20世紀の巨匠ヴァイオリニスト達





  クライスラー  ヴァイオリン  1875〜1962  KREISLER  A  オーストリア

19世紀、ウィーン生まれのクライスラーは、20世紀を代表する大ヴァイオリニストです。  演奏スタイルは、何といってもクライスラー特有の甘美な音色にありました。  ヴィブラートやポルタメント(弦に指を触れたままのずり上げ、ずり下げ)を必要以上に駆使  し、ウィーン情緒溢れる極めて甘美な音色を響かせました。ムード満点のクライスラーの音色  は独特でして、名前を伏せてもクライスラーの演奏だと判ります。言い換えますと、「クライ  スラーの音」を持っていたのです。  よって、非常に親しみやすいヴァイオリニストですので、初心者の方でも充分に楽しめるので  すが、如何せん、残された録音の音質が悪いのが惜しまれます。  またクライスラーは、ヴァイオリンのための小品の作曲家としても名高いです。  代表盤と言いますと、何と言っても、「愛の喜び」「愛の悲しみ」などの自作の小品も含めた  CDです。特に自作自演の曲に関しましては、約100年も経った今でも、誰もクライスラー  を超える録音を残していないとも言われています。一般に、自作自演の演奏は評価が低い(特  に指揮した場合)ものですが、別格中の別格なのです。  とりわけ、ポルタメントを自在に駆使した「愛の悲しみ」(演奏することは非常に簡単な曲で  す)の洒落た哀愁は、真似することすら不可能なのではないでしょうか。 
「愛の悲しみ」自作自演(静止画) 「タイスの瞑想曲」(マスネ作曲 静止画)
 ☆推薦盤☆  ・メンデルスゾーン Vn協奏曲/ブレッヒ ベルリン国立歌劇場O(26)(ナクソス)  ・クライスラー ヴァイオリン小品集/ラムソン(P)(1916〜29)(RCA) SS   <甘美><即興派><作曲>

  シゲティ  ヴァイオリン  1892〜1973  SZIGETI  A  ハンガリー

19世紀生まれのシゲティは、20世紀を代表する大ヴァイオリニストで、神格化された存在  です。しかし、それほどの存在にもかかわらず、お世辞にも世紀の大ヴァイオリニストにふさ  わしい技術を持っていたとは言えません。不器用な演奏です。  では、何が神格化させているのかと言いますと、音楽に対する精神面の高さです。  シゲティは聴く者に感動を与えようと、どんな作品でも必死にその内容の深さをえぐり出そう  と努めていることは、演奏を聴けばすぐにお分かりになるでしょう。その意味では、後述する、  同じ大ヴァイオリニスト、ハイフェッツと好対照の芸風とも言えます。  ブラームスベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を例にとりますと、武骨な響きから、何と  も言えない憂愁が聴こえてきます。音楽は決して耳だけで聴くものではなく、心でも聴くもの  であることがお分かり頂けると思うのです。渋さの極みのようなヴァイオリニストです。  よって演奏には華がないですし、オーソドックスとも言えませんので、初心者の方にその良さ  は解りにくいでしょう。  シゲティの演奏に感動できる方は、わび、さびの世界のような渋い演奏がお好みなのではない  でしょうか。
ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」第1楽章
 ☆推薦盤☆    ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/メンゲス ロンドンSO(59)(フィリップス)B      <技巧×><芸術主義><渋い>

  ティボー  ヴァイオリン  1880〜1953  THIBAUD  B  フランス

19世紀にフランスで生まれたティボーは有名なクライスラーとほぼ同世代で、モノーラル録  音時代に活躍した世紀の大ヴァイオリニストです。後世に与えた影響も計り知れません。  残念ながら、日本公演に向けて来日する最中に、飛行機事故によって帰らぬ人となってしまい  ました。残された録音も少ないです。  ここに挙げた推薦盤では特に、カザルスの項でもご紹介していますベートーヴェンのピアノ三  重奏曲第7番「大公」が、チェロにカザルス、ピアノにコルトーという、豪華絢爛なトリオに  よる不滅の金字塔となっています。  ティボーはクライスラーのように古き佳き時代のヴァイオリニストで、やはり自分の音という  ものをもっていました。どちらかというと繊細で、メランコリックな音のようです。  また、私が興味半分で買ったブラームスのヴァイオリン協奏曲についてご紹介しましょう。名  演と呼べるのかさだかではないですし、何より、1953年の録音にしては原テープの痛みが  想像以上なCDで、20年代から30年代の録音に聴こえます。楽章の合間のチューニングと  拍手、あたかも咳をする人の前にマイクが置いてあるかのような録音体勢。古き佳き時代の演  奏のありようを知れる貴重なCDです。現代のヴァイオリニストの演奏を聴きなれた我々には  異様に聴こえますが、即興だらけで、こんなにも洒落の効いた演奏をしていたのだということ  を知ることは、演奏史を知るという意味で大変勉強になりました。つまり、コンクール時代で  ある現代のヴァイオリニストのように、型にはまった演奏ではありません。音楽という字の通  り、まさに本人も、聴衆も、音を楽しんでいるように聴こえます。  ティボーはクライスラーと並び、録音が残っている有名なヴァイオリニストの中では最古の存  在にあたります。
フランク「ヴァイオリンソナタ」第1楽章(おそらくCDと同じ音源です)
 ☆推薦盤☆  ・フランク ヴァイオリンソナタ/コルトー(P)(29)(OPUS蔵)     A  ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           カザルス(Vc)コルトー(P)(28)(ワーナー)           <繊細><即興派><実演派>

  ハイフェッツ  ヴァイオリン  1902〜1987  HEIFETZ  S  ロシア

 ヴァイオリニストにとって、ハイフェッツは神様のような存在だそうです。というのも、ハイ  フェッツは超絶的なテクニシャンで、ことテクニックにおいては今だ右に出るものがいないと  言われているからです。20世紀の最大のヴァイオリニストの1人です。  何と6歳でメンデルスゾーンのコンチェルトを弾き、13歳でベルリン・フィルと共演したと  いうのですから、信じられないような話です。  一説によりますと、腕の長さ、指の長さ、指の間隔、ひじの関節の柔らかさ、握力などといっ  た要素が、すべてヴァイオリンを上手く弾くのに合っていたそうです。まさにヴァイオリンを  弾くために生まれてきたような人物だったのであります。そこに巧みな表現力も兼ね備えてい  ましたので、鬼に金棒といったところでしょう。音色はやや渋く、ダンディです。  ハイフェッツはあまりに上手すぎてどんな難曲でもサラっと弾いてしまうため、曲によっては  演奏に深みがないと感じる方がいるかもしれません。決して、テクニックだけで表現力のない  タイプではないのですが、上手すぎるがゆえの宿命と言えなくはないところが惜しいところで  す。そこに物足りなさを感じる方は、他のヴァイオリニストを選ぶべきでしょうか。  初心者の方が、ハイフェッツの超絶的な技術に酔いしれるには、他のヴァイオリニストの演奏  を聴いてからの方が、より凄さをお分かり頂けるでしょう。 
チャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」第1楽章(ハイフェッツが映画の主役?)
 ☆推薦盤☆  ・サラサーテ ツィゴイネルワイゼン/スタインバーグ(51)(RCA)     SS  ・シベリウス ヴァイオリン協奏曲/ヘンドル(59)(RCA)         SS  ・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲/ライナー(57)(RCA)      SS  ・ブラームス ヴァイオリン協奏曲/ライナー(55)(RCA)            ・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲/トスカニーニ(40)(ナクソス)       ・ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第7番「大公」/           フォイアマン(Vc)ルービンシュタイン(P)(41)(RCA)A  ・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲/ミュンシュ(59)(RCA)         <超技巧派><やや渋い><鋭い><レパートリー広>


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