルト 協奏交響曲/弾き振り SCA(96)(グラモフォン)       S  ・ラロ スペイン交響曲/プラッソン(88、89)(ワーナー)           A  *SCAは、ザルツブルク・カメラータ・アカデミカの略です(指揮デュメイ)。  *ベートーヴェンのヴァイオリンソナタは同じCDです。   <美音><明るい><ヴァイオリン・ソナタ◎>

  葉加瀬太郎  ヴァイオリン  1968〜  S  日本

 言わずと知れた、日本では超有名なヴァイオリニストです。クラシックに馴染みがない方でも  ご存じのヴァイオリニストです。それはマスコミ等への露出度によるものが大きいです。  そもそもクラシックの演奏家と言えるのか?という疑問が発生してしまうのですが、「本業」  はクラシック演奏家とは言えない面があります。ここでご紹介している他のヴァイオリニスト  のように、世界的なオーケストラと協奏曲で共演したという話は聞いたことがありません。で  すが、コンサートやCDでクラシック作品を演奏はしているのですから、クラシック演奏家と  いう枠に「入る」ことは確かでしょう。  葉加瀬太郎(本名 高田太郎 分かる人なら分かります)の略歴をご紹介しますと、東京芸術  大学ヴァイオリン専攻在学中に、学生同士で結成した「クライズラー&カンパニー」の中心人  物となり、クラシック、ポップスというジャンルを超えた音楽を広めて人気を博しました。  「クライズラー&カンパニー」解散後、1997年にアルバム「watashi」でソロデビ  ューを果たします。  その後、現在に至るまで、作曲家、演奏家の両面において活動。年間約100の公演がある人  気者です。  「クライズラー&カンパニー」は、クラシック演奏の団体というよりは、クラシック曲を現代  風にアレンジした曲を扱ったグループでした。20世紀末頃から、このようにクラシック曲を  アレンジした曲を演奏するグループが目に留まるようになってきました。  「クライズラー&カンパニー」は、まさに日本でのそういったグループの先駆け的存在でした。  そしてソロとなった後の葉加瀬はその流れを汲んではいるのですが、どちらかというと「現代  曲作曲家兼演奏家」としてのイメージが強いです。有名な作品は、「情熱大陸」「ファイナル  ファンタジーXII」「やじうまプラス」で使用されている曲や、「全日空」「新生銀行」のC  Mの曲などです。  
自作自演「情熱大陸」
 ☆推薦盤☆   特になし   <現代曲派><作曲>

  パールマン  ヴァイオリン  1945〜  PERLMAN  S  イスラエル

現在は高齢ですが、現代最高級のテクニシャンとして知られ、現役で最も有名なヴァイオリニ  ストの一人です。映像で御覧になったことのある方はご存知でしょうが、小さい頃に小児マヒ  にかかり、下半身が不自由なため、座って演奏をします。  では、彼の音楽が素晴らしいかというと、ここが難しいところで、ハイフェッツ以上に、パー  ルマンの場合は上手さの方がどうしても目立ってしまいます。技巧派の演奏家は、上手すぎる  がゆえに、えてしてこういう罠に陥りやすいのですが、パールマンもその例にもれません。  よって、知名度の割には、これという名盤は少ないです。  楽天的だったり、淡白な面があったり、もっとじっくりと聴きたい部分も、サラっと弾いてし  まいます。明るい人間性が音楽にも反映されていて、両指の運動神経の良さからくる抜群のテ  クニックが裏目に出てしまっている面が随所に見られます。  もっとも、この点に関してはあくまで好みの問題です。  パールマンの演奏はそれほど深刻ではないので、初心者の方向けのヴァイオリニストでしょう。
サラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」
 ☆推薦盤☆  ・サラサーテ ツィゴイネルワイゼン/プレヴィン ピッツバーグSO(77)(ワーナー)A  ・クライスラー ヴァイオリン小品集/サンダース(P)(76〜78)(ワーナー) A   <超技巧派><レパートリー広>

  マイスキー  チェロ  1948〜  MAISKY  S  ラトヴィア

マイスキーはヨーヨ・マらと並び、世界で最も有名な現役のチェリストの一人です。  旧ソ連のラトヴィア出身で、1948年生まれのため、物心がついた時には冷戦状態でした。  よって、当然のようにソ連当局からの厳しい束縛を受けた演奏家の一人ですが、マイスキーほ  ど旧ソ連の体制に苦労した演奏家もいないと言われています。  「チェロの代わりにスコップを手にする」という強制収容所での生活を経て、ようやくイスラ  エルに亡命したのが1973年のこと。ここから実質の演奏活動がスタートすることとなりま  した。  なお、強制収容所生活を強いられる前は、チェリストとしては神童と呼ばれ、同じく旧ソ連を  母国とするロストロポーヴィチに師事していました。  そして、亡命後にメータに勧められてソリストとなってからは、世界の第一線で活躍するよう  になりました。  特に、ピアニストのアルゲリッチとは親交が深いことで有名です。  まずまず名演も残しているのですが、最高傑作といったら、アルゲリッチと共演し、師のロス  トロポーヴィチをも凌ぐ評価を得ている、シューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」です。  高音になっても全く音量の変わらないテクニックと、哀しくも美しい表現力が満喫できる名盤  となっています。  なお、ラ○スとそっくりである点もポイントが高いです。
シューベルト「アルペジオーネ・ソナタ」
 ☆推薦盤☆  ・シューベルト アルペジオーネ・ソナタ/アルゲリッチ(84)(デッカ)    SS   <技巧派>

  ヨーヨー・マ  チェロ  1955〜  YO−YO MA  S  フランス

 現役のチェリストで知っている人は?と聞かれたら、大半の方が「ヨーヨー・マ」と答えるの  ではないでしょうか。現役にはマイスキーという大物がいますが、日本での知名度ではおそら  くヨーヨ・マの方が上でしょう。  ヨーヨー・マは、台湾系のアメリカ人です。中国で生まれたわけではなく、両親が中国人の音  楽家で、パリで生まれました。アメリカの大学を出て、今や世界で活躍しているチェリストで  す。何と、既にCDを50枚以上も出しています。  知名度が高いからか、ヨーヨー・マのCDは日本ではよく売れるそうです。しかし、残念なが  らこれと言える程の名盤はないようです。チェロがソロで活躍する作品というのは絶対数が極  めて少ないため、ロストロポーヴィチフルニエなどが録音している作品ですと、どうしても  及ばないのは致し方ないことだと思われます。  ヨーヨー・マは、非常に幅の広いチェリストで、クラシックというジャンルを超えて活動して  います。例えば、南米の音楽であったり、中国の古来の民俗音楽であったり、普段、あまり人  目につかない音楽を発掘し、録音として残しています。それゆえ、CDの数が多いのです。  極端に言いますと、「クラシック」と定義される西洋音楽とは違った地域の音楽も重視してい  るため、「クラシックのチェリストとは言えない」と言う評論家もいる程です。  ヨーヨ・マの音楽観に共感する方は、CDをあたってみてはいかがでしょうか。
エルガー「チェロ協奏曲」
 ☆推薦盤☆   ・エルガー チェロ協奏曲/プレヴィン(75)(SONY)        A   <現代曲派><親日派>


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